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43話「近接武器」

 

「ね、姉さん?」


 ヴォラクは小声でそうしか言えなかった。普段からサテラやシズハを抱き締めていたが、今は心臓の鼓動がとても速くなっていた。ヴォラクは荒い息を漏らしてしまい、僅かにだけ手が震えてしまっていた。

 血雷は自分の口をヴォラクの耳に近付けた。僅かに血雷の息がヴォラクの耳に触れる。


「深く考えるな……親父の真似をしただけだ。お前は何処か寂しい目をしていた…愛情に飢えてる子供みたいに……何かアタシに似てるな…」


「………姉さん……」


「宿まで送ってやるよ……あ!その前に…お前に渡したい物があったんだ!」


 すると血雷はさっきまで一緒に居た、家の中に戻った。ヴォラクは家の奥に戻って行ってしまった血雷に疑問の表情を見せた。


 そしてヴォラクは少しだけその場で立ち尽くして待っていると、血雷が再びヴォラクの前に現れた。血雷の左手には長い刀が握られていた。鞘の中に刃が納められていた。血雷が持っている刀とは違うが、ヴォラクの好きな色である黒色の刀だった。鋭く輝く黒色の刀を血雷は左手に握っていた。


「これは?」


「やるよ。お前、剣とか槍とかの近接武器持ってないんだろ?だったらこれでも持っとけ。もしもこの刀持ってない時に近接戦挑まれたら確実に殺られるぞ。だから持っときな。あ、ちなみにこの刀は昔アタシが使ってた物だからな!大切に使えよ!」


「お、おう…」


 ヴォラクは血雷が左手に持っていた刀を受け取った。刀を鞘から抜刀すると良く磨き込まれた刀の刃が輝いていた。しかしヴォラクは刀の刃を少しだけ眺めて、刀を鞘に納刀した。そして血雷の方を向き清々しい顔でこう言った。


「宣言しよう…刀は抜かない」


「え!?何で?刀は素晴らしい武器だぞ!」


「悪いが僕は遠距離で戦う人間でね。この刀はどうしてもの時以外は使わんよ」


「……そうか。使う時は自分で決めろ」


 そう言ってヴォラクは前に歩き始めた。血雷もヴォラクと一緒に前に歩き出し、ヴォラクの冷たい手を握ってくれていた。

 血雷の手は暖かかった。まるで包み込む様な温もりをヴォラクは感じていた。
















 また、2人は街をゆっくりと歩いていた。今度は血雷に抱き抱えられながら屋根の上を走らされるのではなく、普通に2人で横に並びながら街をゆっくりと歩いていた。血雷は刀を納刀した鞘を服の腰の部分に差していた。さっきまで床に置いていた刀は今血雷の身体の一部となっていた。

 血雷と2人で歩いていると、前の景色に目がいくよりも勝手に血雷の方に目がいってしまう。血雷が美しいのか、それともただの偶然か…理由がどっちかは分かっていた。血雷の姿が美しいからだとヴォラクは思った。

 歩いてると血雷と自分に視線が集まっている事が分かった。男からはいつも通りの様にかんじる嫉妬や妬みの目。女からは嬉しそうに笑う顔が見えた。まぁ…何故注目されているかの理由は何となくだが分かっている。

 分かってはいながらも、ヴォラクは血雷に理由を尋ねた。


「姉さん何でこんなに僕達は周りの人から見られてるのかな?」


「分からんのか?男は嫉妬、女は感動だよ。アタシこの街で人気らしいんだよ。まぁ男からは求婚されまくられてるし、他の女からも慕われるしこんな風に注目されても仕方ないと思うぜ」


 実際の所周りからは「え!?姐さん彼氏出来たの?」「そんなぁ!我々の血雷さんがぁ!」「あいつ…そんなにカッコよくないくせに!」と自分の事を恨む様な声が聞こえてきた。恨む様な声の他にも絶望や悲しみの声も聞こえてきた。しかしこんな台詞なんて元の世界にいた時に聞きすぎてしまいそんな言葉は聞き慣れてしまっていた。逆に女からは「まぁ!血雷ちゃんったら彼氏連れて街歩くなんて!立派ねぇ!」「血雷様ぁ!とうとう男を連れて……女子である私達には出来ません…感服です!」「良い彼氏さんを持ったね」と褒めたたえたりする嬉しそうな声が聞こえてきた。しかしヴォラクにとっては男の声も女の声も所詮ただの雑音にしか過ぎなかった。



「取り敢えず……変な事を言う奴は無視します」


「ま、それが最善の策だな。じゃ…もっと目立つか」


「は?」


 そう言うと血雷はヴォラクの右手を触り、素早くヴォラクの手を握った。しかも普通に握るのではなく互いの指を絡ませて手を繋いだ。所謂恋人繋ぎと言うものだ。サテラやシズハと愛し合っていた時にたまに恋人繋ぎをしていたが、こんな風にして繋いだのは初めてだった。ヴォラクの冷たい手を血雷の暖かい手が熱くしていた。元から身体中冷たかったが血雷と手を繋いでいる時ヴォラクの身体は熱くなっていた。ヴォラクは自然と血雷を見ながら歩いていた。自分の頬を僅かに赤くしながらヴォラクは歩いていた。血雷は自分がヴォラクに見られている事に気が付くとヴォラクの方を見て微笑んだ。そして血雷はヴォラクに身体を寄せ、ヴォラクの身体に自分の身体を密着させた。この姿を第三者から見ればただの恋人にしか過ぎなかった。周りの人間はヴォラクの事を羨ましがる目で見ていた。


















 そしてその後も2人で恋人の様に手を繋ぎ、身体を寄せ合いながら道を歩いているとヴォラクは自分が泊まっている宿に辿り着いた。ヴォラクは宿を見つけると血雷の暖かい手から自分の手を離した。血雷は手を離してしまったヴォラクの手をもう一度掴もうとしたが血雷は彼の右手を掴む事は出来なかった。ヴォラクは血雷の方を振り向いた。ヴォラクは血雷の方に向かって黙ったまま手を振った。血雷もヴォラクが手を振る姿を目撃すると自分もヴォラクと同じ様に手を振った。

 そして血雷は今まで2人で歩いてきた道を戻り始めた。ヴォラクも血雷の後ろ姿を確認すると宿の中に戻って行った………















 









 ???何処か???


「どう思う?あいつの事………排除すべきかしら?なんなら今からでも…」


「待て!…………まだ、もう少し泳がせておこう。魔界の方からはまだ命令が下ってないからな命令違反は避けたいからな……ヴォラク…一体どんな奴なのだろうか…?」


「一瞬で敵を絶命させる事が出来る即死魔法の使い手でしょ?なら私達は奇襲をかける必要があるんじゃないの?…」


「即死魔法……奪取した召喚勇者の資料ではヴォラク……いいや、不知火凱亜には魔法適正がない。適正のある人間から魔法能力を受け取らない限り、魔法なんて使えないぞ…」


「なら、あの力は一体…」


「俺にもよく分からん。ただ奴は決して弱い奴ではない。それだけだ……」


「おい!お前ら!さっさと奴らを始末しねぇと!俺は早く戦いたいんだよ!」


「待て!独断行動はやめるんだ!」


「うるせぇ!俺は行く!あのヴォラクって奴は俺が殺す!そしてあの周りの女は……」


「あ!待て!……………くっ!無駄か…」


「死んだね。もう放っておこうよ『ヴィラス』」


「そうだな『ペアスティーネ』」


 ???誰だったのか………






































 血雷と別れて、宿に戻ったヴォラクは足早に部屋に戻った。

 部屋に戻るとサテラとシズハは気持ち良さそうに肩を並べて、壁にもたれかかったままで眠っていた。何故か布団を敷かないで、2人肩を寄せて目を閉じて眠りに付いていた。その姿を見て、ヴォラクは少しだけ癒された。ヴォラクはサテラとシズハの寝顔を少しの時間だけ拝んだ後2人から少しだけ距離を置いた。そして距離を置いた後畳の上に座り込んだ。

 ヴォラクは突然眠くなってきた。最近ヴォラクはあまり休息を取っていない。ずっと自分の体は動きっぱなしだったからだとヴォラクは思っていた。次の瞬間さっきまで普通にしていたヴォラクの意識が眠りに落ちそうになっていた。要するにヴォラクは眠くなっていた。一応眠ってはいたがそれでもまだ体の休息は足りていなかった様だった。そのままウトウトとしてしまい、自然とヴォラクは目を閉じた。そして全く時間をかけずに深い眠りに落ちてしまった。布団に入る事もなく僅かにだけ柔らかい畳の上で静かに目を閉じ、眠りについてしまった。

 時間は昼過ぎ、ヴォラクはまだ明るい昼間から眠りに落ちてしまった………




 こうしてヴォラクはしばしの間、休息を得るのであった。








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