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34話「銃士の情」

 

 何かが飛び出した。

 ヴォラクはツェアシュテールングを取り出して、何かが出てきた方向に構えた。サテラも周りを警戒してネーベルを構えている。


「誰だ!?」














 仮面を付けながら周りを見渡す、すると何処かから誰かの声が聞こえてきた。サテラやシズハの声とは違う声だった。シズハもサテラやヴォラクと同じ様にステイメンを両手で握っていた。









「ちょっと待って!俺達は敵じゃないよ。君達と同じの冒険者だ!」





 そこにはヴォラクと同じ冒険者が両手を上げながら立っていた。恐らくこちらに敵意はないだろうと思った。

 しかし右手には鋭い長剣を握っていた。今その剣が振り下ろされて、ヴォラクにでも当たったら…致命傷は避けられないだろう。しかしヴォラクには『瞬治癒石』と言う怪しい回復アイテムがあるので問題ないだろう?


「な……何だ…た…ただの冒険者か?」


 ヴォラクは元から人と話すのはあまり好きじゃない。本当に仲の良い人としか話せないのだ。他人とコミュニケーションを取るのがかなり苦手な人間だったのだ。


「あの……私達に何か用ですか?」


「別に、たまたま通りかかっただけだよ。この辺の魔物を倒す為に来ただけさ。仲間とな!」






 男の冒険者がそう言うと後ろから彼の仲間と思われる冒険者が2人現れた。2人共女性だった。ヴォラクと同じ様なメンバーだった。


「ちょっと早いよ!少しは待っててよ…」


「もっと早く走りなさいよ!リーダーに置いてかれるよ!」


「おーい!こっちだ!」


 男の冒険者が後ろから来ている女の冒険者に手を振った。ヴォラクはその光景を黙ったまま見ていた。サテラとシズハも何を言えば良いよか分からず、ただその場に立ち尽くしている。


「仲間か?」


 ヴォラクが話した。いつまでも口を閉じたまま黙っている訳にもいかなかったので。


「ああ、俺の仲間だよ。2人共俺の幼馴染だ。一緒に冒険者になったんだよ」


 唐突に幼馴染だとか一緒に冒険者になったとか突然言われても反応に困ってしまう。ヴォラクはしまっていたツェアシュテールングを何故か取り出してしまった。


 すると男の冒険者がこちらを向いてきた。


「なぁ、良かったら俺達でパーティー組まないか?あんた達の事は全く分からんけどよ。あんたら強そうじゃん?一緒に組めば、いい事だらけじゃないか?きっと良い考えだと思うぜ?」


 そんな事、ヴォラクにとってはただの偽りの言葉にしか聞こえなかった。本当に信頼出来る人以外とは関わらないと決めていたのだったから。

 するとヴォラクは1度顔を下に下げると、男の冒険者に近づいた。


「ん?何だ?パーティー組んでくれるのか?」


「悪いね。僕達の姿を確認した人は…」


「え?どういう事だよ?」


「存在抹消…」

















 ドバァァ!


 大きな音が森の中で鳴り響いた。目の前に立っていた男の冒険者はツェアシュテールングに撃ち抜かれた。ツェアシュテールングの弾丸は男の頭を貫いた。

 男は即死だった。一瞬で頭を吹き飛ばされたのだった。何も分からずに、ただ立っていただけだ…自分が殺されてしまった事さえ気付いていないだろう。しかし男の冒険者はもう死んでいる。

 気付く事すら出来ないのだった。





 男は前に倒れ込んだ。頭を失い、首から上が無くなっていた。男の頭は近くに落ちていた。顔の表情一つ変えずに頭だけが地面に転がっていた。血を流して、倒れていた。

 男の頭も体からも大量の血が流れていた。ヴォラクはそれを見ても何も思わなかった。その考えは違う…何も思えなくなってしまったのだった。


 その場に血の海を残しながらも、血塗られたヴォラクは男の血が付着したツェアシュテールングを握りながら、女の冒険者の方に近づいて行った。



 今の惨劇を見ていた女の冒険者は涙を流しながら、震え上がっていた。ずっと涙を流しながら頭を抱えて震えていたのだった。


「嫌!殺さないで!何でもするから!お願い殺さないで!」


「こ、来ないでよ!私達を殺したっていい事なんて……お願いだから殺さないでよ!」


 必死に命乞いをする女の冒険者の姿を見てヴォラクは呆れてしまった。人間死にそうになればどんな事をしてでも生き残ろうとして足掻くのだから。

 しかし自分も死にそうになったらどんな事ををしてでも生き残こるだろう。





 


 しかしヴォラクはツェアシュテールングを女の冒険者の方に向けた。


「僕達を見た者を…決して生かして帰す訳にはいかない。そうしないと…僕達は生き残れないんだよ」


「悪魔め……この…悪魔めぇ!」


 ヴォラクはそのままツェアシュテールングの引き金を二回引いたのだった。














 周りには血の海と地面に転がる3人の冒険者の死体だけが広がっていた。しかしヴォラクは何も思わなかった。

 逆に楽しかった。人を殺すのが…震えて、怯える弱き人間を殺すのが楽しかった。感情に出す事は出来なかったが、心の中では非情にも大笑いしてしまっていた。

 もっと…もっと殺したかった。もっともっと人を殺したくなってしまった。

 そんな自分が確実に狂っていると分かった。人を殺して笑うなど人として最低な事だ。


「主様…死体の処理はどうしますか?」


「放っておく。他人の死体を片付けるとか面倒臭いからな。こいつらには適当に骨にでもなってもらえばいいだろ?個人的に興味の無い奴は関わらない。そう決めたんだよ」


「分かりました。ならこいつらの死体は放置します」




 ヴォラクとサテラの会話を聞いていたシズハはもうヴォラクやサテラの事を全てを悟っている様な顔をしていた。

 彼らはこうでもしないと生き残る事が出来ないのだろう……きっと自分以上に辛く、苦しい事を体験していたのだろうと思った。

 今回の彼の行いにシズハは同情する事が出来なかった。自分だっと今まで何度か人を殺した。しかし楽しくなどない。ただ自分の身が危なかったから…殺しただけだ。しかしそんな理由で人を殺し

 ていいのかシズハには分からなかった。

 顔を下に向けて、暗い表情を見せるシズハ。するとヴォラクはシズハに近付き「そんな暗い顔をするな。今回は……僕も少しいけない事をしたかもしれない…」と小声で呟いた。シズハは僅かにヴォラクの事を疑ってしまった。

 本当に彼は人を殺してしまった事を悔いているのか?と思っていた。





 しかしヴォラクがサテラやシズハに見せた姿がシズハの考えを大きく変えた。


 ヴォラクは自らの手で殺し、死んでしまった冒険者の前に立つと仮面を顔から外し一度しゃがんで片脚を付き両手を静かに合わせた。

 そしてヴォラクは目を閉じた。そのまま石像の様に動かなくなる。ヴォラクはきっと冒険者の冥福を祈っていたのだろう。



 その姿を見て、シズハは心の中でこう思っていた。


(良かった……まだヴォラクさんは…堕ちる所まで堕ちてない)


 するとシズハもヴォラクと同じ様に両手を合わせて、死んでしまった冒険者の冥福を祈った。今は堕ちていないヴォラクもいつか堕ちる所まで堕ちてきってしまうのだろうか………













 少し時間が流れて、ヴォラクは静かに目を開けた。瞼を開き、ヴォラクの瞳が露になった。


 ヴォラクは慌てる様に仮面を顔に取り付け、立ち上がった。


「行くよ……」


 それだけ言った。今のヴォラクは少し落ち込んでしまっている様だった。サテラはその事を分かっていた。

 サテラは何も言わずにヴォラクの背中を追いかけて行った。シズハもヴォラクとサテラに着いて行った。



 するとヴォラクは一度咳き込んだ。咳き込みが終わるとすぐに喋り始めた。


「……今日は行ける所まで歩くからな。歩ける所まで行ったら…テントでも張ろう。その後は…また歩きだから。いいね?」


 ヴォラクは2人の方を向く事はなかった。しかしサテラとシズハは軽く笑う様な表情を見せて、ヴォラクの後に続いて行くのであった………






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