31話「兵器誕生」
ヴォラクが考えていた事……それは?
「サテラ、シズハ。今から僕は…」
「何するんですか?」
「また人殺しにでも行くんですか?」
2人がヴォラクに尋ねると、ヴォラクは素材が入ったバッグを持った。重そうな感じだった。実際中には鉄や魔法素材などが入っている。
「新しい武器を作る。それも…かなり強力な兵器を」
ヴォラクの頭の中にあった考え…それは新型の兵器を作る事だった。
現在ヴォラクの力によって制作された兵器は全部で三つ程しかなかった。一つ目はツェアシュテールング、二つ目はネーベル、三つ目はステイメン。これでは戦力不足以外の何物でもない。
万が一大勢の敵や魔物の大群にでも出くわしてしまったら……終わりだ。
ヴォラクはそう言った状況に陥らない様にする為に新型の兵器の制作に取り掛かろうとしているのだった。
しかし…ヴォラクは「新型の兵器を作る」と言う考えしか頭になかった。
ヴォラクは今どんな兵器を作るかは決めていなかったのである。
「所でヴォラクさん。何作るの?」
一番嫌な質問をされてしまった。
(ヤバい!一番聞かれたくない事聞かれちまった!なんて答えればいいんだ?適当にか?……それともなんて答えれば……)
するとヴォラクは「それは出来てからのお楽しみさ!」と苦笑いしながら言った。顔には少しだけ残っていた不安が現れていたが、サテラとシズハはヴォラクの考えている事には気付かずにヴォラクとの会話を続けた。
「じゃあ……お楽しみに待っておくね!」
「新しい兵器を楽しみにしています!」
「ああ!楽しみに待っててくれ!じゃあ僕は…別の部屋で作ってくる…」
そう言うと同時にヴォラクは背中を向けて、まるで逃げる様にその場から立ち去り、階段を駆け上がって行った。
ヴォラクは今若干恐怖していたのだった。
僅かに恐怖を覚えながらも、ヴォラクはさっきまでシズハと一緒に眠っていた部屋に足を急がせた。そして部屋の前に辿り着くなり、扉を強く開けた。
少し息切れしてしまったヴォラクだったが、少しの間その場で立ち止まる。荒い息を吐きながらも、ヴォラクは何とか息を整える。
そして部屋に置いてあった広い机に倒れる様に座り込んだ。
早速ヴォラクは何を作るか考える事にした。しかし今までの経験なら、ある程度非現実な装備も作れそうな気がしてきた。銃を作る事など容易い事だった何故ならヴォラクには『魔法高速習得』により習得したスキルがある。
一つは物体の形を変えるスキル『物体変換』このスキルを使う事により、元あった物体の形を変える事が出来るのだ。このスキルは主に銃のパーツを作る際に使用していたスキルでもある。
二つ目は『物体加工魔法』このスキルを使うと物体を色々な素材に加工する事が出来る。実際このスキルで銃を撃つのに必要な火薬などを作る際に使用したスキルでもある。
しかしヴォラクの頭の中の考えは決していいものではなかった。全くと言っていいくらいに何を作るか思い付かなくなってしまった。
(ダメだ~!本当に何作ればいいのか分からん!なんだ?何を作ればいい?長い剣か?…………ダメだ僕が剣なんて使える訳がない。銃は?……ダメだわ。今の戦力を見ても、これ以上銃の数を増やしても使える人が居ない。今は3人しか居ないからな………………じゃあ何作ればいいんだよ!?ドラ○ー○とかフ○○グみたいな兵器でも作れってのか?ふざけんな!無理だよそんなの……じゃあ諦める?それじゃこの先で1人寂しく天国送りだよ!どうすりゃええんや…………)
ヴォラクは頭の中で悩み悩み続けていた。しかし作れそうな武器は中々見つからない。
しかし何か新しい武器を作らないと駄目な事は分かっていた。しかし何を作ればいいのかヴォラクには分からなかった。
(こうなりゃヤケクソじゃ!僕のオタク記憶よ!今の僕に作れそうな武器を探してくれ!)
彼のオタク記憶は凄まじく、大量にあった。今まで自分が知ってきた全ての武器や能力を組み合わせて、何か作ろうとしたのだった。
勿論だがヴォラクが作れる範囲内で。
「ねぇシズハ」
「ん?どうしたの?サテラ?」
「主様……上手くやってるかな?」
「大丈夫なんじゃない?(適当)」
(そうだ!ミサイルだ!小型のミサイルを作ろう!まぁ難しくはない。小型のミサイルを入れる為のコンテナも必要になるし……それに自動で発射出来る様にしないと、一々引き金を引くのは面倒臭いし……それに大量のミサイルが飛んできたら流石に敵も少しは動揺するだろうし……よし決まりだ!小型のミサイルだ!作ろう!でも…ミサイルの名前は………ナノミサイルでいっか!)
「ねぇサテラ?ちょっと私達の距離近くない?こんなに近くに……って!もうくっ付いちゃってるじゃん!」
「いいじゃん!私寂しいんだもん!主様居ないから!だからシズハが相手して!」
「私は百合系な人じゃないのに……」
ヴォラクは作る兵器を決めるとすぐに作業を始めた。
手榴弾ではなく多数のミサイルを作り、敵を一掃するのである。
ミサイル一個一個はかなり小型だが、中には手榴弾並の威力があるぐらいの爆薬等を組み込む予定だ。その為爆風による攻撃効果はかなり期待出来そうだった。
物体変換スキルを使用して、元は所々が尖っていたり、丸みを帯びていた鉄の素材は細い円柱状の形に変わっていった。細い円柱状の鉄の中に爆薬等を組み込み、敵に向かって高速で接近し、何かに触れる事によって爆発する様にしたのだった。
そして一個目のナノミサイルが完成したのだった。ヴォラクは作ったミサイルを机の上に静かに置いた。
ミサイル本体の色は黒色で黒以外の色はどこにも見当たらない。
そしておまけとして、ミサイルを収納するコンテナも一緒に作り上げた。黒色のみでそれ以外の色は見当たらない。
このコンテナはナノミサイルを収納、そして自己のタイミングでミサイルをコンテナ内から発射、そのまま敵へと向かっていくミサイルを収納する為の物である。
他にも内部にバネを設置した事で押し出される感じで飛ばす事も出来る。
ミサイルの誘導と内部に設置したバネによる跳躍力は恐らく凄まじい力になるだろう。
(よし!これで大量の敵とか魔物が来ても、一掃出来る!………でも誘導しなきゃ……意味無いよね?)
ヴォラクはいきなり壁に当たった。確かにこのミサイルは敵へ高速で発射され、爆発する仕組みにしたが避けられたらどうしようもない。無関係者にミサイルが当たる可能性もある。それに敵に避けられたら使い物にならない。
これではただの役立たずだった。ヴォラクにこの問題を解消する方法は分からなかった。これではいつまでも経ってもミサイルは完成しない。
考える内に早々と流れていく時間。この間に流れてゆく時間は無駄以外の何物でもなかった。
(………シズハに相談してみるか…シズハなら色々な魔術とかに精通してそうだし。よし!一回相談するか)
心の中で1人で呟くと、ヴォラクは部屋から出て階段を再び降りて行った……
今…下の階では………
「おーいシズハ!ちょっと聞きたい事あるんだけど」
「あ!ヴォラクさん。どうしたの?聞きたい事って?」
シズハはサテラと雑談していた様だった。椅子に座り、楽しそうに2人だけで話していた。その光景を見てヴォラクは少しだけ安心してしまった。
ヴォラクはその間に入る。
「シズハ!武器とかの誘導上げる魔法とかないか?ミサ……新しい武器に誘導かけたいからさ」
ヴォラクは少し心配していた。もしかしたらそんな都合のいい魔法なんて無い……と思っていたからだ。
無いなら違う武器…もしくはミサイルを手榴弾に改造するかの二択が待っている事となる。
しかしシズハは嬉しそうな顔でヴォラクの方を向いた。
「あるよ!誘導のかからない武器とか、敵から外れた武器に再誘導をかける魔法があるよ。『誘導上昇』って言う魔法があるよ」
(スゲ〜………)
嬉しそうな顔で答えたシズハにヴォラクは顔に付けていた仮面を外した。仮面を外したヴォラクは何故か分からないが笑ってしまった。
理由なんて知らない。ただ普通に笑ってしまったのだった。
「ありがとう!じゃあ…手伝ってもらえるかな?勿論サテラにも手伝ってもらうよ…」
「はい!主様!」
「分かったよ。手伝わせてもらうね」
「じゃあ部屋に来い」
次の瞬間、彼の顔から偽りのない笑顔が何処かへ消えた。
黒色の服を着た無愛想な青年は2人の少女と共に階段を上がっていった……
「で?どの武器に魔法をかければいいの?」
シズハの質問に対してヴォラクはナノミサイルを指差し「これだよ」と言った。
ナノミサイルは傷付いた机の上に一つ置いてあった。動かずに、石の様に固まっている。
ナノミサイルを見たシズハはナノミサイルを見るなり、人差し指でミサイルを触った。
「これ?武器って………武器っぽく見えないけど…」
「心配すんな…こいつは爆発するから。今爆発したら…この部屋が消し炭になっちまうぐらいにな…」
「えぇ!凄く……怖いね。もしも私が消し炭になったら……再生治療のツケ払ってね?」
(ん!?今どこかで聞いた事のあるセリフが聞こえたような……)
「あの~主様。私は何をすれば?」
「サテラは……武器の素材を持ってきてくれ。それが無いと武器が作れん」
「了解しました!」
そう言ってサテラは部屋の端に置かれていたバッグを持ち、ヴォラクの方に運んできた。ヴォラクは素直に「ありがとう」と言った。
そう言うとヴォラクは机の方に顔を向け、シズハと会話を始めた。
「シズハ、今から武器を大量に作る。全部出来たら、全ての武器に誘導魔法をかけてくれ。そうすれば……完成だ」
「それまで……私はどうすれば?」
「待機……と言いたい所だけど、もう一つ。このミサイルコンテナに浮遊魔法をかけてくれ。ミサイルコンテナを腕なんかに付けてたら骨折どころか死ぬわ。だから頼む…」
「は~い」
だらしない声で言うと、シズハはミサイルコンテナに自分が持っていた杖を向けた。
しばらくして……
ヴォラクは大量にナノミサイルを制作した。ナノミサイルの数が多すぎて、コンテナをもう一個作ってしまったぐらいだ。しかしナノミサイルは全てコンテナに収まる様にしていた。数が合わないと、ナノミサイルの置き場に困る事と素材が勿体無いからだ。
「………疲れた」
いくらヴォラクでも、彼は人間だ。疲れる時は疲れるし、休みたい時は休みたくなる。
「シズハ……早く………誘導の……魔法……使え……」
ヴォラクの集中力は限界に近かった。役一時間以上休憩なし、そして熱中して作業をしていたからだ。
「ヴォラクさん?大丈夫?顔が大変な事なってるけど?」
「大丈夫だ問題ない。後で休憩は…するから……」
「そうな………んだ。なら魔法使うね」
そう言い残してヴォラクは机に顔を押し付けてしまった。そのまま石の様に固まり、動かなくなってしまった。
シズハとサテラはそんな彼の姿を見て、心配そうな顔を浮かべていた。
しかしシズハはヴォラクの指示通りに机の横に大量に置かれたナノミサイルに『誘導上昇魔法』をかける事にした。
(ヴォラクさんの言う通りに……誘導上昇魔法を!…出来る。この魔法は使った事はあんまり無いけど……ヴォラクさんの為に…)
シズハは心の中で強く祈る。そして持っていた杖を強く握り締めた。
頭の中で強く想像した。この武器が相手に当たる様に…自動で敵に向かっていく様に……
すると置いてあったナノミサイルは強い光に包まれ始めた。その光景を見ていたサテラは座っていたベッドから飛び上がり驚きの顔を見せた。
光はシズハの身体の周りから放出されていた。
「ナイス……シズハ」
「どういたしまして。ヴォラクさんに言われた通りにしましたよ。それにもう終わりましたし」
ヴォラクは机に顔を埋めながらもシズハにお礼を言った。シズハは彼のやる気の無いお礼にも嬉しさを見せていた。言われてあまり嬉しくもない些細なお礼でも、シズハにとっては嬉しく、誇れる様に聞こえていたのかもしれない。
すると……ヴォラクは突然立ち上がった。
顔には僅かに不気味な笑みを見せていた。「ヒヒッ」と笑うと、ヴォラクは腰にマウントされていた鞭を取り出した。ナイフを取り外し、鞭の持ち手を強く握り締めている。
2人はヴォラクを見て、怯えている。
「え?ヴォラクさん?どうしたの?」
「あ、主様?私何か気に触れる事でも?」
ヴォラクは小声で言った。
「ちょっと付き合え」
ヴォラクは鞭を振り上げた。




