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19話「風呂場」

 





「ったく!ゴブリンめ僕の服汚しやがって。血生臭いよ」


「私もですよ…この服は変えが一着しかないのに酷いです」




 ゴブリン達が流した血によって、ヴォラクの黒色の服とシズハが着ていた巫女服は赤く染まっていた。シズハは顔や露出した手にもゴブリンの血が付着していた。

 血の臭いは生臭く、ずっと血が付いていたら臭いがとれなくなりそうだった。




「うぅ…あれ?あのゴブリンは?」



 頭を擦りながら地面に寝転がっていたサテラも起き上がる。しかしサテラは眠っていたので、何があったかは分からないらしい。



「殺したよ、サテラさん」


「サテラ、無事か?」


「そう…分かったシズハ。主様、私は大丈夫です」




 少しだけ2人の返答に戸惑い、焦る表情を見せるサテラ。

 しかしサテラは何とか2人の質問に対処出来ている様に見えた。


 


「殺害する目標は全て片付けたから、早く行こう。シズハも良い練習になったか?」


「凄くいい練習になりました!」


「あ…後風呂にも行くぞ。この汚ぇ血は早く流す必要がある」




 ヴォラクとシズハの服は洗濯、身体に付着した血を洗い流す必要があった。3人はすぐに街へと戻り、風呂場を探した。








 完全に見られている。そう分かった。完全に周りの人間は自分とシズハとサテラを怖い目で見ている事が分かった。


 第一身体や服に血が付いている時点で見られる事は当然だった。そんな事を何故理解出来なかったのか、これが分からない。


 他にも手や顔にも血が付着しているのもその原因の一つだ。

 これはまるで誰かを殺害した様な人にも見える。実際自分は人を殺した経験はあるが、さっき殺したのは人間では無くモンスターだ。

 顔も手も血まみれ、まるで誰かの腹を斬り裂いて中身を確認した時の感じだった。しかしヴォラクはそんな事はしていない。




(人に見られるのは好きじゃないのに…こうも見られたら、メンタルが破壊されそうだぜ…)



 ヴォラクのメンタルにヒビが入った。実はヴォラクのメンタルは強くない。豆腐メンタルって程弱い訳では無いが……







「えぇっと…主様お風呂に行きませんか?」


「サテラ。賛成です」


「うんうん…早く行きましょう!」


 2人の会話にシズハが割り込んでくる。確かに男女でこんな会話をしていたら割り込んできて当然かもしれない。しかし割り込んできたのだが、サテラに便乗する様な感じで話しかけてきた。


「ヴォラクさん!お風呂行きましょう!」


「わ、分かった!」


「早く早く!」


「急いで主様。早く混浴しましょう!」


 その言葉に何となく察してしまった。断っても無駄だと言う事を……ヴォラクは早めに降参してサテラとシズハに向かって言った。



「で…今回も混浴するんですか?サテラさん?」


「勿論!一緒に入ります」


「分かりましたよ。一緒に入ります。それなら文句なしでしょ?」


「で…どうするのシズハ?私が一緒に入るならあなたも一緒に……」


まぁどうなるかは分かっている。絶対に一緒に入ると言うだろう。


「なら……私も一緒に入ります。シズハさんがヴォラクさんと入るなら…私も一緒に入った方がいいと思うから。理由は不明だけど…」


(やっぱな……)



「主様…答えは出たみたいですよ。早く行きましょう!」


「了解しました」


「じゃ!早く行きましょう。時間は無駄にしたくないんですよ」


完全に諦めて2人の行動に任せる事にしたヴォラクはサテラとシズハを連れて、公衆浴場に向かうのであった。

























 3人は公衆浴場に足を運んだ。しかし今は昼過ぎなので、人気はあまり無い。

 この際貸切で入ろう!と思った。誰かに見られるのも嫌なので、風呂場を貸切にする事にした。









「風呂場を貸切に出来るか?」


「はい…出来ますけど。そこの2人と入るつもりですか?」


「ここの2人以外に誰が居るんだよ?金は払うから、早く入れてくれ」


「わ…分かりました~(この人きっと…モテる系男子だわ~)」








 受付の女性に代金を払うと、風呂場の入口に『貸切』と書かれた札がかけられた。3人はすぐに風呂場のドアを開けた。



 脱衣所に入るとヴォラクは言葉を失う。




 周りを見ても誰も居ない。貸切にしている事には気付いていたが、見事に誰も居ない。結構広いのにその場に居るのはヴォラクとサテラとシズハだけだった。






「まぁ、いいだろ…さっさと入るよ……って!2人共もう!早いな…」



 サテラとシズハは既に着ていた服を全て脱いでいて、長いタオルを1枚だけ自分の身体に巻いていた。




「ほら~早く脱いでくださいよ主様。脱がないなら…私が脱がします!」



「うぁ!待て止まれ!うぁ~~~~」








 結局ヴォラクは服を全てサテラに脱がされた。





(これが……2人の普通なのかな?)








 風呂場は広かった。お湯からでる湯気が自分の視界を塞いでくる。ついでに2人の姿も見えなくなりそうになる。て言うか見えなくなってほしい。



「あ…あのヴォラクさん。あんまりジロジロ見ないでください。恥ずかしいです。私…男の人に見られた事が無いので」


「言われなくとも…見ません」


「主様……風呂場では仮面を外してください」




 サテラは少し低い声でヴォラクに言った。

 確かに風呂場でも自分の顔に仮面を付けるのは少しどうかと思っていたが、サテラに指摘されてしまった。



「いや…これは外しては…」


「ヴォラクさん?なんで外さないんですか?」


「本当ですよ…素顔をそこまで見られたくないんですか?」


「分かった分かったよ!外すよ!」







 ヴォラクは仮面を脱いだ。仮面の下にあった顔は……………





「え………その顔って……」


「見た事……あるのか?」


「………貴方は…もしかして……不知火凱亜ですよね?」

 




 不知火凱亜……ヴォラクの本当の名前。しかし彼がこの名前を名乗る事は……許されない。


「きっとシズハも知っているだろ?この世に召喚された『召喚勇者』の1人…不知火凱亜…そしてこの国の犯罪者で、少し前に何処かで骨になって見つかった……そいつなんだよ僕は」



 その言葉に、シズハは怒る事もなく、恐れる事もなく、ヴォラクの身体に自分の身体を押し付ける。






「今まで……辛い事を経験してきたんですか?」


「山程な……」


「知っています。貴方は同じ勇者から物を盗んだと……でも私はそれを信じる事は出来ない」


「何故だ?」


「ヴォラクさんは…私にとってとても優しい人だからです。それに本当にしていたとしても私は何も言わないからね。だって助けてくれた命の恩人だから」



「………………そうか…優しいか…この世にそんな事を言ってくれる人が居るなんて」


「主様……そんな辛い事を経験していたんですね。なんでもっと早く言わなかったんですか?隠し事はしないでください…」


「サテラ……悪かった。シズハもこんな自分をそんな風に言ってくれて……ありがとう」


「お礼を言われる事なんて…していませんよ」


「主様…困った事はすぐに言ってくださいね…」







 サテラもヴォラクの身体に自分の身体を近付けてきた。が、ヴォラクはこのまま身体を押し付けてしまったら個人的にマズイと思い、ヴォラクは「やめてくれ~」と叫んでサテラの身体を強引に突き放した。








 しかし、この周りだけ時が止まる様な時間だった。その時間は……自分の周りだけ時が止まり、3人だけの時間を作っている様だった。










「おい!いつまで接近してる気だ!いつまでもこうする訳にもいかないし……そろそろ風呂に入ろうぜ」


「そうですね、でもその前に身体を洗ってから入りましょう」


「そうだね。まずは身体洗わないと」






 3人は洗い場に行き、身体を洗う事にした。血の臭いと付いた血を洗い流す必要があった。




「なぁサテラ。背中流してくれないか?」


「了解しました!」


 身体の前を洗うヴォラクがサテラに言ってきた。その言葉をサテラはすぐに受け入れる。




「気持ちいいですか?」


「ああ…最高だ~」


 サテラに背中を流してもらい、ヴォラクは楽な表情を浮かべる。サテラも笑顔でヴォラクの背中を洗っていると、シズハがヴォラクに話しかけてきた。




「ヴォラクさん……私の…背中を流してくれませんか?」




 シズハが言った事に一瞬自分の正気がなくなった。でもすぐにヴォラクは自分の正気と取り戻す。








「え…僕でいいの?サテラじゃなくて…」


「……少し恥ずかしいけれど…こんな経験も必要かなって思って…それにサテラさんは全く抵抗無さそうだから…」


「主様、私はいいのでシズハの背中を流してあげてください」


「…………了解しました」



(うぁ~本当に尻尾生えてる)



 シズハの後ろを見て少し驚いてしまう。シズハの腰の辺りに狐の様な尻尾が生えていたのだ。

 前から彼女が狼人族に似た種族な事は知っていたが、後ろには尻尾も生えていたのだ。その尻尾はまるで狐の様だった。と言うか耳も尻尾も狐そのものだった。

 シズハの獣の様な耳を触りたい気持ちはあったがこの尻尾を枕にしたら……最高の休息を得られるだろう。




「シズハ……尻尾可愛いね」


「か、勝手に触ったりしないでね。そこは敏感だから…うひゃ!ヴォラクさん~言ったそばから~!」


 シズハが話している中でヴォラクはシズハの尻尾と背中にお湯をかけた。


「もぅ~びっくりした!酷いですよ」


「悪ぃ悪ぃ」


「か、可愛いって……そんな事で私の機嫌は良くならないからね!」


(そういう所も可愛いぜ!)


 





 シズハの美しい顔と触りたくなる耳と尻尾を見つめていると、サテラがヴォラクに手を振っているのに気付いた。




「主様!シズハ!外にもお風呂あったよ!」


「おぉ!露天風呂か?今行くよ!さぁ行くぞシズハ!」


「わ、分かったって!引っ張らないで!」





 ヴォラクはシズハの腕を引っ張って外にあるお風呂に向かった。








「うぁ~空を見ながらお風呂ですよ!主様!」


「クソー炭酸飲料があったら百点なのに……」


「うぅ~少し寒い」




 3人の意見は全く合ってなかったが、3人で仲良く風呂に入れていた事に間違いは無かった。



 昼過ぎの空は青かった。雲が少し広がり、太陽が地面を照らす。上を向けば、太陽の光が目に差し込み手で覆いたくなる。

 しかしここから見える太陽は綺麗だったと言う。








「僕、そろそろ上がるわ」


「そうですね…私少しのぼせてしまいました」


「喉乾いた」






 3人は風呂場から退出した。3人は再び血塗れた服を着る。

 髪を乾かして、整えていた。


(そろそろ僕も髪切ろうかな…だいぶ伸びたし)



 鏡に映るヴォラクの髪は少し長かった。男子にしてはかなり長い方だった。前髪は鼻の下ぐらいまで伸びている。



「主様?どうしかしましたか?」


「いや…何も無いさ…いつも通りだ」


「ヴォラクさん。こっちは着替えも終わったし髪も乾かしたからいつでも行けるよ」




 3人の準備は整っていた。今から冒険に出かける様に……





「取り敢えず……冒険でもするか?」


「賛成!」


「主様の指示なら何でも聞きます!」


「サテラ…シズハ……行くぞ!」


「「はい!」」





 ヴォラクは仮面を顔に付けて、風呂を出ていった。

 この後3人は何処へと向かうのだろうか………


「おい待てお前ら!血着いた服着るな!作者システム発動!」


テレレテッテレー、服が綺麗になった。




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