18話「返り血」
ヴォラク達は森へと向かう。勝手に誰かの森を射撃場にしていいかは不明。ヴォラクもこの事にはずっと疑問を抱いていたらしい。
(いつか僕…手榴弾とか焼夷弾とかであの森焼け野原にしちゃうかもな…まぁ焼け広がっていく森を見て食べるご飯は多分とてもおいしいだろう…多分)
今の自分はかなり意味不明な事を言ったように感じた。でも気にしない、気にしたら負けだ。この変な自分は一体誰なのか。それはヴォラクにも分からない。
「主様。森が見えてきました」
「ありがとなサテラ。シズハも銃頑張って覚えてね?」
「勿論!出来る限りの事は覚えますよ!」
彼女は頑張ると言ったが、そんなにスナイパーライフルを使いこなすのは簡単では無い。
実際自分だってスナイパーライフルを使いこなすのに約五日もかかった。
シズハに使いこなせるかはっきり言って不安な気持ちになる。しかし訓練する前から諦めてしまってはそこで試合終了だ。
取り敢えずヴォラクも頑張ってシズハの訓練のサポートをする事を決めた。
(はぁ…………部屋に引きこもって『怒○○蜂○往生』やりてぇ…)
「まずステイメンの使い方についてだけど、絶対にこの穴に目や体をいれない事特に指とか。絶対だからね」
そう言ってヴォラクはステイメンの銃口に指を指す。サテラの時と同様誤って目なんか撃ったら大惨事だ。それは絶対に防ぎたい。
「えーっと?この穴は見ちゃいけないんですね…分かりました。他に気を付ける事はある?」
「そうだな……ステイメンを敵に撃った時に反動で手が痺れる様に痛いかもしれない。てをも銃を落とさないように、力強く持って。落としたら大きな隙が出来るから」
「分かりました。取り敢えず手がとても痺れるから、ステイメンを離さないように強く持てばいいんですよね?」
「うん…あってる」
それだけ言って、ヴォラクはシズハにステイメンを渡した。勿論重いので、シズハがステイメンを持った時に僅かに声が漏れる。
ヴォラクから見てもシズハはステイメンを持って立っているのが精一杯だった。しかしシズハは両手でステイメンを強く握り、脇腹に抱えた。
ヴォラクはシズハの後ろに周り、シズハと体を密着させる。ヴォラクはシズハの手を本来銃を撃つ所に手と腕を誘導する。
「え!?ヴォラクさん?急に私にくっつくのは…聞いてませんよ…」
「あ…ごめん。なら離れるよ」
「主様…くっつきたいなら…良かったら私に…」
「すまん…僕の理解が追いつかん」
沈黙の時間が流れる。何か話そうにも、何を話せばいいのか分からない。話し出すのも少し抵抗があった。
「………ヴォラクさん私は別に怒ってません。もしもくっつきたいなら言ってくださいね。今は何も言わなくてもいいけど」
「ちょっと待って…何言ってるのか、全然分からん」
「待てません。早くステイメンを使いこなしたいから、訓練してください」
「わ…分かった。じゃあくっつくよ?」
「いいよ」
少し恥ずかしさを露出しながら、ヴォラクのシズハの背中に密着する。服の上からでもシズハの身体の温かさが分かる。安心する様な温かさだった、しばらく温かさに浸っていたいが銃の訓練なのでそんな悠長な事をしている暇はなかった。
「じゃあ簡単に説明するよ。まずは先端の少し後ろの方にあるレバーを引いて、これを引かないと弾が出てこないから。次は撃つ物に照準を合わせて、自分の目標の少し下ぐらいを狙うと敵を早く殺せるよ撃つにはこのトリガーって言うやつを引けばいいから」
「成程…早く殺せるのはいいね。じゃあ木に試し撃ちするよ。サポートお願いしますよ」
「分かった」
シズハは姿勢を落とした。立っているのが辛いのだろうか、シズハは片膝立ちになった。
真剣な顔で自分から30m程先にある木を見つめている。
ヴォラクも木の方を向き、シズハと共に照準を合わせる。
サテラが近くで見守っている。
そして周りは風が吹き、それ以外は何も聞こえない無音の空間。その空間に一つの大きな音が響き渡った。
ヴォラクとサテラは同時にトリガーを引いた。
轟音が森に響き渡る。
動物の叫び声が耳に入り、鳥達は空の彼方へと何匹も飛び去ってしまった。
手が僅かに痺れる。いや…痺れるよりは痛かった。手を何かにぶつけた様な痛みだった。
シズハも自分の手を掴み歯を噛み締めて苦しい顔をを浮かべていた。
「おいシズハ、大丈夫か?」
「はい…大丈夫です。でも結構痛いです。確かにこの武器は……強いけど…使いこなすのは難しいですね」
「ああ…ステイメンを使いこなすのは難しい。でも使いこなせればとても強い。出来るだろ?使いこなす事ぐらい」
「が、頑張ります」
「さぁ…訓練再開だ」
ヴォラクとシズハはステイメンの訓練に戻った。
「主様!私にも何か出来る事ありませんか?」
「サテラ…ご飯取ってきて」
「了解です!」
ヴォラクに対して敬礼したサテラは森の向こうにネーベルを持ったまま風の様に消えていった。
「いいんですか?あんな言い方で」
「いいんだよ。サテラは僕の言う事は何でも聞く良い奴だから…」
「ヴォラクさん。それって……もしかして好かれているんですか?」
「多分ね…」
シズハの聞いてきた質問にヴォラクは曖昧な答えでしか応答出来なかった。
その後も2人は何度も練習を重ねた。ステイメンの銃身が燃えたり、折れたりしないか心配だったが、燃える事は無かった。
(もし燃えたら…X○みたいに投げてみたいな…)
シズハも段々とステイメンを使いこなせてきていた。自分にとって異世界人に銃は完全無縁な存在だと思っていたが、今はその考えをヴォラクは捨てていた。サテラも銃を覚えるスピードは早かったが、シズハもサテラ同様に凄まじい速度でステイメンを使いこなしていった。
初めて銃を撃った時と比べて、全く違う。
手ブレもなくなってきていて、反動にも耐えられるようになっていた。ヴォラクはスナイパーライフルを使いこなすのに五日もかかったので、自分が情けないぐらいに思えた。
しかしこれでまた1人とこの世界で銃を使う人が増えた。
シズハがステイメンの訓練を開始してから、二時間程が経った。
シズハはヴォラクに話しかける。
「ヴォラクさん、私も1人でステイメンを使ってみたいです!きっと出来ると思うんで、私にやらせてください!」
「…いいよ。シズハが使いたいって言うなら、止めはしないよ。でもくれぐれも事故るなよ…」
「分かりました!」
そう言ってシズハはかなり重量のあるステイメンを両手で抱える。
ヴォラクのサポート無しでは、ステイメンを自分で持つのは厳しいと思う。
荒い息を吐きながら、ステイメンを持つシズハ。しかしそれでもシズハはステイメンのトリガーに右手の指をかけていた。
左手はステイメンの銃身の後ろの方を持っている。
シズハは少し先に見える大木に狙いを定めた。
ヴォラクは少し後ろからシズハの背中を見守っている。
再び無音が周りを支配する。近くの鳥達の囀りすら自分の耳に入ってこない。動いているのは自分の心臓と肺だけと思ってしまうぐらいに静寂が辺りを支配していた。
シズハは満を持して引き金を引こうとした時だった。
「……主様~~!!!助けてくださーい!」
サテラの叫び声がヴォラクの耳を刺した。鼓膜を貫通するぐらいの勢いだ。
「サテラさん!?どうしたんですか?」
「サテラ!何があった!?」
「ゴ…ゴブリンの群れに出くわしました~!」
「ゴブリンだと!?」
「…お知らせ以上…」
と言ってサテラは息切れを起こし、ヴォラクの近くに座り込んでしまった。額には汗をかき、苦しそうに息をしている。
そしてサテラの手にはマガジンがなくなったネーベルが握られていた。
「嘘…ゴブリン?」
(ゴブリンの群れかよ!数は………27か?1匹づつなら雑魚だが、僕達の技量じゃなくて奴らの物量で負ける可能性があるな。僕は殺されるとして…サテラとシズハは………くっ!考えたくも無い!)
ヴォラクはすぐに戦闘態勢に入った。左手で鞭を握り、右手でツェアシュテールングを握り締める。
躊躇せずにツェアシュテールングを連続で発砲する。
その攻撃にゴブリン達は血を吹き上げて倒れていくが、数で圧倒されてしまう。
「シズハ!ステイメンで援護してくれ!」
「……殺す…」
「え?何か言った?」
「お前達魔物は…絶対に許さない!」
シズハはゴブリン達に叫んで、ステイメンを発射する。
まるで雷でも落ちた様な音が響く。ステイメンの攻撃はゴブリンを肉片へと変貌させた。
シズハはまるで手馴れた手つきですぐに次の発射への準備を進めた。
「シズハ!左の奴らを頼む!右の方は僕が殺る。サテラが動けない今、頼れるのはシズハだけだ。失敗するなよ!」
「はい!絶対に全て殺します!」
シズハはヴォラクの方を振り向き、叫んだ。すると次の瞬間、シズハの着ていた巫女服に1匹のゴブリンが絡まりついた。
たとえ1匹のゴブリンに自分の動きを封じられたら最後…次々と押し寄せるゴブリンの餌食となる。
このままではシズハはゴブリンに捕まってしまう。
「邪魔なんだよ!このクソ野郎が!!」
サテラは服を強引に振る。ゴブリンを地面に叩きつける様に何度も振った。
その間にシズハに近づくゴブリン達はステイメンに殴打される。
銃は相手を殴るのにも使える
今の発言にヴォラクは口が開く。シズハの性格が完全に変わっていた。
さっきまでは他人に優しく何事にも頑張り屋な所が見られていたが、今のシズハにそれは無かった。
しかしヴォラクも今の行動で足が硬直し少し隙を作る。
ゴブリンが棍棒で殴りかかってきた。しかしヴォラクはそれを軽く避け、鞭に巻き付けられたナイフで胴体を斬り裂いた。
(シズハ……まるで人が違うな。まさかゴブリンに何か嫌な思い出でもあるのか?)
「ヴォラクさん!こっちのゴブリンの排除は終わったよ!」
「ああ…分かった。こっちも後…1匹だ」
森の奥に逃げようとするゴブリンは逃げる事すら許されずに脳天をツェアシュテールングを撃ち抜かれた。
脳髄を飛散させ頭から血を流して、倒れ込んだ。
辺りには……散らばる肉と綺麗な草花に付着したゴブリンの血。
そして返り血を浴びた2人の銃士が立っていたと言う。




