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16話「優の心」

 



 シズハはリザードマンの血で汚れたヴォラクの手を握って立ち上がる。

 自分の見た感じではシズハの体に怪我はなかった。


「リザードマン共に変な事されなかったか?」


「はい。特に何もされてません」


「そうか…なら良かった」




 互いの手を握りながら話すヴォラクとシズハ。すると後ろの方から男の声が聞こえる。



「いい所すまないが…早く助けてくれ~早くしないとお鍋の具になっちゃうよ~」


 後ろを振り返るとレオルが下着を一枚だけ着て、自分の体より大きい鍋の中にいれられていた。

 早く助けないと本当に鍋の具材になりそうだ。恐らく肉だと思われる。


「……自力で出ろ」


「はぁ!?」


「それじゃ頑張って抜け出してくださいね」


 ヴォラクとサテラはレオルを見捨てる事にした。少し前まで自分の仲間に手を出そうとした人物なので助けるのは個人的に無理だ。


「すまんが…僕は男は助ける気がないんでね」


「ち!ちょっと!それはおかしいだろ!普通困ってる人が居たら助けるのが…」


「女にしか目の無いおマヌケモンスターはそこで肉の塊になってろ!お前の姿を見るだけで腹立たしい!」


「主様。行きましょう」


「ああ…そうだな…来るか?」


「勿論行きます」


「ちょ待って!話聞いてよ~!」



 レオルの言葉なんて耳に入ってこなかった。レオルの声は周りで聞こえる雑音程度の音にしか聞こえなかった。







 帰り道の途中、ヴォラクは2人の方を向いた。ポケットの中に手を入れたまま楽な立ち方をしていた。



「なぁ…シズハだったっけ?何があったんだ?」



 一体ヴォラク達が来る前、シズハ達の身に何が起こっていたのか知りたかった。自分の見えない所でも、他の人達は戦っているからだ。



「普通の広場があったんです。奥の方にはまだ道がありました。レオルが向こうの道に進もうとしたら…向こうの道が消えました」


「擬態魔法ですね。道が消えたのも」


「はい…貴方が言う通り擬態魔法でした。嫌な予感がして、来た道を戻ろうとしたら上からリザードマン達が降ってきました」


「待ち伏せしたんだな…」



 シズハの頭の中にさっきの戦いの様子が浮かび上がってくる。


























「よし!この広場を抜けて、向こうの道に進むぞ!」


「分かったぜ!隊長」


「異論無しです」


「……はい」



 レオル達は少しだけ警戒して広場を進む、シズハも自分の杖を持ち、周りを警戒する。



「…大丈夫そうだな。敵は居ないこのまま先を急ごう」


「よっしゃ!早く宝を手に入れ…」



 後ろで何かが潰れる様な音が聞こえた。この時シズハは音の方向を向きたくなかった。

 何か恐ろしいものが転がっていると思ったからだ。

 それはレオル達も同じだった。





 しかしいつまでも後ろを振り返らない訳にもいかなかった。

 シズハは恐る恐る後ろを見る。そこには…




「え…何これ」



 冒険者の1人が両腕を荒く切断された状態で生気の無い目をこちらに向けていた姿があった。



 小さな血の海が見える。その光景に目を逸らしたくなる。


「何処からだ?敵はど…」



 さっきと同じ音がした。上からだ…上から攻撃がきていたのだ。


「上だ!上から敵が来るぞ!」




 レオルが叫ぶと上からレオルの声に呼ばれた様にリザードマン達が次々と降ってきたのだ。


「そんな…この数は」



 その数は二十を超えていた。こちらの人数はリザードマンと比べたら圧倒的に不利だ。



「テキミツケタ…コロス」


「ヨワイゾカンタン」


「オンナダ!サイコウ!」


 リザードマンの発した言葉にシズハの背筋が凍る。こんなモンスターに身体を弄ばれるのは断固拒否だ。しかし自分の力が及ばなければ、それを回避する事は出来ない。



 シズハは冷静に今の状況から逆転する方法を考えるが何も思いつかない。

 レオルなら何か良い指示を出してくれるのかと思った。

 この際レオルに判断を任せる事にする。しかしレオルの下した指示は自分の考えと全く異なっていた。




「全員突撃!武器が壊れるまで自分の目標の敵に突撃あるのみだ!」


「そんな作戦で勝てるのか?」


「不安なんだけど…」


「問題無い!俺を信じろ!絶対に死にはしない!」





 絶対に死にはしない…その言葉は信じる事が出来ない。ただ敵に向かって突撃するだけなんて…間違っている。距離をとるか…一度撤退するか…他にも良い作戦はあったはずなのに…

 レオルが出した指示はただの特攻だった。






「本当だな!?死なないんだな?」


「勿論だ!俺が保証する!」


「あの…私は突撃する様な職業じゃ無いんですけど」


「関係無い!杖で殴れば良いだけだ!」


 もう呆れてしまった。杖は殴る為に使う武器では無い。遠距離からの攻撃や味方の回復等に使う武器なのに…レオルは杖で相手を殴れと言ったのだ。





「分かったよ!保証してくれるなら突撃するぞ!」



 冒険者の1人が斧を持ってリザードマンに特攻を仕掛ける。しかし…


「ぎゃああああ!」


「コノテイド…オマエヨワイ」


 斧を振りかぶった間に腹をリザードマンの剣で裂かれて血を噴射して、死んだ。


「まだまだ!死んでいった冒険者の為に俺は戦うんだ行くぞ!」



 レオルは無謀にも腰に差していた長剣を引き抜き、リザードマンに向かって突撃を仕掛けるが…ただ敵に向かって突撃するだけで敵を殺す事は出来ない。







「ぐはぁ!」


「コイツウマソウ」


「ナベノニクニスル」


「やめろ!俺は食材じゃないぞ!」




 レオルは必死で抵抗するが、抵抗虚しく三体のリザードマンによって湯気が立ち込め、熱湯が入っている鍋に放り込まれてしまった。



「た!隊長!」


「クソ!隊長を取り返すぞ!」


「皆さん!待ってください。一旦撤退を!」





 シズハの言葉には誰も反応してくれなかった。他のほぼ全てのメンバーはレオルを助ける為に鍋に向かっている。




「これじゃ…ただの特攻隊ですよ。酷い」



 シズハは遂にその場に座り込んでしまった。

 足を動かせなかった。

 違う。何も出来ない哀れな自分と周りの戦い方に絶望して、足は動かなかった。


 シズハはその場に石の様に固まり、座っている。



「シズハさん!俺が助けを呼んできます。あの仮面のガキと可愛い女の子を呼んでくるか、、それまで耐えててくれ!」



「待ってください!私は1人で戦う系じゃないのに!」



 シズハは自分に背を向けたまま走っていく傷付いた冒険者に自分の手を伸ばすが、冒険者は暗闇の道に消えてしまう。


 その冒険者を追うのはリザードマンだった。





(もう私は…ここで終わるの?)




 周りを見渡すと、そこには死体と自分の事を取り囲むリザードマン達が居た。




 抵抗出来なかった。

 リザードマン達は自分の着ている服を脱がせようと、自分が着ている服に手を伸ばす。


 もう終わってしまった。ここで永遠に…死ぬまで私はもう奴らの物になってしまうと思った。

 






 しかし救いの光が消える事はなかった。












 そこにヴォラクとサテラが現れたのだった。















「……そんな感じな事がありました」



 少し長い話を聞いて、ヴォラクは心の中で怒る。


(あの野郎。ひでぇ作戦を使いやがったな。特攻で命の無駄使い。最低の枠を通り越して、クズ中のクズだな)


「そんな酷い作戦をしようとしていた奴に着いていくなんて、あなたも中々強いんですね」


「強いなんて…私はまだレベルも84だから」


(え!)


(え!?)





 ヴォラクは仮面を手で覆ってしまう。サテラも自分の頭を両手で掴んでいた。



「…どうかしましたか?」


「僕…レベルまだ52だよ」


「私もレベルは43です」


「そのレベルでそんなに強いんですか!?どうしてですか?」



「…それは銃を使っているからだ!」と言いたい。しかし彼女を信用していいのかと疑ってしまう。いくら個人的に可愛いと思っても、何か悪い情報を探しているかもしれないと思う。



 少し悩んだが、やはり正直に言うべきと思い、シズハに本当の事を言う事にする。

 



「これを使ってるからだ」


 そう言ってヴォラクは腰の小型のバックから愛用している銃『ツェアシュテールング』を取り出した。



「何ですかこれは?」


「僕の愛用武器だよ。構造とかは僕だけが知る物だから。使おうと思えば誰でも使えるよ。しかもどんな武器よりも強い」


「こんな武器見た事ないです。この世界にはまだ未確認の武器があるんですね」


「未確認と言うか…僕が独自に考えたんだけど」



 ヴォラクが言った事にシズハは驚きを隠せていない。独自でこんなにも強い武器を開発しているからだ。


「ど…独自でこんな武器を…あなたは何者ですか?」



「少し奇抜な冒険者ですよ」



 そう言い残して、ヴォラクはサテラと一緒に洞窟の入り口の方へと進んで行く。


 その背中をシズハは追いかける事にした。






「ちょっと興味が湧きました。あなたに着いていってもいいですか?」



「女性なら歓迎するよ…」


(主様…女性には優しくしてくれるんですか…)





 何も言わずに進むヴォラクとサテラの背中をシズハは黙ったまま着いていった。




 シズハの目から見えるヴォラクの後ろ姿は…優しく、頼れる存在の様に見えていたと言う。




小説の更新に時間がかかってすいません。

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