15話「惨殺者」☆
宿から出た2人は青く輝く空の下を歩いていた。
互いに肩を寄せたまま歩くサテラとヴォラク。
周りの目は自分達を気味が悪い感じで見ているがそんな事はどうでも良かった。今はサテラとこうやって近くに寄り添いたかったからだ。
「主様…今日は何か予定がありますか?」
「今日は適当に魔物でも殺しておこう。今日は暇だし、何でか知らんが誰でもいいから殺したいんだよ。数が多い敵に挑もう。それなら大量に屍の山を作れるから」
今の発言をした自分がおかしいとは一切思わなかった。暇を潰す為に人を殺す。元の世界では殺人なんて一切してこなかったのに、この世界に来てからは命を持つ存在をこの手で殺すのが少し楽しみになってきていた。
2人は一旦互いの肩を寄せるのをやめて、2人は並んで歩いた。
正直この街にはもう居たくない。いつ正体が明らかになってもおかしくは無かった。
それにヴォラクはこの街では若干不審者扱いを受けている。奇妙な仮面を付けているせいで周りの人間からは怖がられる。
逆にこの仮面を外せば正体がバレてしまう。自分はどうすればいいのか。街を出て行って違う場所に行くか、それともまだこの街に居座るか。
しかしこの街から違う街まで行くにはかなりの時間が必要だ。地図を見た時もここから近い街まではそれなりに距離がある。歩きで行くのは絶対に嫌だ。車やバイクでもあれば…と思うがこの世界にそんな代物は存在しない。
費用的に考えたら、やはり街を出て行くのではなくこの街に居座り続ける方が良いと思った。
次々と浮かぶ悩みがヴォラクの背中を重くする。「はぁ~」と深い溜め息をついて、サテラとクエスト受注所に向かう事にした。
(あ~お家に…我が家に帰りたい…母さん…姉さん…)
クエスト受注所に着いた2人はすぐにクエストを確認する。
しかしまたもや周りから視線を浴びている。理由はもう分かっていた。最近ヴォラク達は少し有名な冒険者になっていたからだ。レベルは高い所には到達していないのに数多の高難易度のクエスト平気な感じでクリアしているからだ。
それが周りに広まり続けた結果、2人はこの街では勇者レベルの力を持っていると囁かれている。
それを嬉しく思っている者もいれば2人の活動を否定する者もいた。
何故なら高難易度のクエストをヴォラク達だけがクリアしていたら他の上級冒険者達が高難易度クエストを受ける事が出来ないからだ。そのせいで上級冒険者からは嫌われているらしい。最近では2人は何か不正をしているのでは?と言う噂が立ち込めている。
もう一つは嫉妬心だ。性格が歪んでいる人間は他人をすぐ恨んだり嫉妬したりする。実際ヴォラク達は最近他の冒険者に嫌味を言われる事があった。
ヴォラクは「お前は冒険者活動を停止しろ」と言われたりサテラは「そんな奴よりも俺達のパーティーに来い」と誘われたりと色々だ。毎回ヴォラクが追い返しているが、毎回こんな事があれば自分ははっきり言って耐えられる事では無かった。
自分はメンタルが強い訳では無い。
周りからの視線が辛いヴォラク。(クエストするのやめようかな?)と思い、クエストの欄から立ち去ろうとすると、壁に貼られていた一つの張り紙が目に入った。
そこにはこう書かれていた。
「リザードマン達の討伐。冒険者の参加を求む(女性大歓迎)推奨レベル80以上参加者はクエスト受注所近くの洞窟へ」
(下心完全に丸見えだなw)
と書かれていた。一部の文は何か変な事が書かれていると思ったが、それは見なかった事にしてクエスト受注所の近くにあると言う洞窟に向かう事にした。
クエスト受注所の近くを少し散策してみると、本当に洞窟が存在していた。
場所は隣接されている森に近く、洞窟の中を進んで行けば森の下の辺りに着くと思った。
実際の所人が結構集まっていた。女性大歓迎と言っている割には女性の姿はサテラ以外何処にも見当たらない。
「主様?このクエストで良いんですか?」
「ああ、リザードマンなら数も多いだろうし存分に惨殺出来る。最高だぜ!」
「なら私も全力で主様の蹂躙を手伝います!」
「よろしく頼むぞ」
ヴォラクはサテラに手を差し出す。サテラはヴォラクに対して手を差し出して、互いの手を握った。
「なぁ兄ちゃん…いちゃつくなら違う所でやれ」
「俺達は仲良い女性なんていないからな…」
「あ…すいません」
その光景を見ていた周りの男冒険者達がヴォラクに注意を促す。今の所女を連れているのはヴォラクだけだった。
確かに男性の前で女性と仲良くするのも少し気が引けると思い、少し距離をとる。
「よく集まってくれたな!冒険者諸君」
突然大声が聞こえたので声が聞こえる方向を振り向く。
そこには金メッキの様に眩しくなるほどのキラキラした鎧を身に付けている冒険者が汚れて粗末に作られた台の上で話していた。
「私の名は『レオル』今回の作戦のリーダーだ!いいか?これから話す事をよく聞いてくれ…この先の洞窟にはリザードマンがうじゃうじゃ居るらしい。我々冒険者の力を合わせて魔物を一匹残らず打ち倒すぞ!」
「打ち倒す?…じゃ無くて殺すだろ!」
レオルが言った事に対してそう叫んでしまった。すると周りの目が一斉に自分を見てくる。
「こ、殺す?あいつ何か魔物にでも恨みあるのか?」
「家族が魔物に殺されたんじゃないの?」
「たまにいるよね~あんな感じなガチで魔物退治する系の奴w」
違う…魔物に恨みがあった訳じゃない。魔物をガチで退治している訳でもない。
魔物を殺すなら…打ち倒すとか討ち取るとかじゃなくて…殺すって言えよ。相手は徹底的に殺す。それだけだ…なのに奴は殺すと口にしなかった。それが何故か自分には大きな怒りになった。
周りの人間は彼を見て、嘲笑う様な顔を見せていた。
「ま…まぁ確かに殺す…魔物は殺さなければいけない。でも皆絶対に死なずに生きて戻る事を約束してほしい。後最後に…そこの女性2人は俺と共に行動してもらうよ」
(はぁ!?)
呆れてしまった。結局は女性から好意を寄せられたいだけだと思った。ヴォラクはサテラを守る為にすぐ回避行動に移る。
「申し訳ないが、こいつは僕の女なの」
「きゃ!もう主様~!」
サテラの肩を強引に掴んで自分の方に抱き寄せる。
「あ…主様だって?それは一体どど…どう言う事かな?」
「処女を奪っただけだ」
人前でこんな事を言うのもあれだが、サテラを守る為に僕は手段を選ばないと決めたのだ。
「主様!そう言う事は…ちょっと」
「そうか…その子の初めてはお前が貰っていのか…じゃあもう1人は俺と行動してもらうぞ!絶対にだ!」
レオルの顔には若干怒りの表情が混ざっていた。何故あんな仮面を付けた気味の悪い男に身体を捧げるのか…とでも今頃心の中で思っているだろうと思うと笑いそうだ。
しかしレオルが言っていたもう1人の女性の姿が見えない、その姿を見る為にヴォラクはサテラと一緒に冒険者を退かして、前に向かう。
(え?何この子…めっちゃ可愛い)
そこには…金色ではなく金色に薄い黄色を混ぜた感じの髪の色で髪は背中の下、腰の近くぐらいにまで伸びていてフレッシュな前髪をしていた。そして着ていた服は元の世界でも見た事がある服を着ていた。神社の巫女の様な服装だった。手には小さく長い旗やシャンシャンと音を鳴らしそうな鈴が三つ取り付けられた棒を握っていた。
そして一番ヴォラクが惚れた所は…頭には二つの狼の様な耳…そして触り心地が最高な感じの長い尻尾が生えていた。
ゲームなどでも何度も見た事がある『人狼族』又は『獣人』に非常に類似していた。しかし耳や尻尾の形状を見て、狼では無く狐だとヴォラクは思った。
動物と人間の間の存在で、顔も美しい女性の顔立ちをしていて、頬を撫でたくなるぐらいだ。
自分の前に立っている女の子は完全にそれと一致していた。う~ん、これは非常に萌えるね。だって獣耳は正義だと思う。耳モフるのも良しだし、尻尾を枕にしてもらう事だって出来るので僕的にはこの獣耳と言うのは非常に素晴らしい存在だと思う。それに好きな属性は獣耳です※ヴォラクの主観
服装的に見て、職業は近接戦闘を得意とした感じではない。遠距離での魔法攻撃か仲間への支援を得意とした職業だと分かる。
「君は俺と共に行動してもうよ。分かったか?それとこれが終わったらお茶にでも行こうか」
いきなり誘った彼を見てヴォラクは奴は馬鹿だと断定した。完全に身体目的だと思った。(こいつはお茶の後に彼女を宿に連れ込むな…)と思ったがそんな事はさせない…他人の彼女をNTRのは大好きだ。
「は…はいよろしくお願いします」
下の方を向き、暗い表情でそう答えた。それを見てヴォラクは(無理矢理感が凄いな)と思っていた。
「では…出発するぞ!」
レオルを先頭に全13人で洞窟の内部に突入した。
洞窟の中部はかなり暗く、些細な事でも恐怖を覚える。さっきは水が滴る音にも僅かに恐怖を感じた。
ヴォラクは銃では無く、ナイフを巻き付けた鞭を取り出す。銃は基本誰かに見られながらの使用は情報漏洩の可能性があるので極力避けたい。
冒険者が使用する松明の灯りだけを目印に洞窟の奥を歩いて行く。
しばらく進んでいると、少し道が開けた場所に出た。上からは太陽の光が差し込み、松明が必要無いぐらいだった。
「気を付けろ。奥の方にリザードマンがいる」
レオルが足を一旦止める。レオルが見た方向をヴォラクが見ると、奥の方に更に開けた場所があった。
まるで闘技場の様だ。
中心辺りにはリザードマンがいる。目に見える限りでは…十七匹存在していた。ここは奴らを殺しに行くか?と思ったが、レオルの判断は違った。
「あのリザードマン達は無視しよう…左の方に道があるからそっちの方に進もう」
「え?殺しておこうよ」
「無駄な時間と体力を使うだけだ。何でそんな事が分からないんだ?」
「奴らを殺したいんだ。どうしてもダメなら僕達だけで行っていい?」
「好きにしろ。でも女性の方は残していってもらいたいんだけど」
「殺すよ…」
「え?」
ヴォラクの仮面がレオルの目をじっと睨む。ヴォラクが装備している仮面は恐ろしくこちらを見つめていた。
「先に行っててくれ後で合流する。行くよサテラ」
「了解です。主様」
そう言ってヴォラクとサテラは奥の方で武器を持ちながら立っているリザードマンに向かって行った。
「……あんな奴ら放っておいて、俺達は先を急ごう!」
「分かったよ」
「さっさと行こうぜ」
(勇気がある…あの人には)
「あの数ならサテラと僕だけで惨殺出来そうだね」
「はい、私のネーベルで一気に殲滅させます。主様は後ろで見ていてください」
「1人で殺るのか…まぁ頑張れ」
ここの戦闘はサテラに任せる事にした。敵がサテラの視界に入る。
サテラはネーベルを両手で握り、リザードマンに向かって突撃する。
「サテラ!背後からも気を付けろ!」
「はい!後ろですね」
リザードマンは武器も持たずにサテラに襲いかかる。
しかし奇妙だ。リザードマンは武器を使って戦う事が出来るのに何故か武器を持たずにサテラに掴みかかろうとしていたのだ。
(まさか…)と思った。リザードマン達はサテラを殺すのでは無く、捕まえて自分達の慰め者にしようと考えていると思った。たまに漫画とかでもある展開だ。
魔物やモンスター知能が低いと思われがちだが、高い魔物も存在する。
元々リザードマンは知能が魔物の中では高い部類だ。リザードマンはサテラを捕まえて慰め者にしようとしている事がヴォラクには分かった。そしてその後に自分を殺そうとしている事も何となく分かる。
リザードマンは荒い息を吐き、舌をむき出しにしたままサテラに近寄っている。
しかし近寄ったらネーベルの餌食だ。次々と血を吹き上げて殺されていくリザードマン達だが、戦いは最後まで何が起こるか分からない。
「主様…敵を殲滅しました!」
自分の目に見える敵は殲滅したが、ヴォラクは上に気配を感じる。
「上から来るぞ気を付けろ!」
ヴォラクが叫ぶと上からリザードマンがもう一匹降ってきた。
今度のリザードマンは武器を持っている。大型の長剣だ。あれで斬られれば痛いで済む問題では無い。しかしリザードマンよりも、ヴォラクの判断の方が早かった。
「死ねよ!」
ヴォラクは自分の鞭をリザードマン目掛けて振り回した。振り回した鞭の先端に取り付けられたナイフがリザードンの脇腹を斬り裂いた。血が宙を駆け巡った。空から地に落ちる血はヴォラクの黒色の服を赤くした。
「主様…援護ありがとうございます」
「自分の周りだけじゃなくて下や上にも気を配れよ。もしも隙を晒したら天国か生き地獄送りになっちまうよ」
「すみません。次からは気を付けます」
そう言ってサテラは頭を下げるが、ヴォラクはサテラの頭を撫でる。
「でも1人でよく頑張ったな」
「……主様」
サテラは小声でそう言ってヴォラクの腕にしがみついた。
ヴォラクはそれを取り払わずにリザードマンの死体に背を向けて歩いて行った。
2人は一度離れたレオル達に合流する事にした。一応戻らなければならない。
ここで帰れば色々と信頼を失う事になる。
灯りや光は無く、僅かにだけ見える道を頼りに進む。五分程歩いていると、何かが見えた。
「誰かいるのか?」
ヴォラクが何か見えた方向に向かって話しかける。
「た、助け…助けてくれ」
低い男の声が聞こえる。苦しみ、気力が無い声だった。
ヴォラクが声の方向に走ると、そこには…さっきまで一緒にいたパーティーメンバーが血を流して倒れていた。
「何があったんだ?」
「り、リザードマンが…俺達を攻撃してきた。皆右の方に行ってしまった。早く助けに行け」
「リザードマンが襲撃して来たのはいつぐらいだ?」
「さっきだ…お前が来る三分前ぐらいに…………」
男はそれを最後に動かなくなった。しかし体は暖かい。気を失っているだけの様だ。
「取り敢えず今はこいつを放っておいて、右に進もう。サテラ来い!」
「分かりました!」
2人は男を置き去りにして、右の方に進んだ。何故か分からないが、変な感じがする。
嫌な予感では無く…
更に奥へと進むと、さっきリザードマンと戦った場所よりも広い場所に出た。太陽の光が差し込み、灯りなんて必要無かった。
「うぉ…マジかよ」
中心を見ると、さっきまで一緒にいた冒険者達が血を流して死んでいた。
中には体をバラバラにされている奴もいれば、首を斬られて首を晒されている奴もいた。
しかしそんな事よりも、ヴォラクは左を見た時の光景に怒りが走った。
獣の耳を生やしたあの女の子がリザードマンに襲われそうになっていた。実際今彼女は服をリザードマンに脱がされかけている。
他人をNTRのは好きだが…それを見ているのは無理だ。
「さぁ…狩りを始めようか…」
ヴォラクはリザードマンに向かって飛びかかる。そして自分の鞭をリザードマンに向かって振り回す。
「君!大丈夫か?」
「はい何とか。怪我もしていません」
彼女の安否は確認出来た。ヴォラクはすぐに次の行動に移る。
「そうか…良かった」
ヴォラクは鞭を握り締めた。リザードマンの数は二十二匹。正面から殴りにかかったら殺られる未来が見えるが、ヴォラクは真正面から突入する様な事はしなかった。
「…あれを使えば!」
ヴォラクは鞭を伸ばした。鞭を使い、自分から少し離れた場所にある物を引き寄せる。
それは死んだ冒険者が使っていた一つの剣だった。冒険者が使う普通の剣。鉄で作られた。
「少ししゃがんでろ!立ってると首と体が離れるぞ!」
「え!首が!?」
彼女はヴォラクの言う通りに頭を手で隠してうずくまっている。
ヴォラクは剣を鞭に巻き付ける。ナイフよりもこっちの方がリーチが長い。
「死ぬ程苦しみを受けながら…逝ってもらうぞ」
ヴォラクは鞭を伸ばし、リザードマンの一匹に突き刺した。
リザードマンは腹から血を吹いて倒れる。しかし鞭に巻き付けられた剣は刺さりっぱなしだ。
「これなら!」
なんとヴォラクは両手で鞭を握り、リザードマンの巨体を鞭に刺したまま鞭を円を描く様に振り回した。
先端には剣と死んだリザードマンの巨体が突き刺さっている。
ヴォラクが披露した動きにリザードマン達は何の対抗も出来なかった。
死んだ巨体にぶつかり吹き飛ばされて、剣が肉を抉り死ぬ。
死ぬ程の苦しみを受けたリザードマン達は振り回される剣と死んだリザードマンの巨体を前にして…全て死んだ。
「主様…流石です」
「ありがとうサテラ!」
そう言ってヴォラクはサテラに手を振った。
「あんた…大丈夫か?」
地面にまるで石の様に固まったまま座り込む少女にヴォラクは話しかける。
「あなた…強いですね」
「そりゃ……強いよ僕は」
彼女の言う言葉は疑問だけがあった。何故あんな劣勢な状況から逆転して、勝つ事が出来るのか。相手の数は彼よりも何倍も多かった。しかし彼はそんな状況を打開し、簡単に勝利を収めた。彼女はすぐに彼の名前を聞く。
「あなた…名前はなんて言うんですか?」
「僕の名はヴォラク…『ヴォラク』だ」
自分の好きな漫画の様に名前を言った。それに対して彼女も自分の名前を名乗る。
「私の名前は…『シズハ』と言います」
名前から聞いて自分が住んでいた日本の人の名前に近い名前だった。
もしかして日本出身?と思ったがそんな事は絶対にありえない。
「シズハか…良い名だな」
「ありがとうございます」
座り込んだままお礼を言うシズハ。それがヴォラクが何故か少し嫌になり、シズハに手を差し伸べる。
「……ほら立てよ」
「……ありがとう」
「主様…新しい仲間発見かな?」
太陽の光が広場全体を神々しく照らしていた。
そして真っ赤な血も辺りを染め上げていた。