14話「気持ち」
あの出来事が起こった次の日の朝。太陽の様な日差しが宿の部屋の中に差し込む中でヴォラクは目を覚ました。先に起きたのはサテラではなくヴォラクだ。
ヴォラクはまだ眠っているサテラに向けてそっと自分の手を伸ばした。彼女の頬に手を伸ばし、静かに撫でた。目に入るのはサテラの美しい顔、綺麗な紫色の髪、全てにおいて美しい肉体、全てにおいて非の打ち所が存在しない存在だった。太陽の様な光が部屋の中に差し込んできて、尚更その美しい姿に磨きがかかっていたのだ。
やっぱり………いつ見てもサテラの姿は例えようが存在しないぐらい綺麗な姿をしていた。もう他に例えるものがない。綺麗過ぎて自分の存在が低過ぎる様に思えてしまうぐらいだ。
サテラ・ディアと言う彼女の美しい存在がヴォラクと言う男の存在をかき消してしまうぐらいの美しさが彼女にはあったのだ。自分なんかが彼女と一緒にいて良いのだろうか。
まぁ、深くは気にしないでおこう。サテラがヴォラクの事を険悪に思う訳では無い。
それにヴォラクは無事にサテラとベットの上で添い遂げる事が出来たので、気にしないでおこう。もうサテラとヴォラクはこんな仲になってしまったのだ。今更険悪な感じになる様な出来事も起こりはしないだろうとヴォラクは思った。それにヴォラクとサテラは主と奴隷の関係だ。互いの関係が険悪な主と奴隷なんてヴォラクは嫌だったので、もう深くは考えず互いの仲を認識し、責任を持って彼女の傍にいる事を決めたのだった。この決心が揺らぐ事はないだろう。ヴォラクはこの決心を揺るがす気がなかったからだ。
取り敢えずヴォラクは現在服を着ていない状態だったので、着替える事にした。だって服着てないもん。一切着てないもん。裸だよ、裸?結構寒いよ。さっさと着ればよかった。
昨日サテラと添い遂げた後そのまま2人仲良く寝落ちしちゃったからね。しょうがないとしても寒いと言う事に変わりはないのでヴォラクはベットの下に無造作に転がった黒色の服を手に取ると急ぐ様にして服を着た。
もう寒いよ。さっさと着替えないと凍死してしまいそうだよ。ヴォラクは案外寒がりな人なので。
ヴォラクはいそいそとしながらも自分の服を手に取って着替えているとベットの方から何かの音がした。ヴォラクは何かを察する様な表情を見せる。
誰が起きたのかはもう分かっていた。誰が自分の後ろで起きたのかなんて、言わなくとも分かっていた。だってそんな人は1人しかいないからだ。
後ろを振り向くと、そこには髪止めを外してポニーテールではなくロングヘアの状態で服を一切着ていない寝起きのサテラがベットの上に綺麗な肌を露出させながら楽そうな姿勢で座っていた。
起きるなりサテラは目を擦りヴォラクの方をつぶらな瞳で見つめていた。
「…おはようございます、主様…」
「お、おぅ、おはよう、サテラ」
高く美しい声がヴォラクの耳の中に入る。これ以上の良い声が見つからないぐらいだ。
「主様、もう着替えていたんですね。私も着替えます」
サテラは今、服を着ていなかった。勿論起きた後のヴォラクと同じ様に裸体の状態だった。
ベットの上に敷かれていた布団を身体に纏っていたとは言っても、所々綺麗な素肌が見え隠れしているので可愛らしさが劣る事が全くなかった。
ヴォラクは少しだけ目を逸らした。いくら昨日あんな光景を自分の目で見たとは言っても、まだ健全なヴォラクには刺激が強く思えてしまった。
「あ、あぁ…少しは隠してくれよ?」
その言葉にサテラは少しだけ頬を赤くした。サテラもその言葉を言われた瞬間、ヴォラクと同様に急ぐ様にして床に転がった服を手に取り、着替え始めた。
その間、ヴォラクはサテラの方を見る事はなかった。サテラに背を向けて(見ない、見ない)と心の中で連続して呟きながらサテラに背を向けて後ろを見ない様にしていた。
「主様、もういいですよ」
サテラの声が聞こえた。もうサテラの方を見ていい事らしい。
なら、もう服を着ていると言う事だ。それならもう目を逸らす様な事はない。
もう振り返っても大丈夫だ!
「………サテラ……やっぱ綺麗だね」
「主様……そんな、可愛いだなんて♡」
ヴォラクはサテラの方を振り返った。そして振り返った瞬間、ヴォラクの目に映ったサテラがヴォラクを驚かせてしまった。
彼女はもう例えようがないだとか、自分の存在が掻き消されるだとか、そんな事がどうでも良くなるぐらい彼女の姿が美しく見えてしまった。
今まで見てきた景色や光景なんかが全て一蹴される程の美しさをサテラは見せていた。ヴォラクは自分の目が狂ってしまったのか?と疑いたくなる程サテラの姿が綺麗に見えてしまった。
部屋に入る日差しに当たる彼女の輝く様な綺麗な身体と美しい表情がヴォラクの目に映っていたのだ。ヴォラクはずっと彼女を見つめる様に見てしまっていた。
しかし、いつまでも彼女を見つめているとサテラに変に思われてしまうかもしれない。
ヴォラクは1度脳内を落ち着かせると、サテラを見続ける様な事はやめた。
そしてもう宿から出る事にした。いつまでも長居する訳にもいかなかったとヴォラクが思ったからだ。
「な、なぁサテラ。そろそろ行こうぜ?今日もクエストやるだろ?」
「あ、はい、そうですね………………あの、主様…」
「ん?どったの……っ!?」
サテラに突然呼び止められた為、ふとヴォラクはサテラの方を振り返る。
そしてヴォラクは大きく驚いてしまった。
振り返るなり、ヴォラクはサテラに抱き着かれてしまったのだ。突然の事だったので、ヴォラクは昨日の夜の様にサテラの健気な身体を抱き締める事が出来なかった。だがサテラに抱き着かれておいて、抱き締めてあげないのはヴォラクは失礼だと感じたので、すぐにサテラの事を抱き締めてあげたのだ。
「サテラ……どうしたんだ?」
「少しだけ寂しくなってしまったんです…お母さんの事、思い出してしまって…こうやって不安な時、辛い時、悲しい時は抱き締めてもらったんですよ」
「サテラ……君は今、不安か、それとも辛いのか、悲しいのか?」
ヴォラクから見て、今のサテラは悲しそうには全く見えない、逆にヴォラクと、一緒に隣にいて幸せそうにも見えてきた。
「違います。ただ、主様とこうやって抱き締め合いたいだけです……」
「………そうか、ならしばらくはこうしといてやるよ」
「ありがとうございます、主様……」
その間、しばらくの間だけ2人は動く事なく、ベットの上で互いに抱き締め合っていた。
離したくない様な気になった。
しばらく抱き締め合った後は、2人は宿から出て行った。
外は太陽の様な光が空から照らされていた。