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12話「嬉と悲」

 



 銃を作り終えたヴォラク達は山から降りる事にした。

 元から自分は長居する事は好きでは無い。




 少し急いで山を降りる2人。

 自分達の姿を見知らぬ誰かに見られるのも嫌だ。2人が歩いて十分程経った時。何かの音がヴォラクの耳に入る。草が揺れる音でも無く、風の囁きでも無かった。



 ヴォラクが音が聞こえる方向に耳を向ける。その先には…



「サテラ、一旦止まれ」


「主様?何か居たんですか?」



 近くに生えていた木の後ろに身を潜めるヴォラクとサテラ。木の影から音が鳴る方向を覗く。そこには…まるで門番の様に道の真ん中で武器を構え周辺を見渡す大型の『ゴブリン』が全部で四体程立っていた。


 数ではヴォラク達は不利だ。真正面から銃も持たずに突っ込んだら、ゴブリンの持ってる大きな棍棒に叩き潰されてしまう。


 銃を使うしか無かった。


(こうなったらさっき新しく制作したあの狙撃銃を使って相手を狙撃するか…でもあの銃は連射には優れていないから複数を一斉に殺すのは無理だ、万が一これを撃って気付かれたら…でもサテラの銃の連射力ならゴブリン達を殺す事は容易い事だから問題は無いかな?)


「主様…どうしますか?迂回して違う道を進みますか?」


「いや…ここから狙撃する。それなら多分気付かれずに殺せるだろう。もしも気付かれたらネーベルで援護射撃をしてくれ。頼むよ」


「分かりました。気付かれたらネーベルで援護します」


 話がまとまり、ヴォラクは新しく制作した銃を片膝立ちで構える。スナイパーライフルの経験は問題無い。海外では何度も撃った。それに祖父の狩猟用狙撃銃も動かす事ぐらいは出来る。



「ターゲット…距離は約50mぐらい…この銃の性能ならいける!」



 サテラはネーベルを構えて立っている。ヴォラクもスコープを覗き、ゴブリンの頭に照準を合わせる。



「ターゲットを破壊する」



 ヴォラクは銃の引き金を引いた。周りに大きな音が響く。ヴォラクも耳栓をしていないので、耳鳴りが止まらなかった。しかし今は止まらない耳鳴りに必死で耐えて、次の弾を撃つ準備をする。


 放たれた弾はゴブリンの一匹に命中し、脳を飛散させて死亡した。周りのゴブリンはヴォラクの存在には気付いていなかった。周りを見ても誰もいない。見えない場所から攻撃が飛んでくる。実際に自分がやられたら恐怖で腰を抜かしそうだ。


 次の弾を撃つ準備が出来た。弾の装填数は自分達の方が有利だった。消耗戦なら負ける事は無い。弾なら山の様にある。


 ゴブリンは完全にヴォラクの攻撃に恐れていた。中には逃げ出そうとしているゴブリンもいた。



「逃がさないよ…」



 更にもう一発。ゴブリンの心臓部目掛けて弾を発射した。弾はゴブリンの心臓部に直撃した。即死だった。すぐに倒れ込み、血の海を作った。



 この調子で後二匹も…と思った時、ゴブリンがヴォラク達の方を向いた。


「主様!こちらの存在に恐らく気付かれました!」


 ゴブリン二匹はヴォラクの場所に向かって武器を持って走ってくる。完全に特攻だが、狙撃銃の弾を撃つ準備がまだ出来てない。今来られたらヴォラクはゴブリンにとっては弱い存在でしか無い。



「主様、ここは私が」



 サテラがゴブリンの方に走って行った。ヴォラクはサテラの行動に待ったを言わなかった。


 サテラなら出来ると思ったからだ。




「サテラ、頼む」


「了解」



 サテラはネーベルを連射する。ゴブリンはその銃弾を避ける事は出来なかった。高速で迫る鉄の弾を避ける事は出来なかった。二匹のゴブリンはサテラの銃にあっさりと殺された。何も抵抗出来ずに…一方的に殺された。




 周りにはゴブリン達の死体が転がっていた。血の海が周りに出来ている。


 血が広がる光景見る2人。その目に映った景色を見て2人は…


「汚いね…この血」


「そうですね。ゴミみたいです」



 それだけしか言えなかった。









 街に戻って来たヴォラクとサテラ。何かをする訳でも無く、仮面で閉ざされた顔を隠しながら街を歩いていた。


「主様…奴隷の分際で本当に申し訳ないのですが…一つお願いを聞いてくれませんか?」



「サテラ…君は僕の奴隷じゃないよ。お願いがあるなら言ってくれ」


 本来奴隷が主に向かって何かを願うなど決していけない事だが、ヴォラクにとってサテラは奴隷では無く『仲間』だ。全く怒りも出てこない。


「その…私自分の髪を結びたいんです」


 サテラの今の髪は長い髪を下ろしている状態だった。これでもヴォラクにとっては十分可愛いのだが、サテラはこの長い髪を結びたいと言ってきたのだ。


「何でだ?」

 


「その…戦闘中に髪が邪魔になるんですよ。たまに前にかかって敵が見えなくなる事が…だからその問題を解決する為に髪を結びたいんです。ダメですか?」


「何だそんな事か、全然構わないよ。早い内に買ってしまおう。戦闘に支障が出るのは僕も嫌だからな」



 ヴォラクとサテラは髪留め用のゴムを買う為にとある場所に向かう事にした。










「ベルタさん?居る?」


「おう!ヴォラクじゃないか。どうしたんだ?」


 彼『ベルタ・スデア」ヴォラクの先輩の様な存在であり、あの時も自分の事を庇ってくれた良い人物でもある。


「この子が髪留めを欲しいって言ってるんだ。そんなアイテムあるか?」


「この嬢ちゃんにか?任せとけ!」


 そう言ってベルタは店奥に消えていった。





「主様あの人は?」


「あの人か?僕の先生みたいな人だよ。とても優しくて…良い人だ。僕はあの人の事を尊敬してる」


「主様が尊敬しているなんて…余程凄い人なんですねあの人は」



 するとベルタが店奥から出てきた。彼の手には髪留めが握られていた。



「ほら嬢ちゃん。戦う為にこいつはきっと役に立つぜ」


 そう言ってサテラに髪留めゴムを渡した。


「ありがとうございます。早速やってみます」



 サテラはそう言って自分で髪を結び始めた。サテラが髪を結んでいる間。ベルタはヴォラクに小声で話しかけてくる。


「なぁヴォラク。あんな可愛い子どうやって仲間にしたんだ?」


「仲間と言うよりは…奴隷なんですけど」


「成程…奴隷ね…確かに奴隷ならお前でもあんな可愛い仲間が出来るのにも納得がいく。でもあれ程美貌…見た感じ『平和帝国』出身だな…」


 その言葉に耳を疑う。あの奴隷商人も同じ事を言っていた。何故それをベルタが知っているのか、疑問に思った。


「分かるんですか?確か…奴隷商から彼女を買った時もベルタさんと同じ事を言っていました」


「平和帝国はな美人が多いんだよ。でも実際は他国からかき集められた人達で美人は全て帝国王の言いなりらしい。酷いだろ?」


「じゃあ彼女も…でも彼女は過去は兵士だったと奴隷商は言っていました」


「それは恐らく男の兵士からの嫌がらせだろう。あんなに可愛い子が近くに居たら、男は手も出したくなる。それが嫌になって逃げたんだろう。そして捕まって…奴隷にされたんだろ?傷だらけでな」



 そんな恐ろしい事が行われているのを聞いて、恐怖を覚える。サテラは数多の苦痛を乗り越えて来たのが良く分かる。この目で見て、話して分かった。


「そんな事が…僕より余っ程辛い経験をしたのかな?」


「したんだろうよ。でも今は違うだろ?あんたみたいな優しい人間に拾ってもらって、美味い飯を食わせてもらって、きっと嬢ちゃんも嬉しいと思ってる。ヴォラク…いや凱亜…あの子を大事にしてやれよ」


 その言葉にヴォラクは…


「…はい」


 としか言えなかった。逆にこれ以外何も言わなかったのだ。


「でも。お前の相手をさせるのはもうちょい後にしろよ。あの子もまだ………はキープしてるみたいだし、そこは気を付けろよ」


「ちょ!何言ってんすか?」


 ベルタに少し変な事を言われ、焦るヴォラク。溜め息をついていると、サテラの優しい声がヴォラクの耳に入った。


「主様!出来ました」


 前を見るとそこには…髪をポニーテールの様にしたサテラの姿があった。紫色の髪がとても美しく見える。今サテラに飛び付いて、その髪を撫でたいぐらいだ。


「どうでしょうか?」


「最高、マジ最高サテラ神!」


 親指を立てるヴォラク。それにサテラは大喜びだった。


「ありがとうございます!この髪型を気に入ってくれて」


「これからもその髪をキープしてくれよ」


「はい!」



 サテラは素直に笑みを浮かべ、ヴォラクの近くに寄り、ヴォラクの体に寄りかかる。


「はいサテラ、めっちゃ可愛いよ」


「もっと褒めて」


 ヴォラクはサテラの紫色の髪を撫でる。今までの人生で最高の感触だった。多分だがこの髪の感触は永遠に忘れる事は絶対に出来ないだろう。


「ヴォラク…イチャつくなら俺の店じゃなくて違う所ででやれよ!」


「あ!すみません…なら他の所に…って行くか!…でも今回も色々ありがとうございます。サテラを喜ばせる為にこんな事をしてくれて」


「なぁにまたいつでも頼ってくれ。嬢ちゃんもヴォラクと仲良くな」


「はい、色々とありがとうございます。私にこんなに良い物をプレゼントしてくれて。おじさんありがとう」


「おじさんじゃ無くて『ベルタ』と呼んでくれ」



「じゃあベルタさん、ありがとうございました。またお会いしましょう」


「おぅ!元気でやれよ。ヴォラク」



「あ!ベルタさん。私の名前は「サテラ・ディア」だからね~」



 サテラが自分の名前を言った時ベルタは手をサテラの方へと降っていた。きっと覚えてくれたのだろう。




 2人は店を出て街を歩いて行った。何故かさっきと違ってとても楽しい気分だった。少し暗い雰囲気も、誰かと楽しく話していれば気付かず楽しい気持ちになっている事に。


 日が沈みそうになる。その夕日を見てヴォラクはこう思った。





『あの夕日の先には…一体何があるのだろう?』





 と心の中で思った。




「主様?どうかしましたか?」


「いや…何でもない。行こう」


「はい…」



 2人は夕日と逆の方向へと進む。今はあの向こうを見る時では無いとヴォラクは思った。










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