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126話「原点回帰」

 

 あの日に戻りたくなった、不意ながらも凱亜は少し前の時に遡りたくなった。


 今の様な、互いの国同士の戦いに巻き込まれている頃ではなく、サテラと二人で小さな冒険者として活動を行っていた頃に……。



 何で、そう思ったのかは分からない。単なる気まぐれか、それとも何かしらの原因があったのかは知らないが……。


 とにかく彼は、少しばかり昔の事を思い返す様にして過去の出来事を振り返る様にして、回帰していた。



 ◇◇



 あぁ、懐かしいな。

 まだ仮面を顔に被り、その正体が誰なのか誰も知らない。


 自作した銃だけを片手に握り、サテラと共に日銭を稼ぐ様にして、冒険者として依頼をこなす日々を送っていた時だ。


 あの時は、辛いと言う心境とありふれた小さな幸せがある心境の間、言わば境目に僕は立っていた様な気がする。


「主様?どうかしましたか?」



 共に横に並んで、多くの者達が行き交う街を歩く二人。

 何故、一人称になっていないのかは、今自分が思う一番の疑問点だ。


 何で、誰かの視点になって自分を見つめる様な感じになっているんだ?

 まるで影人、ドッペルゲンガーにでもなってしまった様な気分だ。


 僕は仮面の下で少しばかり暗い表情を浮かべていた。顔は僅かながら俯き、首も下の方に曲がってしまっていた。



 やはり、追放と言う出来事は彼にとっては大きな事件であった。

 この一件で彼が心に負った傷は深く、その傷跡は簡単に消える事はなかった。


 隠してはいたが、悪夢に魘される時もあったし、赤子の様に夜泣きしてしまいそうになった時もある。


 しかし世の中とは非情だ、真偽が不明にも関わらずまるで犯人の様に扱い、軽蔑し迫害する。


 だが、人間なんてその程度だ。それぐらい、凱亜も理解はしていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そんな困窮した時の中で出会ったのが、彼女「サテラ・ディア」だった。

 ある意味、凱亜は彼女のお陰で道を踏み外さずに済んだのかもしれない。


 サテラと出会わずにあのまま、孤独と迫害の波に呑まれてしまっていたら、凱亜はもうただの人間ではいられなくなってしまったかもしれない。

 邪魔する者を殺し、徹底的に己を侮辱する者を殺し続ける、言わば殺人鬼の様な存在になってしまったかもしれない。



 だが、奴隷の少女であったサテラとの出会いが、彼を外道の道から僅かに逸らした。


 彼女の存在、自分が濡れ衣を着せられて苦しむ中であっても、彼女は主である凱亜を、ヴォラクを信じ続けた。


 いつの時も、彼の傍に寄り添い、共に話を聞き、恋人かの如く仲睦まじく接する。

 そんな彼女の存在は、追放と言うあまりに辛い彼の心を広く癒した。


 従者として、仲間として、彼の奴隷として、サテラは主であるヴォラクと共に冒険者となって活動を共に行い、遂には恋人の様な仲にまで発展した。



 そして、その日もまた……。



 ◇◇



 今日の活動を終えた二人は、夕暮れ時になった事を見越して先に宿を取って、部屋の中で寛いでいた。


 無論、別々に部屋と取った……と言う訳ではなく金の節約と言う名目で、二人は相部屋となっていた。



 頬を赤らめながら、サテラはベットに座り込み、隣で同じ様にベットに座って寛いでいるヴォラクの横顔を彼女は見つめる。


 部屋の中と言う事で、プライベートが保証されている為、仮面は付けておらず、その素顔は顕となっていた。


「ふぅ……今日もお疲れ…」



 ヴォラクは優しく囁く様な口調で、サテラに言った。優しい目付きと、甘く囁く様な優しい口調。


 そんな風に言われてしまった事で、サテラの体はビクッと軽く震え、恥ずかしげに顔を凱亜から逸らしていた。

 まるで、付き合いたての恋人同士の様だ……。


 と言うか、もうキスもしてるんだけどね。


「あ、主様も、その…お疲れ様です…」


 思う様に言葉を紡ぎ出す事が出来ず、サテラはどこかたどたどしい感じの口調になってしまう。


 しかし、そのたどたどしい口調とは裏腹にサテラは大胆にも、凱亜の体に自分の体を寄せて、そのまま密着させる。


「……サテラ…」



「今日も、疲れたので……その、一杯…」


 そしてサテラは、凱亜の耳に口を近付ける。

 凱亜の耳は赤くなり、僅かながらに情けない声が口から漏れた。


「愛してください」


「くっ!……可愛い事ばっか言いやがって!」


挿絵(By みてみん)


 そのまま彼は、サテラの身に付けていた服をするすると脱がしていく。

 服を脱がせる時に発する、衣擦れの音はやけに扇情的で彼の下半身には熱が篭っていく。


「…キス、して?」


「ああ、気が済むまでな…」


 最早、淫乱になりかけていた。二人はすぐさま互いに唇を重ね合わせ、互いに体の熱を感じ合う。



「ん、んむっ……」


「んっ、んっ...///」


 無論、ただのキスで終わる訳もなく、二人はそのまま互いに舌を絡み合わせ、唾液を交換する。

 二人以外誰もいない部屋の中に、卑らしく下品な水音が響く。


 そして、キスを一度やめて、互いに口を離した時は互いの唾液が絡み合い、銀色の糸を引いていた。


「優しく………お願いします」


「言われなくとも…」


 一日の終わり、それぞれの欲望を貪る為に二人は今日の日もまた、互いの柔肉を貪っていた……。


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