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123話「可憐さの影に」

 

「悠介?……お前、まさか子持ちだったのか?」


 凱亜は冷や汗を流し、まるで知ってはいけない事を知ってしまったかの様な、強すぎる驚きを受けた様な表情で悠介に問いかけた。

 勿論だが、この言葉に真実性は一切含まれていない。冗談と虚言混じりの言葉でしかない為、本当の事を述べたつもりは一切ない。

 しかし現在、金髪の可愛らしい女の子と僅かな時間ではあるが行動を共にして、若干パニックになりつつある悠介は凱亜の言葉を真実だと受け取ってしまい、悠介らしからぬ荒い口調で凱亜に言葉を投げた。


「ち、違うぞ!俺はまだ、俺はまだ誰も妊娠させてねぇよ!まだ結婚もしてないし恋人もいねぇし!」


 そんな荒い口調と焦る様な表情を見せている悠介とは対照的に、彼を盾にする様にして、後ろからキョトンとした表情で覗く金髪の少女は状況を理解出来ていない様な表情を見せていた。

 単に分かっていないだけかもしれないが、無表情な様にも見えてくる。

 凱亜は、恐らく悠介は焦っているのだろうと直感的に理解したので、兎に角彼を諌める事にした。


「お、おぉーい……悠介、落ち着け。分かってるから、違う事も」


「えっ!?」


「あ、ショーティア!」


「シェッタ……」


 しかし、悠介と凱亜が会話している中でシェッタが二人の会話に割って入ってきた。まるでシェッタの呼び方は彼女の事を知っている様な言い方であった。

 そしてシェッタはすぐさま彼女、また名前をショーティアと呼んだ少女の元へと素早い足取りで近付いていく。


「知り合い?」


「み、みたいだな…」


 そんな会話をする凱亜と悠介を他所に、シェッタはショーティアの傍に駆け付けるとすぐに彼女の両手をギュッと握り締める。久方ぶりの再会を喜ぶかの様な表情で、彼女の顔には笑顔が満ち溢れていた。

 まるで世の中の闇を知らない様な無垢で鮮やかな笑顔であった。凱亜と悠介ならあんな風に笑う事は恐らくもう出来ないだろう。


「ショーティア!元気にしてた?」


「七十年と二十八日ぶりですね、シェッタ。私の健康状態に変化はありません」


((めっちゃ正確に覚えてる!?))


 七十年と二十八日と言う、凱亜なら三日ぐらいで数えるのを止めそうな時間ではあるがショーティアと言う少女はその考えるだけでも頭が痛くなりそうな時間を忘れる事なく数え続けていたのだ。

 あまり想像はしなくないが。


「二人って、知り合いなの?」


 凱亜は思わず二人に尋ねてみる事にした。二人の短い会話を聞いて、恐らくではあるがこの二人が初対面ではない様に思われる。

 凱亜の質問に気が付いたシェッタが、分かっていない彼らに教える為に答える。


「はい!私は天を駆ける(ハイペリオン)残虐たる騎士(エヴァガニア)ショーティアはこの黙示たる棺(ノイズコフィン)の生体ユニットなんです。ほら、ショーティアもちゃんと自分のマスターに挨拶して?」


 シェッタの元気な言葉に促される様にして、ショーティアは悠介の前に立ち、目上の相手でマスターである悠介に対し片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま、両手でスカートの裾を軽く持ち上げて悠介に挨拶を行う。


「初めまして、新しいマスター。TYPE‐D‐FW‐04黙示たる棺(ノイズコフィン)の生体ユニット及び火器管制、機体制御等々を担当しております、ショーティアと申します。何卒宜しくお願いします」


 シェッタ程、生気の籠った挨拶ではなかったが黒色のゴスロリファッションを目立たせながら、ショーティアは新たなマスター?である悠介に対して挨拶を行った。

 あまりに丁重で細かく、美しくも人形の様な表情で挨拶を受けた悠介はその大き過ぎる気品さに思わず苦笑いしながらも彼女の前に立った。

 そして、ショーティアと比べるとかなり背の大きい悠介は、姿勢を少し屈めながら彼女の前に自らの右手を差し出した。


「裂罅悠介だ。まぁ、よろしくな」


「はい、こちらこそ」


 悠介の言葉にショーティアは素直に答え、彼の右手を自らの左手で握った。

 そして凱亜は、兄と妹ムードを醸し出している悠介とショーティアを尻目に言葉を投げた。腕を組みながら、凱亜らしい感情の薄い表情で。


「それじゃ、そろそろ戻るか。こんな暗い所、さっさと帰りたい。後、もう僕眠い」


「そうだな、もう夜だし」


「二人はどうする?」


「アストレアさんに預けとけばいいんじゃない?」


 凱亜はかなり適当な回答を悠介に対して投げた。しかしその選択にも間違いは無い様にも見えてくる。如何せん凱亜と悠介はまだ彼女達に対しても、そして過去の出来事についての知識理解が浅い。

 分からない以上、理解しない限りはどうにもならないので分かる人に押し付けるのが一番手っ取り早い方法だろうと凱亜は感じていた。

 そもそも面倒臭い事を嫌う凱亜と悠介はあまり子守り等の厄介事をしたくない性格である為、尚更であった。

 しかしながら、シェッタとショーティアはシステムの都合上なのかは分からないが二人は新たなマスターである凱亜と悠介から離れようとしない。


「あ、あのぉ……シェッタさん?何で僕の腕に組み付いてるのかな?」


「黒衣を千切らないなら、持ってくれててもいいけど」


 シェッタは嬉しげな表情で凱亜の腕を強く両手で掴んでおり、ショーティアは無表情で悠介の黒衣を細い右手で掴んでいた。まるで絶対に離さない、と言わんばかりに二人にしがみつき離れようとはしなかった。親から離れる事を拒む子供の様にして。


 別に二人共、彼女達を突き放す様な事はせず、純粋に一緒にいたいと言う気持ちを表現している為、苦笑いを見せながらも素直に服を掴んだり、腕にしがみついている彼女達に対して冷たい態度を取る事はなかった。


「まぁ、妹が一人増えた様なものだろ?」


「お前は妹二人いるからな、姉一人しかいない俺には妹と言うのはよく分からないが」


 悠介の言葉に凱亜は僅かに笑みを見せる。悠介の言葉の通り、凱亜には二人の姉と二人の妹がいる。

 全員との仲は非常に良好であり、妹や姉の扱いや接し方も強く承知している。悠介も凱亜とはかなり仲が良い付き合いである為、凱亜の姉妹とも関わりがある。

 そんな中で、悠介は凱亜にそう言葉を投げたのだ。


「取り敢えず、シェッタは僕の自室に連れてく。悠介も自室に入れておいてくれるか?」


「え、それって大丈夫なの?法律的に?」


「大丈夫だろ?こんな世界だし、それに最悪作者がどうにかしてくれる」


「お、おぅ…」


 どうにかしてくれるだろう、凱亜と悠介はどうにかしてくれる事を切に信じた。まだ年端もいかない少女を自らの部屋に入れ込むなんて、傍から見れば例の良い犯罪行為と同意義であったのだ。

 この年で逮捕されるなんて、絶対に嫌なので勘違いで二人揃って犯罪者扱いされるのは真っ平御免であった。

 しかし面倒を見なければならないのもまた一つの手、凱亜と悠介は多少なりとも後ろめたさを感じながらではあるが凱亜はシェッタを悠介はショーティアを自室に連れて行く事にしたのだった。


 ◇◇


 そして凱亜は自分の部屋にシェッタを連れてきた。凱亜は柔らかいベットにシェッタを座らせ、凱亜自身は部屋の中に置いてあった椅子に座り込んだ。

 凱亜は椅子にそのまま座るのではなく、椅子を引き摺りながら、ベットの前に椅子を配置し、逆向きで椅子に座り込んだ。

 彼の視線は真っ直ぐとシェッタの所へと進んでいる。そして、互いに視線が合った所で凱亜はシェッタに対して言葉を投げた。


「久しぶりのベットだろ?」


「はい、フカフカで気持ちいいです!前までは冷たいコックピットの中でしか寝れませんでしたから」


 シェッタは多少なりとも冷ややかな表情を見せながらも、元気な声で答えてくれた。元気な表情と綺麗な少女の声で答えてくれたシェッタに対して凱亜は複雑な心境でいた。

 嬉しい様な締め付けられる様な、過去の負の遺物と出来事は消えていないのだと凱亜は今実感している。


「そうか……なら良かった……。お前とショーティアは仲良しなんだな」


「私と同じ孤児院出身ですから、一緒に居て一緒に改造された境遇ですから…」


「ん、改造?どう言う事だ?」


 改造された、その言葉がヴォラクの耳に引っかかった。確かに彼女達の存在は言ってしまえば生体ユニットの様な存在だ。

 この時点で最早、人権無視も良い所ではあるのだがその中で「改造」と言う言葉にヴォラクは何故かは分からないが、不自然にも微かな怒りと強い衝撃を覚えていた。

 ヴォラクは突如として、表情が冷ややか且つも飄々とした表情から双眸に薄くではあるが殺気を宿らせる。シェッタにバレない様にして、一応長い前髪を使って両目を隠している為、見つめ合って殺気を感じ取られる事はなかった。


「改造?どう言う事だ?」


「マスターにはまだ話していませんでしたね。少し、長くなりますが聞いてくれますか?」


「構わないよ」


 そう言うと、シェッタはベットに座りながら、足を上下に動かしながら経緯を話し始めた。その表情は先程の様な元気なモノとは言えなかった、どちらかと言うと過去を思い出して悲しんでいるかの様であった。


「元々、私達はこことは別の場所にあった孤児院の出身でした。勿論、フライハイトとは敵対関係にある場所でしたが……」


 マスターであるヴォラクに話していく内にシェッタの脳内に過去の記憶がフラッシュバックする。

 その記憶はどれもが争いに関連するものであり、そのどれもが目を背けたくなる様な現実ばかりであった。


「ある日、フライハイトは私達の孤児院があった傘下国を奪取しました。それは当然、私達は敵国の捕虜に堕ちた事を意味するんですけど」


「まさか、フライハイトにも闇があったのか?」


 ヴォラクの質問にシェッタは首を横に振った。その闇がある、と言う言葉は間違っている様であった。


「いいえ、違う。寧ろフライハイトの人達は私達五人を温かく迎え入れてくれました。ですが……」


 その言葉を境に、シェッタの表情はより暗くなってしまう。ヴォラクは暗い表情を見せるシェッタを見つめ、自分も彼女と同じ様に無表情から更に暗い表情へと切り替わりそうになっていた。

 生体ユニットと言う言葉が出てきていて、多少なりとも嫌な予感はしていたがその予感は背けたい事にも的中してしまう事となった。


「フライハイトは常に困窮していました、戦力も備蓄も全てにおいて敗北に期そうとしていました。しかし、ある時フライハイトに一人の客人が来たんですよ」


 彼女に言葉にヴォラクは一瞬身を震わせて、反応を見せた。アストレアから聞いた話の中にもその「客人」の名前はあった。

 ヴォラクははっきりと記憶していた。アストレアから聞いた過去の話の中には客人と名乗る謎の存在がフライハイトの面々に接触していた事を、そして己の力を持って有り余る程の技術と技術者を提供して戦火を異常な程に拡大させた事も、彼はアストレアの話を聞いてその全貌のほんの一部を理解していたのであった。


「その客人、聞いた事あるぞ…」


「客人と名乗る人は兵器を作る上で………私達に人体改造を施したんです」


 そこからヴォラクは彼女の話を止めたい気持ちでいっぱいになった。

 自らの好奇心を満たす為に、眉をひそめながらも必死になってすんでの所で泣いてしまう事を耐え続けているシェッタから話を聞くのか。

 それとも、彼女の気持ちを思いやって素直にここで話を切るべきか。


「敵国の人間だから、って理由で勝手に体を弄り回されて、痛くて……嫌で……それでも、……戦い……」


「もういい!もういい!嫌な記憶が蘇るなら無理に話さなくていい!」


 遂に我慢出来なくなってしまったのか、シェッタは過去の痛みが蘇ってしまい、泣き出してしまった。泣いてしまった事でまともに喋る事も出来ず泣き崩れる様にして、シェッタは涙が溢れる両目を手で軽く擦る。


 親切心をロクに持っていないヴォラクも流石に見ていられなくなってしまい、シェッタの座るベットの前に置かれた椅子に座るのではなく、すぐさま椅子を蹴っ飛ばす様にしながら押し退けると同時に彼女が座るベットの元に駆け付ける。

 そして、シェッタの隣にヴォラクは何も考えずに座り込んだ。ここで慰めなければ、彼女の心は闇に蝕まれてしまうだろうと感じた。


「もういいんだ、君はもう……戦う必要なんてない…」


「本当は……こ、怖くて…」


 彼女は依然と泣いてしまっており、シェッタの視界は流れる涙によって濁っていた。美しい表情は過去の遺物と傷によって穢されてしまっていて、ヴォラクは彼女に儚くも消える様な存在に無性にも怒りを覚えそうになった。

 まだ年端もいかない少女に古傷を負わせた挙句、半場強制的に改造を施した様な奴に対してヴォラクは怒りを燃やしていた。

 可憐さに満ちたその影に蔓延るのは、背けたくなる様な現実だった。過去に受けた傷はやはりどれだけ治療をしても、決して治らないと言う事なのだろうか。


「君はもう一人では無い。もう戦う必要はないんだ…」


 ヴォラクはシェッタを安心させる為に、彼女と肉体を密着させる程に近付くと同時に彼女のサラサラとした銀灰色の髪が靡く頭を軽く数回撫でたのだった。


「マスター少しの間、撫でてくれますか?」


「構わない……ロリコン呼ばわりしないのならな…」


 いつの時でも、保身を忘れる事は絶対にない。それが凱亜らしい生き方であった。


「そんな呼ばわりしませんよ、マスター…」


「ありがとな……」


 シェッタはヴォラクに身を寄せて、そのまままるで恋人の様にして寄り添い続けていた。

 彼女の体は火照る様にして熱くなり、ヴォラクも可愛らしい仕草を見せるシェッタにドキッとしてしまうのであった。


 ◇◇


「……俺何処で寝ればいいんだ?」


「んんぅ………ま、すマスター……」


 そんなヴォラク達とは対照的に悠介は強く戸惑ってしまっていた。

 何故なら、部屋に来るなりショーティアはすぐに悠介のベットに潜り込むと同時にまるで機能が停止してしまった機械の様にして、眠りについてしまったのだった。

 ベットに潜り込んでほんの数秒で眠ってしまったので、悠介は起こすに彼女を起こす事は出来なかった。

 目を閉じて、無感情に等しく、感情と言う概念すら捨てている様な表情を見せる見せる事もなくショーティアは、まるで命が尽きる様にして目を閉じてしまい起きる事はなかった。


「全く、床で寝ろって事かよ…」


 対抗策が何も思い付かなかった悠介は予備の布団を拝借すると、床に寝そべって身に布団を包ませたのであった。


 ◇◇


【フライハイト大百科Part3】


「やぁ、皆。何本か骨折れてもうたけど、今日も元気にフライハイト大百科始めるで」


 前のフライハイト大百科にて、エルキュアに数本骨を砕かれた結果、全身包帯でぐるぐる巻きにされた蒼一郎ではあったが命に別状はなかった為本日も始まるフライハイト大百科。

 スタジオも荒らされかけたが、アロンアルファとガムテープと接着剤とセロハンテープで直したから大丈夫、多分。


「今日は一番隊副隊長「ランスレッド・シュプリンガー」君について解説していくで」


 本日ご紹介は一番隊の副隊長を任されているイケメン、ランスレッドの紹介だ。


「彼は剣じゃなくて、二つの鞭を駆使して戦うファイターや。結構珍しいんちゃうかなぁ…」


「他にも、電撃を用いて戦うっちゅー所謂雷系の技を得意としてるんや、雷系の技使う人ってカッコよく見えると思うん、ボクだけなのかなぁ…」


 恐らくだが、彼だけではない様にも思える。世の中はとても広いものだ。探してみれば色々な人が蔓延っているのが現状だ。


「まぁ、イケメンキャラって訳やし、糸目キャラのボクの地位が揺らぐ事はないやろ。あ、面白い情報なんやけど、ランスレッド君ってエルキュアさんの事が……」


 続きを言おうとしたのだが…。


「アララララララァァァ!!」


 電撃で打ちのめされました、誰の仕業かはお察しの通りです。



「ZZS‐03:シェッタ」

「人間らしさ」「優しき心」「元気な心」がインプットされた上で改造が施された生体ユニット。

パイロットの命を守る、それが戦う運命へと流れた彼女の最後の願いでもあった。

天真爛漫な性格、常に明るく振舞っている優しい少女。

挿絵(By みてみん)

・身長:151cm

・体重:42kg(内部回路も含めて)

・血液型:?

・大切なもの:マスターの命

・嫌いなもの:?



「ZZS‐05:ショーティア」

職務と命令に忠実であり、常に冷静沈着に指示を実行する生体ユニット。

戦闘用として最適化されて改造を施された為、感情と言う概念をあまり持っておらず、その表情は鉄の様に冷たい。

しかしその冷たき表情はまるで争いを決して途絶えさせない人々を哀れに見つめている様にも取れる…?

マスターには忠実に従う性格。

挿絵(By みてみん)

・身長:150cm

・体重:41kg(内部回路も含めて)

・血液型:?

・大切なもの:?

・嫌いなもの:赤い液体


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