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121話「ラッキースケベ(ミニ話)」

 

「お……オイオイ、マジでヤるのか?」


「ヤるに決まってるでしょ?私から言い出した事なんだから」


「どっちも頑張れぇ~!」


 悠介は仕方ない、と一言呟くと身に纏う黒衣の中をまさぐり、腰のベルトに取り付けていたナイフシースに収納していた愛用しているタクティカルナイフを取り出し、柄の部分を握り締めると同時に逆手持ちでナイフを構えた。

 逆手持ちを使った戦闘は悠介の安定した戦闘スタイルだ。普通にナイフを持つのではなく、逆手持ちでナイフを構える。大体は普通に刃を用いて正面から斬り付けるのではなく、背後に回って逆手を用いた刺突や暗闇の中で背後を取り、首元の素早い切断等が悠介の主な戦闘方法だ。


「ルール確認しとくぞ?魔法の使用は禁止、純粋に近接戦のみでの戦闘……」


「そして負けた方が今日のおやつ奢り…」


 との事らしい。負けた方は今日のおやつを勝った方に奢らなければならない。悠介としては負けても勝ってもどちらでも良かった。

 金銭面では別に困っていると言う訳でもなかった為、一回ぐらいおやつを奢っても問題はなかった。それに相手は仮に模擬戦だったとしても、その相手は仲間であるグレンである為、あまり勝気な姿勢で勝負に望む事は悠介としては出来なかったのだ。


 グレンはいつもとは少し異なり、何処か勝気な表情を浮かべており、いつもの背景に同化する空気な雰囲気は一変して消え去ってしまっている。向こうは勝つ気でいるのだろう、悠介は一目で理解出来た。

 一方で悠介はいつも通りの薄い表情だ。相手に感情や内なる気持ちを読まれない為にも、日常的から表情は変えない様にしている為、悠介の表情が崩れてしまう事は今の所はなかった。


「勝利条件は明らかに殺せる状況まで持って行った方の勝ちって事でいいよな?」


「そうね、それで構わないわ」


 その言葉を悠介に投げると同時に、グレンも太腿に取り付けていたナイフシースから愛用している武器であるカランビットナイフを取り出し、逆手持ちの悠介とは異なり、順手持ちでナイフを構え、腰の姿勢を低くしている悠介とは異なり、グレンは背筋を伸ばし明らかな敵意を見せる双眸で悠介を見つめた。

 今は異なるとは言っても、元は召喚された国に所属していた一兵。戦士としての面構えとその風貌は非常に様になっていると思えた。


「それじゃ、始めるよぉ!」


 今回の立会人はリアンが担当していた。と言うよりも、彼女が今日の朝に立会人として立候補したいと悠介達に言ってきたので、悠介とグレンはそれを許可し、この場に立会人として招かせたのだ。


「尋常に……」


「勝負!」


 始まりの宣言が切られると同時に悠介はグレンの傍に逆手持ちのナイフを構えたまま、凄まじい速度で突っ込んだ。

 暗殺者としての成長を開花させている悠介はグレンが先に攻撃してくる事を踏まえて、先手を打たせる前に攻撃を仕掛けたのだ。

 成る可く悠介は穏便にこの勝負を済ませたかった。言ってしまえばお終いだが、模擬戦でも身内同士で戦うのには気が引ける。なのでさっさと終わらせてのんびりしたかった。


「悪い、終わらせる」


 多少なりとも悠介にも勝気は存在していた。しかしグレンだってそれは同じくであった。彼女もまた悠介に負けないぐらいに勝つ気でこの模擬戦に挑んでいたのだ。


「え、速い!?」


 あまり時間を割くのも面倒だと感じてしまっていた悠介は一撃で終わらせる為に、逆手で握り締めたナイフを振りかざし、首筋へと高速で刃を迫らせる。

 勿論、首筋ギリギリで止めるつもりだった。模擬戦である為本当に斬り付けたり、刺し穿つのは間違いにも程がある。


「グレン……すまん」


「その程度じゃ……止められないよ!」


 しかし相手は精錬された兵士と言っても過言では無い女性だ。紙一重で悠介のナイフによる攻撃を横方向に素早く体を動かす事で、簡単に攻撃を回避してしまったのだ。

 悠介は本気とまではいかないが、かなりのスピードで接近し、超速にも達してしまいそうなスピードでナイフを振りかざした。だが、相手はその攻撃は華麗に回避した。グレンも先制して攻撃を行ってきた悠介に対抗する為に攻勢に出る。


「頭蓋骨折れても、悪く思わないでね」


 悠介のナイフによる刺突攻撃を華麗に回避したグレンはまだ体制を立て直す事が出来ていない悠介に対して、足を大きく上げ、股を開いた。

 彼女は自分のスラリと伸びた足が届く距離に悠介の頭部がある事にこの刹那の間で気が付いていた。グレンはその隙を見逃さない。頭蓋骨を叩き割る勢いでグレンは足を上げ、悠介を蹴り上げようとする。


「もらったぁ!」


「しゃがめば避けられる……」


 だが悠介も伊達に暗殺者を名乗っていない訳では無い。暗殺者として研ぎ澄まされていた彼の体は反射的に行動を開始する。

 避けられたにも関わらず、悠介は瞬時に肉体を無理矢理動かして、回避体制を取りその場にしゃがみ込んだ。

 想像を上回る速度、悠介でも少しだけ驚く程であった。しかしスピードの話よりも驚く事があった。


「反撃を…………はぁ!?」


「えっ?………えぇ!?」


 悠介はしゃがんでしまった事で視界に飛び込んではいけない物が飛び込んできてしまっていた。まずグレンは足を大きく上げ、股を開いてハイキックを行った。

 だがグレンはかなり素足や太腿が見えてしまう、言わばミニスカートを履いている。少しでもしゃがんだり、足を上げれば下着が見えてしまう程に短い長さのスカートだ。

 そして悠介は今、足を上げるグレンの前で姿勢を低くしながらしゃがんでいる。

 これが意味する事、即ち。


「あ、あ……あぁぁぁ!!……紐パンだと……しかも、黒!?」


「え、え、えぇ……えぇ!!!?」


 次の瞬間、頬を真っ赤にして、物凄く恥ずかしそうな表情を見せるグレンを他所に悠介は本意ではないものの、彼女の下着をこの目でその双眸でバッチリと捉えてしまったのだった。

 しかも履いていたのは紐パンと言う。


「あ、ありゃゃ…」


「くぁwせdrftgyふじこlp……」


 そう叫んで悠介は床にゆっくりと倒れ込んだ。まるで死人の様な面を見せながら、そしてミイラの様な腕の組み方をしながら床に落ちていった。

 それに対してグレンは恥ずかしい表情を隠そうと口を閉じ、少し震えながらその場に立ち尽くしている。しかし隠せているのかと聞かれれば、一切隠しきれておらず、頬を真っ赤に染めながら股間をキュッと両手で抑えている。表情も今にも恥ずかしくて崩れそうであり、泣き出しそうであった。


「み、見たの?……私のパンツ?」


「すまん、俺………逃げる!」


 悠介は立ち上がると同時にグレンに対して背を向けると全速力で走り出した。表情は長い前髪で完全に隠されおり、伺う事は出来なかったが間違いなく悠介もグレンと同じ様な表情を浮かべていると言う事は確かであった様な気がした。


 現実逃避をしたいかの様に、一切後ろを振り返る事なく何処かへと悠介はリアとグレンを置いてけぼりにして走り去ってしまったのだった。

 完全に逃げの姿勢であった。思わずグレンは彼の背中を手を伸ばしたが、勿論その手が彼の背中に届く訳もなく、彼はこの場からそそくさと姿を消してしまったのだった。


「あ……悠介君!」


「ど、どうする?……これ?」


 リアがそう呟くも、グレンはまだ恥ずかしげな表情を浮かべており、頬はまだ赤色に染まっていた。そのまま暫くの間、グレンはその場に立ち尽くしていたが、流石に止まり続ける事に疑問を覚えたのか、グレンはその場から動き出した。


「リア、ごめん!」


「ぐ、グレン!?何処に?」


「汗かいたから、シャワー浴びてくる!」


 そう照れてしまっている様な表情をリアに見せない様にしながら、グレンは早歩きでその場からかなりのスピードで立ち去ってしまったのだった。リアは思わず引き留めようとしたのだが、彼女が引き留める前にグレンはその場から姿を消してしまっていたのだった。

 結果、その場に残されたのは悠介、グレン、リアの三人ではなく、彼女一人だけになってしまったのだった。


 ◇◇


 こうして、二人揃って逃げる様な形でその場から立ち去った。グレンは多少ではあるが汗を流していた。

 主に汗をかいてしまったのは模擬戦の方ではなく、下着を見られてしまった方で焦ってしまったせいなのだが。

 汗と疲れを流す為にも、グレンは素早い足取りで城内部に設置されているシャワールームへとやっていた。すぐに脱衣所で上半身に着ていた白色のワイシャツや履いていたミニスカート、下着を脱ぐと同時に大きめのタオルを手に握り締めた。


(よりにもよって、パンツ見られちゃうなんて……しかも悠介君に見られて、余計に…♡)


 あまり悪い事は考えたくは無い、思い出す事もあまりしたくはない。しかし現実に直面してしまった以上、思い出してしまう事もあるだろうし、考えてしまう事もあるだろう。

 グレンはその瀬戸際で少し悩んでしまっていた。そして全てを服を脱ぎ終えて、身に何も身に付けていない状態になると、グレンは少しの間ではあるが、壁に設置されていた鏡に映る自分を見つめた。

 そこには裸体の自分自身の姿が映っている。


(やっぱり、悠介君も胸が大きい女の人の方が好きなのかな…?リアの大きさには敵わないしなぁ…Eでもそこそこだと思うんだけど…)


 思わず、グレンは自分の胸に対する愚痴を零してしまう。決して小さい訳ではない。確かに小さくない事は紛れもない事実だ。

 しかし、その事実すら破壊してしまう程に周りには自分よりも圧倒的に大きい人が多数存在している。大きすぎる人が多すぎるあまり、最初見た時は顎が外れてしまうそうになる程驚いた。

 例を上げるとするなら、お姉さんキャラを確立しており和風キャラでHと言う圧倒的力を持つ血雷、天然で天真爛漫金髪巨乳と言う安定感のあるリアン等々例を上げたらキリが無い程だ。

 悠介も男である。グレンは彼もまた胸が大きい女性の事が好きなのかもしれない、と多少の危機感に浸っていた。

 揉めば大きくなるとも聞いたが、それは好きな人にやってもらわないと効果が無いとも聞いた事がある。


(取り敢えず、シャワー浴びよ…)


 恥ずかしげな表情から、何処か悲壮感の漂う表情になってしまったグレンではあったが今気にしていても意味がないと悟りつつあったのでグレンはシャワールームの扉を開けて、シャワーを浴びる為に入ったのだが……。


 シャワールームの中は大量の湯気で満ちている。視界が多少曇る事もあった。しかしここで疑問が一つ、グレンの脳内には浮かんでしまった。湯気が発生していると言う事は、誰かがシャワーを使っていると言う事。

 グレンは最初誰が使っているのかなんて気にとめなかった。確かに男子女子どちらかしか使えない、何て制約や規則は定められいない。しかしこんな昼間っぱらからシャワーを浴びている人なんてどうせ自分と同じ様な人だろう、そうグレンは思い込んでいた。


(エルキュアさんかクレアさんでも入ってるのかな?)


「し、失礼しまーす」


 誰か先人者がいるかもしれないと思いながら、軽く挨拶をグレンは行いながら中へと入った。そして湯気の先に薄くではあるが、人影を彼女は捉えた。誰だろうと思い、裸体を晒したまま前へと進んでいく。


「ふぅ……良い湯だった………ん?」


「え、え………えぇぇぇ!!?」


 見間違いである事を切に信じたかった。と言うか信じなかったら、精神的に参る事になってしまうと感じていた。目の前に立つのはまずもって女性ではなかった。

 まさかの目の前に立つのは、先程まで模擬戦を行い、突如として終わりを告げると同時に全速力で逃げる様にしてあの場を去って逃げ出した筈の悠介であったのだ。


「ゆゆゆ、悠介ぇ!?」


「うぁぁ!?グレン、何で!?」


 予想外も良い所であった。誰が入っているのかと思えば、まさかのその正体は先程まで模擬戦を行っていた悠介であったのだ。グレンは思わず、胸と秘部を両手を使って隠そうとする。

 グレンはタオルを手に持っていたのだが、急過ぎた展開に頭の思考能力が全く追い付かず、タオルで体を隠すと言う選択肢を見つけられずに、反射的に手だけを使って覆ってしまったのだった。


「さ、叫ぶなよ!?叫ぶなよ!?」


 悠介は大きく焦っていた。ここで一度でも彼女に叫ばれてしまえば、自分は間違いなく加害者として仕立て上げられる羽目になってしまう。そうなってしまったら間違いなく終わりだ。

 今まで積み上げてきた地位も、第二の主人公と呼べる様なポジションもそして好感度も。全てが崩壊するかの如く崩れ去る事になる。それだけはどうしても避けたい事だった。


「ゆ、ゆ悠介君?ど、どうして!?」


「シャワー浴びてただけだ!勘違いするなよ!?」


 悠介は両手を上げて降参のポーズを取る。絶対に問題を起こしたくないが故に悠介は今必死であった。表情もいつも以上に血の気が引いており、体全体は強く震えを見せている。


「悠介君、ごめん。取り乱して……」


「す、すまん。入るって言っておけば良かった…」


 二人は決して目を合わせずに会話を行う。もし目を合わせてしまったら間違いなくその目線の行く先が、二人には分かってしまっていた。

 首を動かし、互いに恥ずかしげな表情を見せながらも決して目を合わせずに上の空の様な状態で会話を続ける。


「そ、その……使用中の札使っとけば良かった…」


「ご、ごめん。勝手に入っちゃって…」


 その言葉を受け取ると同時に、悠介は成る可くグレンの方を見ない様にしながらその場を立ち去ろうとする。

 彼女の横を通り抜けて、歩きながらも素早い速度でその場を去ろうとする。しかし、立ち去ろうとする悠介の腕をグレンは何故か掴んでしまったのだった。

 真偽は不明だった。焦りと恥ずかしさで思考回路は混乱を極めていた為、グレンは何故彼の腕を咄嗟に掴んでしまったのか分からなかった。

 悠介も、グレンの意外過ぎる行動に思わず疑問の表情を見せてしまう。


「なっ!?グレン、何を?」


「悠介…一緒に…入ら…な、い?」


(な、何言ってんの私!?)


 グレンは悠介の腕を強く両手で抱き締める様にして掴んだ。彼の右腕はグレンに強く掴まれ、彼女の胸元に腕が押し付けられている。

 まるで今のグレンは雄を誘う雌の様にして、頬を赤らめ、自らの欲に身を任せていた。


「はぁ?グレン、お前急にどう……?」


「だ、ダメかな♡」


「うがぁ!?」


 その時の彼女が見せた悠介を甘く誘う様な上目遣いと頬を赤らめた美しい表情は健全な男児である悠介を簡単に悩殺出来る程の性能を持っていた。その美しい上目遣いを悠介が見つめた結果、彼の理性も徐々に崩壊を始めようとしていた。


(グレン……可愛すぎる!)


「お、俺で良いなら…♡」


「なら、体…洗ってくれるかな♡」


 一度悠介は息を飲む。目の前に立つ女性は美しくて見ていられない程であった。

 雪の様に白いショートカット風の髪に整えられた美しい顔、程良い肉付きに細い腹周り、スラリと伸びた足に細めの腕、そして今彼女は何も身に付けていない産まれた時と同じ姿をしている。

 悠介はグレンの色気のある姿をその双眸で捉えてしまった事により、男として当然の反応を示してしまう。

 彼の下半身は血が滾り熱が籠っていく。グレンも目を下の方向へと滑らせ、彼の下半身に目を向けてしまう。


「やっぱり、男の子なんだね♡」


「わ、悪ぃかよ!?グレンが綺麗だったから…」


 そう悠介は、何処か情けなく素っ気ない声で視線を逸らしながら言う。悠介も彼女と同様に恥ずかしさを隠しながら頬を赤らめていたが、何故かグレンは悠介とは対極的に恥ずかしさが消えつつあった。


「悠介君……体洗うよりも、シたい事あるんじゃない?」


 その言葉に悠介は欲望に流されそうになった。悠介は今求めたいモノが何なのか理解した様な気がした。

 彼女との性交であるだろう。男である以上、女を抱くと言う事は悲願の様な存在だった。

 まだ初体験を済ませていない悠介としては、その初めてはグレンではなく現在もそう言った関係になりつつあるリアンに捧げたいと思っていた。

 が、彼は今瀬戸際に立ち尽くしていた。今受け入れるか、それとも受け入れないかのどちらかであった。悠介は思わず手が震える。


 しかし、悠介の考えを打ち消す様にしてグレンは彼に追い打ちをかけた。グレンは悠介の耳元に口を近付け、囁く様にして呟く。


「言ってごらん?」


「……」


 悠介はまだ考えているつもりであった。と言うか考えていたかった。いたかった筈だった。

 冷静であるべきであった。だが、その時の悠介は流されてしまったが故に精巧な判断は出来ずにいた。結果、悠介は先程まで掴まれているだけだったグレンの肉体を逆に掴んだのだ。


「俺と……セックス、してくれ…♡」


「私も初めてだから、優しく…ね♡」


 それが間違いであるかは彼には分からなかったらしい。

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