120話「誰とも知らずに」
「……と言う事があったんですよ!」
「へぇ~そんな事があったのね!」
「随分とカッコイイ奴だな、そいつ」
サテラの話を聞いてアストレアとヴォラクは驚きと疑問の混ざる声で叫んだ。複数人座れる大きいソファにアストレアとヴォラク、そして偶然話を聞き付けたグレンと悠介は腰をかけ、前の椅子に座るサテラの話を熱心な眼差しで聞いていた。
サテラが話した事は紛うことなく、あの暗闇の中の世界で起こった出来事だった。
複数の敵に追い詰められそうになった見ず知らずの自分を、その身一つで戦い、体を張ってまで爆発から助けてくれた名も名乗らなかった謎の兵士の話をしていたのだった。
「不思議な話ね……」
グレンはあまり興味を持たない様な表情を浮かべて、サテラに対して一言投げ捨てる様にして言ったが、悠介はグレンとは対照的に何処か明るげで興味を持つ様な口調で、サテラに話しかけるのではなく顎に手を当ててニヤニヤとした形でヴォラクに問いた。
「顔をバイザーとマスクで隠している、それに黒服に近未来風デザインのライフルか……おい、凱亜。もしかしてお前のファンなんじゃねぇのか?」
その言葉にヴォラクは全くと言って良いぐらい無関心な口調と若干怒りが混ざる様な表情で悠介に言葉を投げた。
腕と足を組み、ふんぞり返る様な形での回答であった為、悠介は僅かに身構えてしまう。
「偽物だろうがコスプレイヤーだろうが、僕にファンなんている訳ないだろ?」
「おぉ、冗談だって。悪ぃ悪ぃ」
「て言うか、最初はヴゥセントさんだったのに、何で変わってんだ?」
メタな発言はやめてくれ。返答に困る。
「ヴゥセントさんなら、もう部屋戻ったぞ?クレアさんと何かシテるっぽい」
「分かった、もうツッコまない。で、悠介とグレンさんは誰か待っているのか?」
悠介とグレンは最初からこの場にいたのではなく、途中からこの部屋で待機していた人だ。ここは外の扉とも繋がっている作りとなっている為、外部からの侵入も可能となっている部屋だ。談話出来る部屋でもあり、外と中を繋ぐ部屋でもある。
途中から突然二人揃って現れて、ソファに座っては誰かを待つかの様にして待機している。別に理由を尋ねる様な事はしなかったが、それなりの時間待機していたので、そろそろ理由を聞いても良いかもしれないと思いヴォラクは理由を聞いてみる事にした。
「あぁ、蒼一兄ぃと有栖さんを待ってるんだよ」
「あの二人、今エルキュアさんとランスロットさんと血雷さんの五人で飲みに行ってるみたいなの」
「エルキュアとランスレッドったら、また誰か誘って飲みに…」
アストレアは悠介とグレンの言葉を聞いて、若干困っている様でちょっと引いている様な表情を浮かべてしまっている。
どうやら、アストレアはエルキュアとランスレッドの悪い何かを知っているかの様な様子を見せていた。若干ではあるのだが嫌な予感がする。まだ真実こそ分からないものの、嫌な予感が拭い切れず、ヴォラクは何処か怯えている様な表情見せ、額から冷や汗が僅かに零れた。
「嫌な予感がするんだが…」
「ランスレッドはまだしも、エルキュアは飲み過ぎるとベロベロに酔っちゃって暴走するのよ……この前なんて酔った勢いでランスレッドの事を危うく襲っちゃいそうになったのよ……」
エルキュアの酒癖の悪さと酔った勢いで行ってしまった行動について、アストレアは少し悩みげのある表情をしながら淡々と語る。
しかしグレンも負けじとと言わんばかりに、彼女もエルキュアとランスレッドと共に今飲みに行っている有栖についても語り始める。
「有栖さんだって大概よ。あの人なんて酔ったら悠介君と蒼一郎さんでも止められないんだから」
「男二人掛りでも抑えられないって大変ね……」
「と言うか姉さんまで行ってるのか!?」
ヴォラクは思わず声を荒らげた。彼の表情は突然として青ざめると同時に得体の知れない恐怖の様な感覚に駆られる。
まさかとは思ってはいたのだが、姉である血雷まで飲みに行っていたとは思わなかった。完全に想定の範囲外としか言い様がなく、ヴォラクは突如としていつ帰ってきても良い様に身構える。
血雷が酒に酔うとどうなるかはその身を持って重々承知であった。彼女は一度酔ってしまうと、非常に大変な事になってしまう。襲われかけるは暴れかけるは子供っぽくなるわで抑え込むのが非常に難しくなってしまう。
頼むから、頼むからあまり酔っていないで欲しい。ヴォラクはそう切に願っていたのだがそんな哀れ過ぎる願いは一瞬で岩が砕かれるかの様にして破壊される事となった。
「ヴォラクゥ!帰ったどぉー!」
ヴォラクの座っていたソファの近くに設置されていた扉がかなり荒い形で誰かの手によって開けられた。ガシャン、と大きく音を立てて開いた扉は壊れる事はなかったものの、それなりにダメージを受けていそうな感じを醸し出していた。
聞こえてきたのは、間違いなく酔った血雷の声であった。ヴォラクは恐る恐るではあるが、目を逸らしていた扉の方向へと目を向ける。
「お、おかえり……」
「っか~…また飲んだくれちまったぜぇ~」
扉の前に立つのは少し乱れた束ねられた赤い髪を掻きむしりながら、着崩した改造された和服を身に纏い、腰に鞘に納められた長刀を携える長身の女性が顔を赤くしながら立っていた。
「今回は……一体どのくらい飲んだの?」
「……んっ~?えぇっとぉ、たくさん飲んだぜ!」
―――ダメだこりゃ…
ヴォラクは心の中でそう呟いた。目の前に立つのは自らの憧れであり、理想であり独占するべき物である姉である血雷の美しさと言うよりかは酔い潰れた情けない様な女が立っているかの様にしか見えなかった。
しかし多少なりとも情けなく見えても、自分が大切に想う姉である事に何ら違いは存在しない為、ヴォラクはすぐにその場から立ち上がると同時に姉である血雷の元へと駆け寄った。
「オイオイ、大丈夫?」
「ふぁ~飲み過ぎて疲れたぁ~もぅ、寝たい」
「今部屋送るから、一緒に行こう?」
言ってしまえば、姉が酔い潰れてしまう事には慣れていた。今までも何度か自分の前で酔い潰れてしまっていた事はあったので、ヴォラクからすれば慣れてしまっている事であったのだ。
「ふぅん、分かったぁ~♡」
ヴォラクは手馴れた手つきで彼女に肩を貸すと、アストレア達に部屋に送ると言って、その場から彼女に肩を貸しながら立ち去ってしまった。彼女の足取りは千鳥足であり、ふらつきがあったのだがヴォラクの肩を借りた事によって多少は軽減されていた。
「ゲッ!?有栖さん!?」
「グレンっ~♡あんた、よく見たら可愛い顔と良い乳してんじゃぁ~ん♡俺の嫁になれぇ♡」
「有栖さん、この前よりも何か……蒼一兄ぃ、何とか!」
最初からグレンを嫁にするとか言い始めた有栖。ヴォラクと血雷がその場から去ったと同時に、有栖は酔った勢いで悠介の隣に座っていたグレンに絡み始めた。
有栖はグレンの傍に近付くと、彼女の隣に飛び込む様にして座ると同時に彼女の柔らかい頬をプニプニと指で突き、セクハラをするかの様にして、自らの手でリアン程では無いが、形が整っており美と言う言葉が似合う様な大きさで揉み心地の良さげなグレンの胸を容赦なく揉みしだいたのだった。
「キャァ♡ちょ、ちょっとあ、有栖さん、やめてくださいよ!?」
突然、年上の女性である有栖に自分の胸を容赦なく揉まれた事で、グレンは頬を赤らめた。普通の反応であろう、突然誰かに胸を触られてしまったら異性同性問わずに頬を赤くしてしまうのは最早、必然と言っても良い事だ。
「めっちゃ、良い乳じゃねぇか!これは将来安泰だな、ハハハ!」
「ち、ちょっとぉ♡悠介君…助け…」
「俺は何も見てない、俺は何も見てない、俺は何も見てない、俺は何も見てない……」
グレンは咄嗟に悠介の名を叫び、男である彼に助けを求めたのだが悠介は慣れない光景を目の当たりにしてしまったのか、彼は目元を手で覆い隠してしまい絶対にグレンの方向を見ようとはしなかった。
グレンが呼び掛けても、彼は只管に「俺は何も見てない」と延々と繰り返すだけであり、他の回答を見せる気は一切なかった。
結局、助けを求められそうな人は誰もいなくなった。ヴォラクは既に血雷を連れて消えてしまっているし、蒼一郎達は酔ってしまっているので、期待は一切出来ない。
アストレアもエルキュアとランスレッドの相手をしているみたいなので、これは詰んだとグレンは感じた。
「お巫山戯は大概にせぃ!」
「痛ぇ!」
ポカッと効果音が鳴りそうな形で、有栖の後ろに立っていた蒼一郎は彼女の頭を自らの手刀で軽く小突いたのであった。
てっきりグレンは蒼一郎も有栖同様にいつもの飄々としており、掴み所の分からない性格を簡単に崩して酔い潰れているのかと思っていた。しかし完全に酔いが回っている有栖とは異なり、蒼一郎はまだ完全に酔いが回っていると言う訳ではなさそうであった。しかし顔は若干赤く、口調もいつもと何か違う様なモノを感じさせる形となっていたが…。
「イカンで!急に女の子の胸揉むのは!」
「痛ってぇなぁ~少しぐらい揉んでも良いじゃねぇかよぉ!グレンの胸は揉んで減るモンじゃねぇだぉ!?」
「減りますよ、精神的に…もぅ……む、胸なんて揉まれた事無いのに……揉まれるなら、男の人の方が……」
「ん?グレン何か言った?」
「何でも無い!私もう寝る!」
「あぁ、おやすみ」
後半の言葉は何と言っているか分からなかったが、頬を真っ赤にしたグレンは逃げる様にしてその場から立ち去ってしまった。誰も彼女の背中を追う事はせず、悠介や蒼一郎や有栖は素直に彼女の背中を見送った。
「悠介君、明日は実戦勝負よ!負けた方がおやつ奢りね!」
「拒否権は無さそうだから承諾しておくよ」
その場を素早い足取りで去り行くグレンの言葉に悠介は素直にイエスの言葉を投げた。拒否を示した所で無視されるか拒否されるかのどちらかだろうと容易に悠介は想像出来た。
「ったく、冷てぇ奴だな」
「胸勝手に揉んどいてそれはないんちゃう?」
蒼一郎の言葉は至極真っ当な事であった。勝手に彼女の胸を触っておいて、冷たい奴と呼ぶのは明らかに変な発言であった。
「あーもぅやだやだ!オレは二日酔いしそうだから寝る!」
「同じくやな、ボクも先に寝るわ。すまんな悠介、ほなお先に」
「あぁ、お先にゆっくりと…」
悠介だけがその場に留まり、仲間であるグレン、蒼一郎、有栖の三人は先走る様にして自室へと背を向けて戻って行った。
最初は見届けているだけの悠介ではあったが、夜遅い時間と言う事もあってか欠伸をした悠介は、数回睡魔に悩まされる目を軽く擦ると彼もまた他の三人と同じ様にして、その場を去り自室へと戻る事にしたのだった。
「もぅ、エルキュアったらまた沢山飲んできたでしょ?」
「今回は少し抑えてますよ、アストレア様。一応俺が止めておきましたので」
「ったく、自分はそんなに飲んでないぞ?た、確かにそれなりには飲んだけど…」
エルキュアはその美しい顔こそ赤く染めていたものの、前の時の様にしてベロベロに酔ってしまっていると言う訳ではなかった。前の時の事はもう思い出したくもないし、起こってもほしくない出来事だ。
◇◇
それなりに前の事……。
「カカカ!ランスレッド、もっと酒を持ってこい!あーしはまだ飲めるぜぇ!」
「グハァ!?首を締めるなぁ!」
「え、エルキュア!少し落ち着い……」
「アストレアぁ~一緒に飲もうぜ!次いでに一緒に寝ようぜ!」
調子に乗った勢いで飲みまくってしまったエルキュアは酔った事が原因で一度暴走してしまった事がある。酔った勢いで彼女はランスレッドをその強靭と言える腕っ節で半殺しにしてしまい、アストレアにはまるで愛でるかの様な態度を示した為、アストレアにとってはもう起こってほしくない出来事であったのだった。
因みにだが、その翌日エルキュアは二日酔いでトイレから暫くの間出てこれなくなったらしい。
◇◇
(前みたいにならなくて良かったぁ~)
アストレアは胸を撫で下ろす。本当に大惨事にならなかった事に対して強い感謝を覚えた。
「本当にありがとうね、ランスレッド。部屋まで送ってあげられるかしら?」
「え、俺ですか!?………わ、分かりました」
彼もまたエルキュア達と同様に飲酒をしていたのか、少し頬を赤く染めていたがアストレアにそう指示を言われた瞬間、ランスレッドの表情はより赤く染まっていた。
何故かは分からないが、少し照れている様な表情が見え隠れしながらもランスレッドはエルキュアにヴォラクと同様に肩を貸した。
「行きますよ、エルキュアさん」
「うん、頼むわランスレッド……」
そう言うと、エルキュアは眠りに落ちるかの様にして目を閉じてしまい、口で呼吸しながらランスレッドに肩を借りながら歩いて行ってしまった。
「ふぅ~私もそろそろ寝ようかな…」
アストレアも彼らと同様にそろそろ寝る事を決心した。夜も更けてきてる事もありアストレアにも睡魔が襲いかかって来ていた。彼女も悠介と同じ様に欠伸をしてしまい、自分が眠くなっている事を理解した。
惚けた様な表情を見せると、一度彼女は身体を伸ばしてその場に立ち上がった。
彼女もまた自室へと戻る選択を取る事にした。
◇◇
「んっ―――ムニャムニャ…」
(こう見ると……姉さんも、結構可愛い所あるんだな…)
ヴォラクは姉である血雷をベットに寝かせる。彼女の自室まで肩を貸して運んだ後、ヴォラクはすぐに彼女のベットまで向かう。
ベットに辿り着くと、ヴォラクはすぐに半場完全な眠りに落ちそうになっている血雷を寝かせる為にベットへと、彼女の身体を寝かせる。
「スゥ………スゥ……」
目の前に眠る女性の姿は美しいとしか言い様がなく、鼻の下を伸ばして釘付けになってしまいそうな程に目がいってしまう。
その姿は非常に無防備であり、愛らしい寝息を立てながら肉体の多くを晒してしまっている。
大胆に豊満過ぎる胸元や少し太い太腿を晒しながら呑気な寝顔を浮かべて眠ってしまっている。他にも欲情を煽るかの様にして綺麗な首筋や細いながらも引き締まった腕、匂いを嗅ぎたくなる様な血の様にして染まる赤色の髪、思わず口付けをしたくなる薄いピンク色の唇。
そんな己の劣情に駆られるヴォラクではあったが、自身の欲を必死で抑え込み、平常心を保つ。ここで襲ってしまえば、ただのダメダメな人間になってしまう。
男であるが故なのか、ヴォラクは瞬きすらもしない様な勢いで彼女の肉体をマジマジと見つめてしまう。劣情と己の欲に駆られかけているヴォラクはそのまま思わず手を伸ばしてしまいそうになる。
しかし姉である血雷にその手を伸ばす事は出来なかった。
「い、行くか……」
ヴォラクはギリギリで己の劣情を押し殺して留まった。こんなの間違っている、そう自分に言い聞かせると同時に歯を噛み締めながら彼女の自室から去ろうとする。
「は、……颯…」
先際、彼女はまた寝言を呟いていた。ヴォラクはその名を聞いて一度立ち止まる。
「颯……」
誰の名前かは分からない。一体その名前の人物は誰なのだろうか、聞いてみたくても心情を察してしまっていて聞く事が出来ない。
あんなに美しい女性だ、好きになった人が一人や二人程いても、何ら不思議な事ではない。普通に自然な事だと感じられた。
自分にとっては僅かに嫉妬が浮かび上がりそうな気分になってしまうが、不思議な事ではないと割り切ると自然と受け入れられる様な気分になっていた。
(一体、どんな奴なんだろうか……)
そう心の中で何処か悲壮感が漂う様な形で呟くとヴォラクはベットの上で眠った彼女を置いて部屋から消えてしまっていた……。
◇◇
【フライハイト大百科】
「えぇ……皆さん、初めまして。本日より新たに始まった新コーナー「フライハイト大百科」の司会を務めさせて頂く「武川蒼一郎」言います、どうぞ宜しゅうな」
本日より始まりを迎えた新コーナーフライハイト大百科。武川蒼一郎君がどうしてもメインコーナーの枠を欲しがっていたと言う事で仕方なく、新しいコーナーとレギュラー枠を作る事にしました。
「最初の回やし、今日はフライハイトの顔「アストレア・エニシュ・ブラックバーン」について解説してこと思うで」
バックには黒板と映像を流す事の出来るスクリーン、この二つと蒼一郎の手に握られた棒を軸に解説していきます。
黒板には文字を書いて、スクリーンには色々な映像や写真や絵が映し出されるらしい。
「皆も知っとる思うけど、アストレア殿は今ボクらが所属しとる国「自由国‐フライハイト」のトップ基ボクが三番隊隊長を務めてる「国防防衛隊」の総隊長も務めとる人物や、いやぁ~人望厚そうやなぁ~」
颯爽してスクリーンに登場するのは彼女を写した写真や映像が流れた。手際の良さは認めておきたい。
「見てもらったら分かる通り、まだ見せてはおらんけど、剣の実力は未知数らしいんや。これからの活躍に期待大やな。それに見て分かる通り、とっても美人さんや…………でも、ここだけの話実は彼氏出来た事無いらしいで?これはチャンスかもしれんな……?」
「……え?彼氏の件よりも、まだ作中で一回も刀抜いた事のない奴がいるって?それって何処のどいつ………ってボクか。作者、早くボクにも戦闘とかでも活躍の場面くれよなぁ…」←オマケ解説コーナーの主役貰えてる時点で結構高待遇じゃねぇか
筋力 C
耐久力 C
敏捷性 B
魔力量 A
幸運 D
特異能力 A
「上のヤツは簡易的なステータスや。SからEに分類されてて他の人のステータスは後程に解説する予定やで!ほな第一回フライハイト大百科は終わりや、元気でな!」