118話「追放者に裁きを」
「ブレイク・ダウン!」
そう強く叫ぶと同時に両手で強く握り締めていた身の丈を上回る巨大な戦槌が振り上げられると同時に目にも止まらぬ速度で地へと振り下ろされた。
けたたましい轟音を響かせ、地に振り下ろされた巨大な戦槌は地を叩き割り、地割れを発生させた。地への衝撃は凄まじく、当たってしまえば体は宙に飛ばされてしまい、身動きを取る事は出来なくなってしまうだろう。
「スゲェ!流石は平和帝国の最新鋭装備、威力がダンチだぜ!」
「達哉!ホント相変わらずだな!」
「少しは休んだらどうだ?」
「仁、悠真!まだまだだ!奴に裁きを下すまで!俺は絶対に負けんぞ!」
そう言って不知火を強く嫌悪し、奴に裁きを下さんと豪語する人物がいた。叫びながら再び男は戦槌を振るう。その表情には活気が溢れており、その目は大きな対抗心が揺らいでいた。
その男の名前は「坂見達哉」彼、不知火凱亜を最も嫌い、嫌悪し一方的に対抗心を燃やすありふれた狭き心の人間だ。
彼は今、自らが所属していた召喚された国であるユスティーツを自らの意思で離れ、配下の様にして接している仲間である「佐藤仁」「小林悠真」の三人で平和帝国と呼ばれているウンシュルトへと赴いていた。
理由は紆余曲折ではあるが、国家間の戦争に備えて、戦力を分ける為に異動したと言う所だ。召喚勇者はその力が大きいが故に欲しがる者も少なからず存在している。
ユスティーツの国王はウンシュルトの国王とは同盟を結んでいる為、戦力を確保させる為にもウンシュルトに向けて数人の召喚勇者を派遣させる事にしたのだ。そして、その一件で派遣されたのが達哉、仁、悠真の三人と言う訳だ。
何故か、側近や一部の者は女性の者に言ってほしいと聞こえた様な気がしたが、新たな力を手に入れる為にも三人はすぐさま立候補したと言う事だ。
「まぁ、俺の装備も中々だな。技術者の腕は立ってるって所か…」
「鳥の翼を模して作る、それもまた芸術か?」
達哉は前とは異なり、自らの職業を完全と言って良い程放棄してしまっていた。前は軽装戦士であったが、今となれば彼はその軽装と言う概念を取り払い、重厚で絶対に破られないであろう強固な西洋風の鎧を全身に包み、その両手には身の丈を容易に上回る程の大きさを誇る鉄色の戦槌が握られていたのであった。あんな物で強く叩き潰されしまえば、致命傷は絶対に避けられないであろう。
仁に至っては前の姿はもう何処にも残ってはいなかった。身を守る為の装備等は全て取り払い、身に付けている装備は全体的に軽装となっており、上半身下半身共に濃く、全身を覆う紫色のタイツの様な服を着用していた。そして両手の甲と足の甲側面部には車の車輪の様な禍々しいデザインが施された装備が取り付けられており、彼の両手両足に固定され動く事はなかった。
悠真は以前とは違い、空を駆ける様になっていた。新たに授けられた仮の翼は容易に空を駆ける事を可能としていた。身を守る為の最低限の装備だけを身に付け、空から元々あった魔法の適性を利用しながら一方的に空から撃ち下ろす。無慈悲且つ卑怯と言う言葉が似合う姿であった。
最早、前の原形はものの一つも残ってはいない。三人は過去を捨てて、新たな姿へと変貌を遂げていた。三人共に願いは一つ。
不知火凱亜の殺害、ただそれだけの事であった。その為に彼らは所属を変えて、違う国へと出向き新たな装備を手に入れた。
達哉は弾丸すらも無効化してしまい、破る事は困難な魔力壁を生み出すシールドを展開可能な強固な鎧「クルセイドアーマー」と岩すら容易に砕き、硬い地すらも叩き割る巨大な戦槌「ウォーリアーハンマー」
仁は高速での戦域移動と超速での高速攻撃を可能とする平和帝国の試作用新型装備「魔雷駆動切断車輪-オービルスラッシャー」
悠真は空中からの一方的戦闘を得意とし、戦域を空から移動出来る擬似飛行翼を手に入れた。因みにだが、攻撃は自らの魔法で行う。
三人は今、近くに起こるフライハイトとの戦火に備えて平和帝国内でただ只管に不知火への対抗心を燃やして鍛錬を積んでいた。
あまり鍛錬や練習を好まない三人ではあるが、それぞれ同じ目標を持っている為にただ日々の訓練に明け暮れていた。
それに目標の他にも、彼らには楽しみと言える事があった。彼らは推薦でこの国へと迎え入れられた言わば選ばれし者。待遇はそれに値する様に非常に素晴らしいモノとなっていた。
最初こそ、多少なりとも緊張してしまい、その表情は何処か強ばってはいたが、その緊張は一瞬にして砕かれる事となった。
迎えられた時に彼らの目に入るのは豪勢で前の世界では見た事もない様な豪華な内装の部屋と広がる美味の食事に、三人の為だけに用意された気品な色気と美貌を兼ね備えた美女達。
三人はすぐさま燃え上がる様な気分に駆られた。結果的に彼らはウンシュルトに手を貸すと言う事を条件に高待遇な措置を受けるだけでなく、夢だと思っていた童貞も卒業する事が出来た。
気分的には三人共に最高潮を誇っており、同じ目的を持つ者として奴に対する対抗心も共に大きなモノとなっていた。
「こんな事なら最初から、こっちに来ておけばよかったぜ」
「それは俺も同感出来るな。こんな装備貰えて、良い部屋も用意してもらって、美味い女もくれるならあっちに居た意味なかったんじゃねぇのか?」
「あぁ、そうだな。あっちはまだ悪い方だと思うぜ?」
達哉はそう言うと、両手に握っていた戦槌を地面に投げ捨てるかの様にして置いた。日が暮れ始めている事に気が付いたのか、達哉は一度だけ夕暮れの様な光が輝く空を見上げた。時が後少し流れれば時間は夜となり、世界は暗闇に包まれる事となるだろう。
「戻るか、そろそろ飯の時間だ」
「そうだな、良い女も居る事を願って…」
「あぁ、行くか」