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117話「何時の時も」

 

「他の世界…からの?」


 客人の言葉にジャイングは耳を疑った。思わず二度聞きをしてしまう。何を言ってくるかは想像出来なかったが、予想の斜め上以上を行く様な答えであった。

 ジャイングは言葉に嘘偽りがないか客人に問う。


「その通りで御座います」


「嘘ではないのだな……?」


「フフッ、何を……ここまで来た以上、今更嘘なんて付きませんよ。内容は全てお教え致します故、どうか偽りなど申さない事を願います」


 客人の言葉に嘘は存在しない様に思えた。言葉に揺れはなく、間違いない程に偽りや嘘は存在していない様に見えた。


「信じるのですか?他の世界からの使者など聞いた事が!」


 側近の一人が声を上げた。ジャイングの意見では側近の意見も肯定は出来る。

 確かに何処の者かも救済を齎しに来たとは言ってもそれが本当の事なのかどうかもジャイングには分からなかった。もしかしたら、全て子供騙しの様なうわ言を並べただけかもしれない。

 しかし今のジャイングには、今目の前に立つ黒いローブを全身に纏った客人を信じる以外の道は残されていなかった。

 もう手段など選んでいられない。条約を結ぶ時は刻一刻と迫っている。


 もし今の状況にまだ十分な余力が残っているのなら、王であるジャイングはこの提案を断っただろう。だが今の状況では協力を要請せざるをえなかった。ジャイングは藁にもすがる思いで客人に助けを求める。


「もしその言葉に偽りがなく本当だと申すのなら、頼む!非力な我らに力を貸してくれぬか!?」


「逢瀬のままに……御協力致します」


 ◇◇


 その後、自らを客人と名乗る人物は手順こそフライハイトの面々に教えなかったものの、客人は言葉の通りに「他の世界からの使者」を召喚したのであった。

 ジャイングを含めたフライハイトの人物達は非常に強く驚いた。

 うわ言だけだと思っていた者も存在していたが、その予想は呆気なくひっくり返されてしまった。客人は手順も彼らに教えぬままであったが、言葉と行動に偽りは一切存在していなかったのだった。


 だが、それは争いの火種を広げるに過ぎなかった。客人の言葉の通りに他の世界からの使者を召喚して見せた。

 そして客人は召喚した科学者や技術者に対しての兵器生産を要請したのだった。

 最初こそ戸惑いを見せていた技術者達であったが、更に発展した世界から招かれた彼らはすぐに世界に対応を見せると同時に異世界と言う()()が広がる世界の中で、見た事もない素材を現実に存在する素材に例えながら、他国に負ける事が一切ない兵器達を作り出したのであった。


 対人を余裕で殺す事の出来る大量の銃火器、空を自由自在に駆ける四機の大火力戦闘機、人工知能と簡易式プログラムを搭載した大量の機械兵及びロボット群、更に首都やフライハイト内を防衛する専用システム、有り余る程の治療器具に特殊装備に追加用装甲、最早一国が保有して良いとは言えない程にその戦力は大き過ぎる拡大を見せていた。


 フライハイトの面々、そして国のトップに立っていた国王ジャイングは当然ながら、条約を結ぶ事を拒否。密偵の手に入れた情報を公開し、フライハイトの戦士や兵士、そしてそれを含む民達は条約締結を迫って来たユスティーツとウンシュルトに反旗を翻し、フライハイトへと立て篭り、二大国に対して戦いを行う事になったのだった。

 無論、条約締結を拒否されたユスティーツとウンシュルトは「手を差し伸べながら、根拠もないあらぬ疑いを我々に掛けて武装行為を行った」と大々的に報道。


 こうして約七十年前、ユスティーツ、ウンシュルトの連合軍は反乱軍フライハイトとの戦いに縺れ込み、世界は再び戦火に包まれる事となった。

 この戦争を後に「反乱軍全鎮圧戦争」と呼ばれる事となった。


 フライハイトは技術者達によって作り出された戦闘機の一機である「TYPE‐UNKNOWN‐OO‐00無名(ノーネイム)」を先行させ、大量の兵器を導入、血で血を洗い、戦いは激化の一途を辿った……。


 ◇◇


「おい、何でここで切った!」


 ヴォラクはまたしても怒りの声を上げる。本来ならここから更に詳しい歴史を語るはずだった。

 本当なら今から更に深い部分を文字に書き起こし、その光景を表すはずだった。だが、過去の世界は消えてしまったテレビの様にして突然消え去ってしまった。空間には何も無くなり、再び空間には虚無が広がった。

 ヴォラクはすぐさまあの時の空間へと移動し、作者に問いかけた。本来ならあまり介入しない方が身の為なのだが、ここで切ってしまうのは流石に変だと感じたヴォラクは、気になり仕方なかった為、ヴォラクは多少の躊躇いを感じながらもあの場所へと移動した。


「下賎の分際に話しかけるか?」


「は!?」


 作者がこんなセリフを自分に対して吐くとは思えなかった。本来ならいじられキャラとしての地位を確立しつつある作者であったが、今の作者はヴォラクの知る作者ではなかった。

 明らかに口調が違っている。目付きも自分を見る目も、口調も性格も異なっている。


「お前の元の場所に帰れ。それが最善だ…」


「な、何を!?作者、あんたそう言うキャラじゃ……!」


 次の瞬間だった。ナイフの様な剣で自分の首を瞬速の速度で切り落とされた様な気分となると同時に、彼は元の場所へと戻ってしまっていた。アストレアと話していたあの場所に。

 正に切り落とされた様な気がしたが、切り落とされてはいなかった。幻か、それとも寝惚けたのかは分からないが、あの時に確かにヴォラクは首を切り落とされ、それと同時に四肢をもがれた様な気がした。


「俺の名前は作者ではない。しっかりと少年Gと言う名前があるのでね…」


「意味が分からない……」


 ◇◇


 だが、戦争とは悲惨な存在だった。人を殺してはまた誰かが死ぬ。それが延々と終わるその時まで繰り返されるだけ、笑いも喜びもない、冷たい血を流すだけの戦争であった。

 フライハイトの無双とも呼べる程の戦力は最初こそ全てを簡単に蹂躙してしまっていた。向かう敵は全て消し炭とされてしまう。

 既存に存在している剣と魔法だけでは招かれた技術者達が作った近未来的兵器に太刀打ちする事は出来なかった。剣や戦斧、槍や拳で戦う者は全てマシンガンやライフル、ガトリング砲等の武器で肉塊となり、魔法で対抗しようとする魔術士も戦闘機による空爆やロボット群による制圧力によって、無惨にもその命を散らせていった。

 何度も何度も死ぬ事を繰り返す。誰か一人殺せば、その報復の様にして自らの命も散ってしまう。敵も味方も、小さな羽虫が簡単に潰される勢いで消えていく。

 フライハイトは常時優勢で物事を運んでいた。客人を名乗る者の介入により、戦況は覆るかの様にして変化する。

 

 当初は戦争となれば、フライハイトは三日もせずに崩壊するだろうと思われていたが、死の商人はその戦局を覆した。

 フライハイトは連合軍を次々と撃破してゆき、連合軍の主力の精鋭兵達や名の馳せた戦士や騎士も圧倒的武力の前に対抗する事は出来ず、銃弾の雨や戦闘機による空爆やロボット群による激し過ぎる攻撃の前に無惨

 にも散っていく事となった。

 

 死の商人。その力の手はフライハイトだけではなく、ウンシュルトやユスティーツ連合軍の手にも及んでいた。死の商人が味方していたのは何もフライハイトだけではなかった。

 ウンシュルトとユスティーツにもその力は行き届いており、気が付けば残虐たりし力はフライハイトだけではなくウンシュルトやユスティーツにも及んでいた。


 兵器の機密情報や兵器その物は時折、流出したり盗まれて強奪される事もある。今回もその例に近い存在であった。

 客人の力は反乱軍だけではなく、連合軍にまで流れ込んでいた。客人はこの三つの大国に同じ事を行っていたのだった。フライハイトに教えた様な兵器を生産させる為の人員召喚を三国に客人は行っていたのだった。

 それが意味する事、それは大き過ぎる戦争の幕開けに過ぎなかった。


 ◇◇


「これが意味する事、分かりますか?」


「あぁ、更に戦いは激化。兵器を多数保有した連合軍と反乱軍は両者似た様な兵器を使いながら総力戦……と言った所かな?」


 アストレアの話を聞いていて、ヴォラクは何故か無情にも悲しい気分になってきた。表情は全体的に重たくなっており、頬杖を着いてしまっている。立ち上がりながら読み聞かせる様にして語るアストレアの姿にも、何処か哀愁が漂っていた。


「それで、最後はどうなったんだよ?」


 ヴォラクはこの戦争の終わりに何があったのか知りたかった。全てが終わり、血を流したその戦争の終末、その果てに何があったのかヴォラクは知りたかった。

 アストレアはヴォラクの言葉にコクリ、と頷く。


「最終的に、連合軍も反乱軍も両者共に多大な被害、多数の死者を出しました。両軍共にこれ以上の戦いは無意味と判断し、両軍国王の名の元、停戦協定が結ばれ結果的に勝者なきままこの戦いは終結しました」


 最後は両軍共に多大過ぎる被害を出し、結果的に両者多数損害により、両軍停戦で手を打ったと言う事だ。ある意味良い選択なのかもしれない。

 アストレアから黙って話を聞いている限り、これ以上両軍で戦いを続けるのは明らかに悪手である様に見える。


 しかし戦いが停戦する事となり、その後はどうなったのだろうか。兵器関連の事に関しても気になるが、当時の状況についてもヴォラクは気になっていた。

 確かに兵器について知る事も一つだが、大量の兵器を増産した後に戦争が終われば、使用用途が無くなった兵器について調べるのも一つだし、その他の事について調べる事も重要だ。


「この戦いが終わった後はどうなったんだ?」


「停戦協定によって大戦時に使用、生産された武器及び兵器の使用を全て禁止、特殊システムや防衛システムはブラックボックスへと封印。禁止された兵器は全廃棄又は天月へと保管。フライハイトの場合は最深部に保管する事になったんです」


「技術者達はどうなったんだ?」


 後二つ程気になってしまった内の一つを聞く事にした。気になっていたのは技術者の行方についてだった。

 言ってしまえば戦いが停戦して終わってしまった以上、兵器を生み出し戦力を拡大させる為に招かれた技術者である者達は、状況的に無用となってしまっている。用が無くなってしまった以上、技術者達は必要性が無くなる。


 そうなってしまえば、技術者達はその後どうなってしまったのか?恐らくだが、この異世界と言う世界の中では来てしまった以上、帰る方法は存在しない。片道切符と言っても良いので、戦争が終わってそのまま元の世界に帰ってしまったとは考えにくいだろう。

 考えられるのはそのまま解放されて、異世界の中を死ぬ時まで生き続けた?

 等が普通に考えられる事だろう。

 アストレアはどう回答するのか、ヴォラクは目を凝らしながら見る事にした。だが、その答えはヴォラクの予想は意図も簡単に裏切る事となった。


「私達フライハイトは特に何もする事はせず、素直に解放しました。が、ウンシュルトとユスティーツは恩を受けておきながら、また彼ら技術者達が火種を生むと決め付け、技術者を一人残らず()()してしまいました」


「結局最後は皆殺し……って訳か。何時の時も身勝手だな」


 ヴォラクはアストレアの言葉を受けて無表情になりながらも、何処か身勝手な国の連中に対して矛先の分からない怒りが込み上げてきた。

 フライハイトの対応は相応だった。しかしウンシュルトとユスティーツは情状酌量の余地は無い様に思えてきた。事情等もロクに説明もせずに、異世界に招かせて兵器を作らせた挙句、戦争が終わればまるで使い捨ての如くその命を奪ってしまう。


 今更だと思うが、ユスティーツから追放されて良かったかもしれない。仮に追放されずに、ずっとあの場所に所属していても良い事は何も無かっただろう。寧ろあんな場所にずっと所属していたら、捨て駒として使われそうな予感がする。

 他国からは黒い噂の耐えないフライハイトではあるが、ここに来たのは大きな正解であったと思う。


「ええ、私もそれは同感出来るわ…」


「アストレアさん、聞いてるとは思うがもうすぐユスティーツ、ウンシュルト更に有志の部隊と魔族残党がこの国に攻めてくるらしい。原因は何だと思うよ?」


 アストレアはもう知っている事かもしれないが、少し前に行った拷問で、とある貴族は呆気なく情報を全て吐いてくれた。

 吐かれた情報には、他の国からの連合軍が再び戦火を振りまこうとしている事であった。先行して魔族残党が襲撃を行い、その後にユスティーツやウンシュルトの二国を強く尊敬する有志の部隊、更にはユスティーツとウンシュルトの大隊まで襲来すると言うのだ。

 恐らくだが、数は膨大過ぎて数えられない。予想でも、戦争が長期間行われる事は目に見えていた。


「原因は私にも分からない……けど、何かしらの理由がある事だけは確かよ。理由も無しに戦争を仕掛けてくる国なんて、そうはいない」


「難しいな。まるで過去の戦争が蘇った様だな…」


 ヴォラクの言葉の通りだとアストレアは思った。近い内に起こるこの戦争は七十年前の戦争が今の世の中に蘇ったかの様だ。

 しかしあの時とは違う。国のトップも、所属している戦士や部下も、国の間の情勢も、そして敵の数もあの時とはまるで違っている。

 勝てる保証は残念ながら存在しない。勝つか負けるかは結局は()()()()によって左右される。

 だが、客観的に見ればヴォラク達フライハイトの敗北は濃厚なものとなっている。国力の差に人員の数、こちらは支援をしてくれる国は無いが、敵には多数の支援者や支援国がある。過去の遺産を保有し、半場使用を許可しているとは言っても、限界と言う物は存在している。


「勝算はあるんですか、アストレアさん?」


「数日後に作戦会議を行う予定です。まだ攻めてくると向こうが公言していない以上、まだ様子見をする必要があります」


「そうですか……」


 そう言うと、ヴォラクは椅子から腰を上げて立ち上がった。


「それじゃ、そろそろ戻りますね」


「詳しい話はまた後日しましょう。主な戦略も後に…」


「はい…」


 一度手を振ると、ヴォラクはアストレアの自室から去っていった。アストレアも彼の事を見送り、彼女の自室には彼女一人が残された。


 ◇◇


 自分の部屋へと戻る途中、ヴォラクは奴の言葉をふと思い出した。奴の名が脳内に浮かび上がった事により、あの時は意味の分からなかった言葉の意味が今になって理解出来た気がした。


 ―――き、貴様!何故、条約で使用が禁じられた武器を使っている!?


「カイン・サブナック」奴は自らと対峙した時にそう自分に焦り、不安を隠せない様な表情で言っていた。

 昔は分からないが、今になると何故あんな事を言ったのが分かる。

 そしてもうすぐ起こる戦争にも奴は参戦する。一度は殺した、間違いなく後頭部をツェアシュテールングで撃ち抜いたはずだった。だが何故かは分からないが、奴は生きている。

 影武者?蘇生?黄泉帰り?それとも操り人形?分からないけど、生き返ってしまったのならもう一度殺してしまえば良い話だ。

 二度向かうなら、二度撃って殺してしまう。それだけで十分な話だ。そして今は疲れたので眠りに着く事にしよう。


(もう一度、絶望を与えてやるか…)


(今度は負けんぞ、次こそお前を殺し、レイアを俺の玩具(ペット)にしてやる…!)



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