111話「偉大なる我ら御身の前に」
ヴォラクは御身を前にすると同時に片目を閉じながら、深々と頭を強く下に下げると同時に素直に片膝を着いた。
非常に清潔感があり、綺麗なカーペットが敷かれた非常に広めの部屋の床にヴォラクは荷電魔粒子砲:ニーズヘッグ、ビームサーベルを置き敬意を表した。そして敬意を示す先に設置された椅子には一人の女性が楽な姿勢で座り込んでいる。
彼の表情はとても穏やかであり、落ちて着いている。恐れはなく、怯えも見せない、目の前に座る女性は据えた双眸で自分をじっと見つめている。彼女の傍にそれぞれ立っている側近達も同じくな様子で彼女の目の前で敬意を表し、片膝を着いて頭を下げる青年を見つめる。
彼女と自分の力と権力の差は歴然としていた。特に権力に至ってはその力は天と地すら超えてしまう程の差であろう。
それはただの一人の冒険者にしか過ぎない者と四大国家の内の一つの最高責任者と言う天と地すらも凌駕してしまいそうな程に差の開いた関係であったのだった。
「初めて私の目を通してお会い出来た事、そして今回の私の私怨に一件に関するご協力誠に感謝致します。お言葉通り、私「ヴォラク」基「不知火凱亜」御身「アストレア・エニシュ・ブラックバーン」が収めし国「自由国-フライハイト」に御身の名の元、参上致しました」
ヴォラクは自らの本当の名と偽の名を名乗り、まず初めに感謝の言葉を述べる。今回の復讐の一幕に直接的に関係はないとしても、間接的にではあるが力を貸してくれた人でもある為、ヴォラクは多大と言える程に強い感謝の言葉を述べた。
本人としては丁寧且つ冷静、そして律儀な口調で話したつもりであった。自分よりも目上の人物であり、年齢も恐らく自分よりも上の人物であるだろう。ヴォラクは丁寧で敬語口調で対応する。
「感謝の言葉、確かに受け取りました。そして、無事に我々同士の元に辿り着けた事に安心しましたよ、ヴォラク」
「勿体ないお言葉、有り難く頂戴致します…」
ヴォラクは頭を上げる事なく、もう一度感謝の言葉を述べる。その後、目の前に座る女性は一度椅子から腰を上げて、立ち上がった。
「サテラ達から聞いているかもしれませんが、改めて自己紹介をさせて頂きますね。私はこの「自由国‐フライハイト」の第一王女基最高権力者、最高責任者「国防七番隊総隊長」を務めている「アストレア・エニシュ・ブラックバーン」と申します。王女と言う身ですが、気軽に名前で読んでくださって構いませんからね?」
意外にも優しげで物腰が柔らかそうな人物でヴォラクは安堵する。これでめちゃくちゃ冷酷でドSな性格をしていたら、どの様にして対応すれば良いのか分からない。
対応を迫られた際にはどう返すか迷っていた所ではあったが、物腰は柔げであり決して悪い性格の持ち主ではない様であった。
話し方や口調から滲み出るかの様な優しさと慈愛に満ちているかの様なオーラがある。ヴォラクは一目見るだけで分かってしまっていた。
「今、この国の側近基「国防七番隊」の皆をここに集結させているから、皆来たら紹介するわね」
その言葉をアストレアが言い終わると同時にヴォラクは表を上げ、その場に立ち上がった。別に取り押さえられてもないし、首を撥ねられる事もない、別に先程の行動の一覧で何かしらの問題があったと言う訳ではなかった様であった。
少し前にサテラ達の案内でこの国へと突入し、殆ど直行でこの場所にヴォラクは招かれていた。そして国土内に入るなり、車から降りると同時にこのまるで要塞の様な城の中に連れてこられた。
そして周囲は外界との接触を断つかの様にして立てられ、国土を防衛する為に立てられた防壁が国土を囲んでいる。突破は簡単では無い事は容易に想像出来る。
今自らが所属する「自由国‐フライハイト」の国土はそれなりに広めであり、外はかなりの距離で平原が広がっている。周囲に大きな街や国はなく、四大国家の中では孤立しているかの様な場所に国土を持つ国だ。実際、車を走らせてもそれなりに距離があった。
更にまるで強固で難攻不落が似合うかの様な要塞の後ろは不気味にも山々が立ち並んでおり、まるで何かを隠しているかの様な雰囲気を醸し出していた。
言ってしまえば退路と言うのかもしれないが、不自然と思えるまでに奇妙と思えてくる。今は普通に城の内部に居る、先程まで外に居たので自分の目が捉えた範囲での推測ではあるが、後ろの山々には何かが隠されているのかもしれないとヴォラクは感じた。
しかし今は模索ばかりしているのは大きな間違いであると感じられた。アストレアが椅子から立ち上がり待機していると、ぞろぞろと人の足音が聞こえてくる。
アストレアは側近の者達にこの大広間の様な場所に来る様にと指示を出していた。
そろそろ来てもおかしくはない時間ではあるが、少しばかり待っていたら、自分の予想通りに側近の者達は彼女の元へと集うかの様にして集まってきていたのであった。
「皆、集まってくれた事に感謝するわ。単刀直入だけど、今皆の前に立っている人が前に言っていた「ヴォラク」って言う人よ。これから一緒に過ごす事になるから、軽く自己紹介してくれるかしら?」
その言葉に側近達は軽く頷く様子を見せる。そして場に集まった十後半程の数の側近達は順番に自己紹介を始める。
「逢瀬のままに偉大なる我ら御身………自分は一番隊隊長兼国防長官の「エルキュア・ディキンソン」だ、宜しく頼む」
「同じく、一番隊副隊長「ランスレッド・シュプリンガー」気軽に頼むぜ?」
「一番隊第三席「美嘉・レグナード」よろしく」
「二番隊隊長「夢宮翔奏」この前は声だけだったけど、やっと逢えたね」
「三番隊隊長「武川蒼一郎」って言うモンや。まぁ、これからよろしゅうな」
「同じ三番隊副隊長「松岡有栖」だ!これから宜しく頼むぞ、ひよっこ!」
「四番隊隊長「アイロニック=ウェルド・ヴァテイン」取り敢えず「ニック」とでも呼んでくれ」
「同じく四番隊副隊長「レベッカ」と言います。どうぞよろしく!」
「五番隊隊長……「裂罅悠介」だ…詳しい事は後で聞こう…」
(アイツ、気配を完全に消してやがる。声を発するまで分からなかったぜ…)
「初めまして!五番隊副隊長「リアン・ジュール」です!これからよろしくね!」
「五番隊第三席…「グレンディ・ロメルディアル」「グレン」って呼ばれてるし、よろしく?」
「六番隊隊長「ヴゥセント・グレイスナー」頼りないかもしれないが、よろしく頼む」
「六番隊副隊長「クレア」よろしくお願いしますね」
「医療及び治療責任者の「ミハエル・ゴースト」だ。怪我をした時は頼ってくれたまえ」
「看護師兼ミハエル先生の助手「スカーレッド・ヘルワーズ」です。どうぞよろしく!」
「技術開発責任者の「ダイス」だ。しがない研究者じゃが、よろしく頼むな」
長々としていたかもしれないが、側近兼国防七番隊のメンバーの紹介は一通り終わりを告げる。
どこかで名前を聞いた事のある奴がいた様な気がしたが、その件は別の時に尋ねれば良い話だ。今は気にしない事にすれば良いだろう。
「ヴォラク殿、貴方にはすぐに役職を与えます。今私達の国は激しい人員不足に悩まされています」
アストレアの質問にヴォラクは首を傾げる様な行為をする事はなかった。自分に与えられるモノ、それが何なのかは彼女の言葉が投げられた時に予測出来る。
「つまり、それは私にも国防七番隊の隊員になれ…と言う事でしょうか?」
「察しが良くて助かります。貴方の言葉通り、ヴォラク…貴方をこれより国防七番隊の七番隊副隊長に任命します。ご承諾して頂けますか?」
ヴォラクは彼女に恩があった様に思えていた。今回の一件を間接的に手伝い、お膳立てしてくれた事それは返しても返し切れない様な恩である様にヴォラクは思っていた。
自分にとっては最大の懇願である、追放された事による復讐。圧倒的苦痛と言う名の賜り物を送らなければならない。
復讐の為に手段を選ばない彼にとって、この質問にNOと答える訳にはいかなかった。無論ヴォラクは他に答えを浮かべる事もなく、首を縦に振ると同時に答えを述べる。
「このヴォラク…その責務、全身全霊を持って取り組む事とします」
そう言うと同時に、ヴォラクは再び片膝を着くと同時に頭を下げる。
「表を上げてください。協力して頂き誠に感謝致します……エルキュア、案内を頼める?」
「逢瀬のままに……では、ヴォラク。私にご同行を」
「承知致しました、ディキンソン隊長」
「エルキュアで構わないぞ、副隊長殿?」
その言葉を受け取ると同時に、ヴォラクは一度礼をする。そして後に去ろうとするエルキュアの背中をヴォラクは追う事にした。