109話「選ばれし者」
「お疲れ様、ゼノ君。初めての授業疲れちゃったかな?」
ゼノは一通り午前の間の授業を聞き、そして終えた後、初めてで慣れない授業に疲れてしまい、吹っ切れてしまったのかは分からないが、授業が終わり先生が教室を出ていくなり倒れてしまく様な形で机に突っ伏した。
そんなゼノに対してマリスはそんなゼノを見兼ねたのかは分からないが机に顔を突っ伏しながら項垂れるゼノの肩を数回叩き、労いの言葉をかけた。ゼノは最初こそ反応出来なかったものの、可愛い生徒の綺麗な声に元気を貰う様にして、多少ダルい雰囲気を残しながらも顔を上げて眠い目を少し擦りながら、マリスが座る横を向いてマリスと目を合わせる。
「こう言う事はあんまり好きじゃない、疲れたし腹も減ったよ…」
「良かったら、お昼一緒に食べる?食堂行って、何か食べようよ」
それと同時にゼノとマリスのお腹の音が少しだけ鳴った。どうやら、お腹を空かしているのは自分だけではないらしい。
「金がかからんのなら嬉しい限りだ。金かかるっけ?」
「知らないの?全部学校側が配慮してくれてるから、お金かからないから、早く行こうよ!」
マリスの言葉にゼノは嬉しさの気持ちが僅かに心の中に生まれた。確かにこの学校って管理者である作者から聞いた話だと、寮制だと言っていたので普通かもしれない。取り敢えず金はかからないらしいので、遠慮はいらないだろう。ゼノは直ぐに行く事を即答した。
そしてゼノとマリスは出会ってまだそんなに時間は経ってはいないが、既に二人は打ち解けているかの様な雰囲気であった。はなから見ればそれはまるで親友の様であった。
そしてゼノ自身も既に腹が減っていたので、このままボクっ娘の可愛い子と二人で仲良くランチタイムでも楽しんで、午前中の疲れを吹き飛ばそうと思った。思ったのだったのだが、残念な事にそうは問屋が卸さないらしい。
早速教室を出て行こうとマリスと共に立ち上がり、出て行こうとした時だった。突然後ろからかなり強い力で自分の右肩を何者かに思い切り掴まれたのだ。しかも呼び止めるにしてはやけに強い握り方だった。後ろからはまるで、逃がさないと言わんばかりな人の気配。ゼノは渋々ながらも後ろを振り返った。
「おい、平民。お前が俺達貴族の食う飯が、まさか自分にも当たるとでも思ってんのか?」
「あの、すいません。どちら様でしょうか?新聞なら間に合ってるんで、勘弁してください。もし変な勧誘とかなら永遠に関わらないでください、後見てないんで受信料も請求しないでください」
「なっ、ふざけた事言いやがって!テメェ俺の事知らねぇのか!?」
知らねぇよ、そんなもん。ゼノは皮肉を呟く様にして心の中で呟いた。しかしゼノは詳しい素性こそ本当に分からなかったものの、自分の右肩を掴む男が何者なのかは知っていた。その時の記憶が僅かながらもフラッシュバックする。
あの時だ、この教室に初めて入ってきた時いきなり自分に対して、無礼にも出身を深掘りする様にした挙句知った途端にいきなり嫌悪する様な雰囲気を作り出した第一印象は個人的には最悪な感じになっている奴である、名前は本名までは不明であるが先生の口からは「カーター」と名前を言っていた。
個人的な話だが、あまり話したくない奴だ。変に話せば火を付けてしまうかもしれない、更にこちらから行けば火に油を注ぐ羽目になるかもしれない。ゼノは軽く溜め息を着くと仕方なく会話を続けた。
「申し訳ありませんが知らないですよ、生憎無知な人間でしてね」
「あぁ!?生意気な口聞きやがって!平民なら平民らしく下調べして頭下げろよ!」
「ちょ、ちょっとカーター君!」
「うるさい!妾の子の分際で、黙ってろ!」
カーターと名乗る非常識な男は会ってまだ間もないのに、容赦なくカーターは自らの右手を使用してゼノの胸ぐらを掴みながら思い切り持ち上げようとし、無謀で恐怖しながらも必死になって静止に入ろうとしたマリスを左手で容赦なく突き飛ばしたのだ。
貴族なのに随分と非常識で偏見に塗れた考えの持ち主だとゼノは強く感じた。前の親がそうやって思想を植え付けたのか、人間の性格とは八割環境で決まるものと聞いた事があるので随分と可哀想な奴だなと感じた。正直このまま正直に屈服するのも一つの手立てなのだが、このまま屈服し素直に服従してしまえば後の自分に多大な損害を与えてしまう可能性も十分にありえる。
それにこう言う学園系ファンタジーって大体確定でこう言うお馬鹿な思想に染まりっきりな馬鹿貴族が一人か二人、いやそれ以上に存在している事が殆どだ。こう言った系の奴は大体数回締め上げれば素直に大人しくなる事が殆どである為ここは一度攻めに出る事にする。それに大抵の場合、向こうは何かしらの干渉や関心度を下げようとしてくるのだが、失う物はもう何も無い、それに折角の学園生活だ楽しまなくては、叶えてもらったのに損になってしまう。
少しだけ暴力的に行動させてもらうか、ゼノはそう心の中で呟くと口元でニヤリと呟いた。
「口を慎め………雑種…」
「あぁ!?テメェ今なん……」
一撃か二撃で仕留める。ゼノは胸ぐらを掴む手を強引に振り払う様にして体を全体的に大きく振り、胸ぐらを掴む手を容赦なく振り払った。カーターは勝利を確信したのか、慢心しきっており、ニヤニヤと笑っていたがゼノの行動に簡単に不意を突かれ、カーターは胸ぐらを掴む手を簡単に離してしまった。
そして手を離し、後ろに向かってよろめいてしまったカーターをゼノは素早く追撃する。追撃する為に凱亜の師匠から教わったらしい殴り蹴りの技を使おうとしたが、奴の技を使うのも気が引けるので、よろめいた所をゼノは殴り蹴るのではなく、カーターの首を右手で掴み、そのまま上に持ち上げた。左手は制服のポケットに手を入れたまま、まるで捕まえた獲物を弄ぶかの様にしてジリジリと腕に力を入れていく。その表情は圧倒的に弱者を弄ぶ強者の様な狂気じみた「不知火凱亜」と変わらない表情であったのだ。
「身の程を弁えろよ?権力の海に溺れる雑種如きが」
「が、ガガガ……お、お前……はな、はな……せぇ!」
「立場が一瞬で変われば権力に溺れる人間は藁にもすがる。見ていて滑稽な景色だな」
そう言うとゼノはまるで玩具で遊ぶのが飽きた子供の様にして、首元を掴んでいた手を離して床へと彼を投げ捨てたのだった。周囲の人間は誰もゼノの事を止める事は出来なかった。逆に自分がゼノの事を止められるとは一切思えなかったのだった。
何故ならカーターはクラスの中でも大柄な体格をしており、身長はゼノよりも長身だった。普通に考えればカーターよりも低い身長で細身でもあるゼノが彼の事を持ち上げる、それも片手で首元を掴んで持ち上げるなんて普通に考えれば不可能に等しい事であったのだ。しかしゼノはそんな一般的な考えを意図も簡単に簡単に破壊した。ゼノは自分よりも大柄であるカーターを片手で意図も簡単に持ち上げた、しかも首元のみを掴んで簡単に持ち上げる。見たら分かる、ゼノの体からは悪鬼の様な邪悪なオーラが漏れ続けていた。その悪魔の様で陰湿なオーラは不知火凱亜の持っている邪悪を簡単に凌ぐ程の恐ろしい力であったのだ。
「て、テメェ!この最強と言われる「カーター・ディルムット」ことディルムット家に対して、こんな横暴な行為が許されるとでも思ってるのか!?」
「誰かこの豚の言葉を翻訳してくれない?ブヒブヒ言ってて何を言ってるか分かんないんだけど?」
カーターの聞く気も起きない発言にゼノは、まるで彼を軽蔑するかの様で、挑発し煽り立てる様な発言をする。クラスの中は静寂に包まれ、ゼノの現された悪鬼の本性を見た周囲の生徒はゼノが醸し出す恐怖と負のオーラに強く怯えている。先程までは大抵の生徒は平民出身の弱々しい一匹の人間の様にしか思えなかったが、今はその印象は全て吹き飛びかけていた。
「ち、ちょっとゼノ君、カーター君も!いきなり喧嘩始めるのは……!」
「黙ってろ、マリス!こんな奴俺一人で……」
マリスはカーターとゼノの争いを静止しようと試みる。しかし残念な事にカーターは容赦なくマリスの発言を揉み消し、まだ自らが仕掛けた争いを終わらせようとはしなかった。
だが、終わらせようとしないカーターに応える様にしてゼノはよろめきながら膝を着き、半場倒れ込みかけているカーターの右頬を右足で手加減なしのハイキックで蹴り飛ばすと同時に倒れた所をカーターに対して馬乗りになり、調教し破壊するかの様にして馬乗りになると同時にその両手の拳を振るい上げ、連続して顔面に連続で拳を叩き込んだ。
「あぁ?何だって、殴ってほしい?じゃ仰せの通りに!」
「な、お前……そんな、ぐふっ……がハッ!」
ゼノはペースを一切緩めずに、情け容赦なく連発して一撃一撃が重い素手による打撃をカーターの顔面に連続して打ち込む。まるでプライドをぐちゃぐちゃに破壊しているかの様な気分になった。
「何?防御も出来ないの?そんなんじゃ最強の称号なんて相応しくないんじゃない?」
「ゼノ!もうやめて!こんなのただの暴力だよ!カーター君が可哀想だよ!」
まだやめるつもりはなかった。まだ拳を振り下ろし続ける気だった。また一撃、また一撃と拳を振り下ろして骨すら折れる勢いで攻撃を続けていたのだが、マリスは見ていられなくなったのか、止められないかもしれないと分かっていながらも馬乗りになってカーターに向けて無慈悲の拳を振り翳すゼノの手を自らの手を使って止めたのだった。
「マリス……降り掛かった火の粉は払う必要性があるんだ……手を離してもらえるか?」
「確かに仕掛けたのはカーター君の方だけど、こんなの一方的過ぎるよ!ちょっと、一回ここ離れよう!」
マリスはあまり乗り気にはなれなかったが、場を落ち着かせる為には仕方ないと感じ、一時的に自らの筋力を強化する魔法を自らに付与すると、かなり強引な形になってしまったが、筋力を一時的に強化すると彼の左腕を掴んだ。
マリスの元の筋力はかなり低い部類に入るがマリスの使用する魔法の練度はまだ若いながらも目覚しいものがあった為、何とか自らの力を使ってゼノの腕を掴み、動きを静止させるとすぐさま彼の腕を掴んで引っ張ったまま、教室をゼノと共に後にしてしまったのだった。ゼノは掴まれている手を振り払い、顔面が崩壊する程までは殴り続けたかったのだがマリスの腕を掴む力が予想よりも強かったので、抵抗する事する事はなく、簡単に引っ張られる形でゼノはマリスによって連れ去られてしまったのだった。
◇◇
その後マリスに連れられる事数分、二人は学校の中でもかなり人気のない様に思えてくる様な場所に立っていた。学校その物が色濃い影を作り、空から照らす太陽の様な光が全て遮られ、日陰の様な場所を作っていたのだ。陰湿で昼なのに薄暗く、周囲には誰一人として人影は見当たらなかった。
マリスは一度息を吐くとゼノと両目を合わせてゼノに対して話を始める。
「ゼノ君、流石にあれは……酷過ぎるし、ゼノ君の家に向こうが何してくるか分からないよ?」
「口の利き方がなっていない雑種に躾と言うものをしてやっただけだ。火の粉が降り掛かるのなら、俺は全力でそれを振り払うのみだ」
マリスはまるでゼノの事を咎める様な口調で発言する。まるでゼノが間違っているかの様な言い草であった。マリスはゼノ自身の保身を促す様にしてゼノに話す。しかしゼノは全くと言ってマリスの言葉を聞き入れようとはしなかった。
しかしあながち、ゼノの行動は間違ってはいなかった。普通非常識な人間に絡まれたのなら、何かしらの手を使って撃退するのが普通だ。実際ゼノは本人にとってはよく分からない理由で絡まれてしまっていたので、狂気じみた力で捩じ伏せると言う対応を取っていた。多少荒っぽいとは言っても結果、相手への対処は成功しているので問題はなかった。
「でも、あんな上級貴族階級のカーター君に暴力なんて、ゼノ君自身と家に何されるか分からないよ?少なくとも酷い事される事は免れないかもしれないよ?」
普通の家の育ちならそうなっていたかもしれない。しかしゼノの育ちは普通からは逸脱している。経歴など全て偽られた偽物に過ぎない代物であり、彼に何をされようと、全てを捩じ伏せるだけだ。選ばれし者であるゼノにとっては雑種風情の介入など無意味に等しい行為であったのだった。
ゼノはマリスと少しだけ離れて会話していたが、マリスの会話が終わると同時にゼノは足を動かしてマリスの元へと歩み寄った。その際彼から発せられる邪のオーラを見て、マリスはふと息を飲んだ。
「……マリス、俺は生憎性格の悪い人間でね。暴力で支配しなければ性を実感出来ない酷い人間だからさ……」
「え、ゼノ……君?何を、言って……」
その時ゼノの見せる悪魔の様で己の道に立つ者は障害になろうがならまいが自身の悪魔の様な力で捩じ伏せ、破壊してしまうかの様なサイコで狂気に乱舞するかの様な姿は純粋で心優しいマリスの心を強く揺さぶり、それと同時に本性を知った時に現れる強い恐怖に身を震わせた。
「マリス、君だって邪魔をするのならお前を支配する事なんて簡単だ…」
「え、ぼ、僕……そんな、ゼノに対して…わ、悪い事……」
マリスはゼノの言葉の圧だけで簡単に後退りしながら、涙を溜めながら、僅かに涙目になってしまっていた。流石に強く脅かしてしまったか、とゼノは思ったのか邪のオーラを消し去り、先程と同様に弱々しく、あまり気が強くなさそうであるゼノの姿に彼は戻った。つまり普段通りのゼノと言う訳だ。
「悪い悪い、冗談だ。変な事言ってすまんな」
「さっきのゼノ……怖かった。もぅ……」
「これは失敬、これからはマリスにこんな事は言わないよ……飯食いに行くか?(何で呼び捨てなんだ?)」
「うん、お腹減った。行こう」
若干不満げな感じではあるが、怒っていながらも、自然と萌えを隠せずに可愛さが滲み出てしまっているマリスがゼノにはとっても可愛く見えてきた。流石ボクっ娘、ちょっと小柄、声女の子みたいに綺麗、綺麗な肌、萌え要素てんこ盛りだな。素晴らしいとしか言いようがないだろう。
これからは深く関わる仲になると思われるので、出来るだけ良好な関係は続かせておきたいし、戦力としても十分に価値がある存在の様にも思えてくる。マリスはお腹が減っていたのかは分からないが、ゼノよりも先に食堂へと向かおうとした。一人で歩いていくマリスに、ゼノはそのまま着いていく。
「ゼノ、早く行こう!」
「あぁ、今行く」
ゼノはポケットに手を突っ込みながらもその場を後にして、マリスの後を追った。