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108話「その名はゼノ・ケイオス」

今回から新章です。お楽しみください!

 

「ここが、魔法高等学校か……」


 ゼノはそう無表情に近い形で言うと首を上に傾けながら目の前に大きく聳え立つ魔法高等学校を下から見上げる様にして見つめた。時間は今は朝の時間ぐらいで眩しい日の様な光が空からは照り付けており、蒸し暑いと言う程ではないが多少なりとも強い眩しさと僅かに滲む様な暑さがあったを

 そして魔法高等学校の見た目は凱亜が通っていた高校とはかなり見た目は異なっている。前の世界の光景に慣れ過ぎてしまった結果だとゼノはふと思った。目に狂いはなくとも、慣れが引き起こす現象とは非常に不思議なものであった。


 そもそもの話、世界層そのものが凱亜の存在していた場所とは違うので、当たり前の事かもしれないがやけにあまりに装飾や見た目に大きな違いがあったので、長い間向こうの世界で生きてきた彼にとっては違和感を覚えてしまう程であった。

 自分は立ち止まり、まるで感動に浸る様にして左手をポケットに突っ込み、右手で書類やその他の道具等を詰めたカバンをぶら下げながら学校の事を眺めている中、周りの他の生徒は自分の事なんて目もくれず、ぞろぞろと友人と話しながら、一人で静かに正面の門をくぐって行く。自分もそろそろ行動した方が良いだろうと考えた。いつまでも立ち止まっている訳にもいかないので、彼は足を動かし、その場から動き出した。

 そして取り敢えずいきなり教室に突撃する前に、まずは転校生として手続きやその他説明等を受ける必要があるだろう、現に管理者である彼からは「まずは校長室に凸れ」と言われていた。入学手続きや経歴などの連絡等は全てあの人がやってくれていた様なのでそこら辺の心配はあまりしなくて良いらしい。あまり感謝はしたくはなかったが今だけは感謝させてもらう事にした。


「さて、行くか…」


 一応の期待とこれから始まる学園生活に楽しさを心の中に秘めながらゼノは学園の門をくぐり手始めに校長室へと向かうのであった。


 ◇◇


「初めましてと言っておくべきかな?「ゼノ・ケイオス」君。私はこの「エンシャント魔法高等学校」の校長を務めている「アベルト・サンディアース」だ、どうぞ宜しく」


(この学校ってそんな名前だったんだ、知らなかったぜ……事前情報ぐらい寄越せよ、あの馬鹿作者…)


 どうやら、この魔法高等学校には適切な名前があった様であった。残念な事にゼノはその事については一切理解していなかった。お膳立てと準備は全て管理者である作者がやってくれていたらしいので、詳しくは分からなかったので当たり前かもしれないがせめて名前ぐらい教えてくれても良いんじゃないかな?とゼノはふと思った。しかし前の事を悔やんでもどうにもならない、後の祭りなので今は目の前の事に集中する事にした。

 ゼノは校長室の前に着くや、綺麗で汚れが全くと言って良い程、見当たらない二枚建ての木の扉を数回ノックし中からの指示を聞くなり部屋の中へと冷静な足取りで入った。

 校長室の中は自分が思ったよりも広かった。しかし実際は校長室なんてゼノは一度も入った事がなかったので広いか狭いかの判断基準なんて自分には分からなかったが、取り敢えず普通の教室ぐらい?だと例えておくのがゼノは無難だと感じ、その考えを凍結させる。そして入るなり、正面には燭台や、書類等が置かれた大きな机が部屋の三分の一程を支配する勢いで設置されていた。何ともテンプレ的配置だとゼノは感じた。大きく、使用用途が山の様にありそうな机の後ろに回る事が可能な椅子、ガラスの様な透明な板が貼られた窓、更には学校訓の様な物が紙に書かれ、豪勢にも額縁の中に入れて、上に飾られている。周囲には読み切れなさそうな程に、本棚に敷き詰められた本や今までの大会や決闘等で手に入れた生徒達の功績を綺麗に設置している棚等何故か学園系漫画では何処かで必ず見た様な光景がゼノの双眸に飛び込んで来たのであった。


「初めまして、校長先生。改めまして、本日よりこの魔法高等学校に生徒として出席させてもらう「ゼノ・ケイオス」です。よろしくお願い致します」


 ゼノはその場に背筋を伸ばしながら、校長であるアベルトに向かって、深々と頭を下げた。しかし礼儀正しく敬語を話したゼノとは裏腹に、アベルトはゼノの言葉に対して、すぐさま言葉を返した。


「ハハッ、そう畏まらなくとも結構だ。これからはこの学校の一人の生徒として、頑張ってくれ。転校生と言う事もあって、期待しているよ」


「わ、分かりました……一人の生徒として精一杯努力します」


「よし、気合十分だ。それじゃ早速だが君が授業を受ける教室に向かってもらう。私の隣に立っているのが君のクラスの担任の先生だ」


 そう言うと、椅子に座り込んでいたアベルトの隣で立っていた女性の教師がゼノに向けて軽く会釈をしてくれた。人間の第一印象は約三秒程で決まると言うが、ゼノから見れば決して悪い人には見えなさそうであった。まだ歳は若く、教師になって年も浅い様に感じられた。若年ながらも美しく、教師としての威厳を保っている様にも見えてきた。

 そうやってゼノが一人で担任の先生について考え込んでいる中、ゼノの担任である教師は校長に案内される様にして、ゼノと距離を詰めた。そしてゼノの少し前に立つと、アベルトの時と同じ様にして彼女もまた自己紹介を行ってくれた。


「初めまして、ゼノ・ケイオス君。私は貴方の担任を務めさせてもらう「マリー・ゲイザーム」と言います。気軽にマリー先生って呼んでくれれば良いので、これから一年間、よろしくね」


「はい、よろしくお願い致します」


 背丈が169cm程あるゼノよりは低く、何処か小動物を彷彿とさせる様な姿、少し小柄で可愛さと愛らしさがあり、戦いがあまり好きそうではない様な感じがする。しかし博識ではありそうだった。取り敢えず悪い人ではない事だけは確かの様だった。

 深く足を突っ込まない程度には気を許しておけば良いだろうとゼノは思い、マリーが自己紹介を終えると同時に、校長であるアベルトにお辞儀をした時と同じ様にしてもう一度頭を下げた。


「それじゃ教室に案内するから、着いてきてね」


「分かりました」


 そう言うと、ゼノとマリーは校長室を立ち去った。アベルトは椅子に座り込んだまた二人を見送り、ゼノは自分に似合わない期待を胸にしまい込みながらマリーの後を追いながら、教室へと向かって行くのであった。


 ◇◇


「あの、ゼノ君。ちょっと良いかな?」


 いざ教室の前に辿り着くと、ゼノは突然としてマリーに呼び止められた。しかしその口調は何処か物悲しさを語る様な冷たく冷ややかで恐怖と怯えを感じさせる様な悲しみの混じる口調であったのだ。

 いきなり何か問題を起こした覚えはないのだが、取り敢えずゼノはマリーの言葉に耳を傾けた。


「どうしましたか、先生?」


「ゼノ君って確か、貴族とかの出身じゃなくて……平民の生まれだよね?」


「はい、そうですが(嘘だけど)」


「先生は差別なんてしたくはないんだけど……今のこの社会には昔から変に受け継がれている選民思想が残ってるの。特に貴族や王族生まれの子は平民は下級の貴族を差別する風潮にあるの……先生だって、そんな事はしてほしくないんだけど、変に残ってる考えを変える事は簡単に出来なくて……もしかしたら、助けられない時もあるかも……」


 どうやら、未だに自分の生まれの地位を利用して下の者を侮辱したり迫害、差別する馬鹿げた考えはこの世界にも根強く残っている様であった。現にゼノは建前ではあるが、生まれも育ちも平民と言う事に履歴書には記載されている。恐らくだがその事を知っている者は既にいるだろうし、先程の話を聞く限り自分のクラスにも先程言った様に下の者を差別する様な奴も少なからず存在しているのであろう。

 名門の貴族は下の者を差別、迫害して馬鹿の様に笑う。想定の範囲内の事ではあったがどう返していくかが問題だった。先生の様子を見るなり、先生も注意はしたいが変に注意し過ぎてしまえば自分よりも上の貴族や王族に手痛いお仕置を喰らう可能性だってある。だから、自分に対して助けられない時もある、と言ったのだろう。しかし凱亜だって状況は違ったにしろ、同じ様な目に遭っている。

 残念な事に、ゼノ・ケイオスと言う名の不知火劾と言う名な男は不知火凱亜よりも非情で残忍な心を持つ男であった為、問題にはならないと感じた。それにそう言った奴に限ってプライドは異質な程までに高い、へし折るのもまた楽しみの一つであろうとゼノは感じた。


「問題ありませんよ、上手い事回避しますから」


「本当にごめんなさいね、力になれる事があったら言ってね。先生だから、頼って良いんだよ」


「えぇ、その時はお願い致します」


 その言葉にマリーは少しだけ嬉しさと笑いのある表情をゼノに見せた。そして、ゼノの方を向いていた彼女であったが笑いを見せたとほぼ同時のタイミングで教室の扉を開いて、ゼノよりも一足先にマリーは教室の中へと足を踏み入れた。


「は~い、皆席に着いて!」


 マリーが教室に入るなり、先程自分と話している時よりは少し大きめの声で既に教室の中に入っている生徒達に座る様に、と呼びかける。

 ゼノはてっきり、教師であるマリーの言葉に従わずに反発するものかと思っていたが、以外にもマリーの一声によってクラス生徒達は簡単に席に着いた。教室の外から中を拝見する事は出来なかったが、先程まで生徒達の声で騒がしかった教室がマリーの一声で静かになった所を見ると、一応今は全員席に着いている事で間違いはなさそうであった。


「今日は皆さんにお知らせがあります!……転校生です、入って来てください!」


「………」


 ゼノは無言のまま生徒達の方向を向かずに、教壇に立ちながら、ゼノの方を見つめるマリーの方へと双眸を向ける。歩いている間、生徒達の方向は一切向かなかったがある程度進んだ所でゼノは立ち止まると、右方向に体を向けるのではなく、教壇の後ろに設置されている黒板に背を向け、数十人程が席に着いている生徒達の方向を向き、その双眸で生徒達を見つめる。


「それじゃ、自己紹介お願い出来るかな?」


 マリーの言葉にゼノは首を縦に振って頷くと、自らの右手を胸に淡々とした口調と無表情に近い表情で自らの事を簡単に話し始めた。出来るだけ悪い印象は与えずに自分の裏を知られぬ様な話し方をしなければならないとゼノは心掛ける。


「皆さん初めまして、今日よりこのクラスの仲間になります「ゼノ・ケイオス」と申します。力不足故不便で至らない所もあるかもしれませんが、何卒宜しくお願い致します」


 ゼノは可能な限りで丁寧な挨拶をしたつもりであった。可能ならあまり歪んでいる思想を持つ者とのいざこざは避けたいものなので、変な印象を持たれない様にしたいのだが、そう思う様にいかないのがこの世界。早速痛い所を突かれる様な質問をされてしまった。


「ケイオス……?聞かない名前だな。お前何処の所の貴族なんだ?」


「ち、ちょっと!ガーター君!いきなりそんな事…」


 痛い所を突かれてしまった。まるでいきなり出鼻をくじかれた様な気分になった。出来ればあまり触れないでほしい所に触れられてしまい、ゼノは僅かにではあるが歯噛みする。マリーが止めに入ってくれていたが、どうやら相手は教えてくれなかったら、余計に興奮しそうであった。包み隠すのは間違いかもしれないとゼノは感じた。多少なりとも悪口や陰口を言われても心配はないので、ここは正直に答える事にした。


「平民です。私は平民出身です……」


「は、はぁ!?お前、平民出身なのか!?」


「聞いた?平民だって……」


「ここって平民が来る様な場所じゃないわよね?私達みたいな高貴な人間のいる場所でしょ?」


「汚らわしいぜ……平民風情が俺達貴族と同じ場所に立つなんて」


 予想していた通り、と言う事であった。質問して来た奴からは睨まれ、周囲の人間はまるで自分に聞こえる様な程の声で囁きながら自分に向けて陰口の様な心無い言葉を浴びせてくる。

 いきなり貧乏くじを引かされた様な気もするが、過ぎた事を気にしても意味はない。今の状況を素直に受け入れるしかなかった。

 それにこうなる事も前から想定済みだ、自分の願いを叶える為だ、ここは飲み込む事にしよう。何も言わずに大人しくしている方が余っ程安全だ。


「はいはい!授業始めるからね!ゼノ君は………えぇっと…じゃあ、学級委員長のマリス君の隣で!マリス君、構わないよね?」


「え?僕は別に構いませんよ!」


 マリーの大きな一声でクラスの皆はビクッ、としたのだろうか。教室は少しの間だけ静寂に包まれた。マリー先生には感謝した。このままだったら余計に悪口を言われる羽目になってしまっていたからだ。

 そして、どうやら学校委員長を務める人の横に座れば良いらしい。ゼノは周囲の反応を気にする事なく、その声の先の方向へと進んで行く。幸いにも声で場所は分かっているのであまり不安はなかった。


「あ、よろしくね。ゼノ君、隣座って良いから」


「あぁ、すまない」


 ゼノはマリスを見た時ふと思った。彼の脳内では幾つかの思考が交差していた。勿論かなり高速且つ誰にも見られたくない様な思考であった。


(若干小柄、雪色髪、ボクっ娘、声綺麗………何だこの完璧な美少女は…)


 こんな可愛い生徒の横になれた事だけは幸運だったかもしれない。取り敢えずこの事だけは幸運だったと記憶する事にした。


「僕は「マリス・ヴァンパッテン」これからよろしくね」


「さっきも言ったかもしれないがゼノ・ケイオスだ、よろしく頼む」


 二人は座ったまま、僅かに照れ臭そうにしながらも会釈を交わす。それと同時に、マリー先生による授業が何の前触れもなくいきなり始まったのであった。嫌な予感続きしかしないが、取り敢えず今は現状に慣れていく必要性があった。まずは少しづつ侵略を進める事にしよう。時間にまだ余裕はあったので、落ち着いて行く事にした。

 授業何て最初は何を言っているのかなんてさっぱりであったが、転校生と言う身でこの場に自分はいる。少しづつ進めて行く事にしよう。


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