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10話「記憶」

 




 この世界に召喚されてから、一ヶ月が過ぎようとしていた。未だに気分が悪かった、ベットから起き上がるのも辛いぐらいだ。



 たまにはクラスの仲間達とダンジョンに行く事もあるが、仲間と共に戦い勝利しても敵を倒した嬉しさは全く感じられるものでは無かった。

 大切な物を失った時程悲しい事は無い。しかし今はまさにその状態だった。

















(凱亜…本当に死んじゃったの?私は信じない。凱亜が死んだ事を信じたくない)



 美亜は一週間程部屋に引きこもっていた。凱亜が勇者チームから追放されてしまい、少し経った後には凱亜が死んだ情報が舞い込んできたからだ。美亜は凱亜の事を大切な友達と思っていた。もしかしたら彼の事が好きだったのかもしれない。しかしそんな事は彼女には分からない。今はご飯もあまり喉を通らない。ベットに入ったまま頭を抱える。「自分は今どうしたら良いのか?」その考えがずっと頭の中を彷徨い続けていた。



「美亜?入るよ」


 静流がドアをノックした。それに美亜はドアを静かに開けた。





「まだ凱亜君の事で?彼はもう死んだのよ。いつまでも引きづっていたら…」


「嫌なの…」


「何が嫌なの?美亜」


 拳を強く握り締める。彼女はさっきまで下に向いていた顔を上げる。


「凱亜が死んだ事が嫌なの!凱亜があんな事をしていたのなら…私も凱亜の事を少し疑ってしまうかもしれない。でも私は凱亜が生きている事を信じたいの!凱亜は死んでない。死んでなんかないのよ!」


 美亜は静流の体を掴む。それに静流は美亜を抱いた。


「そう…凱亜君が生きていたいと信じたい。その気持ち、私にもよく分かるよ。私も凱亜君には…生きててほしいから」


「静流?まさかあなたも?」


「違う!」



 その発言に静流も凱亜の事が好きなのでは?と疑ってしまうが、本人は否定しているので「大丈夫だろう」と思った。美亜は少しだけ安心した。凱亜はきっと生きていると。自分の目で彼の姿を、たとえ彼が死んだ姿で私の前に現れたとしても。


「そうだ美亜。あなたにとって最高のニュースを聞いたわ」


 あなたにとって最高。その言葉に静流が何を話そうとしているのか分からない。頭の回転が鈍い美亜には困難な事だ。



「あの遺体。凱亜君の遺体じゃ無かったみたい」


「え!?それって本当?」


「死体を検査した人から聞いた話では、あの遺体。死後三週間だったみたい、かなり腐敗が進んでたみたいだから。私達が凱亜君の死を知った時はまだこの世界に来て一週間と三日後のことだから時間が合わないの。だから…凱亜君は今もどこかで生きているよ。きっと…凱亜君は1人で誰かを待っている。美亜…凱亜君を見つけよう…でもこの話は私と美亜。そして悠介君達のチームにしか伝わってないよ。銀河や達哉君に教えると…色々と面倒な事になるから。後王様も知らないみたい。王様にこの事を伝えると首を斬られるかもって言ってたから」


「そうなの…凱亜はまだ死んで無かったのね…静流ありがとう。今までで私は一番嬉しい事を聞けたよ…静流、必ず凱亜を見つけて、ここに戻って来てもらおう。それまで死なないでね」



「それは美亜もだよ」



 美亜は突然元気が出てきた。前までベットから出るのも一苦労だったが、急に巣立った鳥の様にそして飛び上がる様に立ち上がる事が出来た。静流は美亜の手を握っていてくれた。美亜は静流に笑顔を見せ、部屋のドアを開ける。部屋から久しぶりに出た、体が訛っていると思った美亜は体を動かす為に外に走って行った。



(美亜…また一歩成長したね)











 枕の下に顔を埋める。(自分のせいで…自分のせいで)と心の中で何度も連呼する。しかしそんな事を嘆いても、何も変わる事は無い。彼『裂罅悠介』は自室のベットの中に隠れていた。自分のせいで凱亜はこの場所から追い出されてしまったのだと思い続ける。



 あの時自分が凱亜を引き止めて長話に付き合わしたのが原因と思った。あの時凱亜に話をしていなかったら…彼が同じチームの人間とはぐれる事も無いと想像していた。


 自分が話しかけずに、チームの奴らと行動させていたら、凱亜がこの勇者達のチームから追放される事も無かったと思う。







 裂罅悠介は凱亜とは何度も交流を重ねていた人物だ。隠している事実だが、本当はかなりのアニメオタクでもあり、ゲームオタクでもある。実際何度も凱亜の家に足を運び、彼の部屋で高難易度のシューティングゲームをずっとやっていた。それが楽しかった。オタクの事を話せば、周りからは悪口や陰口を言われ、自分が不登校になるかもしれない。ずっとオタクである事実を凱亜と共に隠していた。しかし凱亜はその事実を言っていないにも関わらずイジメを受けていた。クラスのアイドルでもある美亜と仲良くしている事に腹を立てた男子達が起こしている事だった。それに自分は何も言わなかった。違う、言わなかったのでは無い。言えなかった。怖かっただけだ。自分が言えば、自分もイジメを受ける事になる。それが嫌だったからだ。この世界に召喚されても、凱亜が嫌な顔をしている所を何度も見た。励ましの言葉を言うつもりだった、なのに自分は凱亜のいた場所をこの手で破壊してしまったのだ。あの時、そんな事を凱亜がやったとは信じられない。凱亜は第一そんな事をする人間じゃない。あまり話さずクラスメイトと親しくはしないが、実際は家族にとても優しく本当に親しい人とは仲良く接してくれる事を自分は知っていた。

 なのに今度は自分が凱亜を貶めてしまった。死んだと聞いた時は全身の産毛が逆立つ様な寒気に襲われた。後に死んではいなかったと静流さんから聞かされた時は少しばかり安心したが、自分の心の中には罪悪感がずっと残り続けていた。






















 そして今は立ち直れていない。同じチームに自分が引き起こした事を話した。周りは自分の過ちを慰めてくれた。真太郎も「今までも気にする事は無い」と言ってくれたが、自分からどうしても罪悪感と恐怖が消えない。その事を考えるとまた体が震える。ベットの隅でガタガタと震える。安心を求めても何も無い。

 そんな絶望的な状況に直面していると真太郎達が悠介を訪ねてきた。





 

「おーい悠介、大丈夫か?」


「よぉ真太郎。見ての通り元気じゃないよ」


 今は全く元気じゃ無い。逆に今元気になる方が難しかった。


「悠介。咲と雫も来てるぞ。そろそろ戻ってこないか?いつまでも俺達3人じゃ厳しいんだ」


「悠介、いい加減に戻って来なさいよ。不知火の奴は生きてるって分かったんだから、また会えた時に謝れば良いじゃない」


「私も同じだよ。悠介君も戻って来て…悠介君が起こした事はまた反省すればいいの。今は目の前の事を見て、後ろの事ばかり見てちゃ前に進めないよ」


「な?戻って来い。お前を待っている人もいるんだ。レベルも全く上げてないだろ?レベル上げには3人で付き合ってやる。だから今は前の事を見ろ。不知火にはきっとまた会えるさ」


 真太郎も咲も雫も戻ってきてほしいと悠介に頼む。その質問に悠介は少し口が塞がるが、ここで言わなければ、自分は昔の弱い自分と同じだと思い、決意を固める事にした。


「分かった!戻るよ。今は前を見る。後ろの事を気にするんじゃ無くて前を見るよ!」



 悠介はベットから立ち上がり、すぐに着ていた服を変える。



「良く言った。男だな…悠介」


 まるでオヤジが言いそうな事だが、真太郎は見た目がおっさんの様で、本当にオヤジみたいに見える。空手部だからだろうか?咲と雫も悠介の回答に嬉しく思ったのか、親指を立ててくれた。



「悠介!あなたのレベル上げには私達がいっぱい付き合うからね!」


「私も…咲みたいに上手くサポート出来るか分からないけど、レベル上げ頑張ろうね悠介君」



「皆…色々迷惑かけてごめんなさい。これからは世界を救う為に一生懸命頑張るよ」



「良し!その意気だ!じゃあ、久々に4人で行きますか!」


 真太郎が叫ぶと、悠介も使用している長剣を引き抜き、4人で走り出した。




(凱亜…俺は前を向くよ。後ろばかりを見るんじゃなくて、前を見て走り続ける。走り続ける先にきっとお前はいるんだろ?凱亜…)















 王国の下の方の街にヴォラクとサテラはいた。暇を潰す為に。休憩の為に横長の椅子に2人は座っていた。







「主様?寒いのですか?」


 突然ヴォラクはくしゃみをしてしまった。かなり大きい声でくしゃみをしてしまったせいで周りから少しの間見られたが、多人数に見られる事には慣れている。



「いや寒い訳ではなくて…誰かが僕の事で話してると思ったからだ」


「それはどう言う事ですか?」


「深くは考えないでくれ」





 その答えにサテラは「分かりました」と手短に返事をした。誰にだった深く聞かれたくない事の一つや二つはある。今はその答えを聞く事はやめる事にした。






「暇だけど、また敵を狩りに行くか…?」


「良いですね。またモンスターを狩り殺す事が出来る…」


(サテラ…いつからこんな事言う様になったんだ?)




 変な疑問を抱えながらもサテラと共に人が大勢歩く道を歩いていった。その時ヴォラクはふと思った。


「今クラスの奴らはどうしてるかな?」と…


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