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107話「追放者再臨」

 

「このぉぉぉぉぉぉぉおお!」


 銀河は怒り狂う狂戦士の様にして、強過ぎる怒りの表情を見せ、喉が潰れてしまう程怒鳴る様にして叫ぶと、瞬時に鞘に納められていた専用の魔剣を素早く引き抜くと、すぐさま詠唱もなしに放つ事が出来る強力な斬撃波を放つ。空中なら地上と比べれば回避はしにくいはずだ。姿勢制御や回避は難しくなる。

 そして銀河が思い切り魔剣を振るった事で魔剣に込められた魔力は鋭い刃の形を型どり、空中にその斬撃波が放たれる。放たれた斬撃波はその軌道を一切変える事なく、真っ直ぐと空を斬りながら空中で浮遊する不知火の元へと一直線に高速で他の追随を振り払う勢いで向かっていく。

 可能なら一撃で仕留めたかった。大切な仲間を殺した罪は重過ぎた事であった。銀河は今怒りの感情に完全に支配され、不知火に対して大き過ぎる怒りを向けながら攻撃を仕掛けていた。その力は絶大な怒りが篭もった事により、通常の時よりもより大きな力となった。


「大道芸か!?」


 ヴォラクは素早く新型の装備である改良型のマグナムである「ゲイル」を一度ホルスターに収納するとすぐさま近接戦闘用武装であるビームサーベルをすぐさま利き手の右手で強く握り締めると、ビームサーベル内に設置されている「魔力生成石」とエネルギーを圧縮した専用の小型バッテリーによって生成された実体のないビームの刃を形成し、自らの首を掻っ斬る様にして一直線に高速で飛んでくる魔力によって形成された斬撃波をビームサーベルを薙いで、簡単に打ち消してしまったのだ。

 ヴォラクの使用するビームサーベルは魔力と特殊エネルギーにより稼働している為、スペック的には通常の兵器よりも高い出力を誇っている。その為通常のスペックを上回る勇者の放つ技などヴォラクが制作したビームサーベルの前では無力に等しい。


「はっ!」


 案の定、ビームサーベルを薙いだ事により、銀河が不知火へと向けて放った斬撃波は意図も簡単に、まるで赤子の手をひねるかの様にして掻き消されてしまい相殺される事もなく、打ち消されてしまったのだった。


(……来る!)


 銀河がそう心の中で強く叫ぶと、羽織っていた魔法耐性が付与されているマントを壁替わりにして、銀河は自らの身をそのマントの後ろに隠して、その場に頭を下げて、姿勢を低くした。勿論だが、怖くなっておめおめと戦意喪失してしまった訳ではない。身を隠した事により、命中に多少のズレが生じる事を計算した上での行動だった。それにこの羽織っている専用のマントには魔法耐性が付与されており、魔法に対する攻撃はこのマントがいつも身を守ってくれていた。今回も上手い事守ってくれるだろうと、銀河は思った。そして防いだ直後に反撃を行うはずだったのだが。


「何だと!?」


 攻撃を防ぐはずだったのだが、不知火はビームサーベルと銃と言うスタイルから先程と同じ様にして、再び二丁拳銃に持ち替えると相互に連続して銃を撃ち続けたのだった。

 この二丁の銃はヴォラクがかつて愛用していた二丁の愛用拳銃である「ツェアシュテールング」と「リベリオン」をベースに新たに改造を加えた新型の兵装である「ゲイル」そして「ヴァン」と言う名前の兵装だ。

 両者共にマグナムやデザートイーグルと同性能の威力を持ちながらも、転送先で見つけた最新技術の度重なる改造により反動を極限まで削り、片手でも難なく撃つ事が出来、更には速射、マシンガンやマシンピストルとまではいかないが僅かながらも連射も可能など、殺傷にとにかく特化させたオリジナルの兵装だった。恐るべき兵器の力は、魔法に対して耐性があるマント等簡単に風穴を空け、まるで侵略するかの如くマントを破壊していく。


「もうもたないか!」


 銀河は歯を噛み締め、苦汁を舐めるかの様な苦い表情を見せながらも、首を動かして不知火から視線を逸らし、一度だけ横を見る。このままでは簡単に撃ち殺されるのが目に見えている。

 銀河は急いでこの場を離脱し、他の場所で戦闘を継続するか仲間か国の者達に援護を要請しなければならない。その為には一度この屋根上から退却しなければならなかった。

 しかし自分の横には仲間である万里花の亡骸が無惨にも水を零すかの様にして赤い血を流しながら、冷たくなり倒れている。悲しい事ではあったが、今からの蘇生はもう期待出来ないだろう。正確に眉間を貫かれていた、即死だろう。


「くっ、すまない……!」


 銀河は戦闘の邪魔になると考え、羽織っていた傷付いたマントをその場に脱ぎ捨て、傍で血を流しながら倒れる万里花に手を合わせる事も出来ないままその場から、高速で立ち去った。すぐさま身体能力と速度上昇のバフを自分にかけると、一度不知火から距離を取る為に急いでその場から去っていった。

 自らが知る記憶なら、不知火は普通に皆が使える魔法なんて一切使えなかったはずだ。つまり約立たずで利用価値のないゴミ同然の存在だ。

 意図せぬ形で奇襲を受けてしまったとは言っても勇者の速度上昇に着いてはこれないだろうと、銀河は考えた。


「戦線離脱か………姉さん、そっちの方は?」


「問題ないぜ!こっちも一人確保したぜ、もうあのからくりに渡してある!」


「OK、紗夜。そっちの方は?」


「はい!ページさんにちゃんと持たせてますよ!」


 通信により、状況は完全に把握出来た。ヴォラクは戦線離脱してしまった銀河を追う事はなく、通信をしたまま血雷や紗夜と連絡を取り合っていた。そして向こうが作戦に成功した事を知ると、僅かに身を震わせると同時にニヤリと悪い笑みを見せながらその場に棒立ちしながら、次の指示を出した。


「総攻撃を仕掛けるぞ…」


 そう生気が籠らぬ様にしてヴォラクが言うと、再びその場から加速バーニアユニットの出力を上げ、一気に銀河が逃げていってしまった方向へと向かっていったのであった。その場に残る亡骸何て一切見る事はなく、万里花の亡骸は非情にもその場に置き去りにされてしまった。


 ……


「残酷なものだな……少し、下種に助け舟を出してやるとするか…」


 そう言うと、何者かはヴォラクが完全に消失した場に突然として現れた。何者かは屋根の上を歩くと、徐々に軽快な足取りで万里花の亡骸へと歩み寄っていく。

 そして徐に万里花の亡骸の傍でしゃがみ込むと、万里花の美しい髪を少し動かし、撃ち抜かれた眉間が見える様にした。そして撃ち抜かれ、赤い血が止めどなく流れる眉間に何者かは手を置いた。


「ふっ……」


 その言葉を何者かはその場から消えた。そして次の瞬間、万里花は眉間を容赦なく撃ち抜かれていたはずなのに、間違いなく撃ち抜かれた事による即死であったはずなのに。突然として瞼を動かし、その目を開いたのであった。


 ◇◇


 銀河は勇者が覚える事が可能など能力の一つである身体能力上昇と空中浮遊、空中移動+高速を使用し、屋根から屋根をつたって走りながら離脱するのではなく、より素早く移動を行う為に空中を浮遊し、高速で低空飛行を続けていたのであった。屋根から屋根を走っていくよりもこちらの方がまだ速度は速く、一時的に逃げの姿勢に徹するのなら、空を飛ぶ方が効率的に見れば良い方であったのだった。

 しかし、相手もそれを真似る様にして空からの攻撃を、しかも連続して仕掛けてきたのであった。

 銀河は身を隠す様にして、魔力の出力を通常の時よりも倍以上にして高速で街の中を縦横無尽に飛び回る。今は幸いな事に昼過ぎと言う事もあり、街の人々の数は疎らだった。多少の被害は誤魔化す事が出来るだろう。

 銀河は建物の角を曲がり、戦闘場所を変えようとしたのだが、建物の角を曲がった時銀河が見たものは先程よりも更に恐ろしい光景であった。銀河は勇者でありながらも身震いを起こし、戦力の差と言うものをその身で実感した。


「嘘……だろ!?」


 空中を高速で移動し建物の角を曲がった時、まるでその先の道を塞ぐ様にして、三人の私兵が立ちはだかったのだ。しかも全員が簡単に対人を殺す事が出来る武装を装備し、不知火が自分に対して向けていた本気の殺気と変わらない程に強い殺気、そして不知火と同じ様にして背中には空中を高速で移動が可能なユニットを装備していた。しかも揃いも揃って三人共に見覚えのある人物であった。

 先程までは、椅子に座り短く無意味でありながらも無実の証明をしようとしていたあの女性達が今自分の目の前に立ちはだかり、しかも容赦のない殺気を向けながら出会い頭にいきなり攻撃を仕掛けてきたのであったのだ。

 最初に勢い良く攻撃を仕掛けてきたのは、殺気を込めた目が合うなり素早く鞘に納められた長刀を引き抜くなり自らの元へと一番高速で詰め寄る血の様に赤い髪の女性であったのだった。速すぎて初速は捉えられない程の速度で自らに詰め寄ると引き抜いて抜刀した長刀の鋭く鈍く光る刃を銀河に向けて振り下ろしたのだった。

 しかし銀河は簡単にその刃で体を斬られる事はなかった。すぐさま自らの右手に固く握り締めていた魔剣を用いて、その振り下ろされた鋭い刃を受け止め、互いに鍔迫り合いを起こす。しかし長時間鍔迫り合いを起こしていてはこちらが押し切られてしまうのが目に見えていた。

 相手の力は女性でありながら、勇者であり能力にも補正が付いている銀河すらも凌駕しかねない程の力であり、押し切られるのも時間の問題であったのだ。しかも相手は三人もいる、完全に多勢に無勢だ。足なんて止めてその場に滞空したりなんてしていれば、それは例の良い的だった。互いに斬り合う時間は最小限にしなければならない。

 現に今斬り合っている敵の後ろには二人の違う私兵が自らを狙うかの様にしてこちらを見ていた。


「クソが!」


 銀河はやはり正面からの戦闘は無理だと判断した。正面から魔剣一本でやり合っていては埒が明かないし、多勢に押し切られる可能性がある。銀河はもう一度逃げの姿勢に徹する事にし、今度は街の中心を突っ切るのではなく、暗く人通りが全くと言って良い程ない路地や人気のない道を進む事にした。剣を自らの魔剣で振り払い、敵に背を向けながら全力で銀河は逃げに徹する。


「逃がすな!サテラ、シズハ殺さない程度に撃て!」


「了解です!」


「牽制代わりだよ!」


 銀河は後ろをチラチラと向きながら、一旦暗がりで何もなく人気が全くない路地へと素早く逃げ込むと同時に敵から距離を取る為に路地の中をどんどんと突っ切りながら進んでいく。

 しかし敵も追撃と追跡の手を緩める事はなく、気が付けば銀河が首を捻って後ろを少しだけ振り返った時には既に敵三人共に銀河に張り付く様にして彼の事を追いかけて来たのだ。


 しかも今度は先程長刀により自らに斬りかかってきた赤髪の和装をしていた女性とは別に今度は後ろの紫髪のポニーテールの女性と巫女服に身を包み、亜人の様に頭の上に二つの耳を生やし、狐の様な尻尾を揺らすの女性二人が今度は容赦なしの銃撃を行ってきたのだった。

 二人は絶え間なく、連続して銃弾とビームによる弾幕を形成し、銀河にその弾幕が当たるのではなく掠らせるかの様にして若干外すかの様にして銀河に向けて銃弾とビームを容赦なく射撃する。

 当たれば、命中箇所が何処であろうと重傷を負う事は避けられない事だった。特に銃弾に至っては過去に一度撃たれた事がある為、銀河はその痛みを強く知っていた。

 自分のプライドを守る為言いたくはないが、もうあんな痛い思いはしたくはなかった。血が吹き出し、肉が裂かれ、侵略する様にして広がっていく傷と痛み銀河はあの時彼はその痛みをその身で強く味わった。二度と苦しいあの痛みを味わいたくはない。銀河はその一心なのかは分からないが、魔力を消費して反応速度を更に上昇させる。

 一時的ではあるが反応速度を上昇させる。銀河は自分の力には絶対的な自信と信頼があった為、弾道を予測出来るだろうと確信した銀河はそのまま路地の奥へと進んでいく。

 しかし相手は追跡の手は緩めない。常に一定の距離を保ちながら連続で屋根の上や自分の背後、自分の上から絶え間なく攻撃を行ってくる。銀河はその攻撃を全て避け切る為に今は身体能力上昇に全魔力を集中させ、極限まで身体能力を上昇させる。

 銀河は逃げに徹底し、今の自分が引き出せる最大力で極限まで上昇させた身体能力で、映画のスタントマンやスーツアクター顔負けのアクロバティックな動きで敵の攻撃を紙一重で回避し続けた。時には路地に置いてあった誰の物かも分からない障害物を利用して移動を繰り返し、宙返りやバク転、更には身体能力を上昇した事により開放される自らの力を最大限に活用し、敵の攻撃を避け続ける。


(クソ!動きは完全に向こうに筒抜けてる、それに簡単に侵入を許してしまった。しかも連携が俺達よりも圧倒的に上だ、速度も速過ぎて振り切れない!合流も厳しいか!?…………それに、何で死んだはずのアイツが普通に生きてるんだよ!)


 銀河はそう心の中で考え、歯を噛み締めながら苦い表情を見せる。銀河の顔にも少しばかりではあるが疲労の表情が見え始めた。魔力の急速な大量の使用や体を絶え間なく激しく動かし続けた事により、体には重過ぎる疲労が覆い被さる様にして襲いかかり、銀河の動きを封じるかの様にして降り掛かる。


「な、しまった!」


「右目もらってくぜぇ!」


 疲労により、振り切る事にしか思考が回っていなかった銀河は気が付けば、自分の剣を振る間合いに敵の接近を許してしまっていた。銀河は魔剣を右手に握っていたが、今の彼にとって右手に握る魔剣はただの重しに等しく、今すぐにでも手放したい程重く感じていた。疲労が溜まる体に剣を振る活力は残っていないに等しい事であった。

 銀河は剣を振り迎撃する事は出来ず、結局は重くなりつつある体を振り動かし、回避に徹する事しか出来なかった。


「ぐぅ!」


「オラァ!吹っ飛びやがれ!」


 銀河は身を振って、赤髪の女性が握る長刀による攻撃を避けようとしたが、やはり敵も優れた力を持っているとだけあって、疲労した状態で身を振っただけでは攻撃を避ける事は出来なかった。長刀の鋭い刃は銀河は右目を的確に抉る様にして後方から刃の尖端が放たれたが、まさに首の皮一枚で躱し、直撃は免れた。しかし刀の刃は髪を切り落とし、彼の頬を浅いながらも切り裂いた。

 しかしあの鋭い刃で頬を切り裂かれた事で頬の皮膚は切り裂かれてしまい、赤い血が頬から漏れる様にして吹き出し常に鈍い痛みに襲われる。そして次に来るのは背骨を砕く勢いの凄まじい威力の蹴りだった。殺すのではなく正面に蹴り飛ばす為の蹴りだろうと銀河は判断した。

 そして銀河の背後に向かって放たれた蹴りは、背を向けていた状態での蹴りであったが為に防御など出来る訳もなく、銀河は強烈な蹴りを背骨に直に通る程の勢いで入れられると、バランスを大きく崩し、滞空出来ずに空中を回転するかの様にして、強風に揉まれる木の葉の様にして宙を舞うと、路地を抜けて正面の建物に思い切り突っ込んでしまったのだった。

 容赦なく吹き飛ばされた銀河は正面の建物のドアをその身で突き破り、破壊しながら建物の中へと侵入する。


「ガハァ!」


 内部の人間は圧巻の一言だった。全員食事をしたり、雑談を行っていたのだが、突然として二枚式の扉が何者かによって破壊され、急に何者が入ってきたのだ。驚きの表情を見せるのは仕方のない事であった。宿の中にいた客達は急過ぎる展開に言葉すら出せず口をポカンと空けて、突入して来た銀河の事を驚きと恐怖の目で見つめた。


「な、なぁあれって天野銀河じゃないか?」


「あの召喚された勇者の最強格か!?何でこんな所に!?」


 そして建物の中へと侵入した銀河ではあったが、その侵入は半場押し入り、強制侵入に近いものであった。蹴られて吹っ飛ばされた衝撃により、ドアをその身で破壊し、突き破りながら侵入したのだ。これは普通に入ったとは言い難い事であった。しかも突入してしまったのはまだ人がいる宿であった。

 関係ない人を戦いに巻き込むなんて以ての外だ。出来る限り被害は最小限に抑えたいので銀河は追い込まれる状況でありながら、何とか打開出来る策を模索する。


(ヤバい……このままだと殺られるのが目に見えてる。最悪だな……)


 しかし状況は最悪の一言と言っても過言ではなかった。まず今の銀河の居場所についてだが、それだけは地獄に仏だと思えてきた。

 建物に思い切り突っ込んだ彼は、そのままカウンターの後ろに飛び込む事が出来た。運良くカウンターの後ろ、裏に飛び込んだ事で、酒や飲み物の入った瓶や置物は壊しまくり割りまくってしまったが身を隠す事だけは出来た。

 そして銀河がカウンターの裏で息を整えながら、斬られてしまった事であっ頬から零れる血と蹴り飛ばされ、叩き付けられた事により口から吐いた赤い血を乱暴に拭い、床に払うと一度思考を回転させ、状況打破出来る策を考える。


「へぇ、結構逃げ回るじゃん。逃げる脳だけはあるみたいだね」


 外から聞きたくない不快な声が聞こえてきた。耳を塞ぎたくなる気分になるが、今の状況を打破する為にも今は耐えるしかなかった。

 そして例の声は外から聞こえていたが、徐々にその声は自らの元へと迫って来るのが分かった。軽快でまるでこの状況を強く喜ぶかの様にして、奴の声は銀河の元へと迫る。


「お邪魔するよ、少しばかり嫌いな奴を始末しに来たんだよ、出てこい!」


 しかし誰一人として名乗り出ない。宿にいた客や従業員は全て黙り続け、不知火の言葉に誰も反応を見せようとはしなかった。そして無言の空間が十数える程続くと、銀河は舌打ちを一度すると仕方なさそうに言葉を口から漏らした。


「よぉ、不知火。久しぶりじゃねぇか……今更俺達に何の用だよ?」


「見て分からないのか?見ての通りだよ……あ、幼稚なお前に僕の事情なんて分かんないよね?」


 不知火は言葉の中に銀河を小馬鹿にする様な言葉を混ぜながら銀河と会話する。銀河も心の中で不知火に対する怒りを見せるが今は異常な程に込み上げる怒りを抑えて不知火との会話を続ける。これには反撃のチャンスを窺う為の時間稼ぎでもあった。会話を続けながらも銀河は案を模索する。


「ま、もうお前は逃げられないよ。悪いけど多勢に無勢って言葉があるよね?今外に逃げても五秒もあれば僕の仲間にズドンだよ?」


「お前に俺を殺す理由があるのか?俺はお前に殺される理由なんて無いと思うぞ?それに追放されたのは自業自得じゃないのか?」


「やる側はすぐ忘れるが、やられる側はずっと心に刻んで覚えてるんだよ。こっちは今「願い」があるからこうやって此処にいて、銃口をお前に向けてるんだよ」


「願い………だと?さっき俺の仲間の眉間を撃ったのもお前の願いなのか?」


「願いを叶える為に邪魔するってのなら、邪魔する奴は殺しまくりだよ。お前だって邪魔なら殺すだろ?特に僕みたいな奴を……」


「あぁ、賛成はしたくはないが……ご最もだよ」


「うぉ!?」


 次の瞬間だった。銀河は突然として右手に持っていた魔剣を不知火に向かって容赦なく予備動作無しでいきなり思い切り槍を投げる様にしてその刃の尖端を向けて放り投げたのであった。剣の矛先は容赦なく不知火の心臓向けて飛んでいく。

 不知火は咄嗟にビームサーベルを展開し、ギリギリの所で防御に成功し、剣が胸に突き刺さる事はなかったものの、飛んできた時の衝撃で不知火の軽い体は店の外へと容赦なく放り出されてしまった。


「すまん店長さん、迷惑かけて…」


「構いませんよ。事後処理はこちらでしておくので、お気を付けて」


 店長は先程の事がありながらも冷静な口調で銀河に対応した。銀河は息を整えると、僅かに重い足を動かしながら店の外へと赴こうとした。


「…………………」


「おい、凱亜!大丈夫か!?」


「し、死んでないですよね、主様?」


「二人共、良い事教えてあげる。死人に口は無し、つまり返事はしないと言う事、返事してる僕は生きてるよ」


 ヴォラクは外に弾き飛ばされてしまった事で一時は目を瞑りながらまるで死人の様な様子を見せたが、すぐさま目を開けるとヴォラクは多少面倒臭がりながらもその場に立ち上がった。


「ってて、少しは考えたか……成長はしてるって訳かよ…」


「成長してよかったな、って言っておいた方が良いのか?」


「良くないよ姉さん!お陰で捕まえそこねちゃったよ…」


 そう言うとヴォラクは再びゲイルとヴァンを両手に握り締めるも、ヴォラクは周囲の状況を見て少しばかり声を唸らせる。


「んっ?」


「ヴォラク、どうやら囲まれたのはこっちみたいだな…」


 レイアの発言にヴォラクは目を細めながら周囲を見渡した。周囲に群がるのはかつての自分のクラスメイト全員、更にはこの騒動を聞き付けたのかは知らないが、ユスティーツの警備兵達が強固な金属の鎧を身にまとい、集団でヴォラク達の事を囲んでいたのだった。

 屋根の上から自分達を見下ろすクラスメイトの人間もいれば、普通に地に足を付けてこちらをあの時と同じ様にして睨み付けるクラスメイトも存在した。


「ちぃ、囲まれたか……」


「どうします、ガイアさん。このままだと殺る側だった私達が殺られる側になっちゃいますよ」


「この際全員斬り伏せるのも手だな、アタシの体力が切れないかは分からんが…」


「コノカズ、オレウデツカエナイ!」


 ページの言う通りだった。ページは今回の作戦の捕獲対象である美亜と比奈田を胴体とは分離している二つの腕を使って抱えていた。この二人はこのままこの場所に置いていく訳にはいかなかったので、ヴォラクの考えでフライハイトへと来てもらう事にした。もっぱら説得は無駄だと感じていたので、少し荒っぽくやらせてもらったが。

 そしてヴォラク達は何も言わずに黙ったまま互いに背中を預け合いながらその場に突っ立っていると、突然屋根の上から不知火達を見下ろしていたクラスメイトの一人である真太郎が屋根の上から飛び降りると同時に不知火の前に立ちはだかった。


「おい不知火、もうこんな事はやめろ。素直に関原と河下を返すんだ!」


「その取引に応じれば?」


「返すのならそれ以上の事はしない、俺だって出来るならクラスメイトのお前に拳を振りかざしたくはない!」


「駄目だろ、岩下。こんなクソ野郎、理由問わずに殺しちまえば良いんだよ!」


「坂見……」


 真太郎の言葉を強く否定する様にして、次に現れたのは凱亜にとっては銀河に続いて嫌いとも言える様な男である「坂見達哉」の姿があった。目も合わせたくない、会話もしたくない、触れたくない、凱亜にとって奴とはその程度でしかない屑の様な存在であったのだ。


「見た感じ結構良さげな女引き連れるみたいだな、不知火ぃ?盗みと痴漢して追放されときながら、良いご身分だなぁ!?」


「鬱陶しい連中だな、全員……」


「話には聞いていたが、本当に救いようがないな」


 血雷は腕を組みながら呆れた表情を見せている。周りの奴らなんてどうでも良い程に呆れていた。レイアも血雷とは同意見だった。救いようがない奴らばかりで話を聞く事すらも面倒臭く感じてしまった。極力話を聞かずに聞き流しておいた方が無難だろうと判断し、奴らの話にはあまり耳を傾けない様にした。


「君達はそんなクズ男の傍にいてはいけない!今すぐ俺の所に来るんだ!」


「あぁ?お前今凱亜の事なんつった?」


 血雷が抑えきれない程強い殺気を見せる。先程まで腕組みをしていた右手は既に刀の握り手部分を強く握り締めていた。

 しかしそんな事も分からない銀河は自ら地雷を踏みに行く様にして、言葉を連続して漏らした。


「だから、そんなクズ男の傍じゃなくて、俺の傍に……」


「アタシの弟を………アタシの弟を、侮辱するなぁァァ!」


 血雷の怒りの沸点が限界を超える。血雷は自分の大切な弟を侮辱された事に強い怒りを覚えた。そしてすぐさま鞘から自らの長刀を引き抜き、今すぐにでも銀河に斬り掛かろうとした。血雷は腕を震わせながら、歯を噛み締め、荒い呼吸をしながら刀の矛先と強過ぎる殺気を込めた双眸を銀河へと向ける。

 銀河も向けられた殺気が強過ぎたのか、一歩後退りし、更には持っていた魔剣を両手で握り締め戦闘態勢に入った。


「姉さん、やめろ。こんな阿呆の言葉なんて鵜呑みにしなくていいから……」


「黙ってろ、コイツだけは殺す!お前を侮辱したんだ、斬らねぇと気が晴れねぇんだよ!」


「僕はこんな男を斬り捨てて手を汚してほしくはない。今は優しい姉さんでいてくれないか?今手が汚れてしまったら、甘えられなくなるよ……」


「ハァハァ………落ち着けアタシ、たかが阿呆の戯言だ……落ち着け……」


 血雷はヴォラクが優しめな言葉をかけた事で一旦は落ち着き、いつも血雷へと戻ってくれた。今回の攻撃で、ヴォラクはクラスメイト達を殺すつもりはなかった。

 今回は宣戦布告、リハーサルの様な行為だ。別にすぐに殺そうなんては思っていない。少しづつ、ゆっくりと進めていく。今はまだその時ではないと確信していた。


「はぁ、面倒臭いからそろそろ帰るか………お前ら、撤退するぞ!」


「え、今全員皆殺しにするんじゃないんですか?」


「デザートは最後に食べるだろ?それと同じ事だ。ほら、行くぞ!」


 そう言うとヴォラクはズボンのポケットの中からキーを取り出した。それは誰かからの贈り物であり、使う事でオープンカーへと姿を変える特殊な鍵であったのだ。すぐさま鍵を使用してオープンカーへと変貌させると、ヴォラク達はドアを開ける事もないまま、そのまま車に乗り込んだ。


「不知火ィ!逃がさねぇぞ!」


 馬鹿一人が無謀にも突っ込んで来た。短剣片手に勝てると思っていたのだろうか。しかしヴォラクが手を下そうとした時、紫髪の女性が先に、車から身を乗り出し男の腹に蹴りを入れた。


「ごフッ!」


「主様に……触れるな!下種が!」


 達哉は凱亜に触れる事すら出来ぬままでサテラに一蹴された。そして凱亜は徐々に戦意喪失し始めている銀河の方向を見ると、厨二病だった頃の自分に似た様な話し方で銀河に声をかけた。


「フッ……天野銀河よ、僕達はいずれ戦いの場で会う事になるだろう。今日の復讐劇はほんの宣戦布告に過ぎない。本当復讐の時は未来の日に達成させてもらう事にする。その日が貴様の命日となるだろう!そして他の雑種共もいつの日かまた会おう、僕達はフライハイトにてその身を置いているぞ!死に場所を欲するのであれば来るが良い!」


「ま、待て!美亜と比奈田を返せ!君達もこっちに来るんだ!騙されているんだぞ!」


 銀河も負けを認めず、未だに自分に泥酔しているかの様な台詞にヴォラクは呆れを通り越して逆に少しばかり笑いを浮かべてしまった。ヴォラクはそれを最後に、アクセルを強く踏み、その場から全速力で走り去っていった。追いかけようとする者は誰一人としていなかった。クラスメイトの面々は勝てるとは思っていなかった、追い付けると思わなかった。警備兵達も意気揚々と場に現れたまではよかったが、結局は力の差を感じ取り、何も出来ずにただ立っている事しか出来なかった。


「ま、待ってくれ!美亜、比奈田!行くなぁ!」


 銀河は非力ながらも目の前から遠ざかり、徐々に見えなくなっていくヴォラクが乗る車を重い足を精一杯動かして追いかけようとした。表情には絶望が走り、希望など一寸も残っていない様な程追い詰められた表情だった。銀河は足を何とか動かして車を追いかけるが、次第に見えなくなってゆき、そして気が付けば車は完全に見えなくなっていた。


「銀河、一回落ち着け!今は体制を立て直すぞ!」


「駄目だよ、真太郎……美亜が比奈田が、助けない………と……」


「おい銀河!?どうした、しっかりしろ!」


 その言葉を最後にして、銀河はまるで事切れるかの様にして気を失ってしまった。真太郎は後ろから追いかけようとする銀河を静止させ、最終的に気を失ってしまった銀河に肩を貸した。

 そして今は銀河の代わりを自分がやらなければならないと思った。声を上げ、周囲の人達に指示を出した。


「動ける奴は負傷者の治療と運搬を!」


「痛てぇ、腹が……」


 ◇◇


「いやぁ~大成功でしたね、主様!」


「本当です!上手くいって良かったですよ、ヴォラクさん!」


「アイツにはいつかぜってぇ、御礼参りをしてやる。首洗って待ってやがれ!」


「何はともかく、今は成功した事を喜ばせてもらおうかな。大体の事は計画通りに運べたからな!」


「皆さんの言う通りですよ!皆協力したからこその勝利ですね!」


「サクセンセイコウ!オレタチカッタ!」


 一時の勝利に皆は感激の言葉と嬉しげな表情を浮かべる。ヴォラクも運転しながら、口元で笑いを浮かべニヤリと微笑んだ。ヴォラクも今は勝利の美酒に浸っていたかったのだ。


「第一段階は完了だ。次は第二段階に移行だ、取り敢えずフライハイトに向かうぞ、道案内は頼んだからな!」


「はい!全力で案内させてもらいます!」


(さて、どう動くか……これからが面白くなる所だ……さぁ、セカンドステージといこうじゃないか……)


 まだこの復讐劇は始まりに過ぎなかった。まだ誰も知らない、狂気と血に濡れ、ハッピーエンドへと進む地獄の復讐劇、ヴォラクの心は侵食されてゆく。

次回でフライハイトに到着です!

次の回はイラスト紹介です

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