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103話「復讐への出発」

 

 翌日、目を覚ましたヴォラク達三人は足早に出発の用意を始めていた。今日の目覚めはいつもよりも良かった様な気がする、起きてすぐに発生する事のある怠さや喉を痛めてしまう事もなかった様に思えてきた。復讐を達成する為の悲願、彼は今突き進む事しか考えていなかった。目覚めて彼はすぐに行動を開始する。実際彼が起きて少しの時間が流れた後には、もう紗夜もその長い髪を靡かせながら目を覚まし、ページのスリープモードを解除して、変わらない姿となり、またしてもフワフワと空中に浮いていた。

 そして起きてすぐに少しだけ汚れた顔を洗い、ハネてしまっていた髪を整えて、服を着るなどの身支度を素早く済ませると、ヴォラクはベットに座って紗夜とページが準備が終わるのを静かに待機していた。


 もうすぐだ、もうすぐだと彼は途切れぬ様にして心の中で呟く。そして心臓の鼓動が快楽を求めるかの様にして昂り、表にこそ出さなかったものの、遂に遂に無我夢中になって貪り食らう程に欲しくて求め続けていた悲願を達成出来そうになっていた為か狂気的な程に甲高く、気が狂いそうになる程の高らかな笑いを浮かべそうになってしまった。今は場所を弁えて、俯いて口元で蔑むかの様にして笑う事しか出来なかったが、奴らを殺した時には、首だけ晒してその首の前で壊れるかの様にして笑ってやりたかった。

 しかし派手に暴れ過ぎてしまえば、大国一つだけではく、世界諸々を相手にしてしまう可能性も否定出来なかった。ただでさえ最近は例の人の干渉が増えてきている、殺すなら静かに、いや派手にどうするべきだろうか……


(まぁ、考える時間に余裕はある。ゆっくりと考える事にするか……)


 そうして、殺し方についての事はもう少し後回しだ、今は向こうに無事に辿り着き、サテラ達と再会する事の方が先決だった。殺しの決め方なんて後で何とでも思い付くだろうし、即興やアドリブでも可能な事だとヴォラクは感じたので、今は一旦殺し方の事については忘れる事にした。


「っと、僕は準備完了したよ?そっちはどうだ?」


「っしょっと…はい、準備OKですよ!髪も結びましたし、顔も洗いましたし、服も着ました!」


「オレ、イツデモ、イケル!」


 紗夜もページも出発する為の準備は整っていた様だった。紗夜はいつも通りに綺麗な黒と前髪のみの赤い髪を揺らしながらも、露出多めの服装を着こなしながら、ベットから立ち上がりヴォラクの双眸を自らの美しい眼で見つめていた。つい、見惚れてしまいそうになるが今は見惚れている暇はなかったので、彼は欲する気持ちになりそうになったが、その劣情を抑え込むと同時に、冷静で平然とした気持ちを取り戻した。

 ページも彼らと同様に、これと言っての違いは見受けられないが、取り敢えず準備は出来ている様であった。知らないけど、ロボットの事情なんて分からないからね。


「よし、行くか……」


 ◇◇


 その後、三人は宿から足早に去って行き、急いで復讐の地へと足を進めようとしたのだが、ここで昨日と同じ様な問題に引っかかってしまったのだった。学ばないと言うのは正にこう言う事なのだろうと、ヴォラクは思ってしまった。

 意気揚々と宿の外に出た所までは良かったのかもしれない。だが、しかし復讐の事しか頭に入れていなかった記憶容量の悪いヴォラクに待ち受ける現実は相変わらず恐ろしいものだった。


「あ、あの……ガイアさん。どうやって、そこまで向かうんですか?」


「あ……」


 ヴォラクの心がまるで儚くも、そして美しく飛び散っていった様なガラスの様にして砕け散ってしまった様な気がした。

 よくよく考えてみろ、ただでさえ昨日はかなりの距離を歩いたが結局ユスティーツにもフライハイトにも辿り着く事はなかった。なのに今日も昨日と考えを一切変わらずして、どちからの国にのろのろと歩いて向かうなんて愚の骨頂に等しい行動だった。解決が難しい物事においては頭を柔軟にして、様々な思考を構造して、色々と試してみるのがヴォラクにとっては普通のはずだ。

 なのに今回ヴォラクは侮辱共に対する「復讐」に囚われすぎていた。そのせいなのか、彼は今思考を柔軟に回転させる事が出来なくなっていたのだった。完全に盲点だったと感じてしまった。一つの事に見惚れ、心奪われる様にして囚われてしまっては、物事を柔軟に対象出来なくなってしまうと言う事に、彼は今更ながら気が付いたのだ。

 まるで、出鼻をくじかれた様な気分だった。結局、自分も復讐と言う名の牢獄に永遠に囚われていたひ弱な子供だったと言う事か、とふと歯を噛み締めて思ってしまった。

 しかし、人間と言うのは不思議な事かは分からないが、変わる事は出来るのだ。今気が付いたのなら、今から変えていけば良い話なのだ。

 彼はすぐさま、思考を柔軟に回転させ、どうするか考える事にした。


「取り敢えず、ユスティーツに行く為の移動手段を入手しなければな……馬車とか借りられたり、買ったり出来ないだろうか…」


 生憎今彼はオープンカーにすぐさま変貌を遂げるあの鍵を持っていない為、車での移動は残念ながら出来なかった。その為素早く移動を行う為には、車ではなくこの世界での移動手段を用いて移動しなければならなかったのだった。そうとなると、やはり一般的に思い浮かんでくるのは、馬を使用した馬車や、海や湖の地域があるのなら船などの移動手段が思い当たってくるだろう。

 一応だが、どうやらこの街には行商人達が多く出入りしてるらしい。実際の所、彼はこの街に来た際に馬車を引きながら出入りしている行商人を多く見かけていた。

 上手く交渉すれば、行商人等の馬車に乗せてもらって、それなりの場所までは連れて行ってくれるかもしれないとヴォラクは思った。


「さて、となると……誰か捕まえる必要があるが…」


「おや、お兄さん。何かお困りかい?」


 まだ彼は何も言っていないのだが、どうやら天はこちらに味方してくれた様だった。自身の背後からまるで狙っていたかの様にして、誰かが声をかけてきてくれたのだ。若干低めではあるが爽やかでどこか綺麗で高い声をしている、声のトーン的に声の持ち主は男性だろう。

 彼はすぐさま後ろを振り向いた。


「あぁ、絶賛お困り中だよ?」


 後ろには一人の青年が馬を二頭連れた馬車を背後にして、立っていたのだ。いつの間に後ろに立っていたのかは分からないが見た感じでは、彼は行商人の様な見た目をしていた。

 彼自身の見た目は、どこか以前に一度敵対した魔族の人々に近い様な見た目をしていた。濃い水色の髪と頭辺りに生えている獣耳とは別だが、獣を彷彿とさせる様な耳が彼には生えていたのだ。頭には綺麗な布を帽子の代わりの様にして被っていた。そして結構イケメンな顔をしている。普通にモテそうだけど……

 そして、後ろには多くの荷物を詰んだ荷馬車があったからだ。今は馬二頭は静止しているものの、彼が言葉をかければすぐに動いてしまいそうであったからだ。しかも積んである荷物はかなりの量があった。

 まだ若いながらも経験は積んでいるだろうと、ヴォラクは思った。ヴォラクは多少警戒してしまったが、それに対して青年はそんなヴォラクとは裏腹に落ち着きがありながらも、初対面のヴォラクに対して、気さくに話しかけてきた。


「何があったのか、聞かせてくれよ。場合によっては手を貸すけど?」


「あんた、多分だけど行商人だろ?」


「ああ、そうだ。まだ若いが、一応商人として活躍させてもらっているよ」


 ヴォラクの予想は的中していた。彼はやはり行商人であったのだ。ヴォラクは会話を続け、目的を素直に話し始めた。


「僕達は今、訳あって大国のユスティーツに向かわなくてはならないんだ。道が合ってたらで良いんだが、少しだけ乗せてもらえないだろうか?」


「成程、徒歩だと時間がかかるからユスティーツまで乗せていってほしいと言う事か………構わないぜ、俺だってユスティーツに荷物運ぶ予定があったからな」


 天が味方したのか、それともただ単に幸運なだけだったのだろうか、行先は一致した様だった。これは利用しておいた方が良いだろうと彼は必然的に思ってしまった。

 そう思うと彼は、徐に自らの右手を目の前に立つ青年に向けて差し出した。短い関係になるかもしれないが、友好な関係を築いておきたいものでおる。


「僕はヴォラク、宜しくな」


「俺は…カルマ、短い付き合いになるかもしれないが、宜しく頼む」


 そう彼が告げると同時に、ヴォラク達三人はカルマに荷台に乗る様に、と告げられた。彼らはカルマの言葉に甘え、素直に荷台に乗ると同時に腰を下ろした。


「そんじゃ、出発するぜ。近道で行けば、今日中に着くと思うから、ゆっくりしててくれよ」


 そう言うと、先程まで静かに静止していた二頭の馬は軽く鳴き声を上げると同時に、その場から動き出した。

 ガタッ、と荷物が少しだけ揺れた事で音が鳴り、ヴォラク達の体も僅かながらではあるが、宙に浮く。ある程度揺れてしまう事は予想していたがヴォラクも分かっていながらであるが、驚きを見せてしまったのだった。


「おぉっと、少し揺れるのは勘弁してくれよ!」


「分かったいたのに……」


「うぅ~お尻痛いです~」


「いや、お前尻デカいからそんなに痛くないだろ?」


「もう、デリカシーないですよ!ガイアさん!」


「へへ、仲が良い事で……」


 そして、カルマが鼻で笑うかの様にして軽く呟くと馬車は進む速度を速めながら、土の上を駆けていくのであった……


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