102話「束の間の休息」
「転移…成功の様だな…」
「はい!上手くいきましたね!」
少しの間だけ、いやほんの僅か、刹那の間、意識が飛んでしまっていた様な気がしたが、そんなものはほんの一瞬の事に過ぎなかった。束の間、二人は目を瞑っていたが十を数える前に二人は目を開けた。
二人は無事に転移していた様だった。実際自分の横には紗夜が周囲を気にしながらも平気そうな立ち振る舞いで立っていた。
気が付いたら、そこは青空の下だった。時間は既に正午に差し掛かっている所だろうとヴォラクは感じた。太陽の様な光は空の斜め上で光り続けており、遥か彼方の空から、地を照らし続けていた。ヴォラクはふと上を見上げた。久しぶりな事でもないのに、まるで何年ぶりに日の様な光を拝んだかの様な気分になってしまった。
実際記憶を失い、ヴォラクでも凱亜でもなくガイアとして活動していた時間はそう長くなかったはずなのだが、やはり一時的とは言え、大部分の記憶が脳内から消えていた事もあったせいなのか、久方ぶりと彼は感じてしまっていた。涼し気な風が僅かに吹いた。風が吹いた事によりヴォラクと紗夜の髪は意志を持っているかの様にして揺れ動き、ヴォラクに至っては左手の義手を隠す為に取り付けられた黒いマントも揺らぐ様にして扇ぐかの様にして動いた。
「風、気持ちいいですね」
紗夜の落ち着きのあり、包容感のある優しい声がヴォラクの耳を刺激した。先程までは首を動かして、上を向いていたが紗夜の声が聞こえてくるなり、首を横に動かして、紗夜の横顔を見つめた。紗夜の横顔とその姿は美しいの一言に尽きる。
輪郭、綺麗な瞳、少し細い顔、色白な美肌、スラリと長く綺麗な腕と足、肉感のある太腿と尻、豊満で包み込むかの様な胸、見ているだけで簡単に惹かれてしまうかの様な彼女の姿を彼は見つめる。広がる大地に立たされたヴォラクは紗夜を見つめていたが、紗夜はすぐに、自分を見つめていた彼の事に気が付き、彼女のまた彼の真似をするかの様にして、ヴォラクの事を見つめた。
風がまだ吹いていたのか、彼女は自身の長い髪を整えるとヴォラクの双眸を見つめると、ニッコリとした表情でヴォラクに言葉を投げた。
「ガイアさん、行きましょうか?」
「あぁ……そうだな」
かくして、二人は自らの安息の地を求める為に、フライハイトへと足を運ぶ事にした………のだが。
◇◇
「ぜぇぜぇ、おい…もう結構歩いたよな?全く、着く気配がないんだが!?どうなってやがる!」
「ハァハァ……やっぱり、人の足だと着くのには時間がかかるみたいですね……」
(クソが、オープンカーの鍵があれば移動も楽だってのに、多分あれはサテラ達が持ってるだろうし、今は使えないからな…)
約数十分はもう、地平線の様にして延々と伸びているかの様な道をただ淡々と自らの足で歩き続けているはずなのだが、何故かは分からないが一向にそして全く何も見えてこない。王国によく建てられている城壁や城塞一つ何も見えてこなかった。フライハイトの面影なんて何一つ、影も形も残っていなかった。
翔湊と言う男の忠告で、多少座標がズレての転送になる事は重々承知していたがこれは多少ズレたと言う事で良いのだろうか?どうも、多少ズレた様には思えてこない。もしかして復讐の事を察知して、復讐の舞台の近くに転送してくれたのかな?それならそれで嬉しいんだけど、それならそれでちゃんと報告はしてほしいものだ。
確かに頭痛くて言う暇なかったのかもしれないけど、せめて何か一言ぐらいは言ってくれてもいいんじゃないかな?流石に何も言わずに転送なんて名前も知らない様な世界に蹴り落とされるのと同じくらい酷い事だと僕は思うね。
しかし復讐の舞台を作り上げてくれると言うのなら、彼にとっては大歓迎に等しい事であった。全ての元凶である奴らをこの手で破壊し殺す事が出来ると言うのならそれこそが本望であった。自らを貶めなかった一部は殺さないが、自らを貶め底へと叩き落とした奴自らの覇道を穢し、邪魔をする者、その全てをヴォラクは今消す気でいたのだ。しかも今のヴォラクには前の時とは違い、強大で恐ろしい力があった。
全てを消し去り、灰へと変える超高火力のビーム砲、盾であろうが斬り裂くビームサーベルやコンバットナイフ、更にはマグナムやガトリング砲まで所持しているのだ。無敗に近いこの力は全てを蹂躙出来るだろう、ヴォラクはそう過信していた。実際はこんな物よりも恐ろしい者なんて山の様にいると言うのに、まだ彼はそれに気が付けなかった様だった。
(慢心も程々にしてほしいものだな……)
そう言うと、グラスの中に入った赤く上質な味のする液体を彼は飲み干した。隣にある玩具達を撫で回しながら……
◇◇
「あ、ガイアさん!」
「あぁ?どうした?」
紗夜が突然として、何か凄いものを発見したかの様な嬉しげな声で斜めの方向を指差すと同時に、ガイアへと話しかけたのだ。元気が大きい紗夜と異なり、ガイアは紗夜が足を止めた瞬間、狙っていたかの様にして、まだしも尻を付けても汚れなさそうな地面に倒れ込む様にして座り込んだのだ。幸い地面は濡れておらず、ズボンが濡れてしまう様な事態には陥らなかった。そしてその口調はナイーブでお世辞にも明るいとは言えず、完璧に暗い口調になっていた。
「見てください!あれ!」
紗夜が指差す方向を、ガイアは目を凝らして見つめる。その見つめる先には何と言う事でしょう、小さいながらも街を守る様な城壁の様な石などの素材で作られたかの様な壁が横方向に、何かを守るかの様にして建てられていたのだ。
今彼らが目指しているフライハイト程大きくはなく、大国を象徴する様な大きな城や国土は見当たらなかったが、現在ヴォラクと紗夜は連続の行動等により疲労が溜まってしまっている。流石に休憩もせずに、急いでフライハイトに向かう必要性は一切なかった。逆にそれで体を壊してしまって、体を動かせなくなってしまう方が十分な問題だと彼は思っていたので、ここは束の間の休息といく事にした方が良いのかもしれない。
「取り敢えず、今日はもうあの街で休憩にしよう。金は一応だが持ってるからな。一日ぐらいはゆっくりしても怒られないだろ?」
ヴォラクは街の方向を見つめるなり、そう呟いた。ヴォラクの言葉に、紗夜は賛成の姿勢を見せる。紗夜も長時間歩いた事により、疲弊していたのだろう。彼の意見に強く同意する。
「はい~そうですね。疲れちゃいましたぁ~」
そうしてヴォラクは紗夜の情けない声に、背中を押される様にして、彼女と共に、目の先に見えてきた一つの街へと向かう事にした。
◇◇
「ぷッはァ~♡お布団が気持ちィィ!」
「良い宿を借りれたみたいだな…」
「ハネルノタノシイ!」
現在ヴォラクと紗夜の二人はふかふかで良い匂いがして、柔らかい真っ白なベットの上に寝転がっている。そして更にもう一人はベットの上で嬉しそうに?しながらピョンピョンとベットをトランポリンの様にして、楽しげに飛び跳ねていた。
今は束の間を休息を二人は楽しんでいた。いち早くも奴らに向けて復讐を達成したい所ではあるが、疲弊してしまった状態で挑んで、仮にも負けてしまっては全てが水の泡になってしまう。体を休める事も重要な事、今は少しだけ束の間の休息を楽しませてもらう事にする。
え?さらっと新キャラ出してんじゃねぇよ、だって?説明するから許してくれ。
◇◇
時は少し前に遡る。街を見つけるなり二人はすぐにその街へと侵入した。入る前に、街を警護する兵士に止められてしまったのだが、紗夜の爆弾ボディのお陰で結構アッサリと入る事が出来た。時に彼女の体と言うのは役に立つらしい。
話を戻して、街に入った後はすぐに酒場付きの宿を探す事にした。体も休められて飯の食える様な良質な宿を探す事にした。
しかし賑わいがあり、物を売る為にやって来た行商人や自分達とは別の冒険者達の集まりやギルド、更には奴隷市場なんて所まで存在していた。以外に大きい街だろうとヴォラクは思った。良質な石造りの建物や整った街並みと治安、良い街なんだろうと思えてきた。
そして少しばかりではあるが、二人で街を徘徊していると案の定、すぐに酒場と宿が合体した宿屋を見つける事が出来た。ヴォラクと紗夜は既に疲労が溜まっていたので、泊まれる場所なら何処でも良かったので、二人はすぐにその宿屋の中に足を踏み入れたのだが…
「一泊で頼む、部屋は一部屋、人数は二人」
部屋は金の都合上一部屋しか取れなかったが、ベットは二つあるらしいので添い寝する事はない様だった。飯は部屋に持ってきてもらう事にして、さっさと休みたい所だったのだが、その時、宿屋の受付をしていた女性の言葉が耳に引っかかった。
「二人ですか?召喚獣用のオプションもお付けしましょうか?」
心の中に疑問の念が渦巻いてしまった。召喚獣だと、ヴォラクは今目の前に立っている受付の女性が何を言っているのか分からなくなってしまった。
言わせてもらうが、ヴォラクは魔法全般に適性が無い為魔法を使う事はほぼ、いや全く出来ない。悔しいが、召喚獣を自らの手で召喚するなんて事は出来ないに等しい。それなのに、目の前の受付の女性は召喚獣がいると自分達に向けて言っているのだった。
受付の女性は自分達よりも後ろを指さした。なのでヴォラクも確認をする為に、恐る恐るではあるが後ろを振り返ってみた。
「………うぁ、何だコイツ!?」
「え、可愛い♡」
ヴォラクと紗夜の背後にいたのは……
「ア、ヤットキヅイテクレタ!」
ヴォラクも流石に少しだけではあるが動揺してしまった。突然自分達の後ろに現れた奇妙な存在に、ヴォラクは驚きを隠せなかった。
自分達の背後にいたのはまるでロボットの頭部を模したかの様な機械じみた謎の生命体であったのだ。
特徴
・体は無く、四角いが、丸みを帯びている頭だけ(頭の横に腕部のない手の様な物が二つ付いており、分離された状態で機能している)
・浮遊している(浮遊出来る理由は不明)
・体の色は若干薄めの黄土色
・青色の細いアイカメラ?の様なセンサーの様なものが取り付けられている。
・何か声は機械の様な声をしている
・何か可愛い
以上が今ヴォラク達の後ろに立っている謎の生命体の特徴だった。何か可愛いと言うのは…若干分かる様な気がする。ロボットの様な見た目なのに、頭しかなくて、しかも手も二つ付いてる、更に更に挙動もチャーミングで何処か愛嬌のある感じだ、話し方も何処かコミカルで明るい感じだった。
「は、破壊するのはやめておくか……部屋で事情を聞こう…」
「はい、そうしましょうか…」
改めて、二人ではなく、ロボット一体が追加された状態で三人は指定された部屋へと向かう。
そこで二人はロボットの様な生命体に色々と話を聞く事にしたのだった。
◇◇
「えぇっと、お前名前は?」
「オレ、ページ。ヨロシクナ!」
このロボットの様な生命体の名前は「ページ」と言うらしい。ページは宜しくと彼らに言った後頭の横に浮遊していた手を動かして、手を振る様な素振りを見せた。どうやらただ浮いていると言う訳ではないらしく、ページの意思によって動くものらしい。
「へぇ~ページさんって言うんだ。私は紗夜、宜しくね、ページさん」
「僕はヴォ……いや、ガイアだ。宜しくな」
護衛対象確認
「ガイア、サヤ…オレ、フタリマモル‼️」
そしてその後ある程度話し終わった後二人はベットに寝転がり、ページに至ってはベットの上で飛び跳ねていると言う始末であった。束の間の休息は楽しませてもらう事にしよう。
その後は部屋に届けられた食事をゆっくりと味わって噛み締めるかの様にして楽しみ、時間が流れていくのをその身で感じた後は、夜も深けてくる。最後の時は面白い話をしたくなってくる気分になった。
「ねぇねぇ、ガイアさん。一つ気になっている話があるんですけど?」
互いにそれぞれのベットで休息を取っていた紗夜とヴォラク、そしてベットの済で上の空状態に近いページであったが、紗夜の言葉がヴォラクとページを反応させる。
「ん、何だ?」
「ガイアさんって、私に会う前は何してたんですか?聞きたいんですけど?」
痛い所を突かれた様な気分に苛まれそうになった。紗夜達の前に自分が何をしていたのか、それは少しの間は記憶を無くして闇の中に落としてしまったかの様にして消えてしまっていった事なのだが、今ではその全てを彼は思い出している。彼女に会う前に、何があったのか、それはまるで狂気的で幻想的でおとぎ話の様な空想の産物の様な物語の様なもの。元々違う世界の住人と言うだけで既に怪しいと言うのに、しかし聞かれてしまっている以上、ただずっと黙りな状態になっている訳にもいかなかった。
躊躇いはあるかもしれないが、聞かれている以上は仕方のない事だと割り切った彼は恐る恐るではあるが、その話を始める事にしたのだ。
「さて、何処から話そうか……夢物語みたいだが、最後まで付き合ってくれよ?」
「はい!構いませんよ!」
「オモシロイハナシ、スキ!」
そしてヴォラクは畏まると同時に自らの過去を全てを洗いざらい話し始めた。
この世界とは別の人間である事、追放され復讐を誓った事、そして今彼が目指すのは自らを追放した奴らがいる場所であると言う事も、かつての仲間達との記憶の話も、自らが持つ武器の力等も彼はその全てを二人に話したのだった……
◇◇
「何て事を……そんな嫉妬を理由に追放なんて。復讐に囚われる気持ちも、分かります…」
「ツイホウ、ヒドイ!ヤリカエシテヤル!」
紗夜は自分の胸に手を当ててヴォラクを優しげな双眸で彼を見つめ、ページは表情こそ分からなかったが怒りの表情と気持ちを露にしていた。
追放された理由に悲しさを見せる紗夜であったが、他の事についても言及し始める。
「ガイアさんって、名前がもう一つあるんですね……追放されて、名前を変えて生きていた。そして沢山の人達と出会って、記憶を消されて、私達と出会った…追放なんて、酷い話ですね」
「ガイア…オレ、フクシュウ、テツダイタイ!」
紗夜があの時と同じ様にして、悲しげな口調で話すとヴォラクはベットに寝転がると同時にページと紗夜に背を向けながら、眠りにつこうとした。
「手伝うなら、大歓迎だぜ?人は多い方が良いからな……」
「ガイアサン……!」
「足でまといになるかもしれませんが、私も頑張ります!」
「……ふっ、明日にはもうあの国に出発するぞ……おやすみ」
そう言うと彼は部屋の明かりを落とすと同時に紗夜は眠りに付き、ページはスリープモードに入り、一時的に全員は休息に入った。