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9話「共闘」

 




 サテラの顔に残る涙を自分の汚れた手で拭った。それにサテラはさっきの泣いていた悲しい顔とは程遠い笑顔に変わっていた。


「主様、ありがとうございます。お陰で落ち着きました。職業が無くても、私には主様が作ってくれた銃がありますから」


「そうだな。職業が無いぐらいで落ち込む事は無い。サテラは僕と一緒にこの銃で戦ってほしいんだ」


 少し前にあった悲しく重い雰囲気は完全に消えていた。サテラは笑顔に戻り、ヴォラクも仮面の下で少しだけ笑っていた。




 2人は気を取り直してもう一度クエスト受注所に向かう事にした。カードを持つ2人はクエストを受ける事が出来る。このチャンスは無駄にしたくないので、駆け足で受注所に向かった。







 クエスト受注所に入ると、さっきの事を見ていた人間が2人の事を見た。睨む様に見る者もいる。陰口を言う様に見る者もいた。



 そんな事は2人は放っておいて、クエストを探す事にした。銃を使用する2人はかなり難易度が高いクエストを探す事にした。簡単なクエストのモンスターなんて2人の銃で一撃どころかヴォラクが使用する鞭程度で死んでしまうだろう。少し探していると、サテラが一つのクエストの説明書を持ってきた。


「主様、これはどうでしょう?」


 そこにはこう書かれていた。


『山岳部奥地のドラゴンを討伐。推奨レベル80~90』



「ドラゴンの討伐か……悪くないな。よしこれにしよう」


「分かりました」



 早速2人はこのクエストを受注する為に、説明書を受付に持っていった。


「また、高難易度のクエストに挑まれるのですか?」


「ああ…早く許可を出してくれないか?」


「わ、分かりました。頑張ってください」


 クエストが受注出来た2人は、すぐに目的の場所に向かう事にした。







「取り敢えず、例の山まで向かうぞ。相手はドラゴンだ。長期戦になる事は避けられないだろう。サテラの銃の銃弾は500発作ってあるから、弾切れは気にする必要は無いだろう。僕の銃も銃弾は250発作ったから、問題は無い」


「そんなに作ったんですか?毎日遅くまで作ってくれたんですね…」


 実際もそうだ。毎日山に出向いて素材を集めて弾を夜遅くまで制作していた。眠る時間がかなり今は少ないが慣れれば気にはならない。若干目が痛いが、気にしたら負けだ。



「走って行くぞ…夕方までには終わらせる」


「了解しました」


 2人は山岳部に突入した。互いに銃を手に構えて、走り出した。



(情報では…約2km先ぐらいか?早く着けばいいんだけど)


 残る距離を頭の中で考えていると、横の方向に何かの気配を感じた。


「サテラ屈め!」


 サテラの体を掴み、無理矢理にサテラを屈ませた。何かがこちらに飛んできたのだ。何かが飛んできた方向を見ると、木に投げナイフが突き刺さっていだ。ナイフは完全にヴォラクを狙って飛んできた物だと思う。サテラも狙ってたなら、ナイフを一本しか飛ばさないのはおかしい。



「誰かいるのか?出てこい!」


 ヴォラクがそう叫ぶと、周りの草木が動き出した。



 その中からは…盗賊らしき人達がヴォラクを取り囲んでいた。


 ゲームを沢山プレイしてきたヴォラクには分かる。金目の物を奪いに来たのか。それともサテラに目が眩んだのか。


(数は…見える限りでは13人か。ツェアシュテールングの装填数よりもやや多いな)


 ツェアシュテールングの装填数は九発。敵の数は13人。残りは鞭で殲滅するしかない。


「あんたら。僕達に何かご用事でも?」


「そうだよ。あんたらに用があるんだよ。ご用事は金目の物を全部俺達に渡してもらおう。後はそこの可愛い女を置いていってもらうぞ。こいつは俺達が可愛がるからな」


「流石にそれは無理だな」


「あぁ!?てめぇはさっさと金置いて尻尾巻いて逃げ…」




 盗賊の頭が消えた。血が吹き上げ、ヴォラクの体と周りの木や草に血が付いた。





「な……てめぇら!さっさとこいつを殺せ!」


 他の盗賊達がヴォラクに同時攻撃を仕掛けるが…


 今度は5人。心臓を撃ち抜かれた。


「私がいるの…忘れてないよね?」


「この!捕まえて俺達の相手を…」


 また1人、掴みかかろうとした盗賊も、頭を吹き飛ばされた。




 残る盗賊は6人。ヴォラクとサテラにとってはただの雑魚敵と同じだ。


「何してる!この際2人とも一緒に早く殺せ!」


 リーダーの盗賊が指示すると、5人の盗賊がヴォラクに剣を持って斬り掛る。しかしヴォラクは銃では無く、先端にナイフが取り付けられた鞭を取り出す。


「集団で来ると…範囲攻撃の餌食になるぞ!」


 ヴォラクは鞭を横に向かって振り回した。5人の盗賊は足を斬られ、腕を斬られてもがき苦しむ。しかし足掻いても、死ぬ運命からは逃れられなかった。


「もう一発、痛い攻撃するよ」


「嫌だ!やめてく…」



 血が飛び散り、ヴォラクとサテラに返り血が染み付く。


「さてと…最後はお前か?」


「嫌だ!殺さないでくれ!何でもするから!俺達の金も宝も全部やるよ!」


 盗賊は死にたくないのか必死に命乞いをする。それに対してサテラが口を開く。


「何でもするの?じゃあ…死んで…このクズ」


 サテラの銃『ネーベル』が最後の盗賊の頭を一発で貫く。涙を顔に流したまま男は息絶えた。








「サテラ大丈夫?怪我無いか?」


「大丈夫です。これからある戦いの為の準備運動にも最適でしたし、何故かスッキリしました」



 この時ヴォラクは一つの疑問を抱えていた。自分もサテラも人を殺して何も思っていない。今の自分は他者を殺めても平気な人間になっていた。サテラはこの世界で生きてきたから何も思わないのは普通なのかもしれないが、自分は人を殺す事が全く無い世界で生きてきた。自分はもう完全に殺す事に慣れてしまったのだ。沢山の心の傷が自分を変えてしまったのか?そう思う自分が心の中に居座っていた。







 さっきの戦いで浴びてしまった返り血を持っていた布で拭き、再び走り出した。着実に目的地には近づいているはずだ。進み続けて、かなりの時間が経った。



 すると、一つの大きな広場に出た。その場所はかなり大きく、大きな魔物が出てきても大丈夫な感じだった。この時2人は確信した。


 この場所が決戦の場になる事を……



 広場の真ん中辺りまで行き、辺りを見回して警戒していると、上から何かが羽ばたく音が聞こえた。



「来たか!」


 何かは地面に着地し、発生した風で周りの石や砂を飛ばしてくる。腕で顔を覆い、後ろに下がると何かの正体が明らかになった。



「どうやら…ボスのお出ましの様ですね」


「ああ!そうだなサテラ」


 そこには全長約15m程のドラゴンが不気味な赤い目を光らせながらヴォラク達を睨んでいた。


「挨拶代わりに一発プレゼントだ!」


 ヴォラクは挨拶代わりにツェアシュテールングの弾丸を放った。弾丸はドラゴンの首に命中するが、傷は付けられていない様だった。


「サテラ!後ろに周り込め!僕は正面から目を叩く!」


「了解!」


 ヴォラクは正面からドラゴンに突っ込んで行った。サテラは後方に回り込み、銃撃を行う。


「目を破壊する!」


 ドラゴンの赤色の目に向かって銃を放つがドラゴンは銃弾が当たる前に口から雷撃を繰り出して、弾をかき消してしまう。


(タイプは雷系か?口から雷を吐くとは…とんでもない化け物だな)


 ヴォラクは絶え間無くツェアシュテールングをドラゴンに向ける。弾が切れればすぐに装填し、ドラゴンに銃弾を浴びせる。



「私をいないの者扱いするのは…やめてくれないかな?敵は…徹底的に叩く!」


 サテラもネーベルを使い、ドラゴンの背中に攻撃を仕掛けるが体の皮膚が硬いのか、攻撃があまり通っていない様だった。


 2人は一度合流する。ヴォラクはサテラに一つの作戦を提案した。


「サテラ、あのドラゴン。胸周りの皮膚の色が違う。もしかしたら、あそこが弱点かもしれない。一度だけでいいから、奴を引き付けてくれないか?寄ってきてもらう為に、こいつを使え」


「これは?」


 ヴォラクはリュックから縦に丸い、手の平程の大きさの物を取り出した。


「こいつは『高音爆発手榴弾』こっそり作った試作武器だ。かなりの高音が鳴るから、敵を誘き寄せるには最適だと思わないか?」


「分かりました…やってみます」


 ヴォラクはサテラに高音爆発手榴弾を手渡し、ドラゴンの後ろに回る。


 サテラは高音爆発手榴弾を強く握り、一度息を吸って、走り出した。


(ここで怖がるな私!私はもう失わない。大切な人を…大好きな人を!守る為に!)


 サテラはドラゴンの前に立ち、高音爆発手榴弾を後方に放り投げた。


 ドラゴンはサテラに向かって突っ込んで来たが、次の瞬間、高音爆発手榴弾が爆発する。





 耳を裂く様な音が鳴り響いた。耳を塞いでも、耳の中に鼓膜を潰す様な音が響き渡る。その音を聞いていると、立っている事すら難しくなり、貧血を起こした時の様に地面に倒れ込んでしまった。




 ドラゴンは突然暴れ出す。空に飛び上がり、雷を口から放っていた。しかしそれはサテラを狙って放っている訳では無く、ただ大きな音に混乱し闇雲に放っているだけだった。


「あれ?主様?」


 周りを見渡すと、ヴォラクの姿が無い。広場のどこにも彼の姿は無く、ボロボロになった地面と、深い溝が出来た地面が辺りに広がる。そして空で奇声を上げながら空を飛び回るドラゴンの姿があった。





「主様~!」



 サテラは叫ぶが、ヴォラクの姿はどこにも無かった。






(よ、よし!何とかドラゴンの体にしがみつけた。このまま胸の所まで行って、奴の胸を貫くしかない。そして殺す!)





 ヴォラクは空を駆けるドラゴンの腹の部分にしがみついていた。すぐにドラゴンの大きな体を登り、胸の部分まで向かった。


 胸まで後僅かな所だった。登り続けていると、ドラゴンが空で回転する。


「うぉ!?ドラゴンの奴め!空でグルグルと回りやがって、落ちたら死んじまうぞ!」


 怒りを感情に出すヴォラク。回転した事で少し脳を揺らされる。吐き気がヴォラクを襲うが、何とか胸の所まで辿り着く事に成功した。


 

 すぐにツェアシュテールングを胸に向かって構える。躊躇わずに九発連射する。


 するとドラゴンは…


「ヴヴァァァァァァァァ‼」


 耳を塞ぎたくなる大声をドラゴンが上げる。しかし今はそれに耐える事にする。自分の体を揺らされながらも銃の弾をリロードし、血を流すドラゴンの胸にツェアシュテールングをただ闇雲に撃ち込んだ。




(いい加減に…これで沈みやがれ!)



 最後の一発をドラゴンの胸に撃ち込んだ。




「ヴギァァァァァァァァァア」




 装填された最後の弾をドラゴンに撃ち込むと、ドラゴンは大声を上げる。そのままドラゴンの体は地表に落下してきた。


(やべぇ!このままじゃ地面に激突して天国送りだ。何とかして回避しないと)



 ドラゴンはもう死んでいた。羽ばたかずにただ地面に落下し続けていた。ヴォラクは必死にドラゴンが地面に激突しない部分に移動する。もう地面は目と鼻の先だ。ヴォラクは恐怖し目を閉じた。




「まずい!避けないと!」




 サテラは何とかドラゴンの死骸に押し潰されずに済んだが、ヴォラクがどうなったのかはサテラには分からない。


「あ!主様!」



 ドラゴンの死骸の近くにヴォラクの姿があった。仮面を付けたまま地面に転がっている。もしかしたら死んでしまったのか?



「主様!主様!起きて下さい」


「………」


 サテラがヴォラクの体を揺らすが、何も反応が無い。サテラはヴォラクの付けていた仮面を外して、死んでないか確認する。


「主様!生きてますか?」



 サテラがヴォラクの耳元で叫ぶとヴォラクは死んだ様な体から一気に飛び起きた。


「え!?何があったの?」


「主様、生きてますか?」


「ああ…何とかな」



 ヴォラクはただ気を失っていただけだった。すぐにヴォラクは仮面を取り付けた。仮面の下を誰かに見られる訳にはいかない。



「サテラ、今日は君のお陰で勝てたよ。君が奴を引き付けてくれて、必死に援護してくれた事に礼を言う。ありがとう」


 ヴォラクはサテラに頭を下げる。それにサテラは焦ってしまう。



「いえ!そんな事は…私は主様の命令に従っただけですよ」


「そんな事は無い。君がいなかったら、僕は今頃天国か地獄にいるよ。多分地獄だと思う。でも本当に共に戦って、助けてくれてありがとう。サテラ」


 その言葉にサテラはさっきの態度を捨てて、ヴォラクの手を握る。


「どういたしまして…ヴォラク様」




 夕日が輝く広場には夕日に照らされる2人の影と、地面に転がる冷たいドラゴンの亡骸が横たわっていた。





「じゃあ、戻るか…」



「はい。主様」


 2人はドラゴンの素材を複数採取して、ドラゴンの亡骸を広場に残したまま、森の中を進んで行った。




『ヴォラク』レベル25→40


『サテラ』レベル1→38




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