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98話「真偽不明の出会い」

 

「さて、一休みといくか…」


 彼はもたれかかれる事が出来る椅子に座りながら作業を続けていたが、ある程度の作業が進み、武器も作る事が出来た事で彼は一度休憩を取る事にした。勿論ではあるが、もたれかかりながらの休憩だ。もしこれ以上、指と目を動かし続けてしまったら、完治していないこの体の破壊を更に進める事となってしまう。病み上がりと言っても良いこの体では下手な無茶をする事は残念だが出来ない。

 取り敢えず彼は、椅子にもたれかかりながら無感情に等しい表情を見せると、徐に新たに作り出した左手を自分の視線の前へとかざした。


「馴染むまではまだ時間が必要だな…」


 彼の左腕は失われてしまった。転移してしまった時に、確かにその左腕は失われ、第一関節より前は完全に消失し、出血こそしなかったもののその腕そのものは完全に失われてしまった。しかしながら、この先永遠に、死ぬまで隻腕の人生なんて彼にとっては苦悩以外の何者でもなかったので、彼は失われてしまった左腕の代わりとなる義手を新たに作り直す事にしたのだ。勿論ではあるが、今後使用する武器を作る時よりも作業は難航を極める事となった。


 ◇◇


 まずもってサイズ合わせに苦労、サイズが合わなければそもそも腕として装着出来ないし、機能しない、実際そこで彼は一番頭を抱え、苦労してしまっただろう。片腕しかなかった事もあり、作業は難航を極めていたのだが、この先腕一本で戦場を駆け回るなんて、舐めプも良い所だったので、彼は苦悩を乗り越えなければならなかったのだった。その他雑な運用(マニュピレーターで殴るって事あるよね?)にも耐えられる素材を使用して作り出したのが、今彼が左腕に装着している義手であったのだ。

 一応ではあるが、面白いギミックが多数搭載されており、その全てが武装となっている。

 まず素材についてだが、腕の部分や手の甲、五本指の全てに、ニーズヘッグやガンランチャー、ニクス等に使用した素材と同素材を使っている為、白兵戦で殴り合いになった時にも大丈夫だ。思いっきり殴っても傷は付かない。

 更に更にいざとなれば義手をちぎってぶっ叩く事も出来る。が、しかしそんな運用はしないだろうけど……

 武装としては面積の都合上設置出来たのは二つまでだった。しかし二個も設置出来れば良い方だろう。これ以上搭載しても、無駄足だと彼は思っていた。それに、腕にも武装仕込むとか、まるで全部乗っけラーメンじゃないか。武装を集約し過ぎたら、勝てなくなるって、彼は知っている様な気がしているんだよ。

 機動力が高いのが特徴なのに、変に馬鹿デカいビーム砲持ったり、デカい剣振り回して、コンセプトぶっ壊しちゃったら、意味ないじゃないか?


 武装

「フラッシュライト」

 言ってしまえば、ただの目眩し様の兵装、この武装自体に殺傷能力はない。しかし光自体はかなり強いので一定時間以上見つめると、視力低下を起こす可能性がある。


「爆砕高熱化マニュピレーター」

 言っておくが、これは完全に装着者(主人公)の勝手な思考で生み出された兵装。兵装使用時には義手の五本指(マニュピレーター)が高熱化、熱を帯び、容易に掴んだ敵を爆砕する事が可能となる。敵を掴むと同時に、ゼロ距離からの高熱エネルギーを発射、握り潰す事で敵を爆砕する特殊兵装。使用後は義手から放熱が行われる。


「いつか、使う時が来る。それまでは体に慣らしておかなくてはな…………少し休むか……」


 その言葉を最後に彼は作業台の上に武器を並べた状態で目を閉じ、安らかで安心しているかの様な表情を見せるも、静かにその場で椅子に座り、もたれかかりながら眠りに着いてしまったのだった。


 ◇◇


「お昼寝、完了……探索再開するか…」


 一時の睡眠を満喫した彼は、作業台の上に律儀に綺麗に並べられた武装を全て、アタッシュケースに収納すると、アタッシュケースを片手に持ちながら、身軽になった状態で行動を再開したのだった。何処なのか、何処に辿り着くのかの道すらも、右も左も分からず、完全に行き当たりばったりの状況ではあったが、彼自身何処に赴こうと、致命傷を受けて死ななければ問題はないと考えていたので、何処に行こうと関係はなかった。逆に、今の彼は行動一つ起こさず、固まってしまうかの様にして、変に一箇所に留まり続ける方が愚策だと思っていたので、取り敢えず当たってみると言う考えの元、行動を起こす事にしたのだった。

 だったのだが、行動を起こす以前に彼は足を止めてしまった。何故なら、まず行動を起こす以前にこの場所が何処なのか、そして自分の名前やどうやってこの場所へと辿り着いた等と言った記憶が一切彼にはなかった。場所の探索をする前に、自分の身が一体何なのかを知る必要性がある様に感じた。


「まず、自分の名前すら忘れてんじゃ、行動所の話じゃないな……どうするべきか……」


 彼の身に起こった事の一つとして、まず彼は自らの名前すらも忘れてしまっていた。存在自体は認識しているのだが、どうにも自分に名付けられた名前が何なのか、それが彼には一切分からなかったのだった。


「もういいや、適当に自分で名乗っとくか」


 考えても分からないものは、もう仕方のない事だ。分からない状況の中で、下手に思考を回転させて考える方が無駄足だと思い、彼は今自らの名前を考え、その考えた名を自らの名前とする事にしたのだった。

 

(うぅ~ん……しかし名前を考えるとは言っても、難しいものだなぁ…歩きながら気長に考えるか……)


 彼は今、施設内の探索を行っていたので、名前を考えるのは施設内を探索しながらにしようと決めた。それにすぐ名前なんて決めるのは難しい事だ、名前はこの先死ぬまで永遠に使っていく事になるので慎重に、そして深く考える事にしよう。


 ◇◇


「ここも、何も無しか…」


 彼はまたしても一つの部屋の中を覗く。しかし、結局何もその場所には存在しておらず、虚無感に襲われた様な感じになってしまい、つい苦い表情を浮かべると同時に、何も存在しないこの場所に対して苛立ちを見せる。苛立ちを見せると同時に、軽く舌打ちをし眉をひそませた。彼は休む間もなく、探索を続けていた。現在、彼は施設外への脱出と言うよりは施設内部奥地へと探索の帆を進めていた。

 本当なら、こんな何か出てきそうな場所に長居なんてせずに重い腰を上げる様にして、さっさと外に出たかったのだが、こうも施設内部は入り組んでおり、道を進めばまたしても巧妙に迷わせるかの様な道が続いているせいで全くと言ってよい程、外に出られる道筋を見つけられずにいたのだ。更に彼は既に道に迷っていた。目印なんて物は保有していないので、既に今自分が何処に立っていて、何処に進んでいるのかすら分からない状況下にあったのだ。多少の異なりはあるものの、変わらない景色や入り組んだ道が続いてしまった事が祟ったのか、完全に迷子状態になってしまっていた。

 その為、彼は知らぬ内に施設外へと進むのではなく、施設内部奥地へと足を進めてしまっていたのだった。しかし彼はその事に未だに気が付いていない。彼自身は外に出るつもりなのだが、彼の足は徐々に施設内最深部へと足を運んでしまっている。

 本当なら、この時点で誰かしら、この事を伝えて引き返すか、壁を突き破って新たな道を切り開いて脱出を図ると言う事が可能だったのだが、生憎今この場所には彼一人しか存在しておらず、誰もその事を伝える人はその場に居なかった。それにいつもなら慎重に動く彼ではあったが、記憶が頓挫している為、慎重且つ丁寧に動き、行動するのではなく、大胆に、そして危険を顧みない行動をしてしまっていた。


「さて、名前の事は後回しだな。結構奥まで進んできたが、未だに敵影も人の気配も無しか……」


 独り言をブツブツと呟きながら、彼はニーズヘッグを背部に懸架し、ビームサーベルの柄を右手に握り、シュラークを左手に持ち、両腰のホルスターにゲイルとヴァンを収納しながら、ゴミや破壊、破損した電子機器?らしい物が転がる荒んだ道を進む。歪に変形したドアや部屋そのものが崩壊し、内部に侵入する事すら叶わない部屋、もぬけの殻となりまるで時が止まったかの様にして、寂れている部屋が絶えず自らの双眸に投影される。そして変わらない景色と絶えず続く道に飽きを覚え始める頃、彼は休憩こそしていたものの、元の体はそんな頑丈ではなかった。なので無理をしながらでも続く道を延々に歩く様にして進んでいた事が災いしたのか、結局はまた、足を静止させて、座り込み、止まる選択をするしかなかった。


(取り敢えず、そこの休めそうな部屋で数時間寝るか…扉はまだ歪んでないみたいだし…)


 その時彼の双眸に一つの部屋が目に入った。その部屋は扉が歪に変形しておらず、この荒んでいて、荒廃してしまっている部屋や扉が多く存在している中で唯一と言ってよい程、扉は綺麗な状態を保っており、見た所では特に外傷が見受けられなかった。

 個人的な主観になるかもしれないが、外装に傷が存在しないのなら内部は損傷している可能性が薄いと彼は考えていた。今回の場合は彼が見つけた扉には、これと言って損傷が見られなかった為、多分、多分だけど部屋の中は他の損傷が大きめの部屋達に比べれば安全だろうと彼は考えたのだ。

 最初こそは、入るかどうか迷ったものではあったが、荒れ果てて、荒みきっている道で休むのは生理的に無理だったので、せめてまだ綺麗そうな部屋の中で休みたいと、彼は思い、恐れを殺して部屋の中へと侵入する。


「お邪魔します…」


 そして彼は若干重めの足取りで、扉に手をかけ、開くと同時に部屋の中へと侵入する。多少の戸惑いこそあったものの、引き返す訳にもいかなかったし、今の所この場所以外に休めそうな部屋は今の所見つけてないし、それにもう迷っているせいでこの場所を見失ってしまったら、この場所には戻って来れない気がしてきたので、その事も考えた上での決断だった。


(予想は当たっていたな……奇跡的な保存状態だな)


 表情にこそ出さなかったが、彼は内心で驚きを見せる。部屋に入った瞬間、彼を迎え入れたのは非常に整えられ、掃除や手入れでもされているかの様な美しい部屋であったのだ。部屋の中は若干暗くなってはいたが、明かりは一応通っている様で薄暗く部屋を照らすかの様にして明かりが部屋を照らしていた。その他にも机や椅子、更にはカーペット等も設置されていた。そして彼が真っ先に目がいってしまったのはフカフカで寝心地がとても良さそうなベットだった。布団もとても暖かそうで今すぐにでもダイブしてしまいたい程、彼には綺麗に見えていた。

 こんな汚れていて、荒みきっていて、歪に歪んでいたこの場所であったが唯一清潔で整えられた部屋を拝んだ彼は、謎に感動してしまっていた。

 しかしこれは彼に好都合だった。足が疲れきっていたが、これなら心置きなく休む事が出来そうだ。彼は早速ベットに座り込んで、そのまま足を休めようとしたのだが、彼はある事に気が付き、足とその体を止めてベットを目を凝らして見つめた。


「ん?何か、膨らんでる?」


 薄暗い部屋の中で、彼は寝転がろうとしていたベットが何故か膨らんでいると言う事に気が付いた。理由は不明だが、ベットの上に広げられた布団は何故か膨らんでいたのだ。まるで布団の中で誰かが静かに眠っているかの様だった。

 いや、まさかな……と彼は心の中で冷や汗を流す様にして呟く。まさかこんな人の気配が一切感じられなかったこの場所に、人が今更いたなんて考えにくかった。

 今まで、この場所の探索を行ってはきたが、人工物や人の手によって作られた様な物は大量に残存していたが、人や生物等と言った生命体は一切確認出来なかった。今更人がいる、なんて事あまり信用はしたくなかった。

 しかし、そんな彼の、信用したくない、と言う願いとは裏腹に、真実が姿を現すかの様にして彼の目の前に真実が徐々に姿を現し始めたのだ。


「うぅ~ん、もう食べられませんよぉ~」


 布団の中から、テンプレの様なセリフが聞こえてきた。眠っている人ってなんでこう、もう食べられませんとか言うんだろうね?謎に感じるけど、これってやっぱテンプレなんだろうか?分からないけど取り敢えず今はテンプレって事にしておきます。


(誰か、ここで寝てるのか?声的には女性に聞こえたが……)


 彼のこめかみから冷や汗が一滴垂れるかの様にして流れる。もうこの布団の中に誰かが寝ていると言う事は確定で良いだろう。しかも声の高さ的に、眠っているのは女性で間違いないだろう。

 真偽不明の出会いであったかもしれないが、彼は取り敢えず被っている布団を退ける事にした。罠と言う可能性は非常に低いが、万が一の事や自分が休みたいと言う事もあったので、多少は何が出てくるかに対しての恐怖こそ存在していたが、自分が休みたいと言う欲求の方が強かったので、彼は徐に布団を退けて、中を確認する事にしたのだった。


「悪く思うなよ?」


 そう言うと彼は布団を退けた。そして布団の下には………


「……おいおい、勘弁してくれよ……」


 彼は頭に手を当てて、やれやれだぜ、と言いたげな表情を見せた。

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