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エピローグ「ヴォラク死す」

 

 突然として、左コーナーの入り口から颯爽と現れヴォラクと謎の敵との戦闘に介入を行ったディクロス。すぐさま現れるなり涼し気な表情を見せながらも、許されざる暴虐行為を目の当たりにした事で強い怒りに触れた事で、彼は自らが持つ魔剣を引き抜き、謎の敵へとその刃の矛先を向けた。


「正面からの戦闘は私に任せてください!ヴォラク、貴方は後方から敵を挟み込んでください!」


「わ、分かった!作戦に従う!(作戦を出すのが早い!)」


 ヴォラクはその言葉に素直に従う様子を見せ、ビームサーベルを握り締めるとすぐさま謎の敵の後方に素早く回り込むと同時にビームサーベルを振り回し、謎の敵の体を簡単に斬り裂いてしまおうとする。しかし敵も流石にただのゴロツキと言う訳でもないし、ヴォラクも体にダメージが蓄積されている事も相まって敵は簡単には撃破されそうにはなかった。


「ちぃ!邪魔が入るとは……第一目標である不知火の事は達成しなければ!」


「よそ見は厳禁ですよ!」


 謎の敵はディクロスには見向きもしない様な様子をしていた。目線も武器の矛先もほぼ全てがヴォラクの方向を向いていた。しかしこの戦いの場に立ち会っているのはヴォラクだけではなかった。ディクロスはよそ見をしている敵を絶対に見逃す訳はなく魔剣を突き出すと同時に詠唱を唱え始める。


「”大地を潤す美しき裂水と地を裂く轟の迅雷よ、互いに踊り、力を貪り、入り乱れよ!”融合召喚魔法「雷と水の円舞曲アクアトニトゥルスザワルツ」」


「何その、中二病臭い詠唱!」


 正直な話、ヴォラクは昔の自分を思い出した様な気がした。今のディクロスの長い詠唱はヴォラクも過去には姉と一緒に、馬鹿になって言った所でどうにもならないし、言うに耐えない様な馬鹿げた言葉を並べて共に言い合っていた自分を思い出していた。嫌な話だよ、過去の事なんて思い出したくないのにディクロスの中二病臭い発言のせいで、記憶が蘇ってしまったのだ。

 以下、回想


「決まったぞ…我は闇と影を統べし魔界の暗黒騎士である!」←凱亜


「同じく、暗黒騎士の忠実なる下僕にして最愛の妻、暗黒の魔道士、全てを灰燼に帰せ!」←お姉ちゃん


 ウァァァァァァァァァ!


 またしても、蘇ってほしくない記憶がヴォラクの頭の中に蘇ってしまった。しかもよりにもよって、姉とコスプレした時に言ってたセリフをディクロスの言葉を聞いてしまった事で思い出してしまったのだった。

 頭からこんな考えは早く捨てるべきだ、これ以上思い出してしまったら精神的に死亡する可能性だってある、そうしたらこの話のタイトル回収を行ってしまう事になる。実際死ぬかどうかはおいておいて、変な回収は行いたくなかったので、ヴォラクは一度この考えを完全に捨てる事にしたのだった。


 ◇◇


「水と雷が、融合している!?」


 ヴォラクの視界が驚くべき物ばかりで埋め尽くされていく。ヴォラクはあまりの衝撃に首を左右にキョロキョロと動かして視界を次々と移動させ目を丸くした。


「私は水と雷の魔法を得意としていますので…」


 そしてヴォラクはディクロスの魔剣に目を向ける。ヴォラクは更に驚きの表情を見せる。彼の持つ魔剣からは、幻想的で狂気的と捉えられる程に禍々しく美しい、唸る水と電気を大量に帯電した雷が交差するかの様にしてディクロスの魔剣に纏わりつき、蠢いていたのだ。しかもその大きさも魔剣の大きさを上回る程の大きさで全くと言っていい程衰える様子を見せようとしない。


(何だこの恐ろしいオーラは!?肌がピリピリしやがる!)


(くっ、飼い犬風情が……所詮人間とは言っても、侮れん!)


「すみませんが、手短に決めさせてもらいますよ!唸れ、裂水よ!「リッパーザアクア」」


 ヴォラクはディクロスの使った技に強く唖然として、空いた口が塞がらなくなってしまった。ビームサーベルをその手に握りながらもその場から動けなくなって加勢に加わる事も一切出来なくなってしまったのだ。しかしヴォラクはこの戦いに参加しなくとも、彼が勝つ事が出来るのは明白な気がしていた。

 まずディクロスの持つ力のオーラをヴォラクは今その生肌で実感していた。まず決勝で戦った時とはまるでレベルが全く違う様にも感じられた。決勝の時はまだ、圧迫されるかの様な謎のオーラを一瞬感じた以外は、正に普通な感じで自分と同等程度の力しか持っていない、とヴォラクは錯覚していた。しかし今のディクロスはそんな生易しいものではないと実感していた。確実に相手を無効化する為に戦い、目が合っただけで身を震わせさせるかの様な程に強いオーラを秘めた瞳、そして今ヴォラクの目の前で使用した魔法を見た瞬間、ヴォラクは強く戦慄し、久しぶりに蘇った感情である恐怖を実感していたのだ。


 ディクロスは魔剣の矛先を謎の敵へと向けると同時に自らの魔力を代償に生み出した裂水を突然として敵の方向へと水を進ませるかの様にして、飛び道具の様にして飛ばしてしまったのだ。裂水は細い線上の形を象りながら敵の方向へと、まるで突き刺すかの様にして高速で突き進んでいく。


「くっ、この程度で!」


(水圧カッターの技術と似ているが、それを武器として応用するなんて……敵じゃなくて良かったなぁ~)


 しかしディクロスが謎の敵へと放った裂水は掠る事すらなく簡単に避けられてしまった。敵も重装備をしていなかった事もあり、身のこなしが非常に軽かった事為、高速で向かっていたとは言っても簡単に、ディクロスの放った裂水は避けられてしまったのだった。


「躱したつもりですか?」


「何!?」


 ディクロスは冷たげで愛想を一切感じさせない表情と冷静と冷酷さが入り交じった様な瞳を浮かべると魔剣を縦方向に向けるのではなく、横方向へと向けた。ヴォラクはこの行動に何の意味があるのかは、最初こそ分からなかったがすぐにヴォラクはディクロスの行動が何の為にあったのか理解した。

 何と、ディクロスが放ち、敵には避けられてしまったはずの裂水は曲がる事なく真っ直ぐと直線に進んでいたのだが、ディクロスが魔剣の矛先を向ける方向を変えると同時に、裂水は突然と進路を変え、直線に進むのではなく突然カーブすると同時に反転し、背後から敵の背中を突き刺すかの様にして敵に裂水が突然、迫ったのである。


「ちぃ!?」


 勿論敵は裂水が突然カーブして、後ろから貫いてくるなんて知らなかったので、突然迫る裂水を完全に躱しきる事など出来るはずがなく、敵の羽織っていたローブを裂水が意図も簡単に貫いてしまったのだ。気味の悪いローブとは言っても、所詮はただの布素材で作られた物であった為、裂水はローブに大きな穴を開けると同時に、敵の体の肉を僅かにではあるが、抉ったのだった。肉を抉られた事で、謎の敵はポタポタと赤黒い血をその地に垂らしたのだ。敵は右脇腹を押さえている様に見えた。しかしそれは肉を抉られた事で出血が止まらない事もあり、止血する道具が無かった事もあり手で止血する為に脇腹を押さえていたのだった。


(マズイ!このままでは、第一目標どころか、第二も第三も達成出来なくなる……捨て身になるが……あの方の為なら…)


「動きが鈍くなった、追撃を仕掛ける!雷鳴の如く轟き、その身を砕け、迅雷を!「ライトザトニトゥルス」」


 ディクロスは再び嫌な記憶を思い出させそうな台詞を叫ぶと同時に魔剣の矛先を天高く掲げ、僅かな時間のに掲げると、ディクロスは魔剣の矛先を謎の敵へと再び向けたのだ。


「轟けぇぇぇ!」


「な、何!?」


「い、一体……ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突然謎の敵が痛々しく、鼓膜を強く振動させる甲高い悲鳴を上げると同時にその体を大きく飛ばし、その体は闘技場内の壁に激突すると同時に、その体は尻を地面に着けて座り込みながら壁にもたれかかり、項垂れ闘気を失ってしまっている様であり、今は石像の様にして固まり、その場から動こうとする素振りを見せなかった。そしてヴォラクはあまりの急展開に目を丸くし何もする事なく呆然とその場に立ち尽くしていた。

 今度はディクロスの魔剣からは裂水ではなく、轟音と共にけたたましく姿を現した迅雷だったのだ。ディクロスは敵の動きが僅かに鈍った事を見極めると、出し惜しみする様な素振りを一切見せようとせず容赦なく、敵のその身に迅雷を撃ち込んだのだ。


「あ、あんた……決勝の時はそんなに強かったっけ?」


「これでもまだ、本気の半分以下ですか?」


「恐ろしいな…」


 ヴォラクはディクロスのあまりの強さに驚愕すると同時に内心では震え上がる程に強い恐怖心を覚えてしまった。これはガチになっても勝てないとヴォラクが心から思える程だ、現にこれでまだ全力の半分以下だと言うのだ、これで本気なら一体どれ程の力を持っているのか……想像するだけでヴォラクは身を震わせてしまう程であった。なので今はディクロスの強さについては深く考えない事にしておいた。これ以上下手に考えれば身がもたなくなってしまうかもしれないとその身を持って思ったからだった。


 そして案の定、裂水を避けた上に右脇腹を負傷しているが為に身の動きが鈍くなってしまっていた敵は迅雷を避ける事が出来ずにその場に片膝を着いてよろめきながら動きを停止してしまう。


「この!この!………あ、消えた!?」


「馬鹿な!破壊したのか?」


「いや、消えた様に見えましたけど?」


 謎の敵がよろめき、その場に膝を着いた時、血雷やレイア、シズハの行く手を阻んでいた強固な魔力壁が突然と去るかの様にしてその場から消え去った。先程までは血雷達が苦い表情を見せながらも、自らが持つ武器で攻撃を行い、破壊を試み、幾度となく破壊に失敗としていた魔力壁は、敵がディクロスの迅雷をその身で喰らった事で、魔力の流れが鈍ってしまったのか、魔力壁は突然として完全に消え去り、彼女達の行く手を阻む事はなくなったのだった。

 その事で彼女達もヴォラク達の元にすぐさま向かうと同時に、駆け寄る事が出来たのだ。体に負荷がかかっていたのか苦しげな表情を見せながら、姿勢を崩し始めているヴォラクに彼女達は駆け寄り、血雷はすぐさま彼に肩を貸し、苦しくならない様に介抱する。


「おいおい、大丈夫か?」


「姉さん、すまんな…僕が不甲斐ないばかりに……」


「なぁに、生きてりゃ儲けもんだ」


「主様ぁ!生きてて良かったですよぉ!」


 後ろの方から聞き慣れた声が聞こえてくる。ヴォラクはすぐさまその声に反応し、首を後ろに動かしてその声の主が誰なのかを確かめる。


「サテラ……良かった。怪我ない?」


「私は大丈夫ですよ?それよりも、主様は大丈夫なんですか?」


 サテラをヴォラクの事を上目遣いで見つめ、怪我がないかどうか、心配するかの様な表情を見せる。ヴォラクは一応サテラに怪我がないかどうか聞いておいたが、サテラは自分の事よりも、主であるヴォラクの心配をしていたのだった。ヴォラクは血反吐を吐く程度で済んでいたので、あまり気にはならなかったが。


「もぅ……心配をかけるなよ、ヴォラク」


「本当、無事で良かったよ…」


 レイアやシズハも先程までは、苛立ちと心配が拭えない表情を見せていたが、ヴォラクの無事を確認出来るなり安心した様な表情を見せてくれた。ヴォラクは安心した彼女達の表情を見て、安堵しホッと、一息着く事が出来たのだった。


「さて、後の問題は……」


 ヴォラクは安堵の表情を見せるかと思えば、突然として眉をひそめて険しい表情を見せ、壁にもたれかかりながら項垂れている敵の方向に視線を移した。ヴォラクが謎の敵の方向を見ると同時に、彼女達もヴォラクと同じ様にその敵の方向を見つめていた。


「アイツ……どうするよ?試し斬りのデク人形にしてやるか?」


「水責めにするのも良いかもね?他にも拷問は山の様にあるし……」


「この際、脳天ライフルで撃ち抜いちゃえば良いんじゃないですか?」


「いえいえ、もっと痛め付けて殺さないと!ね!?主様?」


「あぁ、切れ味の悪いナイフとかでゆっくり、少しづつと」


 中々サイコな会話が飛び交うヴォラク達一行ではあるが敵に視線を向けていたディクロスはヴォラク達の会話を聞くなり、一度ヴォラクの方を振り返った。


「私刑は何も意味がありませんよ、しっかりと断罪し、罪を償ってもらうべきです。彼は私が連行致しますので、何卒私刑で葬る様な事はやめていただけませんか?」


 ディクロスの畏まっていて、しかも聖人の様な言葉にヴォラクは思わず驚いてしまった。仮にも刃を交え、他人を平気で傷付けた人間だと言うのに、ディクロスはそんな罪人に等しい人物にも慈悲を齎すかの様な発言を見せたのだ。一応神を崇め、その下に着く者だから救いを齎すのも当たり前かもしれないが、無慈悲で一切の躊躇を見せないヴォラクと違ったディクロスの発言にヴォラクは驚いてしまったのだった。


「わ、分かったよ…じゃ頼むな…」


「ご理解頂けて、感謝します…」


(Shit……このままでは、連行された挙句身元が割られてしまう。クソ、不本意ではあるが……奴の精神崩壊を狙うしかない!今は気が逸れているはずだ…………)


「主様、早く帰って次の場所に向かいましょう?ドライブ楽しいですし!」


「ふっ、そうだな…」


 謎の敵がローブの下で歯を剥き出しにして奇妙な笑いを見せる。刹那、ヴォラクはその一瞬の間で敵がその邪悪な視線を誰に向けているのかに気が付いてしまったのだ。

 サテラへとその邪悪な視線が向けられている。何が起こるかは分からないが、直感的に、謎の敵がサテラに何かしようとしているのは明白で、何をするか分かった様な気もしてしまった。まだ何をするかなんて未来が見えないと分からない事ではある。しかしヴォラクに未来を見透せる力なんて存在しない。だが、ヴォラクは本能的に「ヤバい」と感じ取ったのだ。


「貴様だけでも、地獄に連れていく!」


 ヴォラクは考える前に体が動いてしまっていた。彼はすぐさまサテラの事を突き飛ばしたのだ。何も起こらなかったら、怒られるかもしれないが所詮は一回の失敗だ、気にする様な事ではないだろうと思い、彼女に被害が及ばない様にする為に彼女の華奢な体を突き飛ばしたのだった。


「危ない!…………ぐぉぉぉぉぉ!!!」


「キャ!え、主様!」


 敵は何かをサテラに向かって投げたのだ。大きさは差程大きくはなかったが、その中には危険と言う名の存在が詰まっている様にも見えた。しかしサテラに向かって投げられた何かはヴォラクがサテラの事を突き飛ばした事で、彼女にそれが当たってしまう事はなく、結局それはヴォラクの体へと当たってしまう事となってしまったのだった。

 ヴォラクに当たってしまった何かは、その地へと謎の魔法陣を自動的に生み出した。その間、ヴォラクは体全体が金縛りにあったかの様にして固まり、一切動けなくなってしまったのだ。ヴォラクは必死になってもがき、抵抗する為に抗い続けるが、ヴォラクの力ではこの拘束を振り切る事は出来なかったのだった。


「き、貴様ァ!罪に罪を重ねる気かぁ!」


 ディクロスは先程までは罪を犯した謎の敵に対しても、温情を見せ、慈悲のある言葉を投げかけていたが、今の行動をその目で見たディクロスは激昂する様子を見せた。再び彼は魔剣を引き抜くと、慈悲を無慈悲へと変え、温情の措置なんて一切なしの様子と、殺気が込められた双眸を敵に向けると同時にその刃を謎の敵へと向けようとしたのだ。

 しかし敵は刃を向けられるなり、すぐさま、俊敏な動きでディクロスの剣戟を余裕で回避してしまったのだ。仮にも迅雷をその身に負い、裂水で体の肉を抉られているにも関わらず、その俊敏な動きにディクロスは空いた口が塞がらなかった。

 そして剣戟を避けるなり、敵は捨て台詞を吐く様にしてディクロスを見つめた。


「ディクロス・ヴァンパッテン、貴様は必ず、この僕が殺す!」


 その言葉に最後に敵は項垂れながらも、魔力により突然生み出され、真下に現れた異空間へと姿を消してしまったのだ。


「待て!」


 ディクロスの言葉虚しく、敵はその場から完全に姿を消してしまい、真下に現れた異空間も完全に消え去ってしまい、その足取りを掴む事は出来なくなってしまったのだ。ディクロスは歯噛みしながらも周囲を見渡し散策するが、敵の足取りは一切、何も見つからなかったのだった。


 しかし今はそんな事よりも、ヴォラクの方が重大な極地に立たされていた。


「主様!今、助けますから、頑張ってください!」


 ヴォラクは突然真下に現れた魔法陣に拘束され、その身が魔法陣によって、破壊されそうになってしまっていたのだ。

 ヴォラクは必死になって抵抗を続けるが、魔法陣により現れた謎のオーラやロープ状の謎の何かがヴォラクを拘束し、絶対に離そうとしなかったのだ。

 しかしそんな中でも、サテラ達は拘束されているヴォラクの左手を掴みながら、必死になってヴォラクをその魔法陣から脱出させようとしていたのだった。

 シズハや血雷やレイアもサテラに協力し、綱引きをするかの様な感覚で彼の事を引っ張り、ヴォラクが魔法陣の呪縛から抜け出せる様に必死になって彼の事を引っ張り続けたのだ。


「うぉぉ!凱亜、まだお前の人生は終わらせんぞ!二度も失う訳にはいかんのでな!」


「私との約束、忘れてないでしょうね?それを果たすまでは消えちゃダメよ!」


「私だって、サテラと明るい家族計画があるんだから!絶対に私はヴォラクさんと結婚するんだからぁ!」


「とにかく私も力を貸します!もう少し頑張ってください、ヴォラク!」


 ◇◇


 彼女達だけではなく、ディクロスの彼女達に加わり、必死になって彼を脱出させようとする。今この場にいる全員が、ヴォラクの無事を祈っていたのだが、現実程残酷だと言う事は存在しなかった。

 サテラは主であるヴォラクの事を助けられると思っていた、自分は今まで助けられる事ばかりだったので、今度は自らが、自分が助ける番だと思っていたからだ。サテラは必死になって彼の事を助けようとしていた。

 シズハだってサテラと同じ気持ちだった。自分の命を助けてくれた恩人、どんな時だって自分の傍で自分の事を支えてくれて、辛い時も、どんな時も自分の事を気にかけてくれた彼を助けようとしていた。

 血雷はもう失いたくなかった。一度だけの消失だって彼女にとっては思い出したくないトラウマではあったが、幻想、偽物、仮の存在であったとしても彼女にとっては同じ様な存在である凱亜を彼女はもう失いたくはなかったのだ、二度目の消失なんて彼女にとっては耐え難い苦痛だ、今度は助けてみせる、と彼女は心の底からそう思った。

 レイアも全員に賛同するかの様な意見だった。彼には捨てたとは言っても、自分の国をこの純潔を守り通してきた体を守ってもらった恩がある身であったのだ。受けた恩は返さなければならないと彼女は思っていたので、彼女は今彼女達と同様に必死になって彼の事を助けようとしていたのだった。


「くっ、ふぐぅ!うぉぉぉ!」


「主様、頑張ってください!」


「意地でも、助ける!助けるから!」


「もう弟は失いたかぁねぇ!強引な形になっても、助けてやる!」


「待ってて、もう少しだから、もう少しなのよ!」


「モテる男と言うのは、辛いですね!」


 五人は必死になってヴォラクの救出に専念する。サテラに至ってはもう目を瞑りながら、自分が持てる最大の力を引き出しながら彼を必死になって助けようとしたのだった。

 その時だった、鈍い音とブチッと言う、何かがちぎれてしまったかの様な音が聞こえた。しかしサテラはその音を聞く事はなかった。

 そしてサテラは引っ張り続けた事で、遂に何かが魔法陣から脱出し、サテラは引っ張り続けた事で後ろに倒れ込んでしまったのだった。

 サテラはこの時、ヴォラクを無事拘束から解放する事が出来たと思ってしまっていた。サテラは解放したと思い込み、一瞬こそ安心した様な表情を見せるが、真実を知った瞬間、その表情は絶望と恐怖だけが支配する、奴隷の時とあの時と差程変わらない様な絶望だけが蔓延する醜い表情へと変貌してしまったのだった。


「や、やった!主様、やりまし………………えっ…」


 サテラの手に握られていたのは、ヴォラクの体ではなく、ヴォラクの左手それだけだったのだ。体はなく左手のみがちぎられ、そこにあったのだ。しかもヴォラクの体は何処にもなく、左手だけがその場に残された状態でそれ以外の体は一切としてその場には存在していなかったのだった。

 そして赤黒い血がちぎられた所からポタポタと血が止めどなく滴り、血が落ちる度に地を赤く染めていたのだった。

 サテラはこの出来事に頭が追い付かなくなったが、真実を理解した時、サテラは深い絶望に襲われる。


「おいおい、冗談って言ってくれよ……」


「有り得ないわよ、きっと…きっと何かの間違いだから………ね?」


「嘘よ、ヴォラクさんがこんな事になるなんて……」


「主様……主様…主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様主様ァァァァァァ!!!」


 彼女の目元からは止めどなく涙が流れ、止まる事を知らぬかの様にして涙は流れ続けてしまったのだった。誰もこの状況を飲み込めずにいたが、いち早く状況を理解したレイアと血雷は何も言えず、声を上げながら泣き叫ぶ彼女を慰める事すら出来なかった。

 レイアは驚きのあまりその場から一切動けなくなり、血雷は必死になって涙を堪えようとしているが、顔を上に向けて必死になって泣かない様にしているのが精一杯で何も言う事が出来なかった。


 それと同時にヴォラクの消息は不明となった。消息は完全に不明となり、唯一残されたのはヴォラクの唯一の体である服が付いたままの左手と彼が作り上げた武器だけだったのだった。

 サテラは彼を探そうとするが、何も手がかりと言う物が存在せず、結局は彼の所在を調べる為の道は全て閉ざされてしまったのだった………


 ◇◇


「……………フッ…面白い…」


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「彼の方は上手くいった様ですね…」


「俺的には殺すのも面白いと思ったが、弄ぶのも良いかもしれんな…」


「これで、ようやく序曲は済んだと言う事じゃな…」


「………さて、次の段階へと移るか……」



次回から第二部へと移行します!

次話、お楽しみに!

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