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96話「元々敵だった奴との共闘ってなんか熱い展開だよね」

 

 ヴォラクは一度軽く頷くかの様な様子を見せると同時に、彼は先程まで右手に握っていたビームサーベルのビーム刃を突然として消してしまったのだ。今まではディクロスの魔剣と斬り合いを発生させる為にビーム刃を展開していたのだが、血雷がヴォラクと変わって、ディクロスと互いに斬り合いを起こしている中でヴォラクはビームサーベルの握り手部分に設置されたビーム刃を展開、収束する為のボタンを押し、一時的にビーム刃の展開を中止させる。

 こんな行動、傍から見れば簡単に戦闘放棄、戦意喪失してしまった様なものだった。ビームサーベルの刃の展開を中止すると同時にその場にヴォラクは血雷の動きを徹底的に観察すると同時に目で彼女の事を追い続ける。


(離れたタイミングで突っ込む……最悪、相打ちでも)


「素晴らしい攻撃ですね。私も対応しきれるか分かりませんよ…」


 血雷と絶えず斬り合いを続け、互いの剣で鍔迫り合いを起こす中、ディクロスが額から僅かにだけ汗を流しながら血雷へと呟く。しかし汗が多少流れているとは言っても、その表情には絶えず余裕が満ちていた。血雷の変則的且つ流れが掴みにくい斬撃を血雷はディクロスに向けて放ち続けているものの、今の所、放った斬撃は全て華麗に避けられてしまっていた。避けられる所か、服などに掠る事すらなく全ての攻撃が見切られている様な感じだった。

 血雷は苦し紛れにも、ディクロスに向けて若干怒り口調で言葉を投げる。攻撃が当たらない事で血雷は既に焦りと怒りを覚え始めている程だった。

 

「説法は戦場で読むもんじゃねぇぞ!色男さんよぉ!」


 血雷の変則的且つ一撃一撃がとても重い剣戟を賞賛するディクロスの言葉に対して、血雷は苦難気な表情を見せながらも、皮肉げにもそう言葉を返した。連続で斬り合いを続け、斬り払い、突く、血雷は更に速度を上昇させ、連続で攻撃を仕掛けていくものの、ディクロスはその全ての攻撃を完全に見切るかの様にして攻撃を避け続けている。時にはディクロス自らが攻撃を仕掛けるが、血雷は今は何とかディクロスの斬撃を受け止め、受け流す事で凌ぎ続けているのだが、体力が尽きるのも時間の問題であった。そうなれば動きは鈍くなり始め、次第に攻撃を避け、自ら剣を奮う事も難しくなるだろう。そうなれば脱落するのは目に見えていた。


 そして若干怒りが篭っている様な声で血雷が呟く事に対して、ディクロスはまるで敵の弱点を知り、そこを的確に討つ様な形で、血雷の心の中に攻撃が当たらない事に対する怒りが芽生え始めている事を指摘し始めたのだ。


「戦場で怒りに駆られるのも、私はよくないと思いますけど?」


「洒落臭ぇんだよ!」


 そんな中で血雷は両手で強く握り締めた刀を素早く振り上げると同時に大振りにその刀を振り下ろしたのだ。振り下ろした際にディクロスは血雷と目が合ってしまう。そしてディクロスは彼女の目に他人を殺してしまう様な強い殺気が宿っている事に気付く。

 これは躊躇いなく人を殺せる目である事をディクロスは感じた。当たったら死ぬ、殺しは絶対に禁止だが彼女の刃は止まる気配を見せない。ディクロスは彼女が振り下ろした刃を受け止めるか受け流すかそれとも回避するかの選択を迫られる事となった。


「姉さん!下がって!」


「な!?」


 ヴォラクが突然血雷に向けて強く叫んだ。ヴォラクは強く叫ぶと同時にヴォラクはディクロスへと向けて、ツェアシュテールングやビームサーベルと言った武器も持たずに両腕を広げてディクロスへとマウントポジションを取るかの様にして飛びかかり、掴みかかったのだ。

 そして血雷は突然斬り合いの間合いに入られてしまった事で、力強く振り上げ、ディクロスへと向けて振り下ろそうとしていた刀の刃を振り下ろさなかったのだ。彼女はヴォラクの行動を見るなり、彼が何をしようと察した様だった。彼女はフッ、と軽く微笑むと、彼の邪魔にならない様にする為に、そのまま後ろにバックステップを取り、ヴォラクよりも後ろに下がり一時的に刀を振るうのをやめて、ヴォラクの後ろに立ち、ヴォラクの動きを目で追う事にした。何もせずにただその場に立ち、一向に動く気配を見せなかったのだ。


(ほぅ…組み付いて相打ちに持ち込むつもりか…)


「うぉぉぉぉ!!」


「ぐっくぅ!」


 ヴォラクの突然の割り込みはディクロスにとっては予想外だった。今は赤髪の剣士と斬り合いを続け、何度も鍔迫り合いを起こし、機敏に動き、そして斬り合い、その身を削り合うかの様な斬り合いを起こす中で突然黒髪の青年が自分の元へと突っ込むと同時に、自らの体に組み付き、相打ちを狙ってきたのだ。先程の様に、黒髪の青年は力量差を見据えてもう近接戦闘は仕掛けてこないとディクロスは踏んでいたのだがこの行動は予想外だった。

 ディクロスはこのままでは二人仲良く押し出されてしまうと考え、何かしらの策で対抗し、今の状況から脱出しようと試みたのだが、抱き着かれて押し出される中、ディクロスは突然として、狼狽し慌てる様な表情から何かを考えるかの様な表情を見せる。

 途轍もなく悪い気をその肌で感じた気がした。物凄く悪い奴の気で、今遠くから気配を消して自分達を見つめている様に思えた。


 まさか例の奴が来ているのか……?いや、確実に来ているな……そうでもなくてはあの様な気は見せないはずだ…

 ディクロスはそう思うと体の力を簡単に抜いてしまうと同時に目を閉じて、左手に強く握り締めていた魔剣を簡単に手から離し、地面に落としてしまったのだ。

 カランと、地面に剣が落ち、低い音が周囲に響くがヴォラクはそんなの気にする事なくディクロスをそのまま場外へと押し込んでいく。


「これで落ちろぉぉぉぉ!」


(今は身を引くとするか……)


「おいおい、決着着いちまったじゃ……ねぇか…」


 血雷がそう呟く頃、既にもうヴォラクとディクロスは場外に落ちてしまっていたのだ。先程まで血雷とは激しく斬り合い、レイアの背後を簡単に取ると同時に掌打で大きな衝撃を与え、シズハを意図も簡単に場外へと飛ばしてしまっていたディクロスではあったのだが、その最後はあまりに呆気なく、その光景には目を見開いて唖然としたまま見つめてしまう程であった。

 血雷は若干、ディクロスの呆気なさに、引いてしまっている。先程までの勢いは一体何処に行った?と言ってやりたくなる程で血雷は不意にもディクロスに言葉を投げかけたくなる程であったのだ。

 レイアは強い衝撃を受けながらも立ち上がりその戦いぶりをその目で瞬きすらもしない勢いで険しい表情を見せながらも見つめていたが、決着が着いた瞬間、レイアは空いた口が塞がらず、思わずえっ、と口から情けなくも言葉を漏らしてしまう程であった。

 シズハに至っては場外で立ち上がりながら彼らの試合を哀愁漂う表情で見つめていたが、決着が着いた瞬間、呆気なさに呆然するのではなく、逆にその場で蛙の様にしてピョンピョンと飛び跳ね、ヴォラクの勝利に強い喜びを見せていたのだ。その場の静寂としていて、唖然と強い驚きを見せる中、強い喜びを露わにしていた彼女の姿は異端と呼ぶに相応しかった。

 しかし決着が着いた事で、司会であるマッスは素直に黙っている訳ではない。マッスは決着が着いた事を確認すると同時にこれまでの中で一番大きい声を発する。

 ヴォラクもディクロスもあまりの声のうるささに、苦味のある表情を見せ、咄嗟に耳を塞ぎ、音を退けた。そして二人は耳を塞ぎながらも声が一番聞こえる方向を見つめる。


「きぃぃぃぃまったぁぁぁ!最後はまさかまさかの相打ちと言う形で決着が着きました!優勝は、初参加のヴォラクチームです!両者の健闘を大いに讃えましょう!それでは、次に表彰に移りますのでディクロス選手は退場の方をお願いします!」


 その言葉を聞いたディクロスは寝転んでしまったいた体を徐に起こすと同時にその場から立ち上がる。それと同時にヴォラクに背を向けて、自分が入場してきた左コーナーの入口へとそそくさと戻っていく。その背中に悲しみや悔しさなどと言った感情はヴォラクが思うには感じられなかった。しかし戻り際、ディクロスはヴォラクに言葉をかけた。優しさが残るかの様な、男性でありながら美しい表情を見せた。


「いい勝負でした。またいつかお会いしましょう……では」


「お、おい、あんた……」


 ヴォラクはその場に半分体を起こしながらも、右手をディクロスの方へと伸ばし、まだ何か言いたげだったのだが、ディクロスはヴォラクの言葉に応える事すらなくその場から去ってしまった。結局ヴォラクはディクロスに何も言う事は出来なかった。ヴォラクは彼に何か言おうとしたのだが、去ってしまった事で何も言えず、そのまま優勝した事による表彰が始まる事となってしまったのだった。


(ちっ……逃げ腰かよ……)


 そう捨て台詞の様にして心の中でヴォラクは言葉を吐き捨てる。しかしその場から彼が去ってしまったので、もう言葉をかける事も出来ないし、言葉も届かないので仕方ないとヴォラクは割り切ってしまった。そしてヴォラクは立ち上がり、その身を起こして今回共に戦った仲間と共に表彰に望む事にしたのだった。


 ◇◇


「おめでとうございます!ヴォラクチームの皆さん。見事な戦いぶりでしたね!何か、コメントはありますでしょうか?」


「特には……金が貰えるなら文句はありませんよ」


「私はただの数合わせなので…えへへへ」


「少しは刀の腕が上がったとは思っていますよ。これも良い鍛錬です」


「正直、味気がないと言うか……(背中痛い……)」


「こ、個性的なコメントありがとうございます!では、優勝の賞金の授与を行いたいと思います!」


 四人の個性的なコメントにマッスは若干反応に困る様な様子を見せてしまっていたが、司会と言う立場であった為、下手に言葉を詰まらせ、その場に静寂を作り出す訳にもいかなかったので、気が利く様に何とか言葉を繋げて、場の空気を和ませていく。


「よっしゃ!これでまた凱亜と美味い酒が飲めるぜ!」


「今夜も楽しみ♡」


「ま、資金が提供されるなら嬉しい限りだな…」


「よかった、何もなく終わっ…………てない!」


 右斜め上方向、攻撃を仕掛けられている気がした。ヴォラクは普通の人間では異常とも言える程の高速反応で右斜め上方向を見つめる。案の定だった、何者かが自分に向けて鋭い三つの刃を持った鉤爪を向けてきていたのだ。

 ヤバい、と思った瞬間には既に自分に攻撃を仕掛けてきた奴はもう自分の目と鼻のほんの少し先にいた。後数秒、いやそれ以内に襲いかかり、あの鋭い刃で自らの体を斬り裂くかもしれない。ヴォラクはあの武器に当たったら致命傷を負うと察知し、ビームサーベルで迎撃しようとする。しかしビームサーベルでは間に合わないと刹那の間で簡単に理解した。まずビームサーベルはその構造の都合上、サーベルの刃が展開されるのに僅かにだが時間にラグが生じてしまうのだ。ボタンを押して、そこから圧縮された魔力が刃の形となって形成されると言う予備動作が発生してしまう為、ビームサーベルを展開して攻撃する前に、ヴォラクはあの鋭い鉤爪で斬り裂かれてしまうだろう。そうなれば待つのは重厚な痛みを伴った後に死と言う、終わりを告げる事が起こるだけだった。

 流石に人生十八年なんて短いし、まだやりたい事はある。復讐や結婚、更には殺戮だって存在している。ヴォラクはまだ死ねないので咄嗟に行動を起こす事にした。まずもっと考える前に体が動いてしまっていた。


「姉さん!すまん!」


「えぇ!?凱亜、お前!」


 ヴォラクは隣に立っていた血雷の鞘に収められた刀に目が行くと同時に彼女の刀の握り手を握ると同時に無理矢理刀を引き抜くと同時に彼女達に刃が命中しない様にしながら敵を迎え撃ったのだ。幸いな事にヴォラクが咄嗟に血雷の刀を抜き取ると同時に刃を振るった事でヴォラクは致命傷を負う事もなく、へっぴり腰でありながらも彼女達に刃が命中する事はなかった。敵もヴォラクが咄嗟に刃を振るった事でその身を引かざるをえなかった。


「危ねぇなぁ!カチコミか!?(てか、重た…)」


「初撃は躱されたか……」


「姉さん、すまん。怪我ない?後、返すね」


「アタシは大丈夫だぜ?まさか急にアタシの刀を使うとは思わなかったぜ、ありがとな」


 ヴォラクは血雷に刀を軽く投げて返すなり、すぐさまビームサーベルを抜刀し、ボタンを押すと同時にビーム刃を展開する。そして不気味な仮面を付けたまま、僅かにながら、距離を取っているとは言え、近い距離に立つ黒いローブを全身に纏った敵を強く睨み付け、邪悪な殺気を込めた目でローブを全身に纏った奴を睨んだのだ。


「何だよ?僕に私怨でもあんのか?刃を向けた以上、生きては帰さないよ?」


「ヴォラク……いえ、不知火凱亜……貴方は危険な力、闇夜の天帝の力を孕んでいる。更には条約で禁止された兵器の使用……あの人の名の元貴方を排除……」


「最後まで大人しく聞くとでも思ってんのか!?僕は戦隊モノの怪人じゃねぇんだよ!」


 ヴォラクは敵の発言を最後まで聞く気は一切なかった。皮肉を言う様にして叫ぶと同時にヴォラクは激情に駆られる戦士の様にしてビームサーベルを片手に敵へと向かって、単騎特攻を仕掛けていく。ただでさえ実名バラされた挙句、自分が保有している能力や意味の分からない事を言われまくられてしまったのでヴォラクは無性に腹が立ってしまっていたのだ。

 ただでさえ、実名をバラされると危険を招く可能性がある為ヴォラクは今、無性に腹が立ってしまっていたのだ。

 しかし怒りとは別に、ヴォラクの脳内には疑問の念が渦巻いていた。まず、何故奴はブラックボックスの中に隠された様な力である「闇夜の天帝」の力を知っているのか。まずそれが大きすぎる疑問であったのだ。確かあの力の存在、今の所知るのはレイアと父親だけであったはずだ。しかし今目の前に立つ謎の敵は顔見知りと言う訳でもないにも関わらず、自らの体に宿っている天帝の力を知っていたのだ。怪しい、の一言だった。この力は非公開にしているのだが、非公開にされているにも関わらず、その力を知っている時点で怪しさMAXだったのだ。

 しかしヴォラクは考え続け、答えを導き出す前に体を動かして目の前に現れた奴と戦いを繰り広げていたのだ。

 今は装備している武器はツェアシュテールングとビームサーベルの二つだけではあったが、ヴォラクはビームサーベルのみを使用して戦っていた。観客は既に逃げ始めているのだが、人数が多かった事が災いしたのか、まだ全員退避出来ていなかった。観客が完全に避難を完了するまでは銃の使用は控えなければならなかった。それまでは不慣れな剣だけで凌ぎ続けなければならないのだが、流石に血雷やレイアやシズハは一人で果敢に、恐れる事なく戦う彼をただ棒立ちして見つめている訳にはいかず、すぐさま加勢に入ろうとした。


「ヴォラク!援護するぜ!」


「乱入するなら、潰してあげるよ!」


「後方からの支援は任せて下さい!」


 血雷とレイアは互いに双剣と刀を抜刀し謎の敵へと立ち向かい、シズハは古風の魔法陣を展開し、後方からの支援に徹したのだ。だが、相手もそれを見越していたのか、簡単に彼女達を援護に向かわせる様な事はさせなかったのだ。


「させません」


 その言葉と同時に、謎の敵は左手を広げると同時に彼女達の方向に腕を向けた。攻撃か?とヴォラクは思い、必死になってその体を伸ばして、彼女達のカバーに入ろうとする。

 しかし相手は彼女達に攻撃を仕掛けるのではなかった。

 

「な!?魔力壁か!?」


「ちぃ!よりにもよってこれかよ!」


「ぶ、分断されてしまいましたけど……」


 何と敵は巨大な「魔力壁」を展開し、彼女達の行く手を阻み、ヴォラク達の方へと来れない様にしてしまったのだ。魔力壁とは魔力によって生み出される強固な結界魔法で、非常に強固な作りで、特に使い慣れた人が生み出す魔力壁は魔剣や強力な攻撃魔法でも突破が容易ではない程に強固な作りになっているのだ。

 敵はそんな魔力壁を展開し、ヴォラク達を簡単に分断してしまったのだ。レイア達は自らの技を使用して、魔力壁を破壊し、突破を試みるのだが敵は強者と言って良い力を持っていた。簡単に破れる訳もなくレイア達の技は虚しくも全て弾き返されてしまう。


「弐式、牙裂怒涛!………マジかよ、アタシの式技でも突破出来ねぇってのか!?」


「こんな壁、私の技でこじ開ける!……銀の剣は輝きの如く、血に染まりし、刃を奮い立たせよ!「Silberblut(銀の血)」」」


「連続火球、周囲に多数展開!放て!」


 血雷は自らが持つ式技の一つであり、連撃に特化した式技「牙裂怒涛」を放つが、連撃を魔力壁に放っても魔力壁はビクともせず、居座り重い腰を上げないかの様にして立ちはだかり続けていた。血雷は自分の力不足を実感し、歯を噛み締めながら、舌打ちをしてしまった。

 レイアもヴォラクが天帝の力を覚醒させるのに使った技である「Silberblut(銀の血)」を使用したのだが、血雷の時と結果は同じだった。仮にも自分が使える中ではかなりの力を持つ技なのだが、それでも強固な魔力壁の突破には至らず、魔力壁は逆に神々しくも傷のない様なガラスの様な美しさを保っていたのだ。まるで神の守護壁の様でレイアは狼狽する。ただ黙って、指をくわえて見ている事しか出来ないのか…とレイアは思ってしまった。

 シズハも自分が持つ魔力をほぼ全て注ぎ込み、放てる限りの魔法を連続で撃ち続ける。恩人であるヴォラクを助ける為に必死に食らいつく様にして、魔力壁を破る為に魔力が底を尽きようと恐れる事なく連続で撃ち続けたのだが、それでも魔力壁は破壊される素振りを一切見せなかった。何としても破壊する為にシズハは激昂しながら、我を忘れる程にまで撃ち続けていたが、レイアの呼び掛けによって我に返り、撃ち続けるのを一時的に中止する。


「シズハ!やめろ、魔力欠乏になって動けなくなるぞ!」

 ※魔力欠乏→体内に保有する魔力を使用しすぎると、回復するまで一時的に倦怠感と激しい頭痛に見舞われる。更に悪化すると意識を失う可能性もある。要するにご利用は計画的に、と言う事である。


「ハッ!や、やりすぎ……た」


 その言葉と同時にシズハは錫杖を握り締めながら、四つん這いになって荒い息を吐きながら、苦しげにも喘ぎ声を発してしまう。額からは汗が流れ、体に重りを付けられたかの様な程に、体が重くなってしまった。


「シズハ、無茶は厳禁だよ?」


 レイアは彼女の元に駆け寄り、すぐさま彼女の体を支えると同時に優しく彼女の肩を撫でる。その中でシズハは悔し紛れに言葉を呟いた。


「れ、レイアさん…すいません。でも、ヴォラクさんが…」


 ◇◇


「ぐはぁ!」


 背中と胸に重厚で骨に響くキックや打撃を喰らい、更に何度も敵が持つ短剣で斬り付けられ、鋭い戦闘用の針で刺されそうになった。何とか首の皮一枚で躱し、ビームサーベルを用いて短剣の攻撃を防いでいるが、針はビームサーベルで弾けそうになく、突き刺されるのも時間の問題だったのだ。

 こいつは完全に殺しにかかってきている、ヴォラクはそう思い敵の動きを追うのだが、まるで相手は暗殺者、忍者の様なスピードでヴォラクの目を撹乱し、反応が遅れた瞬間に的確に、攻撃を仕掛けてくるのだ。ヴォラクは目では何とか追えてはいたのだが、体の反応がその動きに追い付かなかったのだ。


(くそ!目では追えても、体の反射が追い付かない!……また後ろか!?)


「遅いですよ?それでも本当に天帝の力を宿す者なんですか?」


「うぁがぁ!?」


 またしても背中に打撃と強烈なキックを喰らわせられた。ヴォラクはキックを喰らった事で、前方に強く吹き飛ばされてしまい、魔力壁に勢い良く叩き付けられた。


「ぐはぁ!」


 強固な魔力壁に思いっきり叩き付けられた事でヴォラクは仮面の中で口から血反吐を吐いてしまった。言っておくが、血を口から吐くなんて初めての事だし、今までにない経験ではあったが、結構恐ろしいものだとヴォラクは身をもって実感した。魔力壁に叩き付けられると同時に、ヴォラクは片膝を着いた状態でビームサーベルを握り締めながら敵の方向を見つめる。

 ヴォラクは荒い息を吐き、苦しく、痛みが発生している胸辺りを抑えていた。


「ちくしょう、仮面を脱がないと」


 そう言うと同時にヴォラクは口から吐いた血反吐を拭う為に仮面を外し、素顔を晒した。不本意ではあるが、死んでしまってはどうにもならないのでヴォラクは渋々ではあるものの、仮面を着脱したのだ。


「ようやく、素顔を晒したか。不知火凱亜よ」


「僕をその名で呼ぶなよ……けっ、笑えるな、天帝の力を宿してる者がこんな呆気なく……もう、お前の相手はもうしたくない気分だぜ……」


「心配するな、君はもうすぐあの方の物となるのさ…僕ながら不本意であるが、あの方の命令なら受け入れるしかあるまい……それではそろそろ決めさせていただきますよ。僕だって貴方と相手なんてしたくありませんから…」


 ここで、終わりか……ヴォラクは覚悟を決めるしかなかった。今から抵抗したって変わる事はないかもしれないし、そもそも勝てる保証がなかった。時には、諦めると言う選択肢も大切だ。受け入れるか……


「そう言う事なら、私がお相手を致しましょう」


 何故か聞いた事がある男性の言葉がヴォラクの耳を刺激した。何事か?と思い、ヴォラクは下に向けていた顔を上に上げた。


「あ、あんたは……」


「ほぅ、貴方は」


「神国、地上部隊総隊長「ディクロス・ヴァンパッテン」貴方はしている事は完全に許されざる暴虐行為です。神の名の元に貴方の存在を排除します」


「誰かと思えば、アイツの飼い犬か……何ですか?手柄でも立てる為にでも?」


「弱きを助け、悪を挫く…それが私のポリシーです。困り果て、傷付く者がいるのなら、私はそれを全力で助ける、それだけです…」


 ディクロスの言葉に、ヴォラクは強い感心を覚えた。今はもう誰でも良いので助けに入ってほしかったので、ヴォラクにとって、突然として現れたディクロスは救いの光に等しかったのだ。

 そしてディクロスは鞘に抑えめられた自らの魔剣を引き抜くと同時に、その矛先を敵へと向けたのだ。


「ふん、決勝で奴に負けたお前が、僕に勝てるとでも?」


 敵の真っ当な言葉に対して、ディクロスは鼻で笑うかの様な表情を見せると同時に、敵を余裕の表情で見つめた。


「貴方がこの戦いを見ていたのは知っていますよ。いずれ襲ってくると考え、敢えて負けていたのですよ、言い訳に聞こえるかもしれませんが、これは事実ですよ」


「神の飼い犬風情が、我々に逆らうとは…貴様は地獄に送ってやる!」


「何だかよく分からんが、ディクロス!加勢するぞ!」


 ヴォラクはすぐさま血を拭うと同時に立ち上がり、ビームサーベルを握り締めながら敵へと突撃を行ったのだった。


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