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8話「友情」

 




 公衆浴場から出て、外を歩いていた2人だが、さっきの風呂での事が頭に残り、少し気まずい雰囲気になってしまっていた。



 ヴォラクとサテラは話を盛り上げようと何を話すか考えてみたが、中々口から思う様に言葉が出てこない。






「なぁサテラ」


「あの…主様」





 2人の声が同時に出てしまった。その事に2人は少し笑ってしまう。


「まさか…気まずい雰囲気を壊すとかやるなサテラ!」


「主様も!この暗い雰囲気を明るい雰囲気に変える事が出来る事が私は凄いと思います!」



 互いにフォローをするヴォラクとサテラ。しばらく笑っている内に、2人は再び足を動かし始めた。







 前に泊まっていた宿へと戻り、Gを払って同じ部屋に泊まる事にした。



 しかし今回もベットは一つしかない。また2人は添い寝する羽目になってしまった。


「いいのか?今日もまた僕と寝る事になるけど?」


「構いません。主様と同じベットで寝られるなら…逆に…そっちの方が良いですから」


「ん?今何か言った?」


「いえ、何も」


 この前と同じ様に2人は同じベットに入る。前と同じ、心臓の鼓動が大きくなる。こんなに優しく、美しい美少女と共に寝ていたらそうはなる。


 必死で抑えようとするが、余計に鼓動が早く、大きくなってしまった。


(落ち着け僕。何も慌てる事は無い!たかが女の子と一緒のベットで寝る…いや!たかがな事じゃ無かった!)


 自分の事にツッコミをいれたが、何も変わる事は無い。一度深呼吸をして、落ち着こうとすると、後ろからサテラがヴォラクの服を掴んだ。



「主様起きてますか?」」


「起きてます」


 サテラとは逆の方を向いて言った。同じ方向では恥ずかしかったからだ。


「……今日は主様の体にくっついていたいんですけど、良いですか?」


(流石にこれは…)


 理性を必死に取り戻そうとするが、自分の悪の気持ちと正義の気持ちがヴォラクの頭の中で戦っていた。



「ヴォラク!ここは誘って一発KOしてやろうぜ!」


「ダメだよ!そっと優しくしてあげて!」




 悪か正義か…ヴォラクの頭の中でこの2つが必死に戦いを繰り広げていた。




「分かった。くっついてていいよ。この前みたいに悪い夢見たくないだろ?」


「ありがとう…ございます。じゃあくっつきます」





 そう言ってサテラはヴォラクの体にしがみついていた。優しく、そして強くしがみついていた。ヴォラクの体に抱きついたまま吐息を吐くサテラをヴォラクは細く、長い手でサテラの体を抱く事しか出来なかった。







(待てよ……この状況前と一緒じゃね?)










 次の朝。この前と同じ様に光が自分の顔を照り付ける。咄嗟に顔を覆い、外していた仮面を付ける。


 いつもの黒服に着替えて、サテラが起きるのを待っていた。


(相変わらず、健気な体してるな。なんか…食べたくなる様な可愛さだな…って!僕は何を考えているんだ?)



 吸いたくなる様な甘い息。無防備な1人の少女の体。何とか自我を保とうとするヴォラク。必死に頭を掻き回して、落ち着きを保とうとしていると、サテラが静かに目を開けた。




「おはようございます主様。今日もいい朝ですね」


「あ…ああ!いい朝だな。サテラ、服を着ろ」


 サテラは着ていた服をほぼ脱いでいて、半裸状態だった。サテラはすぐに自分の服を取り出して、着替えを始めたが、サテラの無防備すぎる姿が頭に残る。





「着替えは終わりました。今日はどうしますか?どこかに行きますか?」



 今日は何かをする予定は特に無かった。どこかに行く訳も無く、暇な一日を謳歌する事になるのだろうか。しかしそれも退屈で嫌になってしまう。


 少し考えていると、サテラが一つ意見を出した。


「主様。なら今日はクエストに行きませんか?銃を使う事が出来る様になったので、是非試してみたいです」


 サテラはヴォラクが作った銃を使いこなせていた。試すには丁度いい機会だと思い、この案に便乗する事にしたが…


「でもサテラ。お前冒険者カード持ってないだろ?」


 この世界でクエストを受けるには、冒険者カードが必要だった。自分はカードを持っているが、奴隷のサテラはカードを持っていないだろう。新規に作るとしても、奴隷はカードを所持してもいいのだろうか。少し悩んでしまう。しかしいつまでも悩んでも何も変わらないと思い、サテラを連れて、クエスト受注所に向かう事にした。



 向かう途中。自分に屈辱を与えた新聞が落ちていた。自分が死んだ事や自分を勝手に悪者として見た記事が書かれた新聞だった。しかし情報を得る事は大切だ。少し躊躇いながらも、汚れた新聞を拾い、記事に目を通した。



「召喚勇者。ダンジョン地下五十階を突破。歴代最高の進み具合。リーダーの勇者『天野銀河』に期待が集まる」



「冒険者3人の遺体が野外で発見。1人は頭部破壊。2人は弓らしき武器で射抜かれた?容疑者は現在も不明」




 



 そう書かれていた。一つは自分達で引き起こした事件だ。弓で殺したのでは無く、銃で撃ち抜いたのだが、どうやらその事には気付いていない様だ。


 もう一つはどうでもいい事だった。奴らとはもう今後関わりたくない。どんな形で再会しても、仲良くしたり、仲直りする気は一切無い。





「何か色々と書かれているけど、さっさと行こうぜ」


「はい。そうしましょう」




 2人は新聞を後ろに放り投げ、その場を去って行った。






「なぁ受付さん。新しいカード作れるか?」


「あ!貴方は…あの時の。新しいカードですか?可能ですよ」


「この女の子にカードを作ってやってくれ。名前は『サテラ・ディア』だ」


 そう受付に言うと、受付は棚の後ろの方から、手鏡の様な鏡を取り出した。

 きっとこれで色々と適性を見るのだと思う。


「サテラさん?この鏡を見てください。これで貴方の魔法などの適性を見ます」


「分かりました」



 そう言ってサテラは鏡に目を向ける。少しの間見つめていると、鏡が光る。少し眩しい光に周りが包まれると、目の前にカードが置かれていた。



「はい完了です。これでサテラさんは立派な冒険者です。これでクエストの受注などが可能です。

 これからも、冒険者として頑張ってくださいね」


 そう言うと、受付はその場を離れてしまった。サテラとヴォラクは早速サテラのカードに目を向ける。




『サテラ・ディア」

 職業―???

 レベル1

 体力100

 筋力100

 魔力100

 知力100

 瞬発力100

 魔法耐性100


 固有能力

『射撃力上昇』







 カードを見た時にサテラの顔が悲しさに変わった。


「そんな…私は職業を持てないですか…これじゃ主様に貢献するどころか、足でまといになってしまいますよ」


「そんな!そんな事は…」


「やっぱり奴隷の私には冒険者みたいに戦う事も出来ないですよ。結局私は主様を困らせる邪魔者だったんですよ」



 自虐を始めるサテラ。まずいと思ったヴォラクは、サテラの手を掴んで、すぐに受注所を後にした。



 まずは人目に付かない所に行く必要があると思った。ヴォラクは人の気配が全く無さそうな路地にサテラを連れて行った。




「こんな所に連れ込んで…何するんですか?もしかして…私の身体を使う気ですか?」


「違うよ!サテラよく聞け!たかが職業が無いぐらいでそんなに挫けるな!サテラ、お前は銃を使えるって言う最高で強い力があるじゃないか!なのになんで自分を貶めるんだよ!?」


「だって…職業が無いと、主様にも迷惑やご負担が…」


「僕なんて職業が無いんじゃなくて…存在すらしてなかったんだぞ!そのせいで周りからは酷い扱いを受けたよ。これならまだ職業が無いサテラの方が余っ程マシだよ!」


 ヴォラクは仮面を外して、サテラの両肩を掴む。


「サテラ。お前は役立たずでも、必要無い存在でも無い。サテラは…こんな僕にでもいつでも付き添ってくれて、自分の作った武器を使ってくれて、こんなに嬉しい事は無いよ。自分で自分を傷付けないで。身体にも…心にも傷付けてほしくないんだ。君みたいな最高に美しくて、優しいサテラを失いたくないんだ。頼む…こんな事はもうしないで、笑顔になってくれよ」




「主様…私は…私は主様にとって邪魔では無いんですか?」


 サテラは涙を浮かべてヴォラクに問いかける。


「ああ!邪魔な訳ないじゃないか。サテラは僕の最高の仲間だよ。自分で相手が思っても無い様な事を言わないで。僕はサテラを守りたい。邪魔者なんて気持ちは捨てて、僕のパートナーになってくれよ」


「最高の主様に…私は出会う事が出来ました。ありがとう…ヴォラク」


 奴隷は主の事を名前で呼んではいけないが、この時ヴォラクは何も言わずにサテラを抱き締めていた。



「僕の名前を呼んでくれてありがとう。サテラ…君を僕は必ず守るよ…ん」


 そう言ってヴォラクはサテラの唇を奪った。


「ヴォラク…私も貴方を守ります」


 そう言って、2人は互いの体を寄せ付けた。



 2人は互いの唇を重ねる。その時周りの時間はまるで止まっているように感じてしまった。



 その時間がしばらく経ち、2人は互いの唇を離す。ヴォラクはこの時ファーストキスを捧げてしまったが、何も悔いは残らなかった。


「私の初めてのキスは…主様ですね」


「それは…良かったよ」



 

 2人は手を繋ぎ、路地を後にした。暗い路地から、明るい道に出た時の2人は恋人の様であり、深い友情で結ばれた仲間の様であった。





「じゃあ…行こうか」


「はい。主様」




 2人はお互いの手を離して、何も言わずに人混みの中に消えていった。


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