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94話「一回戦&二回戦」

 

 ヴォラクは司会者の指示の声が聞こえるなり、少しだけ盛り上がっており、横に非常に長く、四角形の壇上の上に仮面を付けたまま、足を動かす以外は微動だにせずに、壇上に上がった。

 それと同時にヴォラクは全てを斬り裂き、全てを屠るビームサーベルをスボンに取り付けられたポケットから取り出すと同時に、ビームサーベル本体に設置されたスイッチをONにして、内部に動力源として内蔵された魔力生成石によって生み出された魔力を、高濃度圧縮魔力する事で、実体の存在しないビームの様な刃として生み出し、ビームサーベル本体に形成させる。

 ビーム刃が形成された事により、独特で耳に残る様な特徴的な音が鳴り響くと同時に全てを破壊し斬り裂く事が出来るビーム刃が姿を現す。

 形成されたビームの刃は眩く、直視しただけで目を斬られてしまいそうな緑色の色を維持しながら若干、意志を持つかの様にして揺れ動き、刃の形を維持したまま敵を待ち受けるかの様にして刃の形を作り続けていた。

 ヴォラクはビームサーベルの刃が地面に突き刺さらない様にする為に横方向(敵方向)に刃を向け、まだ試合が始まっていないと言うにも関わらず、ヴォラクは手に握っていたビームサーベルのグリップをより強く握り締める。

 より強くビームサーベルのグリップを握り締めていた理由はブーイングをやめろ、と司会者が観客に対して言っている中、忠告を聞かぬかの様にして、耳障りで聞くに絶えない雑音の如くヴォラクに対するブーイングが続いていたからだ。現に司会者は今から戦う者にブーイングなんてするな、と言っているのだがこの場に来ている観客(主に男性)はヴォラクに対して、決して止む事のない雨の様なブーイングが浴びせられていたのだ。しかしブーイングに対して、ヴォラクは何も言う事もなく、何も聞く事もなくただ黙ってビームサーベルのグリップを握り、戦いが始まる時を彼女達と待っていたのだ。しかし司会者の始まりの合図により、一時的ではあるものの、戦いの舞台は静寂に包まれ無音の空間が一部的に作られる。


「さぁ!第一回戦のスタートです!両者の健闘を期待して……Let's Rock!」


 その言葉と同時にヴォラクと奴らの決闘(デュエル)が開始される。そして一時的に作られていた静寂は無慈悲に破壊されるかの様にして打ち破られ、強く鼓膜すらも破ってしまう様な歓声が舞い上がり、両チームに甲高い声援や罵声が飛び交い、この闘技場の中をまるで戦場の様にして騒がしくしていった。

 耳障りで鼓膜が破れそうで仕方なかった、ヴォラクは両耳を塞いで、一切の音をなくしたくなってしまう。ヴォラクは静かな空間や自分の好きな音楽や音が流れる空間を好む人間なので、この様なノイズに近くて聞くに絶えない様な声達はヴォラクにとって邪魔でしかなく全て破壊してしまいたい様な気分になってしまった。

 ヴォラクは基本的に怒りや悲しみなどと言った感情を表に出したり様な事はないのだが、現在自分に向けて発されている罵声とブーイングの数々がヴォラク怒りが募らせていく。感情性の薄いヴォラクとは言っても怒る時は怒るし、最悪の場合、悪魔の様にしてキレる可能性だって秘めている。

 しかし観客達はそんな事もいず知らず、ヴォラクが何も言い返さない事と、ブーイングしている側の人間は多人数いると言う事を良い事にブーイングと罵声を止む事なく言い続けていく。そしてそれに便乗するかの様にして、試合が始まったにも関わらず、敵のチームの人間は、ヴォラクの事を軽蔑するかの様にして軽く、相手を馬鹿にする様な笑いを浮かべると同時に、何もせず、何も言わずにその場に突っ立っているヴォラクに対して、四人で大胆にも間合いを詰めていく。

 敵が武器を手に握りながら矛先をこちらに向けているにも関わらずヴォラクはビームサーベルを握ったままその場から動こうとしない。


 レイアもそんなヴォラクを見つめたまま、ヴォラクよりも後ろに立ち、敵のチームの人間をヤレヤレ、と言わんばかりに飽きれた表情で腕を組みながら見つめている。具現化された魔力によって生み出される二本の長剣、エクシアを作り出す事すらせず、敵に対して応戦する様な素振りは一切見せなかった。仮にも今はもう決闘(デュエル)が始まっているのだが、レイアは暇だったのかは知らないが、自分の美しく輝く銀色の髪の毛先を自らの指を使って整えていたのだった。

 血雷に至っては、戦いが始まったにも関わらず、まるでこの決闘(デュエル)に興味がないかの様にして、敵の人間を見る事すらせず、愛用して使っている煙管を懐から取り出すと同時に口に咥えて吸うと同時に、首を上の方に動かして、半場、上の空状態だった。携えている刀に手を伸ばす事すらもせず、早く終わんねぇかなぁ~と面倒くさがる様な素振りをみせ口から煙を吐く。

 シズハは罵声とブーイング、浴びせ続ける観客、そして恩人でもあるヴォラクの事を軽蔑するかの様にして見て、不快にも笑いを見せている敵チームの人間に対して強い怒りを見せている。手に握る、和風の錫杖の持ち手部分をより強く握り締め、歯を強く噛み締めると同時に可愛さにそぐわない怒りの表情を見せる。しかし怒り顔も結構可愛いと、ふとその顔を見たヴォラクは思った。


「おぃ、兄ちゃん。どうしたよ?俺達とやらねぇのか?」


「……………」


 体付きがが良く、大きな斧を握るリーダー格の男がヴォラクに対して、完全になめきった口調で話しかける。ヴォラクは男に話しかけられるが一切受け答えせず無言のままビームサーベルを握り締め、その場に立ち続ける。


「へ、だんまりか!?どうやらお前は出てくる舞台を間違えた様だな!」


 リーダー格の男が再び呟く。それに便乗するかの様にして、リーダー格の男の仲間である三人のガラが悪く、強面でヴォラクから見れば、冒険者には思えない男達の無責任で汚らしい罵声に匹敵する言葉がヴォラクを攻撃する。


「お前みたいな奴は、ハーレム自慢大会にでも出てろ!そっちの方が楽に優勝出来たかもしれねぇけどよ!」


「でも、関係ねぇよな!俺達が勝って後ろにいる女を奪ってやる!強い奴の所にいた方が良いからな!」


「雑魚は地面を這いつくばってな!お前の目の前で女達を奪ってやるよ!」


 その言葉に会場でその試合を上から鑑賞している観客(主に男性)はそんな彼らを賞賛し、まるで強く讃えるかの様な発言を行う。よく、こんな奴らを褒め讃える事が出来るものだ、ヴォラクはそう思いながらも観客達の言葉に僅かながらではあるが、耳を傾ける。しかしその言葉はどれも酷く、聞くに値しない言葉ばかりだとヴォラクは思った。


「良いぞ!流石俺達の代わりに言ってやってくれた!さっさと潰しちまえ!」


「何がダークホースだ!とっととボコボコにしちまえ!」


「囲って滅茶苦茶にしてやれぇ!たかが相手は一人だ!」


 ヴォラクにも一応ではあるが、堪忍袋と言う物は存在している。あまりに刺激し過ぎると堪忍袋の緒が切れてしまう可能性だってある。現に今だってヴォラクの怒りは徐々にではあるが、高まりつつあり次第に噴火の時を迎えようとしていたのだ。

 そして今ヴォラクは、大量に浴びせられた罵声とブーイング、観客や敵チームの頭の低さ等と言った事により怒りのメーターが高く上昇してしまい、怒り度がかなり高い位置に存在していた。これ以上下手に刺激してしまえば、普段は冷静で感情をあまり表に出さないヴォラクですらも内なる怒りを顕にし、荒れ狂う嵐の様にしてその怒りを発揮してしまう可能性だって存在する。

 だが、そんな事もいず知れず、敵チームは依然、挑発的な言葉をヴォラクに投げかけ、不意にも彼の怒りを更に上昇させていく。


「そんじゃ、そろそろ会場も温まってきた頃合だし、潰してやるよぉ!」


「やっちまえ!リーダー!」


 その言葉と同時に敵チームのリーダー格である巨漢の男は無造作に戦斧を振り上げると同時にヴォラクの脳天へと向かって、その戦斧の刃を振り下ろそうとする。この決闘(デュエル)には、相手は殺すなと言うルールが存在しているのだが、リーダー格の男の行動はどう見ても、最初から脳を砕きにきている様にしか見えず、確実に殺しにきている様な攻撃の仕方だったのだ。しかしリーダー格の男が握っている斧が大ぶりなせいなのか、振り下ろされるスピードは、ヴォラクにとってはかなり遅く感じられた。目視してからでも体を動かして、避ける事は造作でもなく、まるでゆっくりと刃が振り下ろされている様にしか見えなかったのだ。


 無論、この程度の攻撃を躱せない程ヴォラクは弱くはなかった。これでも彼は、実弾ではないが、エアガンの弾、BB弾を避けるトレーニングを師匠と共に行っており、ある程度の速度の物が自分に飛んできても簡単に躱す事が出来る術を身に付けていたのだ。

 実際、過去にはデカい石を投げつけられる様な事があったので、振り下ろされるスピードが遅い戦斧の刃を躱す事などヴォラクにとっては簡単過ぎる事であったのだ。

 しかしヴォラクは簡単にその刃を避ける事が出来ると言うにも関わらず、その場から一向に動こうとせず、まるで展示されている石像の様にしてその場所に立ち尽くしており、ビームサーベルを片手に握りながらも微動だにせず、振り下ろさた刃に対して震える様な事も一切なかったのだ。

 しかし刃が振り下ろされた事で、ヴォラクはビームサーベルのグリップを利き手である右手で強く握り締め、仮面の下に隠された表情は険しい表情に変化する。


「ビビって腰抜かしちまったか!?とっと死にやがれぇ!」


「おおっと!?初参加の一名、いきなり戦線離脱かぁ!?」


 パッと見ればもう避ける事なんて無理だろうと、観客の者達は思っていた。現に刃はもうヴォラクの頭の少し上の所まで来ている。観客達は攻撃を仕掛けるリーダー格の男に歓声を上げ、腕を振り、強い声援を送り続けている。多くの者はここで一人脱落するだろうと錯覚した。

 しかしこの場にはまだ五人、脱落しないと確信する女性達がそこにいた。


「言いたい事は……それだけか……」


 刹那、ヴォラクはビームサーベルを右手で強く握り締めると、手に握るビームサーベルを横方向に薙ぎ、敵が持つ戦斧の持ち手部分を破壊する為に持ち手の上部分を狙い、ビームサーベルを薙いだ。

 いつものヴォラクならば、ここで胸を一突きか喉元にビームサーベルの刃を突き刺していた所なのだが、一応ルールでは、殺すのは禁止と言う事なのでヴォラクはそのルールをしっかりと守り、殺すのではなく、不殺を掲げ、敵を無力化する為に武器破壊を行う事にしたのだ。


「なっ!?」


 ヴォラクが横方向に薙いだビームサーベルの刃は敵が両手で握っていた戦斧の持ち手の上部を捉える。そしてビームサーベルの刃は頑丈な木の素材で作られた太い持ち手部分を意図も簡単に破壊してしまったのだ。勿論だが、相手の両腕ごと叩き斬ったり、破壊したついでに他の所も……っと言う訳ではなかった。ただ武器のみを破壊する。それだけだった。

 速すぎて何も見えず、攻撃を避けられぬ状況からの一転したかの様な逆転、観客も司会の男性も思わず声を失い、唖然とした表情でヴォラクを瞬きすらもしない勢いで彼を見つめていた。さっきまでまるで夜の世界で鳴き続ける羽虫の様にして騒ぎ続けていた観客達の声すらも一時的ではあるが、完全に遮断されたかの様にして静寂に包まれた。


「流石だ、武器だけを破壊して無力化する。流石はアタシの弟だ……」


「私が出る程の事ではない、と言う事だな……」


「は、速すぎて見えなかった……」


 周囲が静寂に包まれ、無音空間になっている中、一部の人間は観客に聞こえない程度の言葉を呟いた。


 そして血雷とレイアはビームサーベルで簡単に敵の持つ武器を破壊し、無力化に成功したヴォラクを賞賛するかの様な言葉を述べる。血雷は安心した表情を見せながら変わらず、左手に握られた煙管を吸い、ヴォラクの戦いざまを眺めている。レイアも両手で腕を組みながら、感心するかの様な表情を見せ、余裕気のある素振りを見せていた。

 シズハは、あのヴォラクの素早く簡単に無力化を行ったヴォラクのビームサーベルの剣術に翻弄され、目で追う事が出来なくなってしまっていた。瞬きすらもせず、目を凝らして良く見つめても、シズハはあのヴォラクの剣戟を捉える事は出来なかったのだ。自分だって同じ様な事はしているし、同じ様に持っているのだがここまで差が存在しているとシズハも、強い驚きと舞い上がる恩人に対する欲求が強まってしまった。


(今日の夜は…私から……)


 シズハは心の中で、恥ずかしげな口調で呟いた。


「取り敢えず、全員無力化するか…」


 戦斧の持ち手部分を破壊した事でリーダー格の男は両手に握っていた戦斧を失い、物の簡単に丸腰を晒す事になってしまう。模擬戦に近い戦いとは言ってもこれはれっきとした決闘(デュエル)だ。戦場で丸腰を晒すなんて、死に等しい事であった。

 勿論ではあるが、ヴォラクはその隙を見逃さない。

 

「ば、馬鹿な!俺の斧が……アベシ!」


「え、え?何が!………ゴフッ!」


「ま、待て!相手は一人……ガハッ!」


「は、速い!見えな………グフッ…!」


 まるで空を駆ける閃光の如く、そして超速で地に落ちる稲妻が走るかの様な重く体に響く様な強い連撃が敵チームを襲う。ヴォラクはビームサーベルの刃でリーダー格の男が持つ大型の戦斧を破壊すると、ヴォラクはすぐさまビームサーベルに設置されたボタンを押し、魔力により生成された魔力の刃の展開を中止し、魔力によって生み出された刃を消失させる。ビーム刃が消失した事により、ビームサーベルはグリップ部分のみ残して、刃は完全に消失してしまう。


 そしてヴォラクはビームサーベルの強固な素材で作られた握る為のグリップ部分を使用して、敵チームの腹部又は胸部を強めに小突いた。小突かれた事により、敵チームの人間全ては苦虫を噛み潰した様に苦しげな表情を見せながら、歯を強く噛み締めて、小突かれた部分を手で押さえながら、その場によろめきながら倒れ込み、意識を飛ばしてしまったのだった。

 いくら彼らが、屈強な肉体を持つとは言っても、人間にはいくつかの急所は存在する。ヴォラクは師匠の教えの言葉通り、敵の急所を、この硬いビームサーベルの握り手部分で小突き、耐え難い痛みを与えて撃破する様にしたのだ。

 ビームサーベルの握り手部分で敵の急所を小突いた時、師匠の言葉が脳裏を過ぎった。


「いいか、凱亜。近接戦で攻撃する箇所に迷ったら、躊躇わず急所を叩け」


「え?でも急所って?金的ぐらいしか思い付かないんですが……」


「他にも胸や土手っ腹があるだろ?そっちも結構痛いんだぜ?」


 そんな言葉がうっすらとヴォラクの脳裏を過ぎったのだった。過ぎると同時に、ヴォラクは師匠の顔を思い出し、心の中で軽く微笑むと同時に自分にありとあらゆる事を教え込んでくれた師匠に会いたいと言う気持ちが強まった。


「敵の無力化、完了だな」


 そう独り言を呟くかの様にして気の抜けた声で発言すると同時に、ヴォラクはビームサーベルをしまうとその場に僅かに身を震わせながら倒れ込んでしまっている敵達に背を向けて去っていく。その姿勢は勝利を完全に確信している風貌で、その身からは強者のオーラが滲み出ているかの様だった。

 去り際にヴォラクは司会者の人間に尋ねる。


「これ、僕達の勝ちでいいよね?」


 ヴォラクの質問に、司会者の男性であるマッスがまるでヴォラク達の勝利を喜ぶかの様な口調で大声を上げると同時に、勝利に対して、にこやかな表情を見せた。


「決まったぁ―――!まさかの常連チームの彼らを撃破したのは、初参加のチーム、ヴォラク一行の勝利でぇす!ルーリエさん、今の戦い、どう思います?」


 マッスの言葉にルーリエが反応する。先程まで何も話さずにヴォラクの試合をじっと、目を凝らして見ていた彼女が遂に口を開いた。

 そして彼女は両腕を組みながらヴォラク達の方向に自らの双眸を向ける。そしてヴォラクを睨むかの様な表情で話し始める。


「速すぎて良く見えなかったわ……まるで神速、見事な剣戟だったわね。あ、救急隊の皆さ~ん!救護宜しくねぇ~」


 ルーリエが右手を振りながら、その言葉を口から出すと、壇上の上で意識が飛びかけの中、ふんぞり返って仲良く四人で石の上に倒れてしまっている敵チームの面々を救急隊の皆さんが、担架を使うなどして運んでいってしまった。

 しかしヴォラク達はそんな事も気にする事なく、後ろを振り返る事すらもせず、先程まで待機していた所に無言のまま戻って行ってしまったのだった。レイア達はそんな彼に大人しく着いていく。次の戦いに備えての事もあって……


 ◇◇


 そして再びヴォラク達の番が回ってきた。他の奴らの事なんてヴォラクにとってはどうでも良い事だったので、他の奴の試合だとか結果がどうなっただの気にする事はなく、ヴォラクは待機場所で静かに腕を組み、壁にもたれかかりながら項垂れるかの様にして立ち尽くし、誰とも話さず無言のまま戦いの時を静かに待っていたのだった。

 そして最初の時と同じ様に、鉄で作られた柵が再び開き、四人を決闘(デュエル)の会場へと誘った。ヴォラク達は先程と同じ様に軽い足取りで壇上の上へと向かう。

 ヴォラク達が決闘(デュエル)の会場に入るなり、またもやブーイングかと思ったのだが、一回戦でのインパクトが凄まじいものだったのかどうかは知らないが先程の様なブーイングは完全に消え去っていた。しかし逆を言うと、声援も歓声も特に送られてこなかった。先程の試合で見せた衝撃が余程大きかったのか分からないが、ヴォラク達に強い声援等が送られてくる事はなかった。

 別に送られてこなくて構わないんだけど……僕、何かやっちゃいましたか?


「さぁ~て、会場の空気も冷めない中ではありますが、勝ち上がった者達が繰り広げる戦い、二回戦の方を開始したいとぉ~思います!」


「皆さん!両チームに熱い声援をお送りくださいね!」


(むさ苦しい……)


「それでは、まずは右コーナー先程の試合で、一対四と言う劣勢的状況を簡単に覆し、まだまだ奥が見えない謎の戦士達、ヴォラク率いるチームの入場です!」


 そして先程と同じ様に門をくぐり、平べったい石で作られた壇上の上にヴォラク達は再び登った。ヴォラクは相も変わらず、ポケットに両手を突っ込んだまま無言のまま奇妙な仮面を見せながら相手を待つかの様にして立ち尽くしている。

 レイアはまだ自らの魔力を使用して双剣を生み出す事はなく、腕を組み、余裕気な表情を崩さずに保ち続け、口元だけで僅かながらに笑みを見せていた。

 シズハは二回戦と言う状況に若干の恐怖と緊張を覚えてしまう、息を飲むと同時に緊迫した表情を見せ、手に握っていた錫杖をより一層強く握り締めた。

 血雷は二回戦と言う、先程とは違い少しは骨のある奴が出てくるかもしれないと期待し、やけに嬉しげな表情を見せる。そして携えていた刀の持ち手部分に右手を添え、いつでも抜刀出来る様に手を伸ばすと同時に先程まで口に咥えていた煙管を口から離すと同時に懐へとしまい込んでしまったのだった。


「続いて左コーナー!この街屈指の美女冒険者コンビ!先程の戦いは二対三と言う状況でありながら余裕で勝ち抜き、二回戦へと駒を進めました!「サリア・ワークレー」と「カサンドラ・ディテクト」の入場でぇす!」


 司会者のマッスが相手チームの名前を叫び、自分達の時同様に自分達の向こう側に、同じく設置された鉄の柵が開き、相手チームの選手達が入場を行う。

 そして相手チームが闘技場の中に入場するなり、一回戦の時の声援すらも簡単に凌駕する程の強く大きな声援と歓声が舞い上がったのだ。周囲からは目の前に立つ彼女達を強く支援するかの様な声が絶え間なく聞こえ、声は男性女性両方の声が入り交じる形で、まるで木霊するかの様にして聞こえ続けていたのだった。

 ヴォラクはあまりの音の大きさに思わず鼓膜が強く刺激された事で、両耳を塞いでしまった。それはレイア達も同様だった。全員仲良く耳を塞ぎ、騒音に近い声援が止むのを待ち続けた。



 司会者のマッスが一度静かにする様にする為に、両手を動かして、静かにする様に、とジェスチャーをして静かにする様に呼びかける。観客達はマッスのジェスチャーに気が付くと、自然に声援をやめ、口を閉じて選手達の方を眺めたのだった。

 ヴォラクはようやくうるさい声援が止んだ事で、ホッと一息着くと同時に軽く溜め息を着いた。うるさいのは苦手だった。雑音の如くノイズが鳴り響くかの様でヴォラクは全くと言っていい程好きになれなかったのだった。


「何か、声援うるさかったな」


「噂によると、一番人気のチームらしいよ?姉さん。まぁ、分からない気もするが……」


「何、鼻の下伸ばしてんだよ?見惚れちまったのか?」


「まさか、そんな簡単に浮気はしないよ。僕は姉さんもそうだけど、サテラやシズハ、レイだって大切に思ってるんだ……いや、好きかもしれないな」


「おぅおぅ、カッコイイ事言うねぇ~まるで揺れる刃で思いっきり心を貫かれちまったみたいだぜ」


「貫くなら、横にズラすけどね?」


 ヴォラクと血雷は、司会がまた何か話しているにも関わらず、二人は聞く素振りを見せず互いに見つめ合いながら呑気にも、二人だけの空間を作るかの様にして、雑談を交わしていたのだった。


「ねぇ、ヴォラク。ここは私達に任せてくれない?」


 レイアの意外な発言にヴォラクは仮面の下で驚きの表情を浮かべてしまう。しかし驚きと同時に、謎の期待がヴォラクの心に現れてしまったのでヴォラクはレイアの話の続きを聞く事にした。

 ヴォラクは腕組みを解いていたが、再び両手で腕を組み、レイアと目を合わせた。


「え、レイ?僕は参加しなくていいのか?」


「だってお前、さっきの戦い一人で決着着けたじゃないか?私達も出番が欲しいのだが……」


 確かに、と言うしかなかった。レイアの言う通り、先程の戦いはヴォラクは単独で得た勝利だ。レイアを初めとした血雷やシズハは先程の戦いには介入していない。出番が欲しい気持ちも分からなくはない。確かに先程の試合の美味しい所は全て自分が掻っ攫っている様な気がするので、ここは譲る事にしよう。


「お好きにどうぞ。ここは任せますね」


「理解が早くて助かるよ」


 それに女を殴る趣味はない様な気がする。

 いや、女の子銃で撃ち殺したり、中学の時虐められた復讐とは言っても、女の子の顔を便器の水に突っ込んでる時点でもう殴る趣味はないなんて言えんぞ?一応そう言う設定があるんだから、カッコつけるな、不知火凱亜よ。


 そしてヴォラクは自らの足で、敵に背を向けると同時に壇上を降りた。帰り際に無言のまま手だけを彼女達に向けて振るとヴォラクは壇上の下から彼女達の戦いを見守る事にしたのだった。

 レイアは軽く口元のみで微笑むと、自らが保有する魔力を具現化し、魔力を二つの双剣へと変貌させた。レイアが武器を持たない理由はこれだ。自らの魔力を武器に変換する事が出来る為、持ち運びする必要性や丸腰になる事はないからだった。

 血雷は手馴れた手つきで帯に、鞘に収まった状態で携えた刀の持ち手を硬く握ると同時に、引き抜き、抜刀を行った。鈍く銀色の輝きを放つ刃が顕となり、血雷は刀を両手で構えると深く息を吸い、再び深く息を吐いたのだった。その目には見た相手を凍り付かせてしまう様な強い殺気が込められていた。実際、敵チームの女性の一人であるカサンドラは血雷と目が合った時、僅かにではあるが冷や汗を流してしまう程であった。

 シズハはおどおどとした様子を見せながらも、レイアにどんな言葉かは知らないが、何かしらの安心の言葉をかけられた様で、最初の戦いに対する恐怖を見せるかの様な立ち振る舞いはなくなり、両手で自らが手にしていた錫杖を握り締めていたのだった。


「Let's Rock!」


 ◇◇


 結局はレイア達の圧勝だった。試合が始まるなり、シズハは二人に向けて放った拘束魔法(魔力により作られた麻縄)を使用し、足止めした所をレイアと血雷の苛烈で優れた連携攻撃(実際は場外に吹き飛ばす為のキックと掌打)により、二人は簡単に場外に飛ばされてしまい、その結果は一回戦の時よりも呆気なく決着が着いてしまったのだ。あまりの決着の早さにヴォラクは驚きを見せた。

 自分の時もかなり高速で決着が着いてしまったが、レイア達の場合はそれすらも上回るスピードでの決着だったのだ。ヴォラクはその光景に唖然とし、空いた口が最初は塞がらない程だったのだ。これでヴォラク達は決勝へと駒を進めた。あまりの呆気なさに少し動揺したが、臨時ボーナスが入るんだ、と思えば楽な事だとヴォラクは思い、動揺を抑えたのだった。


「お疲れさん。見事なものだったね」


「だろだろ!?とっとと優勝して、美味い酒を飲むぞ!」


「褒められて光栄だ」


「ヴォラクさんに褒められるなんて!すっごく嬉しい!」


 そしてヴォラク達は再び、次の出番まで一時的に待機する事になった。

 次は遂に決着戦、ヴォラクはどんな奴が来るのか少しだけ楽しみになってしまったのだった。


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