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92話「最後の至福」

 

 早速ではあるが、さっさとご飯を食べに行って、さっさと宿を見つけて眠りに付きたいヴォラクであったが街に入ろうとした時だった。ヴォラクの意気揚々と動いていた足は突然として、硬質化して固まってしまうかの様にして止まってしまう。

 しかしヴォラクの足は止まってしまうと言うより、止められたに近く、ヴォラクだけがその場に止まった訳ではなくサテラ達一行も一旦動かしていた足を止めてしまったのだ。

 まず止められてしまった原因はこの街を防衛する為に、街の周りを囲み、包囲するかの様にして建てられていた高さ数mの防壁の前、街の入り口となる門の前に、夜だと言うにも関わらず険しい表情をしたまま、周囲を見渡し、警戒し、立ったまま鎮座している二人程の兵士達によってヴォラク達は呼び止められてしまったのだ。兵士達は片手に長めの槍を保有しており、腰には鞘に納められた鉄の長剣を携えている。そして全身には身を守る為の西洋風の甲冑を身に纏っており、その風貌から非常に強者である様に見えてくる。こんな格好の人間に呼び止められれば大抵の人間は足を止めてしまうだろう、ヴォラクだって足を止めてしまっていた。


 しかしたとえ誰であっても警備兵に呼び止められてしまっても当たり前だ。実際自分達よりも先にこの街に入ろうとしていた行商人や旅人、その他冒険者達は全員防壁の前で警備を行っている兵士達に一度止められており、行商人は品物の確認をされていたり、冒険者などは自らが所持している冒険者カードなどを掲示する事で通行を許可されていた。現にヴォラク達はまだ冒険者カードを掲示していなかった。呼び止められてしまって普通の事だったのだ。

 取り敢えずヴォラクは兵士達がヴォラクに投げかけられた質問に応答する。別に答えられない様な質問ではないので、ヴォラクは無気力な声で答えた。


「冒険者か?この街に来た目的は?」


「えぇ、冒険者カードのありますよ、こちらです。後来た理由は食事と宿を探しにきただけだ」


 そうヴォラクが答えると、ヴォラクは持ち合わせていた冒険者カードを取り出すと同時に目の前に立ち、質問を投げかけてきた一人の兵士に冒険者カードを渡した。そしてヴォラクが兵士に対して冒険者カードを掲示した事でサテラとシズハも彼の行動を真似るかの様にして、ヴォラクと同じ様に自らが持つ冒険者カードを各々取り出すと目の前に立つ兵士に冒険者カードを手渡した。


「職業は……なし?しかも二人も……もう一人の亜人は魔術系のだが……あ、後後ろの赤髪のお姉さんと銀髪のお姉さんは?」


 まるで傷の痛い所を鋭い物で突かれた様な気分になってしまった。よりにもよってヴォラクにとっては聞かれたくない質問を一人の兵士は投げかけてきてしまったのだ。ヴォラク、サテラやシズハと違って、血雷やレイアは冒険者カードを初めとした身分を証明出来る物を保有していない。理由は薄々だがヴォラクも承知している。

 まず血雷は冒険者でもないし、言ってしまえばただの浪人、旅人に近い感じな人間なのだ。身分を証明出来る物を保有していないのは当たり前の事でもあった。現に冒険者カードぐらい作ろうと思えば簡単に作る事が出来る代物ではあるが、今カードを持っていない事も事実ではあったのだ。

 レイアだって同様だ。元は小国の王とも言ってよい立ち位置に立っていた女性だ。冒険者カードなんて作っている訳はないだろうし、持っている可能性もゼロに等しいだろう。しかし、だからと言ってレイアの正体をみすみすそのまま警備兵に明かす訳にもいかなかった。急に彼女は小国の王で今成り行きでここに居ますだなんて言った所で、って話だった。結局はどうにかして誤魔化すしかない話だった。

 取り敢えずヴォラクは多少焦りの口調と困惑と緊張の表情が混ざりながらではあったが、お茶を濁す様にして警備兵に事情を説明する事にした。嘘の言葉を並べただけではあったものの、非常時なので仕方ない、嘘も方便と言うのでヴォラクは今は嘘の言葉を並べる事にしたのだ。


「そっちの、赤髪の女の人は…まぁ、ただの旅人です、よ?今たまたま一緒に旅をしてるだけ、ですから。こっちの銀髪の女の子は、ちょっと色々ありましてね、カードを無くしてしまったんですよ……一応再発行はしようと思ってるんで、安心してください」


 ヴォラクの若干ぎこちない口調で話された言葉に乗るかの様にして血雷とレイアは警備兵から視線を逸らそうとする。変に目を合わせてしまって指摘されてしまったら、答えようがない。それにヴォラクが並べた言葉は全て妄言に等しく、完全に嘘の言葉なので、バレてしまえば、何も答えようがなく、運が悪ければ拘束されてしまうかもしれない、とにかく血雷とレイアはこの状況を乗り切る為に必死になって誤魔化す様にしていた。

 警備兵は眉をひそめると同時に疑問と困惑の表情を見せる。ヴォラクは警備兵に目を細められた状態で見つめられてしまったが、目を泳がせて必死に怪しくないフリを見せる。挙動不振な行動や発言は更に痛い所を突かれる様な事になりそうなので、目を泳がせながらヴォラクは一切何も言わずに腕を組んでその場に立ち尽くしていたのだ。


「は、はぁ……一人は旅人で、もう一人はカードを無くしてしまったと……」


 ぎこちない姿勢と表情になってしまっているヴォラクとは裏腹に、血雷は依然としてヴォラクとは違いいつも通りの美しく、何かを見据えている様な表情を保ち続けている。視線を逸らしていたとは言っても、冷や汗が額から雨の雫の様にして垂れてしまっているヴォラクとは違い、血雷は平然としながら美しい表情を保ち続けていたが、警備兵が疑問の言葉を並べる同時に、血雷は警備兵に怪しまれない様にする為かは知らないが、突然ヴォラクの近くに寄る。

 そして血雷はヴォラクに寄ると同時に、彼の左腕に自分の腕を絡め、そのヴォラクよりも少し大きめの体を無理矢理押し付けてきたのだった。

 押し付けられたせいで、あの大きくて柔らかい胸をその自分の体に押し付けられてしまった。突然の事で仮面の下に隠されたヴォラクの頬は赤くなってしまう。


「あ、アタシはただの旅人ですよ!い、今はコイツと一緒に行動しているだけですから、安心してくださいよ!」


 珍しい姉さんの敬語口調にヴォラクは仮面の下で少々驚きを見せてしまった。

 そして血雷の行動を真似るかの様にして、レイアは血雷を見つめる。そして視線が血雷の方へと行くと同時に、彼女は自らの足を動かすと同時に血雷と同じ様にしてヴォラクの左腕に自分の腕を使って絡み付き、その美しい肉体を無理矢理に押し付けてきたのだ。ヴォラクは右腕だけに血雷の温かく柔らかい胸の感触を感じるだけではなく、左腕にもレイアも美しく細い体と血雷より少しは劣るとは言ってもあの大きく柔らかい胸を押し付けられてしまう。

 ヴォラクは逃げ場を失う。右は血雷、左はレイア、どちらかの方向に逃げる事は出来なかったのだ。上か下に逃げると言う選択肢も存在していたが、今逃げ出してしまえば不振な行動として見られる可能性だって存在している。下手に動く事が出来ないヴォラクはその場でぎこちない立ち方のまま立ち尽くす事しか出来なかったのだ。サテラとシズハはデカい人には敵わないと悔しさを噛み締めながらもヴォラクからちょっと離れた所で拳を握りしめながら歯を噛み締めて、若干涙目の状態で三人を見つめていたのだ。


(いぎぃ!?右も左もダブルでデカいのが押し付けられてるぅ!HとFは伊達じゃないって本当……だったわ)


 右と左が天国だと思える様になってきた。両方から女性特有の甘く優しいほんわかな香りがヴォラクの鼻を刺激し、二人の豊満な胸の優しい感触がヴォラクの両腕を刺激していく。

 流石にそんなものをずっと見せられていた警備兵は素直に道を譲る様子を見せてしまう。


「さ、再発行は冒険者ギルドでお、行ってくれ。宿は飯も食える所と合体している所もあるから好きに探してくれ、じゃ通っていいぞ」


 そう言うと警備兵は素直に門の前に立ちはだかる事をやめると同時に道を譲る。ヴォラクは軽く無口のままで会釈をすると、その場からサテラ達と歩き出した。

 しかし去り際に警備兵はヴォラクの耳に口を近付けると小声で質問をする様な形で言葉を呟いた。


「おい、あんちゃん。どうやってあんな可愛い子口説いたんだ?」


 そんな質問だった様な気がする。取り敢えずヴォラクは軽く冗談を叩く様にして質問の答えを返す事にした。と言うか別に特別な事を彼女達にした訳ではないからね?当たり前の事をしただけだ、そうしたら着いてきただけの様な気がする。

 サテラ→奴隷なので買った

 シズハ→助けてあげた

 血雷→弟だったから

 レイア→その体と国を助けた

 アナ→上のおまけ


「私の扱いひど……」


「まぁ、カッコよく振る舞えば良いと思うよ?」


 そう告げるとヴォラク達はその場から去っていき、門をくぐって街の中へと進んでいくのだった。



 ◇◇



 門をくぐって街の中に入った途端、ヴォラクは驚きに目を瞠る。

 街の中は今から夜が始まると言うにも関わらず非常に強い賑わいを見せていた。ヴォラクの視界に街のありとあらゆる光景が映し出された。街を歩く人々も多種多様で、自分と同じ様な姿をしている人もいれば、シズハの様に頭の上に獣の様な耳を生やし、後ろの腰辺りから触り心地の良さそうな尻尾を生やしている亜人も存在する。その他にも浅黒い肌をしている、遠方から来た人達や耳が尖っているエルフの様な人々が街の中を歩いていたのだ。街を歩く人々の中には自分達の様に武器等を保有し、それぞれ武装した人々が街を歩いていた。剣、弓、槍、戦斧、その他錫杖等と言った数多くの武器を持ち、街を歩いている。強面で筋骨隆々な人もいれば、ローブやマントで身を包み、細めの体型をしている人も存在し、魔術系の力をその身に保有していそうな人もいる。この人達は恐らくだが、自分達と同じ冒険者か各地を渡り歩き、血を流して戦う傭兵等だろう、そうでもしなければあの様にして武装する事はないだろう。

 ヴォラクはその人達を流れる様な目で見つめていた。一人一人を深く気にする程ではなかったが、街を歩く人々を見つめるのも決して悪いと言う事ではなかった。


 その他にも露店を出店し、肉や野菜等と言った食料品を販売する者や装飾品や武器、薬等と言ったアイテムを売る街の人間もいれば、街に遠い国の物を保有した状態で売りに出している行商人等色々な人が街の中を歩き、元気そうな声を出して切磋琢磨していたのだった。

 その他にも赤褐色のレンガや年期の入った木などで作られた建物があちらこちらに建てられており、その多くがヴォラクの双眸に投影されていく。ヴォラクは取り敢えず腹が減って仕方なかった為、警備兵が言っていた宿と酒場などが合体している宿を探す事にした。警備兵があるとは言っていたので、無いと言う心配は恐らく存在しないとヴォラクは思い、首を左右に振り、動かしてその様な建物が建てられていないか確認を行う。

 一応その事をサテラ達も承知しているので、今は彼女達はショッピングをしたいと言う気持ちを抑えてヴォラクが探している建物と同じ様な建物がないかどうか探し続けていた。今は買い物したいと言う気持ちは押さえ込め、また明日か明後日にでもヴォラクを連れていけば良い話なので、サテラ達は素直に飲み込んでしまった。


「取り敢えず、宿とか見つけられたら言ってくれ、ついでに飯が食える所もだ」


「おぅよ、ヴォラク。見つけたらすぐに教え……って、立派な建物だなぁ~おぃ」


 血雷が突然としてヴォラクの顔から視線を外すと僅かに驚いた様な表情を見せると同時に、同時に首を動かすと僅かながら上の方を見上げた。

 血雷の言葉につられ、ヴォラクを初めとしたその場にいる女性達四人は全て、血雷が見ている方向に首を動かし、同じ様にして見上げた。


「本当だ、大きい」


 そこにはまるで過去に使われた決闘場であるコロッセオ(実物見た事ある)の様な大きな建物がヴォラクの前に建てられていたのだ。円状の建物はこの街の中では異質な雰囲気を漂わせており、その光景は何処か不気味さを感じさせる作りになっている、現にヴォラクはピリピリと肌に鋭い物を刺された様な気分になった。この建物からは血みどろの戦いの臭いが染み付く様にして漂い、終始臭い続けている。

 ヴォラクは目の前に立つ建物に少しだけ後退りしてしまい、僅かながらではあるが息を飲んだ。


「凄いな、何かの決闘場か?」


 ヴォラクが顎に手を当てながら、ふと疑問の声を漏らし、決闘場を目を凝らしながら瞬きすらもしない勢いで見つめる。

 すると、決闘場の入り口に佇んでいた一人の女性が、ヴォラク達の存在に気付くなり、突然ヴォラク達の傍に寄ってきた。女性はやけに男性を誘うかの様な扇情的な服装に身を包んでおり、特に胸が強く強調された服装を纏っていた。また目鼻立ちも非常に整っており、非常に美しい美貌を持つ美しい美女だった。

 しかしヴォラクは視線が自然と胸の方に行く事はなかった。

 何故かって?そんなもん決まってんだろ?姉さんとレイの方がデカい、間違いなく………


「お兄さん達?もしかしてこの街の名物、闘技場での決闘(デュエル)興味ある?」


 一応質問を聞かれたからには、答えを返す必要性がある、ヴォラクは腕を組みながら仮面に顔を包んで女性の方を見つめた。


決闘(デュエル)?それは一体なんだ?殺し合いでもするのか?」


「いやいや、そんな物騒な戦いじゃないですよ。殺しはなしで勝負するんですよ。ま、ある程度痛めつけるのはアリですけどね?」


 話を聞く限りでは面白そうな話だった。殺しはなしだが、殺さない程度に痛ぶれるのならヴォラクは性的興奮を覚える事が出来るので、寧ろ大賛成だったのだ。次にヴォラクはもしも優勝した時の為に、優勝したらどの様な報酬を得られるのか問う事にする。聞く価値はあるだろうとヴォラクは踏んだからだ。


「優勝すれば、どうなる?」


「優勝すれば……一攫千金のチャンスですよ?」


 そう言うと女は少し悪そうな感じの表情を見せると同時にヴォラクに顔を近付けた。その時の彼女がニヤリと笑って見せた表情と同様に、ヴォラクも仮面の下で彼女と同じ様に口元だけでニヤリと微笑んだ。そのヴォラクの薄気味悪い笑いには強い邪悪が宿っていた。


「面白い………出てやるよ、その戦い、エントリーシートとかは書くのか?」


「いいえ、そう言う面倒臭い事はこちら運営側が全て行うので大丈夫ですよ。でも、一応名前とチーム名は教えてください。後、参加出来るのは四人までなのでチーム編成は今考えるなりして、決まったら私に教えてくださいね?」


「と、言う訳らしいが、異論ある人いる?」


「アタシは構わんぜ?それに金貰えんなら、アタシにとっては一石二鳥だわ。技量も試せるし、金も稼げる、アタシは乗るぜ?」


「私も出る事にするぞ?剣を振らなければ体が鈍ってしまうからな、私も参加するぞ?」


 血雷とレイアはヴォラクの意見に賛同し、この決闘(デュエル)参加する姿勢を見せた。血に飢えた獣の様にして、戦う姿勢を強く見せていた。しかしサテラとシズハはこの決闘(デュエル)に参加する姿勢を見せようとはしていなかった。シズハは若干乗り気味ではあったが、サテラはまるで戦意喪失!してしまったかの様にして戦いに参加する姿勢を見せようとしなかった。無理もないだろう、サテラは対人戦には慣れていない。幾ら殺し合いはなしと言うルールの上ではあったとしても、サテラは戦う姿勢を見せようとはしない。

 ヴォラクは彼女を無理矢理に参加させるつもりは一切なかった。参加したくないと言うのなら、その選択を尊重し、素直に応援を頑張ってくれと言うだけだ。


「私は、お、応援しておきますね……」


 サテラは参加する気はなさそうだった。その表情は雨に怯える様な少女の様で、戦う事を完全に嫌がる様な表情をヴォラクに見せていたのだ。これは戦いに対する恐怖だった、ヴォラクは彼女に戦いに参加させる気にはならなかった。


「あ、あぁ、サテラ、お前は応援に回っておけ」


「そうしますぅ~」


「私も同じく応援しておきますね、戦うのは好みじゃありませんからね」


 どうやら、サテラとアナは戦いに参加する気はなさそうだった。ヴォラクはこれ以上何も言う気はなかった。やらないのなら、これ以上無理意地をする必要性は一切ないし、変に後押しをする必要するなんてそんな行動はただの愚行に過ぎなかったので、ヴォラクは戦う意思を示さないサテラを咎める様な事はせず素直に食い下がった。


「さて、シズハ。お前はどうする?無理意地はしないが……どうする?」


 その言葉にシズハは顔を赤く染め、悩み込む様な表情を見せる。これは迷っている表情だろうとヴォラクは感じた。シズハだって参加したくないのなら、参加はさせないしサテラ同様に無理意地はさせないつもりだ。


「………私、参加します」


 一度息を吸い込むと、小声でシズハが覚悟を決めた様にしてヴォラクだけに聞こえる様にして言葉を呟いたのだ。

 ヴォラクはシズハの言葉を聞き入れると、彼はコクっと首を縦に振り、何も言わずに彼女の右肩に手を伸ばすと静かに彼女の肩を撫でたのだった。


「頑張るぞ?後、今夜も楽しもう」


「ヴォラクさん♡」


 その優しく語りかける様な言葉にシズハは頬を赤らめた。ヴォラクもそんな彼女の表情を見ていつもとは違う形で優しげな笑みを見せた。

 そして出場メンバーが決まるなり、ヴォラクは参加の受け付けをしていた女性に話しかける。


「出場メンバーは決まった。僕、ヴォラクって言う奴ととその赤髪のお姉さん血雷、銀髪のお姉さんレイアとそこの獣耳の女の子、シズハだ、これでエントリー完了か?」


 そうヴォラクが素っ気ない表情で呟くと、女性はどこからか、取り出したメモ帳の様な紙の用紙にペンを使って自分達の事、しかし事と言うよりは彼らの名前を書き込み始めたのだ。四人全員名前を取り出した紙の用紙に書き終えると、女性はやけに嬉しげで参加する事を祝福するかの様な表情を見せる。


「はい!これで完了です!決闘(デュエル)は明日の午前中から開催ですので、遅れてこない様にしてくださいね?詳しいルール等はまた明日解説しますので、その時まで気合を入れて待っていてください。それじゃ、また明日お会いしましょう!」


 そう言うと、女はヴォラクににこやかな表情を見せ、そのまま手を振ると同時に、ヴォラクに背を見せてその場から走って立ち去っていく。走るなり彼女は後ろを振り返る

 その走る先は闘技場の中だった。ヴォラクも軽く会釈のみを行い、彼女を送り出すと、クルッと後ろを向き、サテラ達の方を見る。


「行くか……」


 そう言うとヴォラクは再び足を動かし、先へと進む事にしたのだった。

 今のヴォラクの心境→腹減った。

 そう思うと同時に、ヴォラクのお腹の音が鳴った。


 ◇◇


「お、飯屋発見……しかも宿付き」


 ヴォラクが突然、右手を差し出すと同時に人差し指を使ってヴォラク達が歩く先に建てられた建物に指を指した。ヴォラクが指を指した方向に、全員はほぼ同時のタイミングで指を指した方向に首を動かすと同時に、その先の方向を目を凝らして見つめる。


「本当だな、宿付きの酒場じゃないか。よっしゃ!これなら、美味い酒が……」


 血雷が活気に溢れた表情を見せると同時に嬉しげに拳を握りしめた。血雷はかなり酒好きな女性である為酒を飲める事に対する嬉しさは人一倍だった。現に今だって酒場があると知った瞬間に見せた表情は喜びと感激に満ちる様な表情だった。そんな表情を見せるなり、血雷はすぐさまヴォラクよりも前に出て、目の前に建てられた酒場を目を輝かせて見つめていた。

 しかしそんな血雷を制止し、圧をかけるかの様にして、ヴォラクの前に立っていた血雷の肩に、ヴォラクは右手を置くと同時に、トントンとドアをノックするかの様にして彼女の肩を叩く。

 肩を叩かれた血雷は少しの間だけ、身震いし石像の様にして固まった。そして恐る恐る、軋んで思う様に動かないネジを無理矢理に動かした時の様に、血雷はゆっくりと後ろを振り返る。その表情は先程とは打って変わって何かに恐れを見せる少女の様な表情だった。先程まで、嬉しげに握られていた拳は開いてしまい、活気に溢れた表情は消えて、薄くなってしまっている。


「な、何だよ……凱亜…」


「飲むのは構わんけど、飲み過ぎて酔い潰れるのはやめてくれよ?運ぶの面倒臭いし、何より明日金がかかった試合があるんだからね?」


 ヴォラクのその仮面を付けた上での、謎の圧により見つめられるその表情はどこからか恐ろしく禍々しいオーラを放っていた。仮面を外した上でなら、もう少しは緩和されていたかもしれないが、今の仮面を顔に取り付けたヴォラクの表情は完全に悪役、非情で冷徹な人間を思わせる様な姿をしていたのだった。


「弟のクセにぃ~」


「こんな時だけそんな事言わないでよ。さ、入ろうぜ?」


 ヴォラクは慰めの気持ちが若干入った様な言葉をかけると同時に、彼女の肩に置いた手をもう一度トントンと叩きながら、ヴォラクは肩を組むかの様にして彼女の肩から手を離さずに歩き出した。血雷は促され、肩にヴォラクの手を置いた状態でその場から歩き出したのだ。それを見ていたサテラ達は自分も負けじとと言わんばかりにヴォラクの傍に寄りながら、全員で固まるかの様にして道を歩き、酒場へと足を向けた。


 そして酒場の前に辿り着くとヴォラク達は入り口の前にかけられた暖簾の様な布の壁をくぐって、酒場の中へと侵入した。

 酒場の中は夜だと言うのに、天井からランプの光や明かり等をふんだんに使用して、夜と言う名の世界を昼に塗り替えるかの様にする程までに明るく輝いていたのだ。実際、天井を見上げれば、目を炎で焼かれるかの様にして目が熱く、痛くなりヴォラクは少しだけ天井を見上げたが、痛みと眩しさが目を襲い、すぐさま下を見て、少しだけ目を瞑って目の痛みを抑えようとした。

 そして目の痛みが収まると、店の中に視線を移す。店の中の酒場は既に強い賑わいを見せており、椅子に座りながら、ジョッキに注がれた酒を豪快に飲み干す者やテーブルの上に豪勢に並べられた食事を美味しそうに頬張る者もいた。

 ヴォラクがその様な光景を見つめていると、店の中に立てられたカウンターの奥で立っていた受け付けの女性がヴォラクに話しかけてきた。ヴォラクは女性の声に反応し、首を動かして女性の声が聞こえた方に視線を移す。


「あら、冒険者さんですか?お食事ですか、それとも宿泊ですか?」


「両方だ。腹減ってるから飯が食いたい、後部屋は四部屋借りたいんだが可能か?」


 ヴォラクが何故人数分である六人分の部屋を借りなかったのか、理由は明白且つ非常に単純な事だった。今夜だってヴォラクはサテラとシズハの三人でベットの上で楽しみ、乱れ狂う事にしているのでヴォラクは三人で楽しめる様に三人で一部屋、血雷に一部屋、レイアとアナに一部屋ずつ部屋を設けようとしたのだ。後は宿代節約って言うのもあるが、ここでは公言しない事にしておく。

 そして、そのまま話を進めようとしたのだが、勿論ではあったが、血雷とレイアが部屋割りについての事で黙っている訳がなかった。


「おいおい!ヴォラクとの相部屋はアタシだろ!?いつも三人でズルいじゃねぇか!たまにはアタシと同部屋にしやがれ!」


「い、今まで私、一回もヴォラクとは同じ部屋になった事がないんだぞ?い、一回ぐらい、その……添い寝とかしてみたいんだよ!譲ってくれ!」


 現に部屋割りについて、血雷とレイアは怒りに近い疑問の言葉を唱えた。しかも今の言葉だけではなく、その他、幾らでも彼女達の愚痴の様な疑問の言葉は、山の様にして口から飛び出してくる。

 既に周りからは彼女達の怒声に近い声を聞いて、何だ何だ、とヴォラク達の方に目を向ける人達が何人かちらほらと出てきていた。人々は「痴話喧嘩か?」だとか「モテる男は辛いねぇ~」と皮肉を言う様な口調で遠目からヴォラクやサテラ達の事を見つめている。

 助け舟を出してほしいとは、ヴォラクは思わなかったが、一番辛いのは自分だった。今の様にして周りから見られてしまっている訳だし、何より少し恥ずかしい様な感じもする。ヴォラクはサテラ達から僅かながら視線をズラすと同時に、右手を使って頭の髪を掻きむしった。


「やっぱり、相部屋は私です!主様の奴隷って言う立場ですし!それに仮にももう初めては捨ててるんですよ!貴方達みたいなまだ生娘の人とは違うんですよ!ここは主様と私の独壇場にするべきです!」


「それは私にも言えるセリフだよ!私だって初めてはヴォラクさんに捧げてるんだよ!それに私は今日ヴォラクさんに直接指名されてるんだよ!私がヴォラクさんと相部屋になる権利があるのよ!」


 サテラだけではなく、シズハも反論するかの様にして血雷とレイアと議論と言う名の口喧嘩を勃発させる。ヴォラクは止めに入ろうとはしたのだがこの女性四人の口喧嘩の原因になっているのは自分である様な気がしてしまい、ヴォラクは結局頭を抱えてただ指をくわえて黙って見ている事しか出来なかったのだ。アナに関しては何故かこの女性達の口喧嘩に対して、仲裁に入る事も一切しようとせず、何故か少し後ろで口元を右手で抑えて、何かは知らないが不気味な表情を見せていた。前髪が目に重なっている事でその表情は伺えなかったが、何故かヴォラクにはニヤニヤと笑っている様に見えてしまった。まるで女性達が繰り広げる口喧嘩を面白おかしく笑うかの様にして……


「はいはぁ~い!お部屋の割合決まりましたよぉ~」


「「「「「え?」」」」」


 ヴォラクも、サテラ達四人もその場にいた彼らは情けない声が口から漏れてしまい、あまりに突然過ぎた発言に圧巻の一言と疑問の表情、思考が追い付かなくなってしまい身を石像の様にして固めてしまう。

 しかしそんなヴォラク達を他所に受け付けをしていた女性は話を続けた。まるでヴォラク達の事を気にしていない様だった。


「部屋割りは、そこの男の人が一人部屋で、その他全員は相部屋でぇ~す!文句は禁止だよ?」


 そう言って受け付けの女性は微笑ましい笑みを浮かべながらヴォラク達に向けて呟いた。しかしその微笑ましい笑みの裏側には、早く何処かに行ってほしいと言う怒りの気持ちが隠されずに顕になっている様にも見えた。現にヴォラクはその怒りのオーラをその肌で感じていた、怒りのオーラは肌をピリピリと刺激させる様な程までに強く、ヴォラクであったとしても、少し身震いさせる程であったのだ。


「い、一応ご飯食べようと思ってんだけど……」


「それなら、空いてる席にどうぞお座り下さいね!」


「……………座ろうか…」


 ヴォラクの素っ気ない一言に五人は同情する姿勢を見せ、コクコクと頷いた。


 その後、ヴォラク達は席に座ると、各々好きに美味しそうな食事を取り、空腹になっていた胃袋を満たしたのだった。因みにだが、ヴォラクも食事の時は流石に仮面を外した。最初こそ、何か周りの人達から言われないかどうか不安ではあったが、外した所で何も言われなかったし、何より周囲の女性達は何故か自分の顔を確認するなり、何故かカッコイイなど、イケメンなどと今まで言われた事がない様な言葉を自分に対して言われた様な気がした。


 サテラやシズハ達もお腹が空いていたのか分からないが、いつもより食べる量が多くなっている様にも見えた。

 だが血雷は酒は飲み過ぎるな、と釘を打っていたのだが、酒豪に近かった血雷は結局酔い潰れる一歩手前まで酒を豪快に飲み干してしまい、結局は眠気に負けてしまい大きく息を吸って、そのまま眠りについてしまったのだ。ヴォラクは深い溜め息と苦難の表情を見せてしまったが、姉さんらしいか、と割り切って呟くとヴォラクは酔い潰れかけ、眠気に負けて少しだけ鼾をかいて眠ってしまっている血雷を、慣れた手つきと嫌悪する表情ではなく、やれやれだぜ、と言いたげな顔を見せながら彼女に肩を貸して、部屋の鍵を借りると同時に部屋まで運んでいってあげたのだった。

 血雷を運んだ後はサテラ、シズハ、レイア、アナの四人で食後の談話に勤しんでいたのだが、時間が流れる内に話す事がなくなっていってしまったヴォラク達は結局この食事会をお開きにする事にしたのだ。

 その後は、ヴォラクは一人用の部屋の鍵を借りて、サテラ達はヴォラクから持っていた部屋の鍵を借りると同時に互いの部屋に向かっていったのだった。



 ◇◇



 ヴォラクはそうして、サテラ達と別れると同時に一人用の部屋の鍵を使って、ドアに取り付けられた鍵穴に鍵を差し込んで、ドアを開く。

 木で作られたドアを開いて、部屋の中に入ったヴォラクを迎えた部屋は非常に簡素でこれと言った特徴がない部屋だった。

 部屋の中にあるのはヴォラクでも余裕で寝転がる事が出来て、全身を包み込む事が出来る様なフカフカで雲の様な白い色をしたベット。勉強をする様な若干大きめの机と木で作られた椅子、机の上には部屋を照らす為の燭台が置かれ、天井には部屋全体を照らす事が可能なランプが若干揺れながら吊るされていた。

 ヴォラクは天井から吊るされるその灯りを少しの間だけ見つめると再び正面を向くと同時に何処も見つめずにただ呆然とした表情を浮かべながら正面の方向をただ無感情、ポーカーフェイスに等しい表情で何も無い方向をただ見つめていたのだった。

 見つめ出すと同時に、ヴォラクは仮面を外して、机の上に置くと同時に一度息を吐き捨てると好きだった歌を口ずさみながら脳内の思考を加速させる。


(さて、明日の相手は誰だろうか……取り敢えず、バスターブラスターは使わないでおくか……仮にも観客の人粉々に吹き飛ばしてしまうかもしれないし……好きな戦い方じゃないんだけど、ビームサーベルと師匠の体術で無効化するしかないな、ツェアシュテールングとリベリオンじゃ、相手の命を奪いかねないし……)


 ヴォラクは明日の戦いに対して、少しだけ不満と心配を覚えていた。まず明日の決闘(デュエル)は殺しはなしの、そんな血みどろの惨たらしい戦いではなく、互いに正々堂々と戦い、互いに健闘し合った事を称え合うと言う、まるで試合の様な戦いなのだ。なので殺しは禁止、なのでヴォラクはいつも対人に使用していたツェアシュテールングやリベリオンを始めとした簡単に命を奪う事が出来る様な兵器まがいの武器は全て使用出来なかったのだ。

 強いて言って使用出来るのは、殺さず、武器破壊にぐらいしか使えない、近接戦闘用武装であるビームサーベルと師匠から伝授された対人用の体術ぐらいしか使えないのである。

 ヴォラクにとってのアイデンティティとは銃等を用いた非常に正確な射撃による攻撃だ。それを打ち消してしまえば、ヴォラクに残るのはへっぴり腰とは言っても少しばかりは腕があるビームサーベルによる剣術と師匠から射撃技術やサバイバル術、車やバイクの操縦等と同時に学んだ体術程度しか残らなかったのだ。

 へっぴりと同じぐらいの剣術と一応ある程度は習得している体術のみを用いてこの決闘(デュエル)を勝ち抜く事が出来るのか、ヴォラクの顔にはまだ不安の色が残りつつあったが、やってみなきなゃ分からんねぇ!とも言うので、ヴォラクは取り敢えず今はその言葉を胸に刻んで不安を取り除く事にした。


「ん?」


 ヴォラクがふと目を丸くしながら、疑問の表情を見せながら、下に向けていた顔をドアの方へと向ける。

 突然、ドアがトントンと誰かにノックされたのだ。強盗?とは思わなかったし、現にヴォラクは誰がドアをノックしていたのか知っていた。

 ヴォラクは何かを察したかの様な表情を見せると同時に、入っていいよ、と気の抜けた声で呟いた。

 そして入っていいよ、と言う言葉を聞いた事でドアはガチャと音を立てて開いた。

 そして音を立ててドアが開くとそこには頬を赤らめながらドアの前に立つサテラとシズハの姿があったのだ。

 二人ともヴォラクの顔を見るなり、恥ずかしがる様な表情を見せながら、頬を赤くし、ヴォラクの方を見て立ち尽くしていた。

 そしてヴォラクは無言のままベットに座っていたが、二人の姿を確認すると、彼は自分が座っていたベットの両側をトントンと優しく叩く、そのジェスチャーを見て、サテラとシズハはヴォラクの座っているベットに近付くと同時に、彼の両隣に腰を下ろして座り込む、座り込むと同時に二人は服を脱ぎ始め、綺麗な肌色を汚れや傷一つない肩や少し太めで綺麗な太ももがヴォラクに見える様にしてわざと自分の色気を見せるかの様な脱ぎ方をしたのだ。

 そして最終的には、サテラとシズハの二人はヴォラクに密着する様な形で彼の体に触れると同時に彼の両頬にそのピンク色の綺麗な唇を彼の両頬に近付けると同時に、キスマークを付ける様な行動を取った。ヴォラクは左右から美少女二人に自分の両頬にキスをされてしまい、頬が赤くなると同時にその身を震わせた。

 そして二人の行動に答えるかの様にして、ヴォラクも自分の身に羽織っていた黒色のロングコートを脱ぎ捨てると同時に上半身の服を脱ぎ捨て、サテラとシズハを柔らかい感触のあるベットに押し倒してしまったのだった……



 ◇◇



 その後、夜は深くなりヴォラク達全員がベットの上で寝静まり、夜に見せていた活気が全て消えて、街が闇に包まれて静寂に満ちる中、明日、決闘(デュエル)が行われる闘技場の中に浮かぶ一つの影があった。しかしその場にはその影以外に誰一人としてその場に存在していない為、誰もその影の姿を知る者はいなかった。


「えぇ、間違いありません……明日、奴がここに…タイミングを見計らったら、攻撃を開始します」


 影が発した言葉に対して何処かから会話を送ってくる人間がいた。しかし誰かの会話は所々にノイズが走る様に言葉が途切れ途切れになってしまい、全ての会話を聞き取る事は出来なかった。


「分か………いる。や、……奴の…………はお前に……任せる…」


「しかし、殺す選択は取らないのですか?そちらの方が効率的だと……」


「こ………のさき、に………のまく……そ…んざいする。殺す事は……い」


「……了解致しました。必ず達成してみせます…」


 その言葉を最後に、闘技場の中に立つ影と誰かの会話は途切れてしまった。会話が途切れると同時に影はニヤリと笑いを見せると同時にその場から立ち去っていってしまった。

 知る由もない、誰かの正体なんて……



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