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91話「オープンカーが急に車の鍵になっちゃっても違和感ねぇよなぁ!?」

 

 すでに車に乗り込んで、アクセルペダルを踏み込み、運転を始めて暫く経つが、まだ一向に街や村と言った人が集まりそうな場所は自分の視線には映ってはこない。広がるのはただ平坦で何も無く、草木が僅かにだけ生えている長閑な平原だった。時間は現在夕方に近く、日の様な光がオレンジと赤い色に近い色を発しながら自分達の遥か彼方に浮かんでいる。その光は時に自らの目を焼くかの様にして、自分達を照らし、時に黒色の車体を美しく跳ね返るかの様にして輝いていた。美しくも眩しくとも捉えられる景色にヴォラクはふと目を奪われそうになるが、今は運転中でもあったので下手に目の前に浮かぶ景色に呆気を取られ見つめ続けている訳にもいかなかった。


 そしてヴォラクは絶えず、運転をしながらも軽く周囲を見渡し続ける。まるで周囲を警戒する鳥の様にして、首を左右に動かしながら、街や村が存在していないかどうか、探索を只管になって続ける。勿論だが、街や村を探しているのはヴォラクだけではない、サテラ達もヴォラクに頼まれていないと言うのに、自主的に周囲を見渡し続けている。一応彼女達にも街に行くと言う事は伝えてあったので、別に自分が言わなくとも自ら街を探していただろう。

 だがしかし、景色に感心し続けていたり、自らも街を探しているサテラ達をいつまでも見ている場合でもなかった。現にこのままでは日が沈む様にして周りは真っ暗となり、闇に周りは包まれてしまうだろう。しかも周りには街などと違って夜道を照らす為のランプや火属性の魔法による灯りの設置などは一切施されていない場所だ。もしここで迷ったまま辺りが完全に暗くなってしまったら、進むべき方向が一切分からなくなる。一応この車にはライトは付いているっぽいので最悪の場合は車のライトを頼りに進むしかないのだが、生憎ヴォラクはこの車を運転するのはこれが初めてだし、夜の運転は危険だと聞いた事がある。ヴォラクは今内心焦りが募っていた。


 もしこのまま街や村などが一切見つからなければ、また野宿する羽目になるかもしれない。言っておくがこの御一行に男子はヴォラクしかいない。基本的に夜の間の見張りはヴォラクが眠い中であっても一人でこなしているので、また寝不足にはなりたくなかった。と言うよりも最近あんまり眠れていない気がする。色々あったせいで夜間眠れずに起き続けて戦い続けていた気しかしないのでそろそろ安心してベットで眠りたくなっていた。


 また夜中の間ずっと見張りをするのは嫌だ!このまま野宿は御免だ!そんなヴォラクの一心が車のアクセルペダルを強く踏み込み、より一層車の速度を速めた。このまま車のスピードを上げた事でサテラ達は自分の髪を手を使って抑えると同時に、車から上半身と言った身を乗り出す事をやめて、席に座り込み、じっとすると同時に石像の様にして動かなくなってしまった。


「少し飛ばすぞ」


「りょ、りょ、了解です!」


 気の抜けた発言と同時にヴォラクが運転する車はスピードが増した。ペダルをより一層強く踏み込み、潰れてしまう程の勢いで、足に全体重をかける程に力を込めて、ヴォラクはペダルを強く踏み込んだ。

 スピードが上がってしまっても、血雷は相変わらず慣れている様な感じではあったが、先程よりもスピードが増した事によりサテラ、シズハ、レイアは先程よりもビビってしまっていて、怯える様な表情を浮かべると同時に席に座り込み、蹲る様にして頭を両手で抱え姿勢を低くした。

 レイアはギリギリこのスピードに着いてこれてきてはいたが、どう見ても痩せ我慢をしている様にしかヴォラクには見えず、無理矢理に体を起こしている様にしか感じられなかった。まるで強がる子供の様にして踏ん張るかの様に腕を組んで席に座る。

 しかし車のスピードは既に耐えられ様なものではなかった。その車の速度は凄まじく強いGが負荷になって彼女達に襲いかかる。ヴォラクはキマりかけてきたのでお構い無しではあったが、長時間続ければ、ヴォラクであっても無理が生じてしまうだろう。


「さ、殺人的な加速だ!」


「す、少しはスピード落としてよぉ!ヴォラクさぁん!」


 あまりのスピードの速さにシズハはヴォラクに車のスピードを落とす様に説得する。その口調は完全に怯えている時の声と一緒であった。しかしスピードが上がってしまっても仕方のない事かもしれない。ヴォラクは今腰の下にあるものすらもハイッ!になりそうになっているからだ。

 しかしヴォラクはいつも運転出来なかった車をようやく運転出来た事で興奮してしまったのか分からないが、今最高にハイッてやつになりかけてしまっていて、完全にキマッてしまっていた。その凶変っぷりはまるで暴走するかの様にして縦横無尽に荒れ狂う魔物の様だった。その仮面の下に隠された表情も歯を剥き出しにして、ニヤリと微笑みながら悪い笑みを浮かべる。ハンドルも握り潰される勢いで強く握りしめ、深く息を吸う。


「否!断じて否!」


 シズハの言葉は聞き入れられず、ヴォラクはスピードを落とす気配を見せず、更にスピードの加速を見せた。車の何処かに掴まっていないと対向で吹く風に吹き飛ばされてしまう勢いで、諦めかけたサテラとシズハは席に座り込んだまま、周りの景色を見る事もなく石像の様に固まり、一切動こうとしない。別に、動け!動けってんだよ!と言う気はない。


「ふはははははぁ!最高にハイってや…」


「ヴォラク、お前絶対あの人推してるだろ!」


「…少しハイになりすぎだ!」


 ポカッと効果音が鳴りそうな血雷の一撃がヴォラクの脳天目掛けてキツめに振り下ろされた。その一撃はヴォラクの頭に直撃してしまい、ヴォラクは突然の身内からの攻撃に目を丸くすると同時に口がぽかんと開いてしまった。

 しかし一撃とは言っても別に刀で叩き斬る様な訳ではなく、お笑いのツッコミの時などに使われる軽い手刀の様なものではあったが……


「そんなもん聞こえましぇ~……」


「少しは自重と言うのを覚えろよ。飛ばしすぎだ!」


 血雷がヴォラクの頭部に目掛けて手刀を放つと同時に、ヴォラクは頭に衝撃が走った事により、脳が揺れ、無意識に両手で握っていたハンドルから手を離してしまい、更には踏み付けていたアクセルペダルすらも踏む事をやめてしまい、車のスピードはどんどんと落ちていく。

 そしてアクセルペダルから足を離し、ハンドルから手を離してしまった事で、車は徐々に減速を始めていく。さっきまでチーターの様にして地を駆けていた車は今やのんびりと歩く亀の様になりながら進んでしまっている。

 そして最終的に、車は動く事をやめてしまい、その場に硬直し、進む事をやめてしまったかの様にしてその場に止まった。さっきまでの疾走感は何処へやら、と言わんばかりにスピードを落とした車はその場に硬直し最後は石像の様にして動かなくなってしまった。


「うぁ…もうお終いだぁ~……」


「ったく、やり過ぎ」


 血雷が席に座りながら伸びてしまっているヴォラクを上から見下ろした。席にもたれかかると同時にヴォラクは首を動かした事で、血雷と目が合ってしまう。ヴォは血雷と目が合うなり、物悲しげな表情を見せると同時に反省の言葉を並べた。


「ごめん、やり過ぎました」


 そしてヴォラクは両手を上げた。降参のポーズなのかは知らないが、ヴォラクは素直に両手を上げると同時に顔に被っていた仮面を右手を使って外した。仮面の下に浮かぶヴォラクの表情は何処か物悲しげで反省の色が浮かんでおり、先程の最高にハイってやつみたいな感じにはなってはいなかった。現に歯を剥き出しにしてはいないし、その目にもキマッている様な感じにはなっていなかった。


「悪い、やり過ぎました…」


「ったく、見てみろよ?アイツら完全に伸びちまってるぜ?」


 そう僅かながら皮肉を口から零す様にして血雷が呟くと、血雷は後部座席の方を指さした。指をさされた事で、ヴォラクは後部座席の方を見る為に首を横に動かし、サテラ達が乗っていた後部座席の方を確認する。


「と、止まるんじゃねぇぞ…」


「あ~三途の川が見えるぅ~」


 サテラとシズハは完全に伸びてしまっている様だった。目を回してしまっており、目が渦巻き状になってしまっていそうな程に伸びてしまっていたのだ。そんな二人に何処か可愛く、可憐さを覗かせる二人を見ていたヴォラクであったが突然後ろから誰かに親しげな感じで肩を軽く叩かれた。

 まだ伸びてしまっていた二人を見ていたかったヴォラクであったが、肩を誰かに叩かれた事で後ろを振り返った。


「ん?レイア、どうした?」


「爆走しまったお陰か知らんが、街見えてるぞ?」


 そう言うとレイアは少し先の方向、大体数十m離れている方向を指さした。レイアが指さす先には、まるで空の高く上に浮かび、光輝き地を見下ろしている星の様にして、夕日の様な光が沈み、暗闇に包まれ、夜になりそうになっていた街を照らし上げるランプや火の灯りがポツリポツリと空に浮かぶ星の様にして光っていたのだ。遠めで光るその街の灯りはどこか幻想的で美しく自分の目に映っていた。ヴォラクはその光景を見下ろす形で見つめる。今自分達が立っている場所は丘の上の様な場所なので、街の灯りを見下ろす形で眺めており、街の防壁や街の中で光る灯りが全て一望出来たのだ。


 その灯りはヴォラクの双眸に入るなりうヴォラクの両足を動かそうとする。もう早く休みたいと言う気持ちとお腹が減っている事による空腹状態がヴォラクの足を素早く動かそうとした。口からついヨダレが垂れてしまう様な感じな程で、そう感じると同時にヴォラクのお腹が軽く鳴ってしまう。


「あ、主様…もしかしてお腹減ってるんですか?」


 サテラがどこか恥ずかしげな感じでヴォラクに問いかける。ヴォラクはサテラの問いかけに対して、無言のまま何も言わずにそのまま首を縦に振ると同時に自分のお腹を右手で撫で回すかの様にして軽く摩った。


「私もお腹空きましたぁ~ヴォラクさん、ボッーとしてないで、早く行きましょう!」


「主様、私も限界です。食事の許可をお願いします」


「流石にアタシも飯食わねぇとやってられねぇしな、行くか」


「取り敢えず、美味い物を食べられるなら私は満足だ。ほら、立ち止まってないで行こうか?」


 そう言うと、レイアは親しげな口調でヴォラクに話しかけると、無言のまま黙り続けている彼の右肩を軽く二回程横から叩いた。そう言うとヴォラクは突然としてその場から動き出した。その歩く先には何故か今ここに来るまでに乗っていた贈り物であるオープンカーがあったのだ。


「ん?どしたよ、凱亜」


 不意に血雷はヴォラクの事を本当の名前で呼んだ。しかしヴォラクは血雷の方を振り返ろうとはしない。こちらの方を見向きもしないヴォラクであったが、運転席に設置された車のハンドルの傍にあった、エンジンをかける為のボタンの方にヴォラクは手を伸ばす。

 しかしヴォラクが押そうとしているボタンはエンジンをかける為のボタンではなく、その下に設置されていた別のボタンだったのだ。

 サテラ達はヴォラクが取ろうとしている謎の行動に理解が追い付かず、疑問を浮かべる様な表情を見せると同時にキョトンとした表情をしながら不思議がりそうにしてヴォラクの事を見つめていた。


「ねぇ、ヴォラク何して……」


 そしてヴォラクがエンジンをかける為のボタンの下にもう一つ設置されていた違うボタンを押した瞬間、先程までその場所に鎮座していたはずのオープンカーが何故か突然としてそのオープンカーとしての形を崩し始めたのだ。形を保っていたオープンカーは突然分裂していくかの様にして分解されていくと同時に、小さな物へと変化を見せてゆき、その新たに作られた物は小さくなっていくと同時にヴォラクの右手の平に収縮化した物体は集まっていく。

 そしてオープンカーだった物体が完全にその形を崩し、ヴォラクの手の平に小さくなった状態で現れた時ヴォラクは自らの目を疑った。自分でボタンを押しておきながら、自分でもその光景に驚いてしまったのだ。彼は無言のまま手の平に乗る物体を冷や汗を若干だけ流しながらその目でまじまじと見つめていた。


「マジかよ……」


 さっきまで自分が運転していて、サテラ達を乗せていたはずのオープンカーは形が崩れると同時に、ヴォラクの手の平へと移動した。しかしヴォラクは目を疑ったのはその形だったのだ。別にそのままオープンカーがミニカーになったかの様にして小さくなってしまった訳ではない。

 何とオープンカーだったはずの物体は突然として車のキーの様な形になってしまい、そのキーはヴォラクの手の平の上に置かれたのであった。ヴォラクは疑問の念が一切消えなかった。何故車に付けられていたボタンを押すと、オープンカーだったはずの物が車のキーの様な物に変化してしまうのか、これがヴォラクには分からなかった。

 多分持ち運びやすくする為の構造だとヴォラクは感じたのだが、どう言う仕組みになっているのかヴォラクには全く理解出来なかった。

 そもそもボタンを押しただけで車がキーに変化してしまうなんて普通に考えたらおかしい事であるし、説明出来る様な事ではない。あまりに難解な出来事にヴォラクは息を飲み、脳内を駆け巡る疑問の念が渦巻き、掻き毟るかの様にして舞い上がりヴォラクの思考を加速させる。

 しかし思考を加速させても、ヴォラクの持つ知識だけではオープンカーがボタンを押しただけでその形自体を変化させる事が出来る理由は分からなかった。やはり融合が必要だとヴォラクは感じたが、アイツは今鏡の中に立ち続けているのでそうも簡単に融合出来る話ではなかった。

 取り敢えず分からないなら、どうしようもないし、打つ手なしなので、一旦今はこの謎は保留する事にしておいて移動を開始する事にした。


「え、何でデカい箱がそんな手の平サイズのもんになっちまうんだ?」


「物質変換、もしくは状態変化?かしら……よく分からないわね…」


(まさか、また奴らの介入か?可能性も否定は出来ないが、難しい所だな……)


「取り敢えず、移動しよう。これなら持ち運びも便利だしな、取り敢えず、行こう」


 そのヴォラクの言葉にサテラ達五人は納得する様子を見せた。ヴォラクは五人が納得した様子を見せた事を確認するとヴォラクは万が一の為、顔に仮面を付けると同時に先行して五人の前を歩き出した。ヴォラクは空腹感が増す一方ではあったが美味い飯を食えると言う思いが、ヴォラクの足を動かしたのだった。



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