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90話「異世界にオープンカーがあっても不思議じゃないよね?」

 

 今ヴォラク達はまるで空の彼方を駆ける疾風の如く、高速に匹敵する程の速さで地を駆け、迫る風を切り、大地に吹き荒れる風を全身に強く受けていた。吹き荒れ、全身に打ち付けるかの如く受ける風は少々痛いものではあったが、運転の阻害になる事はなかった。何故なら今ヴォラクの顔には正体を偽り、身バレを防止する為の仮面を顔に取り付けていたので顔に打ち付ける風は凌ぐ事が出来たし、正直な話、体に発生している痛みもそんなに問題にはならなかった。これより痛い経験なんて何度も経験した事がある。

 因みにだがスピンを起こしてしまったり、何かに激突してクラッシュしてしまうかもしれないと言う不安も多少はあったものの自分の持つテクニックならそんな事起こらないだろうと確信していたヴォラクはお構い無しにどんどんと先へと進んでいく。しかし一応後ろや横などにはレイア達が少しだけ怖そうな表情を見せながら乗り込んでいるのでカッコつけすぎるのは程々にして、安全運転は心がけているつもりだった。現に事故なんて起こしてしまったら洒落にならないし、取り返しのつかない事になるのでヴォラクなりには安全運転は心がけているつもりだ。


 現在、ヴォラク達は元の世界で言う所の荒野の様な場所を駆けている。勿論だが、ノロノロと歩いている訳などではない、突然として誰かから送られてきた六人乗りが可能な天井が存在しない車である黒塗りのオープンカーに乗ってこの広大な大地を駆け、目的地へと歩を進めていたのだった。

 一応言っておくがヴォラクは今の所事故なく運転出来ているとは言っても、まだ車の免許証は持っていない、言ってしまえば無免許運転に等しい行動を起こしている。しかしこの異世界になんて車を始めとした乗り物などは存在しないだろうし、無免許運転をしようがお咎めなしだろう。それに車(その他バイクやジェットスキー)の操縦やその他の運用については師匠から学びに学びまくっていたので心配無用な気がする。


 因みにだが仲間達はそれぞれの位置に座っている。レイアは自分の隣に座っている。あの事が起こってから、レイアは何故かは良く分からないがヴォラクとの距離が少しだけ縮まっている様な気がして今日大カーに乗る時なんて自分の隣を頑なに譲ろうとしなかった。こうして今彼女は運転を行っているヴォラクの隣に座っている訳なのだが、レイアは周囲の景色を見ようともせず下の方向を向き、まるで項垂れるかの様な姿勢を取っている。理由は聞いていないが、隣で運転を行っているヴォラクでも分かる気がした。多分レイアは、と言うよりもここにいるヴォラク以外の皆は車に乗るなんて初めての事だろうし、こんな素早い速度を経験した事もない。こんな急にスピード出して走っていたら、しかも窓や天井がないタイプの車なのでフロントガラスがあっても、吹き荒れる事で強く受けてしまう風やジェットコースターに乗らされている様な気分に彼女達は現在なってしまっているので、恐怖心を抑えられずに蹲ってしまっているのも仕方のない事なのかもしれないとヴォラクは思い、何も彼女達には言わない事にしていた。

 一人だけ例外は存在しているが、ヴォラクは何も気にしない予定だった。


「さて、そろそろどこかの街で休憩&外泊でもする?そろそろ時間的にも丁度良いかもしれないが……」


 ヴォラクは一度車のスピードを落としていく、ヴォラクなりには安全運転を心がけている為誰かと離そうとする時はスピードを落とす事にしていた。補足をしておくが、周りには違う車なんて一台も走っていないので、スピードを落とそうが荒野のど真ん中で車を停車させようが誰も自分に対して文句を言う人間はおらず、今急にスピードを落としても誰からも文句を言われる事はなかった。


「お、そろそろ頃合か…なら近場の街にでも行ってさっさとゆっくりしようぜ?」


 ヴォラクは車のスピードを落として、スピードをゆっくりにし、アクセルのペダルだけを踏み、ハンドルから手を離して後ろを振り向いた。ヴォラクの言葉に血雷が反応し言葉を返した。

 因みにだがレイア、サテラ、シズハが初めての車に対して恐怖心を覚え、周りの景色を見る事もなく怯え蹲るかの様にしている中、血雷とアナはそんなの知るか、と言わんばかりに平気そうに涼し気な表情を見せていた。

 逆に運転する自分の後ろでレイアと同様に震えている様な様子を見せていたサテラとシズハを血雷は二人の背中を優しく撫で、優しく両手で二人の体を抱き締めていたのだった。ふとその光景をヴォラクが見た時、年上のお姉さんの力ハンパねぇ……と改めて思っていたらしい。因みにだが、アナは涼し気で全く表情を崩そうとせず、外の景色を傍観するかの様にして見つめている。ずっと何も話さず景色だけを眺めているのでヴォラクは彼女には何も言わなかった。

 そして血雷の言葉を聞き、血雷の体に顔を埋めていたサテラとシズハも自然と顔を上げた。今はスピードを緩めている事もあり二人は素直に顔を上げたのだった。

 

「主様、何処かに街見つけたんですか?……っと言うか怖かったです…ずっと血雷さんの体に埋まってましたよ~」


「正直もうお腹空きましたよぉ~後、景色全然見れなかったし…」


「見た感じじゃ、今は荒野のど真ん中に置き去りみたいな状況だけど多分もう少し先に行けばあると思うよ?それに近くに無くともこいつの機動力なら何処にでも飛んでいけるからな、大丈夫だ」


「私はもう……キッつい…これ、速すぎて心臓バクバクになるし…」


 レイアはかなり今辛そうになっており、若干死にかけてしまっている様な表情をヴォラク達に見せてしまっている。ドアの上に両腕を置きその上に顔を埋めている。ヴォラクはそんなレイアに慰めの意味も込めて言葉をかける事にする。


「な、なら後ろ行くか?少しはマシになるとは思うんだが……」


「……嫌よ、折角ジャンケンに勝ったんだから……」


「ですよねぇ~」


「言う程怖かったか?アタシは案外平気だったぞ?」


「こんな体験は生きている中ではあまり経験出来ません、貴重ね」


 自分の横にレイアが座っている事についての発端はもう少し前に遡る、ついでにこのオープンカーが自分達の元へと来た時の話も遡って話しておく事にする。


 ◇ ◇


 まず事の発端はヴォラク達がカインとの決着を付け、レイアを救出してベースキャンプに戻ってきた時の事だった。カインとの間に決着を付けてレイアを救出を行い、血雷とレイアの三人でサテラやシズハ、アナが待つ場所へと無事に帰る事が出来た。

 そして無事に帰る事が出来た後、ヴォラク達は帰るなりある物が自分宛に送られてきた事を彼女達の知らせによって知ったのだ。

 自分宛に送られてきた物を知った時、初めこそヴォラクは大いに驚く事となった。何故なら送られてきた物はこの異世界と言う世界の雰囲気には全くマッチしておらず、雰囲気クラッシャーと言っても過言ではない物が送られてきた事でヴォラクは目を丸くし、大いに驚きを見せる事となってしまったのだ。


 ◇ ◇


「おいおい、これが贈り物なのか?」


「確かに馬よりは使えそうだけど……」


 ヴォラクは目を丸くする。この世界にこれが存在しているのか?と疑問の念を持つ程に驚きを見せ、あまりに不自然過ぎる景色に僅かながらではあるが身震いを見せてしまう程だったのだ。


「な、何でオープンカーがこんな所に?」


 そこには屋根がなく横に四つ取り付けられたドアそして前にはボンネットに二つのライト、そして綺麗に磨かれ、傷や汚れが一切見当たらないフロントガラスとサイドミラー、四つの黒いタイヤに黒塗りのボディ、ヴォラクは自分の目の前に置かれた物が何なのかは一目で分かってしまった。

 それは紛れなく車であったのだ。しかもその車は普通の車には普通取り付けられているはずの屋根が存在せず直射日光が指す様にして運転席や助手席などには日の光の様な光が照っていたのだ。

 しかしヴォラクはオープンカーの構造や特徴の事なんかよりも何故この世界に車が存在しているのかについて深く考えてしまった。まずこんな殆ど新品、しかも未使用状態の車がここに存在している理由も全くと言っていいぐらい分からなかった。車の状態からしてここに置き去りにされてまだ対して時間も立っていないだろう、誰かがここに置いていったとか忘れていったとは非常に考えにくい事だった。また車の状態が新しすぎる事もヴォラクの頭を悩ませる原因の一つとなってしまっていた。


 確かにこの車が既にボロボロで運転すら満足に出来ない状態であったり、本体殆どが錆びてしまっていたり、ボロボロな上に苔が生えていたりしたとしら、過去の産物だとか偶然この世界へと放り込まれた転移物として捉える事も出来るかもしれない、だがこの車はそのどれにも当てはまっておらず、車の状態は新品、未使用に等しく誰かが乗っていた形跡や誰かが使っていた様な跡も一切存在しない。それにまるで自分達に気付かれる事を望むかの様な位置に置かれており、その車が進める方向の先には舗装されていないとは言っても、車でも進む事が出来そうな道が続いている。まさかとは思うが、誰かからの贈り物?とヴォラクは考えた。


「取り敢えず、ちょっと見てみるか……」


 ヴォラクは何かのトラップかもしれないと多少疑心暗鬼になりながらも目の前に置かれている車にジリジリと近づいて行く。その後ろに続くかの様にしてサテラ達五人も彼の後ろを着いていく。ヴォラクは険しい表情を見せ、息を飲み、警戒を強める。僅かながら冷や汗が頬をつたう中、ヴォラク達は徐々に車との距離を縮めていく。

 そして目の前に全員が辿り着くと取り敢えず、周りを見てみる事にしたのだがヴォラクの目には車の状態や設備よりも運転席に置かれていた一通の手紙が先に目に入ってしまったのだ。誰から送られてきた手紙かは知らないが、ヴォラクは身を乗り出して運転席に置かれた手紙に手を伸ばし、そのまま掴むとすぐさま折り畳まれた手紙を開く。


「主様、これって?」


「誰かからの手紙だな………って僕宛になってんだが…」


「何て書かれてるのかなぁ?」


「おい、ヴォラク!早く開けてくれよ!」


「秘密の手紙…とも言うべきか?」


「もしかして、ラブレター?」


「アナさん、そうはならない」


 ヴォラクの的確なツッコミに、アナは何故か、テヘペロと棒読みで言うと同時に自分の右手を握りしめると同時に自らの頭を軽く小突いた。あまりの棒読みっぷりにヴォラク達は首を傾げてアナの事を見つめた。テヘペロってそんな感じで言う言葉だったっけ?

 僕が覚えている限りでは、そんな棒読みで言うセリフじゃなかったと思う気がするんだが……


「開いてみるわ……」


 そう言うと同時にヴォラクは両手に握られた折り畳まれた手紙を開く、手紙が開かれるなりヴォラクは手紙に書かれた文字に目を通す。

 手紙にはこう書かれていた。


 ――――Present for you


 英語表記でたったこれだけが手紙には書かれていたのだった。

 Presentつまりこの車は自分に対してむけられたプレゼントだと言うのだ。しかし誰が車なんて自分に対して送ってきたのか検討もつかない。まずこの世界に車なんて存在しないだろうし、車関連の乗り物等も一切存在しないだろう。

 だが今自分の目の前にあるのは紛れなく車であった。仮にこの世界に車が存在していると言う可能性も否定は出来ないのだが、この世界の住人達は基本的には馬などを使用して移動を行っており、ヴォラクが知る限りではこの世界で車やバイクなどと言った乗り物を見た事は一度もなかった。

 まさかまさかとは思うのだが、この世界の住人ではない誰かがこの車を別世界から転移させて、この世界にこれを送り込んだのではないかとヴォラクはふと考える。人間を別世界から召喚させる事が出来るなら、人間以外の物質や人工物などを召喚する事も差程難しい事ではないだろう。ヴォラクは恐る恐るであるが運転席に乗り込むなり、運転席に座り込むとエンジンがかかるかどうか確かめる事にした。キーを使ってエンジンをかけるタイプなのかと思いきや、一つの表記された紙がヴォラクの目に入り、その考えを逆転させる。


「ここのボタン押したらエンジンかかる、って何だこの適当な表記は……」


 ヴォラクから見て、車のハンドルの斜め下の所に一つ押してくださいと言わんばかりな黒色のボタンが設置されていたのだ。しかもその上には張り紙が雑にセロハンテープを使って貼られており、張り紙には「ここのボタンを押したらエンジンかかるよ♡」とハートマークが描かれた状態で貼られていたのだ。

 押せばエンジンかかるのか?ヴォラクは疑問の念を渦まかせるが、逆にボタン以外に車を起動させる事が出来そうな装置は他には見当たらない、強いて言え、あるのは前進や後退を切り替える為のレバーやマップが表示されそうな電源の切れたタッチパネル、その他アクセルやストップする為のペダルぐらいしか見当たらない。これはもう押す以外ないな、て言うか押さないと動かなさそうだし……


「えぃ」 ポチッ


 ヴォラクは流れに乗るかの様にして設置されたボタンを右手の人差し指で押す。そしてボタンが押されると同時に、車は突然としてブルンと低く耳に残る様にして音を発し、小刻みに揺れ始めたのだ。ボタンを押すと車は鈍く低い音をその車体から発し続け、依然として震えるかの様に小刻みにその場で動いている。

 これはエンジンがかかったな、間違いない。

 

「マジか、本当にエンジンかかった…」


「おいおい、何か震えてるけどよ、どうなってんだ?」


 ヴォラクはこれを都合よく利用する事にした。どうせ自分宛へのプレゼントだろう、そうでもしなければあんな手紙があるはずがない、万が一自分に宛てられた物ではなかったとしてもまずもっとこんな目立つ場所、尚且つどう見ても自分に向けられた様にしか見えないので誰に送られてきたかはもう知ったこっちゃなかったのだ。

 もう確定だろう、自分に宛てられた物だと、ヴォラクは車に乗り込むとエンジンをかけるなり、ハンドルを両手で握ると同時に足をペダルにかける。


「主様?どうしたんですか?そんな所に座って?」


「こいつなら、馬よりも速く移動出来る。乗れよ」


「この、箱みたいなのが?ヴォラクさん、これ本当に動くんですか?」


 ヴォラクは車の事を知っているので、動く事は当たり前の様に知ってはいるが、サテラやシズハは車を見たりするのは絶対に初めてだろうし、どんな物なのかも全く知らないだろう。こんな反応を返されるのは当たり前の事だった。順を追って全て説明するのも面倒だし、時間がかかってしまうので、ヴォラクは取り敢えず動かしてその効果を見せる事にしたのだ。


「物は試しと言うだろ?出発の用意が整ったらこれに乗ってとっとといくぞ?」


「ま、ヴォラクがそう言うなら、アタシは信じるぜ?そいつが動く事を」


「ちょっと気にはなっていたけど…遂に乗れる時が来るなんて…」


 ◇ ◇


 その後、急いで出発の用意を終え無事に車に乗る準備が出来たヴォラク達一行、しかし車に乗って出発する前に一つの大きな問題が存在していた。ヴォラクにとっても重要な事であり、サテラ達ヒロインポジションに立つ彼女達にも重要な事だったのだ。


「ねぇ、皆さん…ちょっといいですか?」


「さ、サテラ?どうしたの?改まって?」


「誰が主様の隣に座るんですか?」


「「「「あ……」」」」


 四人に電流走る。そう、最大の問題、このヴォラクが席に座ると言う事で発生する問題避けて通る事は不可能に等しい事だった。

 誰がヴォラクの隣に座るのか、勿論だがこの場にいる女性(アナは除く)はヴォラクの事が異性として好きであったり、弟として大好きであったり、仲間として大切だったりと、ヴォラクに対する思い入れが強い女性が多く存在している。四人はそれぞれヴォラクに対して秘めたる思いがあり、揺らぐ事なんて絶対にないだろうと宣言してしまうぐらいに思っている。そんな女性達だ、素直にヴォラクの横を譲ろうとはしないだろう、ヴォラクだって薄々理解はしていた。

 隣に来る人合戦ぐらい起こっても不思議ではないだろうと普通に理解していた。しかし何が起こるか理解していたヴォラクは敢えて介入する様な事はしなかった。誰かを指名する事などは一切せず、彼女達だけで自分の隣に座るのは誰にするのかを決めさせる事にしたのだ。


(頼む……平和的に解決してくれぇ……)


 平和的に解決を望んでいるヴォラクとは裏腹に、サテラ達ヒロイン四人は平和的に解決とはいなさそうだった。現に冷や汗を流しながら運転席に後ろめたさを残しながら座っているヴォラクとは違い、まるで血を流し合う戦いをする獣の様にしてサテラ達はがんを飛ばし合うかの様にして見つめあっている。誰も大好きであって弟であって仲間であるヴォラクの隣を譲る気はない様だった。ヴォラクは只管に彼女達が平和的に解決してくれる様に祈るしかなく、その場で適当な形ではあるが祈りを捧げるしかなかった。


「シズハ、血雷さん、レイさん……この場だけは言わせてもらうわ、隣は主様の奴隷である私が座るべきよぉ!」


「いいえ!きっとヴォラクさんは私を選ぶわ!私にはケモ耳って言う、萌え属性があるのよ!途中でモフってくれるに違いないから!」


「違うぜ!姉としてアタシが隣に座るべきだ!あいつはシスコンなんだから、アタシが座ってる方がいいんだよ!」


「ちょっと、皆落ち着いてよ!口喧嘩する暇があるなら、私がヴォラクの隣に座れる様に言ってよ!」


 これは彼女達を宥めようとしているレイアの言葉なのか?全く違うね、後半の発言は完全にただの私欲の様な発言でしかなかったのだ。

 レイアよ、前半はよかった。後半、お前はダメだ。


「こうなったら……実力で!」


「サテラ、私と勝負するつもり?早撃ちなら負けないわよ!」


「おぉ!?実力勝負でアタシに勝てるとでも?撃たれる前に斬り捨ててやらぁ!」


「へぇ、勝負で私には勝てんぞ…私は強いからな、全員気絶させてやる!」


 そう言うと彼女達は徐に自らが使う武器を次々と取り出した。サテラはバスターランチャーをシズハはビームスナイパーライフルを血雷は自らが愛刀する刀二本をレイアは自らが保有する魔力を剣に変え、両手に握ったのだ。

 もう全員軽い臨戦態勢にあり、少しでも刺激してしまえば強い暴走も考えられる。ヴォラクは何もせずに静かに見守り、介入は行わないとしていたのだが、ふと首を動かして振り向いた時に、自分の武器を取り出して臨戦態勢を整えている彼女達を見てしまったヴォラクは、流石に止めなければ暴走する!と思い、脳が体に動けと命令する前に本能が自らの体を動かしてしまう。運転席から飛び出すかの様にして降りると同時にヴォラクは彼女達の前に立った。


「もう、ジャンケンでよくね?」


「「「「…………確かに」」」」


 ヴォラクのギリギリ間に合った呼び掛けに、ヒロイン達は主人公の声を聞いた事で何とか落ち着きを取り戻し、ハッと我に返った。さっきまで刺激すれば暴走も厭わなかったヒロイン達は前までの美しさを取り戻し、自らが持つ武器を一度しまい、平常心を取り戻そうとする。

 ヴォラクは両手を上げながら、彼女達の間に割って入ると同時に彼女達が落ち着く様な言葉をかける事にした。と言うか、そんな感じの言葉をかけないと恐らくだが本当に暴走し、頭に血が上ってしまい血を流し合う様な戦いをおっ始める可能性が出てきてしまっているので、止めなければと本能が呟いた気がしたヴォラクは素直に四人の間に入ったのだ。


「やめろ、やめろ!戦い合いなんて(らし)くないぞ?」


 間一髪だった気がする。ヴォラクは何とか間に合ったと思い、思わず安堵の息を漏らした。

 暴走状態になりかけていたヒロイン達もヴォラクの優しい呼び掛けに答えるかの様にして、そして怒りを鎮めるかの様にして落ち着きを取り戻した。


「主様の言う通り…かもしれませんね……皆、準備良い?」


 その言葉にその場にいるサテラを含めた四人はサテラの言葉に反応を見せると同時に首を縦に振った。そして四人は徐に自らの手を差し出した。

 互いに険しいながらも美しい表情で見つめ合うと、ヴォラクは腕を組みながら気の抜けた感じの声で言った。


「いいか?恨みっ子なしだぞ?……ジャンケン」


「「「「ポン!」」」」



 ◇ ◇



 勝負の結果、この厳しいジャンケン勝負に勝利したのは銀髪でロングヘアで黒いライダースーツを着用している女性だった。

 レイア、彼女が勝者だった。厳しいジャンケン勝負の中で、彼女は一発勝ちを果たしたのだ。幸運だとヴォラクはレイアに対して思った。個人的には誰でも良いと言う訳ではなかったのだが、ジャンケン勝負である以上誰が良いとか誰が嫌だとかなんて言ってられなかったのでヴォラクは誰か来ようと受け止める事にした。

 その結果選ばれたのはレイアだった。サテラ達は多少悔しそうな表情を浮かべていたが、サテラに関しては小声で、また一緒になれる機会はある…と虚ろな目をしながら繰り返して呟き続けていた。ヴォラクは刺激する事はせず背を向けてその光景を視野に入れる事すらしなかった。

 そしてレイアは右の運転席の隣の助手席に座り、後ろの席にサテラ達四人は素直に乗り込んだ。ヴォラクが後ろを振り向き、全員が乗り込んでいる事を確認するなり、ヴォラクは、行くぞ、と全員に聞こえる様にして呟くとヴォラクはそのまま右足でアクセルペダルを踏み込んだ。


 ◇ ◇


 こうして、ヴォラク達はオープンカーに乗り込み、運転を続けていたのだが、ヴォラクにはまだ疑問が残り、片手だけを使って運転する中であろうがまだ思考を回して考え続けていたのだ。


(しかし、これは一体誰からの贈り物なんだ?恐らくだが、この世界の人間の仕業だとは考えにくいしな…まさか…この世界外からの人間が介入……?考えすぎか?)


 ヴォラクは思考を一時的に放棄する。今は考えすぎるのは得策ではなさそうだし、今の目的はこの車を送ってきたのが誰なのかを特定する事ではなく一度体を休める為の街を探す事だった。誰が送ってきたのか、と言う疑問を捨てたヴォラクは再びハンドルを両手で握りしめると集中して運転に戻る。


「さて、もう少し探すとしますか…」


 ヴォラクはふと口から言葉を零すと、周囲を見渡した。



「その名はゼノ・ケイオス」


「おい作者、一体全体どう言う事だ?次の章の主役は俺って聞いて来たんだが……何で俺が主役じゃなくて後書きコーナーのオマケみたいな扱いになってんだ?」


「ふふふ……いつからお前が主役になると錯覚していた?」


「なっ!貴様、最強の設定を持つ俺を主役にしないのか!」


「あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ?」


「さっきから意識してる?してるよね?」


「そもそも、お前が主役になるのは番外編の方だけだ、主要ストーリーに関わるのはもう少し後だぞ?」


「マジで言ってる?」


「サラダバ!」


「ふぁ!?」


ゼノは落とし穴に落とされた!

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