88話「Forced metastasis‐強制転移」
「コバヤシ!」
「ワナカ!」
「ノダ!」
突然として眩しすぎる光に包まれたと思ったら、突如として悠介は地上から数mの場所に投げ出されてしまったのだ。しかも優しくソフトにではなくかなり投げやりで杜撰なやり方だった。まるでビルの屋上から突き落とされるかの様にして空の上から落とされると同時に、悠介は突然過ぎた事に対応が出来ず、衝撃に備えて受け身を取る事すら出来ずに、簡単に備え無しの状態で地面に打ち付けられてしまったのだ。
地面に強く叩き付けられた様な痛々しい感触が悠介の全身を強く刺激した。顔を始めとした腕や足、鼻や胸などと言った全身を硬い地面に叩き付けられた衝撃により体には強い痛みと衝撃が走り、叩き付けられた衝撃で口から大量の血反吐を吐きそうになった。それに肩が異常な程までに痛い、叩き付けられた衝撃により発生した痛みも中々だが肩の痛みはそれを凌駕する程の痛みだった。恐らくだがさっき肩に刺さってしまったナイフの傷が開いたのだろう。
一応だがナイフで刺されてしまった時に出来てしまった傷はリアンの持っていた包帯や回復魔法により、止血を行ったものの、まだ完全に傷口が塞がっていない状態で、尚且つ硬い地面に叩き付けられた衝撃が通常時よりも強かった事により止血し出血を抑えていた傷口が開いてしまい、激しい灼熱感と滲みる様な痛みが更に増し、転けて擦りむいた時に発生する痛みとは別格の痛みになってしまっていた。しかもそこに更に痛みが加わる事となってしまった。運が悪いのかは知らないが、悠介は一番最初に地面に叩き付けられた事によって、後で上から落ちていたリアンとグレンの下敷きになってしまったのだ。
「グハァ!ウガァ……お前ら……どけぇ…」
「あぃって!あれ?ここ、何処?……うぎゃ!」
「全く……よりにもよって「簡易式転移装置」を作動させるなんて……あれ、何で痛くない?」
最後に数m上から落ちてきたグレンだけは運良く裂罅悠介とリアン・ジュールと言う名の人間土台を生贄に捧げた事で難を逃れたが、その代償としてリアンはグレンの下に敷かれる事となり、悠介に至ってはリアンだけではなく、グレンの下敷きにもなってしまったので叩き付けられた衝撃により発生した痛みとナイフで刺された傷が開いた事による痛み、そしてそこにまた上乗せされるかの様にしてリアンとグレンの全体重が伸し掛り、地面と彼女達の体に挟まれてしまい、強く体を圧迫される事になってしまった。彼女達が重いとは言わないし、重いだなんて言ったら普通に失礼なので、流石に重いとハッキリと言う事はなかった。しかし女性二人から同時に伸し掛られてしまい、流石の悠介でも耐えられるかどうか分からない。今にも圧迫され続け、強い圧力によって押し潰されてしまいそうになる。取り敢えず二人が退いてくれるのを素直に待ち続けるしかなかった。
(これじゃ、サンドイッチのハムじゃねぇかよ……)
そしてもう一つ、悠介の背中に温かく柔らかい感触が悠介の神経を刺激し続けていた。悠介はまたリアンのあのバカでかい巨乳な胸を押し付けられているかもしれないと思い、すぐさま悠介は首を後ろに動かし、視線を後ろに向けた。最悪このままずっとこの柔らかくどこか自分の姉を思い出させる胸を押し付けられていても悪くはないのだが、いつまでも押し付けられている訳にも……と感じた悠介はすぐさま二人に自分の体から退いてもらう為に退いてもらう様促す事にした。
しかしその前に気が付いた事があった。
「あ痛てて…悠介、グレン、大丈夫?私は無事だけど…」
「私は無事よ……って言うか、リア……あなたの胸、だいぶ柔らかいわね…」
「お、お前ら……退いてくれぇ……潰れるぅ…」
悠介は辛うじて若干だが、掠れた声を発する。その声は非常に小さく、リアンとグレンの耳にはまだ届いていなかった。しかも今更気付いた事なのだが、悠介の背中に当たる柔らかい感触は彼女のデカい乳ではなく肉付きの良いお尻だったのだ。触った事は一度もないが彼女のあの美しく肉付きの良いお尻についてはよく知っているつもりだ。垂れていたりしていないし、形も非常に良く大きさも中々のものだ。正に桃尻と言って良いものだろう。あの綺麗で美しい尻が今悠介の背中に押し付けられているのだ。背中に押し付けられている感触は凄まじい程に良くこのまま押し潰されてしまっても良い程なのだが、流石に尻に押し潰されて死ぬのは今良い気持ちになっている悠介でも嫌だったので、素直に退いてほしいと言う事にした。因みにだが、グレンはすぐさまリアンの体の上から降りており、既に地に足を付けている。リアンと悠介に目を向ける事はなく、周囲の状況を確認する為に首を左右に動かし、視線を周囲に向けていた。
「ど、退けぇ!」
「あ、悠介……ごめんね、すぐ降りるよ」
「いや、別に退かなくて良いんじゃないの?それだと悠介、尻に敷かれる?みたいな感じになってるし、リアンのその大きいお尻ならずっと敷かれてても良いんじゃない?」
グレンは地面に寝転がっている悠介に対して、かなり上からの目線で悠介の事を見下ろしながら淡々と話しかける。悠介は起き上がろうとせず、その場に寝転がりながらグレンに回答を返す。
「よくねぇよ、座り続けるなら俺の体の上じゃなくて椅子にでも座ってクレメンス」
「でも、女の子が下敷きにされるのは嫌でしょ?私が一番下でも良かったの?」
少しだけ困った様な表情を見せながらリアンはその場にしゃがみこみ、まだ地面に寝転がっている悠介の耳元で小さめの声で呟いた。悠介は現在はやる気がない状態だったので、やる気のなさげで死んだ魚の様な目をしながら言葉をただ淡々と話す事しか出来なかった。
「君のその尻なら受け止められるだろ?安産型の良い尻なんだから、落ちても平気なんじゃないのか?」
「確かにそれは同感出来る、リアってお尻大きいからね」
そんなセクハラ紛いとも捉えられなくもない様な言葉を悠介とグレンは呟くが、リアンはそんな二人にムキになって怒る様な事はせず、小さな子供の様に頬を膨らませて眉を少しだけひそめる。まるで可愛く怒っている様な感じだった。
「もぅ!私のお尻を何だと思ってるのよ!?」
「悪ぃ悪ぃ、冗談だ……」
「本当は…ただ羨ましかっただけ……胸もだけど…(E)」
悠介は立ち上がるとリアンに対して同時に両手を上げて、降参する様なポーズを見せ、グレンはリアンから視線を外すと同時に首を後ろに向け、リアンと目を合わせない様にした。どこか悲しげな感じだったが、羨ましかったらしいので仕方のない事だった。悠介もグレンもリアンに対する変な発言は一旦控えると同時に周囲を再度見渡す事にする。それはリアンも同じ事だった。
肩の傷がまだ痛むが、痛みよりも先に今の状況を確認する方が先だと考えた悠介は傷の事は後回しにして一旦周りを確認する事にしたのだ。
「って言うかさ、何で転移しちゃったの?」
悠介はまだ転移してしまった理由を知らなかった。リアンが変なスイッチを押してしまい、謎の眩しすぎる光に包まれてしまった所までは何とか覚えてはいるのだが、その先はどうなってしまったのか覚えていなかった。一応悠介はよく分からないスイッチの保有者であろうグレンディ・ロメルディアルさんに何が自分達の身に起こってしまったのかを聞いてみる事にした。悠介はグレンと視線を合わせると同時に言葉を発した。
「そこの金髪が私の持ってた「簡易式転移装置」を間違って作動させちゃったのよ」
「何だよその異世界に似合わなさそうなアイテムは?」
あまりに機会じみた名前とこの異世界に合わなさそうなアイテムに悠介は思わず疑惑の表情を浮かべ、冷静な表情を見せているグレンの事を見つめた。
「簡単に言えば、あれを押すと範囲数m内の物や人、生き物を何処か分からない場所に転送してしまうのよ、因みにだけど使い捨てだから行ったら帰る事が出来ない、言わば一方通行よ」
「な、何で君がそんな物を?って言うか今しれっと、大変な事言わなかった?」
「私に言われてもねぇ~これ持たされた理由も分からないし、使ってしまったものは仕方がないわ、割り切るか飲み込むかのどっちかが最善な選択だと私は思うよ?」
テレポートマシンがこの世界にある事を悠介は今初めて知った。初めて知った時は表情を歪め、この様な剣と魔法の世界にもその様な近未来的なアイテムがあると言う事に内心は驚いてしまったのだった。しかしよくよく考えてみれば、どこぞのRPGゲームにはルー○みたいな即時的にワープが可能な魔法だってあるぐらいなのでこの様なアイテムも存在しているのかなぁ?と悠介は考えてみた。しかし転移装置が普及しているのなら自分を召喚出来る魔法も存在していると言う事が分かった気がした。
連れてくる魔法があるなら帰る為の魔法だって恐らく存在するだろう、帰る為の小さな希望が見つかった気がする。帰れるなら悠介は元の世界に帰りたかった。この世界は戦いの匂いが染み付いており、常に人外の何かとの戦闘を余儀なくされてしまっていたと感じる事が悠介には多々あったからだ。しかし元の世界には戦いなど存在していない。戦う事は別に嫌いではないものの、どちらかと言えば戦闘は避けていきたいスタイルなので戦いが存在しない元の世界に帰りたい理由でもあった。そして帰った所で父母は自分の前には居ないが、唯一残してきてしまった姉には死ぬ前に一度で良いから会いたかった。両親を亡くして絶望の淵を彷徨い続けていた自分をいつも優しく慰めてくれていた姉には絶対にもう一度会いたかった。
しかし今は元の世界に帰る方法について考えるよりもこれからどうするべきか考える方が先決だろう。まだ時間はあるので落ち着いていく事は出来るが、下手に時間は使い過ぎない方が良いだろう。時間と言うものはこの世に存在する黄金よりも価値があり、その「時」と言う名の時間は一度失えば二度と取り戻せない大切なものなので慎重に使っていきたい所だった。
取り敢えずは今の状況についてだ。まず悠介は首を縦に動かすと同時に上、空の上を見上げた。時間は既に日の様な光が空の彼方上で光り輝くかの様にして照っており時間的には昼辺りと言った方が良いかもしれない。まだ日の様な光は沈んではいない為、周囲の確認は容易だ、夜になってしまえば周囲の状況確認は難しくなってしまうので今が明るかった事を悠介は幸運だと感じた。もし今が夜だったら魔物に囲まれていたかもしれないし、負ける事はないだろうがそこら辺のゴロツキに絡まれていた可能性だってあったのでまだ明るかった事を悠介は快く受け入れていた。
そして物資や武器関連に関しては全て転移時に自分達と同じ様にして巻き込まれてきた様なので、幸いな事に悠介は愛用しているナイフを失う事もなく(勿論だが、ラディも巻き込まれてた)リアンも着ていた服や帽子、戦闘時に使用している杖なども失う事はなかったし、グレンも使用していた(一時的に悠介が奪取していたが)コンパウンドボウや弓を射る為の矢をまとめた矢筒も全てこの転移に巻き込まれてくれた様だったので取りに帰れなくなる様な事はなかった。もしナイフを向こうに置いてきてしまっていたらもう使えなくなってしまった可能性だってあるのだ。宿とかには何も置いていないし、忘れ物は何もなかった様で一安心だった。
だが、一安心している暇もない、早くここが何処なのかを調べる必要がある。生憎今自分達が転移させられた場所は何もない平原であり、さっきと同じ様な場所だった。最初は違いなんてないかもしれないと思ったのだが、よく見て見れば違いなんて山の様に存在していた。完全に別の場所に送られてしまった事がよくよく見れば一目で分かってしまった。悠介はそれを知った時、額に静かに右手を添えた。
「あぁ、クソが……場所が分からんと何処に進めばいいのかも分からん、状況把握はしておきたいんだが……」
「進む方向が分からないのなら、良い方法があるわよ」
そう言うとグレンは突然、右手の人差し指を立て、まるで物知りの人の様な余裕を持っている様な風貌を見せると同時に左手を腰に当て、堂々と仁王立ちをしたのだ。悠介はそんなグレンを目を丸くする事や疑問の表情を浮かべる事もせず、何も言わずに死んだ魚の様ないつも通りの目でグレンの事を見つめていたのだった。
「へ、へぇ~一体何なの、それ?」
「き、気になる!」
死んだ魚の様な目をしてしまっている悠介と対照的にリアンは目を輝かせ、グレンが行おうとしている行動をまじまじと見つめると同時に何が起こるのか非常に気になる様な目をしながら彼女を見つめている。悠介とは全く違う反応でグレンも、ここまで違うものなのか……とふと心の中で呟いた。
「それは……」
「それは?」
リアンがその言葉を呟いた瞬間、グレンは突然、視線を下に向ける。そして周りをキョロキョロと見渡したのだった。
それと同時に、グレンは突如として地面に転がっていた少し長めで古びている木の棒を手に取ったのだ。そしてグレンは手に取った木の棒を拾うなり、すぐさま真剣な表情を見せ、木の棒を地面に刺す様な形で地面の土に立てたのだ。勿論だが手を離してしまえば、木の棒は自立する事が出来ずに音を立てて地面に倒れてしまうだろう。しかしグレンは地面に木の棒が倒れる事を前提に考えている様な行動を見せている。
あまりにも理解し難い行動に悠介は唖然としてしまい、口が少しだけ空いてしまい、塞がらなかった。リアンも彼女が今から何をするのか分からなくなってしまい、首を傾げ不思議げな表情を見せている。リアンは分かっていないかもしれないが、悠介には彼女が今から何をするのか分かった様な気がした。悠介は敢えて視線をずらそうとするが、グレンが前に立つ中ではずらすにもずらせなかったのだ。結局、首を横に動かそうにも動かせなかった悠介は彼女の行動を黙ったまま見つめているしかなかった。
「どっちかな?……」
グレンが地面に立てていた木の棒から手を離すと、木の棒は当たり前だが素直にパタリとその場で倒れてしまったのだった。木の棒は悠介から見て左方向へと倒れた。そして倒れた瞬間、その場は何とも言えない空気になってしまい、冷たい様な風が体を刺激すると同時に誰も喋らなくなってしまったのだった。これは完全にお笑いなどでスベってしまった時の空気だ。リアンも何が起こったんだ?みたいな感じで何を言おうか迷ってしまっている様な感じになってしまっていた。
悠介も何か言おうとしたのだが、何も言えない様な状況に陥ってしまっているので悠介は一向に口を開く事が出来ず、どのタイミングで会話に入れば良いのか分からず結局三人はその場に石像の様にして固まり、動けなくなってしまったのだった……
「よし、左に行こう」
しかしそんな冷たく誰も話せない様な空気の中、グレンは突然としてその空気を破壊する勢いで言葉を発すると同時に腕を上げ、左方向を指さしたのだ。そのあまりにも適当すぎる道の決め方に流石に悠介も黙っている事が出来ず、言葉を上げた。
「いやいや!適当すぎるだろ!?道が分からんからと言って、木の棒で決めるのは流石にぃ!」
「でも、ここ何処か分からないんでしょ?地図もない状況ならこれが一番最善じゃないの?」
「い、いやぁ……それは…」
「ま、いいんじゃない?現に地図だって無いんだし、私はこれで良いと思うよ?左に行けば何かあるんじゃない?」
「はい、二対一よ?多数決なら貴方の負けよ、悠介…どうする?」
流石に二対一では下手に反論は出来ない、悠介は長いものには巻かれる考えを持つ青年なのでここは多少の不安を抱きながらも悠介は賛成派の意見に賛同する事にした。それに自分だってここが何処なのかは知らないし、どっちに向かえば良いのか?と聞かれれば分からないので分からないのなら、分かっているっぽい(適当)彼女の判断に従う事にしようと悠介は決めたのだった。
悠介はヤレヤレと諦めた様な表情を浮かべ、腕を曲げながら、両手を広げた。
「分かったよ、先導して進んどけ、俺は後ろに着いていくからよ」
「ふふっ、お姉さんの力、見せてあげる!」
「お姉さんって、歳一つしか変わらんだろ?身長だって俺よりも低いのに(172cm)」
「身長と歳は関係ないんじゃよ!(166cm)」
身長の話も去る事ながら、悠介達はその場から左の道へと進んでいく事にした。グレンは左方向に先導する形で歩いていき、悠介とリアンは左方向に進むと決めた彼女に素直に着いていく。この先に何が待ち受けているかは一切不明であり、道が続いていると言う事以外の事は一切分からない状況ではあったが、道があるなら進んでいくと言う言葉を悠介は胸に刻むと同時にナイフを握りしめる事もなく、自分の両手を体に羽織っている黒衣の下に着ていた長ズボンのポケットに手を突っ込むと自分の前を先導して歩いていくグレンとリアンにつられる様な形で彼女達に素直に着いていく事にしたのだった。悠介は彼女達の後ろ姿を見るなり、口元で軽く笑いを浮かべ素直に足を動かし始めていった……
「グレンディ・ロメルディアル」
王国から単身での脱走を図った悠介の殺害を行う為に王国「ユスティーツ」から派遣された王家側近部隊の隊員。戦闘においては弓に改良を加えた専用のコンパウンドボウと鉄の矢を使用し近接戦闘でも双刃のカランビットナイフや帝国式体術を駆使して戦闘を行う。国の為とは言っても、あまり率先して戦闘は行わず、不利益な殺しなどは行わない主義の心優しい女性だったが、悠介を殺害しろと言う王の決定に反したが為に洗脳魔術である洗脳魔法をかけられた事により悠介が身を寄せていた街を攻撃し、悠介と戦闘を行う事となる。しかし禁忌魔法「触魔獄影」を習得し使いこなしていた悠介に敵わず、敗北。その後は悠介に介抱され悠介やリアンと共に行動を共にする。十九歳。愛称はグレン
・戦闘スタイル:コンパウンドボウによる支援射撃戦闘、帝国式体術
・身長:166cm
・体重:非公開 B89(E)-W57-H91
・血液型:O型
・大切なもの:愛用している武器達、のんびりと過ごせる日、暖炉の前で寛ぐ事
・嫌いなもの:不利益な争い、蛇