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バーストォォォォォ!

 辺りはすでに夕暮れになっており、全体が赤く燃えているような景色だ。


「うわぁ……ひどいな……エンヴィールって何者なんですか? 魔王になりたいらしいですけど……」


 あれは敵なのだろうか? だとしたら俺はどうすればいいんだろうか? 多分戦えないけど……

 悲しんでいるバーストは何も返事してくれなかった。おそらく耳に届いていない。

 するとユリィが代わりに話始めた。


「元魔王軍幹部です。炎を操る魔族。先ほど見た通り魔王の座を争う競争相手です……」

「なんか魔族って言っても団結力がないんだね……」


 魔族って魔王軍って括りの中で味方だと思っていたが……どうやらそうでもないらしい。


「魔王様がいないですし、魔族と言っても色々いますから……」

「そうなんだ……」

「ですが、キョーブさんが魔王様になれば状況は変わります! 魔王様が魔人さえ召喚すれば、新しい魔王軍の誕生します!」

「魔人……それを召喚すれば魔王になれるって事?」


 確かあのエンヴィールも魔力と魔人が必要だって言っていた。


「はいっ! 前の魔人と魔王様も人間の英雄に倒されてしまいましたが……英雄ももうこの世にいませんし! 今がチャンスなんです!」

「英雄がいない? じゃあ魔王のやりたい放題じゃん!」


 魔王を倒せそうな英雄がいないって事は、安心して魔王になれそうだ。


「そうです! これからは魔王軍の時代です!」

「おぉ! いいなそれ! やる気が出てきたよ!」

「その意気です! キョーブさん!」

 落ち込んでいるバーストと対照的に俺とユリィは賑やかにやる気を出していた。


「我の家が燃えているというのに……貴様らは……」

 ゆっくりと立ち上がったバースト。盛り上がっている俺達を呆れた様子で見ている。


「バーストさん! 英雄が死んだから魔王になるなら今しかないんですよね!?」

 気持ちが昂る。早く魔王になりたい……早く爆乳まみれの世界を……


「やる気を出すのはいいが……まぁいい。このくらい燃やされた方が後腐れなくていい。もう旅に出るしな……」

「旅?」

「あぁ。魔王になるための旅だ。正しくは魔人召喚のための旅だが」

「魔王になるための……旅!」

 いよいよ俺の物語始まるのかっ! これから俺が魔王になる旅が始まる! 味方に巨乳がいないのは非常に残念だが、これも理想の未来ためだ!


 俺の盛り上がりが最高潮に達した瞬間。ガサッ――と草を踏みつける音が近くから聞こえた。


 俺達以外に誰かがいる! まさかエンヴィールか?

 咄嗟に音の方に身構える。他の二人も同様だ。

 しかし気配が違った。火花も出てないし、どうやら普通の人間っぽいが――


「やっぱりあなた達……悪い事してたじゃない!」


 現れたのはさっき会った大剣少女だった。睨みつけるようにこっちを見ている。


「こんな所になんのようだ? 種馬の?」

 バーストが負けじと睨んでいる。大剣少女はそれに恐れる事もなく近寄ってくる。


「種馬のとか言うな! 今なんか悪い事してたでしょ!」

「ふんっ! 罪を擦り付けるとは卑劣な奴だ」

「擦り付けじゃなくて、あくどい事してた! 絶対に!」


 大剣少女が何を言っているのかはよくはわからないが、とりあえず俺が見ていた中ではバーストは悪い事はしていない。俺を召喚して、元同僚に家を燃やされただけだ。俺が会話に割り込む。


「いや、あなたが何の罪を疑っているのかはわからないが、とりあえずこのバーストは悪い事してないと思う」

「はぁ? というか、さっきから一緒にいるけど、誰? もしかして共犯!?」

「共犯? いや俺はま――ぐふっ!?」


 魔王になる男だ! とかっこつけて言ってみようかと思ったが、バーストに口を塞がれて止められた。


「こいつは魔王軍とは敵対する奴だ。軽々しく名乗り出るな……」


 バーストに耳打ちされる。魔王軍の敵なのかあの大剣少女は……そういえば最初から魔王軍の手先だからと怪しんでいたな……


「い、一般人です。はい」

 俺は急にしおらしい態度に変更した。が、大剣少女は怪しむ表情を変えてない。


「どう見たって怪しいんだけど? 一般人はこんなとこ来ないし」

「それは……」

 たしかにここには道らしい道もなく、森の中に隠されたような場所だ。人が来なさそうではある。


「それにさっきエンヴィールらしき姿をこの辺りで見かけて、それを追ってたら急に燃えている場所があったから来てみたら、あなた達が居たって訳。エンヴィールと何か良からぬ事を話していたんじゃないの?」

「バーストさんはそんな事してませんっ!」

 今度はユリィが反論する。


「ちょっと! なんでか弱そうな女の子がいるのよ! もしかして人質!?」

「えっ? 私は……」

 ユリィはなんと言っていいかわからないためか口ごもる。


「くっ、脅されているのね……」

 大剣少女は勘違いしている様子ですでに背負っている大剣に手をかけている。


「いやいや、ユリィは俺達の知り合いで……」

 俺が誤解を解こうとする。が、大剣少女は敵意をむき出しにしている。


「どうだか……あなた達みたいな男とそこの女の子がただの知り合い関係だなんて信じられない!」

「いや、知り合いだよねユリィ?」

 俺がユリィに聞くと、ユリィはこくこくと頷いた。


「そう言わされているんじゃないの! そこの男に従う必要はないのよ!」

「落ち着いて聞いてくれ……まずはゆっくり話を……」

「ゆっくり話なんてしたくない! する必要もない! 男なんて信じられない!」


 こ、こいつ……男だから信じないって言うのか!? じゃあ何言ってもダメじゃないか!


「我はエンヴィールとは関係ない。それは本当だ」

 バーストの言う事は本当だろう。昔は関わりがあったかもしれないが、今は関係ないように見えた。


 しかし、弁明は彼女には届かず、少女は大剣を構えた! 少女の身長程度あるんじゃないかと思える大剣だ。それをあの一見華奢な少女が難なく構えているのはアンバランスに見える。が、これがファンタジーな世界なのだろう。


「そんなの嘘。言っておくけど、私、王国から権限を渡されているの。次の魔王になる異分子を発見したら叩き切っていいってね!」

「えっ!?」

 俺がビビる。まさに次の魔王になろうという俺。大剣少女は魔王になりそうな奴を倒したいらしい。だとしたら俺殺されちゃうじゃん……


「待つがいい。我は何の罪状だ? 魔族融和政策で税金を納めれば市民権、それと裁判を受ける事は出来るはずだ。税金は……稀に納められないが、基本的には納めているはずだ。王国の騎士様は裁判もせず、市民を切るのが仕事なのか」

 バーストは理路整然とそれっぽい事を言っている。


 どうやら、この辺りは魔族融和政策という奴で、魔族も人間同様に裁判が出来るらしい。バーストが木彫りを売っていたから人間社会と関わりはあると思っていたがそういう事か。俺を魔王にしようとしているバーストも一応市民ならしい。税金は納められない事もあるらしいが。


「もちろん、魔王になりたい罪よ! 詳しい罪状は忘れたけど! それにエンヴィールは指名手配されてんの! エンヴィールとその仲間はみんな処刑よ!」

 ……これはバーストの方がましな事を言っている気がする。確かに魔王を復活させようとはしているが……少なくともばれている事ではバーストは斬られるような事はしていないはず。


「確かにバーストは怪しいかもしれない。毛深いし! だけど世の中には疑わしきは罰せずというものがあってだなぁ……」

 俺が力説するも、大剣少女は首を傾げる。


「何よそれ……煙に巻こうとしても無駄なんだから!」

「あぁ……そういうのない世の中なの……」

 そういえばこの世界は異世界だ。記憶に残された常識は通用しない可能性を忘れてた。


「では、我を裁判所に付き出せばいいのではないか? わざわざここで切る必要性もないだろう」

 バーストは提案してみるが、大剣少女は剣の構えを解く事はしない。


「あなたさっき捕まえようとしたけど逃げたじゃない! もう逃がさないんだから!」

 そういえば初めて会った場所で煙を使って逃げたな。大剣少女としては、一人では連行出来そうもないから、この場で仕留めてやろうという魂胆だろう。


 大剣少女は一歩づつバーストとの距離を詰めている。もう切りかかってもおかしない状況だ。


「バースト! ここで成敗する! さっき怪しいほどの魔力を使っていた事。そしてエンヴィールとの繋がりがありそう。それで充分! 覚悟しなさい! はぁぁぁっ!」

 大剣少女は地を蹴り、一気に距離を詰める。


 とても大剣を持っている人間のスピードとは思えない。軽々しく飛んでいるようにバーストに接敵する。


「ふんっ……この我を元魔王軍精鋭のバーストだとわかって挑んでくるか……いいだろう! その無謀さを己で後悔するがいい!」

 バーストが威厳たっぷりに体を広げて戦闘態勢になる。


 強そう。傍目から見ると体は大きいし、ゴリラっぽいし。自信満々だし。普通の人間なら難なく倒せそうではある。

 少女とゴリラ。見た目だけならバーストに軍配は上がる。それに、バーストが言うには魔王軍の精鋭らしいし、少女の騎士に負けはしないでしょ。

 普通にバーストが勝てる! と、ある意味安心して見ていた。


 バーストと大剣少女が迫る! バーストの太い腕、少女の大剣、両者の攻撃が鋭く襲い掛かり――


「ぐおぉぉぉぉっ!」


 あっけなくバーストが吹き飛ばされた。


 バーストは泡を吹き、地面に倒れたまま立ち上がる事はない。

 少女の一撃でどうやら決着がついたらしく、激しい戦いもないままあっさりと終わった。


「えっ、よわっ……」


 あまりにも簡単に倒されて驚く。魔王軍の精鋭とは一体……


「バーストさんっ! 死なないで!」

 ユリィが倒れているバーストの傍らに寄り添う。ユリィがバーストを揺らしているが反応がない。


「弱すぎません!? もっと強いのかと思いましたよ!」

 俺が駆け寄って聞いてみると、はっ! とした様子でバーストが意識を取り戻したようだ。


「ぐっ……油断した……我の真の力を発揮していれば……」

 苦しそうにバーストは後悔していた。真の力なんて本当にあるのかは知らないが……


「お、俺はこれからどうすれば……」

 バーストに付いていけばなんとかなるだろ。と、たかをくくっていたが異世界生活はそんなに簡単にはいかないらしい。実際バーストがいないと、この異世界をどう生きればいいのかわからない。


 すると最後の力を振り絞るようにバーストは俺の肩を掴んだ。


「キョーブよ……必ず魔王になるのだ……魔石と……後はユリィが……ぐふっ……」

 バーストは最後まで話す事も出来ず、そのまま意識がなくなった。

 すると、ぐったりとしているバーストの身体が、突然淡い光に包まれ、そのまま霧になるように消えた。


「バーストォォォォ!」


 俺の悲しみの悲鳴が森に響く。一緒に居たのは短い時間だったが、俺の人生を決めてくれる存在だった。


「バーストさん……」


 ユリィもかなり落ち込んでいる。

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