二分で読める夏の夜のちょっとした残酷な妄想
気配を探る。距離を測り、タイミングを待つ。
気づかれたら必ず殺される。だが諦める訳にはいかない。
危険を顧みずに飛び込まなければ、ほんの少しの飢えさえ凌ぐ事が出来ない。なぜこんな世界なのだろう。
私は弱い。あの恐ろしい生き物が、ほんの少し手を翻しただけで吹き飛ばされてしまう。手を打ち合わせるだけで無残に潰され、汚物のように捨てられる。
あいつらは私たちの事など、滅びてしまえば良いと思っている。ほんの少しのおこぼれさえ許してはくれない。
もう二日も何も口にしていない。体力がなくなる前に勝負に出るより、他に方法がない。
夫はとうに逝った。私は泥水を啜り草の汁を貪っても、死ぬ訳にはいかなかった。この、お腹の中の命のために。
明日は雨が降る。これが最後のチャンスだ。もう一度栄養補給できれば、きっとこの子を産めるだろう。私はおそらく、この世界に生み捨てる事しか出来ない。育つ様子を目にする事も、母と呼ばれる事も望めない。それでも……それでも。
この宿った命を送り出すのが、私の最後の役目。
さあ、行け! 気配を断ち、足元をすり抜け、息を殺してチャンスを待て! あの硬い皮に私の唯一の武器を突き立てろ!
命を、燃やせ!
パチン!
あっ……
『うわー。刺された! 痒いよー』
『あーあ、痒み止め、あるよー。塗る?』
『うん。あーあ、痒くなければ血の少しくらい、あげても良いんだけどなぁ』
そんなん言われても、少しの救いにもなりませんて……。




