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墓守は巨大樹の蟲を愛している  作者: あずみ きし
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〜俺と彼女が世界の理の琴線に触れる物語〜


蟲を怒らせてはならないと古くから伝えられ、巨大樹の森を必要最低限に道路として整備し、隣国との商業路として使っている国々が存在していた。


その利用する国々の1つである大帝国であるギルガント帝国を守る、高くて厚い国璧の見護台にて騎士や兵士達は巨大樹の森を監視しながらも、森から聞こえる古代精霊語であろう言葉で唄う祝詞の様な歌を聴いていた。


古代精霊語は古代アーケオス文明の言葉であり、そんな古代語を解るものなどもう殆ど居ないのに、何故だかその歌は聞いていて心地いいと思う……そんな感覚はきっと古から伝わる身体に刻まれたモノなのだろう。


古代精霊語が解る者はこの歌の歌詞をこう現代に訳して聞いている。


_______空に鳥は飛び、人は地に足を着け天に祈る。

この世の理は何処へ導かれ消えていくのだろうか。

誰かが請い願って、優しさを向けても偽りの優しさがそれを汚していく。

そんな悲しい世界が変わるまで、私はこの歌を唄おう。

貴方が祈りを捧げ、悲しみが癒えるまで。

貴方が愛したモノが幸せになるまで、苦しさが消えるまで。

何度でも私は祈ろう。この歌にのせて何処までも。


森から聞こえる歌声で推測する限りでは、歌っている者はきっと女性なのだろう。綺麗な鈴が転がる様な歌声に酔いしれてはまた1日が終わるのだろうと夕日が沈むのを見ながらも騎士や兵士達は見張り番を交代して帰る間際の者もいた。物資を届けて、話をしようとしていた者も報告をされている者も今日一日は何もなかったと思っていたのだが…


そんな落ち着いた雰囲気は一瞬で掻き消された。


ドォォォォン!!と大きな音が巨大樹の森に響き、空には普通の大きさの鳥が鳴きながらも飛んで逃げて行く。


そこから見えたのは巨大な蛾だった。


巨大な樹木が生い茂り、人が通る為に最低限整備した森のことを巨大樹の森と呼ぶ。その森には普通の虫よりも巨大な蟲達が住んでおり、普通の人がそいつらと対峙すれば一瞬で食われて一生を終える事となる事が多い。

そんな危険な蟲が1匹、怒り狂って飛び立とうとしていた。


理由は簡単だ。巨大樹の掟を破った余所者か、或いは商人が森の蛾を怒らせて捕食される様なバカな事をしたのだろう。蛾を怒らせた理由は簡単だが、対処の仕方は簡単では無いし、下手をすれば帝国の首都に火の粉が降りかかることもある。そんな危険な蟲を武器や魔法で焼き殺すか、心臓の代わりとなっている魔石(コア)を破壊するか、怪我を負わせて森から出られない様にするしか方法がない。


さっきまであった穏やかな雰囲気から一転して、ピリピリとした緊張感と危機感が生まれ、閃光の様に走って行き、戦闘態勢を強い無ければ帝国はすぐにでも無くなってしまう。そう、その場に居た最高責任者の騎士団五番隊副隊長のレオは戦闘態勢を整えようとしたその時だった。


_______ピィィィィィ!!


森の方から聴こえてきたのは甲高い音の指笛。

まるで鳥の雛が一際大きく鳴いた様な大きな音量の指笛に騎士や兵士達は思わず森の方向を向き、その光景を見て戦慄が走った。


巨大樹には5匹の主がそれぞれの自分の住処である縄張りを守って居るのだが、その内の1匹である巨大蜘蛛(ビッグスパイダー)が蛾の羽の一部に自身の糸をくっ付けたかと思えば、違う音の指笛が聴こえた途端に蛾を森に引っ張って墜落させたのだ。


主達は頭が良く、人の言葉を理解してるとまで噂されて居るが、そんな馬鹿な…と呆然としながらも騎士達は帝国へ報告をする。


巨大樹の怒り狂った蛾を森の主である巨大蜘蛛が引っ張って墜落させた。


見ていた者達以外はまるで信じられないし、冗談を言うなと笑い飛ばし、呆れたりしていた。


_______だが


嗚呼、何という事だと呆然としながらも目の良いレオは見ていたのだ。森の主である巨大蜘蛛の上にフードを深く被ったローブ姿の小さな人影がくっついていた事を。

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