魔女が来たる
10年以上前に某所で一瞬だけ公開した小説です。読者なんてきっといなかったでしょう(笑)
いくつか変な書き方がされていたので、ちょこっと手直ししました。
この国に魔女が来るという、噂が流れていた。この国に魔女が来た場合、どうなるのか誰も知らなかった。ある時代では、殺人鬼が何人も横行したし、またあるときには英雄が生まれ豊穣な大地を提供してくれることもあったし、ある時にはこの国が更地になる寸前まで攻撃があったこともある。魔女はいるに違いないのに、魔女の姿を見た物は本当に数少なく、魔女に出会ったという人間にしても、魔女の姿がどうしても思い出せないという。
その国の王様は、多少頭の回りが遅い王様だった。大臣から魔女が来るという話を受けて、どうしようかと大臣に尋ねてみた。大臣が指にいくつもはめた、金の指輪をいじりながら答えた。
「魔女様を出迎える準備をしましょう。そうすれば、魔女様とて機嫌は悪くないに違いありません」
王様はその案を受け入れ、国中の道に魔女が通りやすいように、赤い敷布を引くことを命じた。そして、兵士たちを町の一角ごとに常駐させ魔女を出迎える準備を行う。国民は、頭の弱い王様の無駄遣いが始まったと少し笑っていた。
ところが、魔女は現れない。
王様は少し、焦った。文献にある中では魔女は非常に気まぐれで、機嫌を損ねたら何をするか分からないという書き方がされている。魔女の機嫌を損ねないようにはどうしたらいいのだろうか。王様は大臣に相談をした。
「王様、魔女様がもはや来ているのかもしれません。魔女様を捜してみればよいのではないでしょうか?」
王様は首をかしげて言う。
「して、どのように? 魔女はどのような姿をしているのかもわからぬのだぞ?」
大臣も首をひねって言う。
「王様。魔女様は不思議な力を持っているのです。不思議な力を持っている人々を集めてみてはいかがでしょうか。中には魔女様を見かけた者がいるかもしれません」
王様は首を縦にふって承諾をした。
王様は、この国にいる不思議な力を持っている人々を集めた。そして魔女のことを聞いた。誰も知らなかった。王様は誰も知らなかった事にガックリとして、魔女が見つからないのではないだろうかと、大臣に聞いた。
大臣は首をひねって言う。
「王様。そろそろやめませぬか? そろそろ徴税の時期でも有りますし、人手が不足しがちになります。魔女様とて、ここまで王様がしたことを聞き及べば悪い気はせぬでしょう」
王様は首を横にふって言う、切迫した様子で言う。
「何を言うか。魔女の機嫌を損ねることがあれば、恐ろしい災いが降りかかるのかもしれぬのだぞ!」
大臣は首を動かすことができなかった。
大臣は王様がこんなに魔女のことをおそれていたとは知らなかったのだ。
王様は、兵士たちと不思議な力を持った人々に魔女探索を命じた。そして、国民たちに彼らを助けるように命じた。
探索はいつまでも続いた。
王様は、おかしいと思った。魔女はいつまでもやってこない。そもそも、この魔女が来るという噂は誰が立てたのだろう。最近、顔色が悪く、少し痩せてしまった大臣にそのことを聞いてみた。そういえば、大臣の指に指輪が少なくなっている。
「…調べてみましょう」
大臣は次の日から姿を見せなくなった。
王様は残っていた家臣に大臣の調査を命じた。しかし、いつまでたっても大臣は帰ってこない。そのうち調査していた家臣とも連絡が取れなくなった。
調査していた家臣と連絡が取れなくなった、次の日の朝の事だった。
魔女が王様の前に突然現れた。
王様は朝食を食べていた。
魔女が言った。
「王様。王様。あなたのお出迎えにありがたくここに参りました。しかしながら、私があなたに言うことが幾つかあります。私が現れるのは気まぐれであるにもかかわらずここまで尽くしてくれたこと。兵士たちがあなたの周りにいないこと。不思議な人たちがこの国中に散らばってしまっていること。大臣がどこかへ行ってしまったこと。調査していた家臣もどこかへ行ってしまったこと。」
王様は最近質の悪くなった野菜を食べながら言う。
「魔女。魔女。私は私の国が恐ろしい最悪に見舞われてしまうのは恐ろしいのだ。故にそなたの探索を命じた。不快であれば許しを請いたい」
魔女はものを知らない幼子をなだめるように微笑みながら言った。
「王様。王様。違うのです。私は何もするわけではないのです。私はただの傍観者なのです。そして最高の席が与えられた観客でもあります」
王様はなぜか魔女が空恐ろしいことを言うような気がした。魔女は微笑み以外何一つの表情を見せていない。魔女が口を開き、話し始める。くちびるはやけに赤いように思えた。まるで血のように。
「あなたが行ったことを考えてみてください。あなたは、国民に見つかるかどうかも分からない魔女を探索させ、そして、探索者を助けさせる。国民はあなたほど裕福ではありません。税を払いながら探索者を助けるのです。見つからない…魔女を捜して。彼らは今とてもひもじいのです。彼らは今ひどく不満です。彼らには報復の対象がないのです」
「王様。王様。大臣がどうして見当たらないのか、本当にわかっていないのですか?
王様。王様。あなたは、大臣の行方を調査していた家臣がなぜ連絡をよこさなくなったのか分からないのですか?
王様。王様。あなたは、絶望とひもじさの中でその原因になる者に会ったら殺さずにいられますか−−−−−」
魔女はその言葉を残すと消えた。幻を見ていたのではないかと思うほど、その後には何もなかった。そして、王様の居城に何か大きな音が聞こえてきた。何かがここへやってくる。
王様の耳に届くのは国民の怒号。
王様の目に映るのは国民の怒りと苦痛の顔が。
魔女は噂どおりに、たしかに来たのだ。
昔はこんなの書いてたんですね…。某所のWebサーバに10年ぶりにログインしたら色々黒歴史が…。