去る者と受け継ぐ者と
「修次!?」
俺達は倒れた修次に近付くと膝をついて、その身体を抱き抱える。
腸が斬れているし、出血量も酷い。
手術すれば、僅かながら可能性はあるかも知れないが、ここにいる全員、そんな技量は持っていない。
だから、修次を助ける事は出来ないだろう。
そんな中、一番に修次を心配したのは、他ならぬZiraiyaだった。
Ziraiyaは泣きながら問う。
「なんで、あんた、あそこで手を抜いたんだ!?
峰打ちでなければ、俺の首が落ちて、あんたに刃が届く事もなかったろう!?
なのに、なんで!?」
「……やっぱり……死のうと……していたんだな?」
俺に助け起こされながら修次は優しくZiraiyaの頭を撫でる。
「……矢路……俺は既に二度死んでいる……だから……お前が次に繋げろ」
「あんた、何を言っているんだ!?
俺はあんたの敵だぞ!?なんで、俺がそんな事をーー」
「……兄弟だから、だ」
修次はそう言うと血を吐きながらむせる。
鼓動も弱々しく、その出血量もヤバい。
最早、助からないだろう。
「……シュラ達を……頼む……兄弟」
「ああ!解ったから、もう喋らないでくれ!」
泣きじゃくるZiraiyaがそう叫ぶと修次は虚ろな瞳で虚空を見る。
「……フレスト……そこにいるのか?」
「……ああ。修次のすぐ傍にいる」
「……ここからは……凡人の俺には……想像も出来ない戦いに……なるだろう……ゴホゴホッ!」
「修次。まさか、最初からこの先の戦いを見越して、Ziraiyaに託すつもりだったのか?」
「……結果的にな」
「あんた、大馬鹿者だよ?
Ziraiyaが修次との約束を守る保証なんてないじゃないか?」
「……それが……信じると言う事だ……フレスト」
修次はそう言うと一息吐いて瞼を閉じる。
「駄目だ!月岡さん!逝くな!
俺を殺すんだろ!こんなーーこんな結果、俺は望んでない!」
「……俺は始めから……お前を殺すなんて……言って……ないぜ……兄弟?」
「ーーっ!?」
「……これで……良いんだ」
そう呟くと修次の身体から力が抜け、ガクリと項垂れる。
「修次!」
「月岡さん!」
俺とZiraiyaの言葉に最早、修次は反応しない。
信念のままに生き、信念のままに死ぬ。
それが月岡修次の生き方だ。
修次は最期まで自身を貫いて逝った。
「ああ、ああああ……」
俺は言葉を失って泣くZiraiyaの声を聞きながら修次の手を合わせ、その刀を鞘に納めて置く。
「なんでだ!なんで、なんだ!月岡さん!あんたを殺したくなかったのに!」
「修次は手合わせして、気付いたんだろうな。
Ziraiya……お前が修二に殺されたがってた事に……」
「ああ!そうだよ!俺は月岡さんを守れなかった!あの時、俺は月岡さんを見殺しにしたんだ!
だから、俺は月岡さんに殺されるべき運命だったんだ!
なのに、なんでーーなんで、月岡さんが逆に死ななきゃならなかったんだ!」
Ziraiyaは泣き叫びながら地面を何度も叩く。
その手から血が滲み出るまで……。
やがて、Ziraiyaはひとしきり泣くとゆっくりと立ち上がる。
その背後には怪我をした箇所を押さえる五行衆の姿があった。
俺とラハブは身構えるが、Ziraiyaに戦闘の意思はないらしい。
「……行くぞ、あんたら」
「行くぞって、仲間になるのか、お前?」
「月岡さんの遺言だからな」
ラハブの問いにZiraiyaはそう言うと俺達に背を向けて歩き出す。
その後ろを五行衆がついていく。
「……どうする、眼帯の兄ちゃん?」
「ついて行こう。少なくとも今は味方だ」
ソラを背負う俺とラハブにリュリュはZiraiyaについて歩いて行く。
あとに残されたのは修次の遺体だけだった。
俺は立ち止まって、そちらを一瞥するとポツリと呟く。
「短い間だったが、世話になったな、修次。
安らかに眠ってくれ」
ーーかくて、一人の英雄がこの世界を去る。
ーーその可能性を最期まで信じて。