ら……
「……あなたは、つまらない人間ですね」
「は……?」
私、城戸愛羅は、今日出会い系サイトで知り合ったばかりの男性にそう吐いた。
「我孫子さん……でしたっけ。あなたは、私の期待に答えられなかった。ただ、それだけの話です。さようなら」
「ま、待ってくれ……」
「もう二度と、あなたに会うことはないでしょう」
立ち尽くす男性を置いて、私はホテルをあとにした。
◆
ホテルから家に帰る道中、私は窓ガラスが派手に割れる音を聞いた。
その音の発生源は、あのキチガイの家だった。
もしかして、私がここを通りかかったのを見かけたあのキチガイが、気づいてもらいたいがためにわざと割ったのだろうか。彼女ならやりかねない。……もしそうだとしたら、迷惑極まりない。
私はクレームをつけるために、なぜか鍵がかかっていなかった玄関扉を開けた。
そして、私が目にしたのは。
私が求めていた光景だった。
◆
「寅宮恋子に、手を出すな」
突然聞こえてきた声に驚いて、わたし、寅宮恋子は目を開けた。
そして、わたしの目の前には間違いなく、大好きな彼女の後ろ姿があった。
「……だ、誰よアンタ」
「私? 私は……『主人公』」
「主人公……ですって……?」
「あなた、『悪者』なんでしょう? だったら悪者は、正義の味方が倒してあげなきゃ。正義の味方……そう、私が!」
彼女がなにを言っているのか、よく分からなかった。ただ一つ、分かるのは。
彼女が、いつもの彼女じゃないということ。
「な、なに言ってるの? バカじゃないの? 正義の味方は、私よ?」
「違う。正義の味方は、私一人だけ。……うふふ…………。……うひゃひゃヒャヒャヒャァ!」
「この女、頭おかしいんじゃないの……」
「やった……! これで、私は英雄になれる。主人公になれる。退屈な日々から、抜けだせられるんだァァァ!」
「…………!?」
体も口も動かせないわたしは、ただただ驚くことしかできなかった。
クーはわたしの口から観葉植物を引っこ抜いて、姉に投げつけた。彼女の狂気にあてられていた姉は身動きがとれず、観葉植物の鉢を左頬に受けた。
「うっ!」
「あぁぁ……これこれ。こんな展開を求めてた。私を燃えさせてくれる、刺激的なストーリーを。傷ついた幼馴染みを守る女子高生……。……最っ高! ……ねえ、レン? 今なら、あなたの要望に応えてもいい。あなたを引き立て役のヒロインにして、私がヒーローになれるなら、私はレズにでもなんでもなってあげる」
「え……?」
狂気に満ちた幼馴染みに提示された、選択肢。
歪んだ笑顔でわたしを見下ろす、大好きな彼女。
「わ、わたしは……」
「動くな! 警察だ!」
わたしの声は、数人の人間がこの家に入ってきた物音に掻き消された。
警察を呼んだのがクーだったことは、あとになってから知ったこと。