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渡世術

「誰から行く?」


 オーロの言葉に偉そうな兵士が一歩前に出る。

 

「私が相手になりましょう」


 そう言うとヴェルデのことをにらみながら剣を抜き放つ。


「覚悟しろ」


 彼はじりじりと近寄ってくる。


(木刀よりも素手の方が戦いやすそうだな)


 と彼は見て取り、腰に差していた木刀を真横に放り出す。

 誰もが彼の行動の意味を理解できず、一瞬その場が硬直する。

 しかし次の瞬間、木刀は叩き落されて全身を真っ黒で固めた影が出現していた。


「なぜ分かった?」


 驚く人々をよそに低い声でヴェルデに問いかけられる。


「俺の目はごまかせない」


 彼はハッタリで言う。

 黒装束ではなく、目の前にいる兵士とのかけひきのつもりだった。

 兵士は明らかに動揺して、「ハッタリ成功」と満足する。

 ところが、彼の狙いが当たったのはそこまでだった。


「何と恐るべき男よ……天は我らを見放したか」


 黒装束はそう言うと、オーロへ向かって突進する。


「恨みはないがお命頂戴!」


 誰も動こうとはしなかった。


(大した動きじゃないのに……ここの兵士たち、そんなに強くないのか? それともとっさの対応が苦手なのかな?)


 仕方なくヴェルデは動き出す。

 オーロの身に何かあるとおそらく褒美はもらえなくなるだろう。

 そうなっては困る。


「な、何?」


 彼の移動速度に黒装束は仰天したが、今さら止まれなかった。


「ならばまずは貴様だけでも!」


 黒装束は背中に背負っていた剣を抜いて彼に切りつける。

 剣と素手では明らかにヴェルデが不利であった。

 だが、次の瞬間、その彼は剣を片手で止めてしまうという神業を披露する。


「真剣なら素手に勝てると安直に思うな、ド素人め」


 というのはヴェルデの父がかつて稽古の際、時々言っていたことがあったものをまねした。

 武器に頼りすぎてはいないという戒めであり、彼が今言ったのはカッコつけるためである。

 他に意味などない。

 

(達人の攻撃を白羽取りするのは無理だけど、こんなしょぼい攻撃なら何とでもなるからな)


 ただ、彼の勘が正しければおそらくオーロはそこまで武術に詳しくないはずだ。

 ならばこのように衝撃的な技を見せることで、高く売り込んでおきたい。

 騙して悪いという感覚はヴェルデにはなかった。


(金持ってるんだろうから、銀貨を余分にくれたっていいはずだ)


 という意識である。

 貧乏人からお金を巻き上げるのは悪事だからやりたくないが、金持ちに小遣いをせびるのは渡世術というものではないか。 


「ば、馬鹿な……」


 ただ、周囲の反応はヴェルデの認識と違っている。

 特に黒装束は完全に戦意が砕けてしまった。

 自分が持つ最大の攻撃を素手で、しかも片手で無力化する怪物に勝てるはずがない。

 がっくりと両膝をつき、そのまま舌を噛んで自害する。

 せめてもの意地であった。

 

「あ、自害したか……しまった、気絶させるべきだった」


 兵士とも戦うことを考えていたせいで、殴ることを忘れていたのである。

 

(ヤバい。どう見ても俺の失態だぞ……もう一回王女様を助けたんだから、それでチャラになったりしないかな?)


 と虫のいい展開を期待することにした。


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