勧誘
本日3回目の更新です
「ただ騎士になりたいだけなら、私の騎士でもいいはずよ。何、不満なの?」
オーロはちょっとすねたような表情で質問を投げる。
それでも抜群に美しいため、ヴェルデは「美人って生き物は反則だな」と思わざるを得ない。
「……そもそもどちら様なのでしょう?」
彼はとうとう我慢できず、質問することにした。
さすがにどこの誰か知らないまま騎士になることなどできないと考えたためである。
「……わたくしが誰だか分からないの?」
ヴェルデのあまりの無知さにオーロはきょとんとし、他の人々は声を失ってしまった。
「はい」
彼はほとんど自暴自棄になって答える。
数秒の重い沈黙の後、オーロはぷっと吹き出した。
「何だ、わたくしと知って助けてくれたわけじゃないのね。それに正直に言うだなんて、ますます気に入ったわ」
彼女はそう言うと、ぺスカがハンカチで彼女の目じりを素早くぬぐう。
「わたくしはオーロ。オーロ・アリエッタ・ギュールズ・レムス。この国の王女よ。よろしくね」
「お、ふ、王女様……?」
ヴェルデの頭は処理能力の限界を超えてしまった。
それでも気絶しなかったのは将来の性格のせいだろうか。
「その呼び方は嫌い。オーロと名前で呼びなさい。私の騎士ヴェルデ」
「は、はい」
感情を消し去った表情で命じられ、彼は反射的に返事をしてしまう。
この有無を言わせぬ力というのは王族が持つカリスマ性なのだろう、とぼんやりと考える。
「お、お待ちください。オーロ様。本当にこの者を?」
彼女の近くにいた偉そうな兵士がたまりかねたように声を出す。
それに対するオーロの言葉は苛烈だった。
「ええ。お前は罷免よ。死罪にならないだけ、慈悲があったと思いなさい」
「くっ……」
王女を守れなかった罪はそれだけ重い。
兵士は自分の立場が分からないほど愚かではなかった。
だが、愚かな者は他にいる。
オーロの近くに控える中年女性だ。
「そのヴェルデとやらが本当に有能な者か、試しとうございます」
「コンスタンス。お前はわたくしの伯母だから無罪になると思っているの?」
オーロはその女性を温度のない瞳でにらむ。
女性はようやく、自分の身が危ないことに気づいたらしく真っ青になる。
叔母と姪という間柄であっても厳格な身分差があるようだと、ヴェルデは興味深く見守っていた。
「けど、いいわね。ヴェルデ、悪いけど、この無能どもに教えてやってくれない? もちろん、別途報酬は出すわ」
「そういうことなら」
賃金がもらえるならば、ちょっと戦うくらいはいいかなと彼は軽く考える。
何も考えていない彼の態度は、兵士たちのプライドを大きく傷つけた。
「お前ら雑魚ごとき相手ではない」と思われているとしか感じられなかったのである。
「そういうことなら、彼に勝てた者は罪を割り引くというのはどうだろう?」
黙っていた中年男性が口を開く。
「無罪放免というわけにはいかないだろう。だが、あなたが信頼する者と同等の腕がある者なら、辞めさせることはないと思うがいかが?」
「認めましょう。その場合、伯母上と伯父上の罪も多少軽くなるよう、父上に願い出てあげるわ」
オーロの言葉に兵士たちはがぜんやる気を取り戻す。
しかし、彼女は再びヴェルデに向きなおるとまたとんでもないことを言う。
「ヴェルデ。遠慮なく全員叩きのめしていいのよ」
「は、はあ……」
ヴェルデは「そこで俺に振るなよ」と言いたかったが、かろうじて自制した。