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オーロ女王のヒーロー

本日3回目の更新です

 オーロが新しい王となったと知らされた貴族たちは絶句した。

 三人の後継者の中で最も弱く、取るに足らない存在だったからである。

 しかし、国法上にある継承戦のルールに則って勝者となった以上、彼女こそ次の君主だった。

 あまりの急展開に多くの者たちは「オーロは実力を隠していた」と誤解する。


「継承戦で勝つため、他の王子を油断させていたのだ」


「実は二人を圧倒するほど実力があったのだ」


「王子たちがお互いしか見ない状況を作り出していたのだ」


 そういう情報が飛び交い、オーロはあえて否定しなかった。

 「実は〜〜だった」と思われたほうが、彼女が強大な実力者に見えると判断したのである。

 そして貴族たちは強大な王に弱い。

 しっかりと忠誠を見せないと家を潰され、一族を処刑されてしまいかねないからだ。

 オーロのことなど眼中になかったはずの貴族たちはこぞって忠誠を誓い、点数稼ぎに躍起になる。


「本当ならこうも簡単にはいかないはずだけど……そういう意味では継承戦というシステムに感謝ね」


 オーロ女王はある日のお茶の時間、皮肉気味に言う。

 同じ部屋にいるのはぺスカとヴェルデの三人だけだ。

 この二人こそが彼女が最も信頼する側近であり、「女王の双剣」と呼ばれている。

 

「御意」


 と答えたのは近衛騎士長となったぺスカだ。

 彼女は実家が伯爵家だったため、反発は少ない。

 近衛騎士長は名誉ある職だが、権限的なものはあまりないというのもある。


「本当に驚きですね」


 そう答えたのはヴェルデだった。

 彼は功績を称えられて爵位を与えられ、正式に貴族となる。

 そして女王顧問という新しい役職に就いた。

 元平民の成り上がり者が宰相や軍師、参謀といった要職に就くと貴族たちの反感が強いからだ。

 オーロは気にしなくていいと言ったのだが、ヴェルデが嫌がってつこうとしなかった。

 そのため、彼女は宰相と相談して新しい職を新設したのである。


「貴族たちの反感を買わない処世術。見事な識見で、陛下はヴェルデが働きやすいように配慮なさったほうがよろしいと存じます」


 宰相はそう言ってヴェルデの判断を支持したのが大きかった

 女王顧問とは文字通り女王の顧問ではあるが、一切の権限がない。

 貴族たちにはそう言って納得させたのだ。

 ただし、女王に信頼されているかぎりは絶大な発言力と影響力を発揮できる。

 オーロがヴェルデのことを誰よりも信頼しているのは言うまでもない。


「またヴェルデはそういう」


 オーロは笑う。 

 彼女は「ヴェルデはとぼけるのが好き」と思っている。

 彼が頑張って誤解を解こうとした結果だった。


「わたくしは何のために生まれてきたのだろうとずっと思っていたわ」


「この国をいい方向に導くためですよ」


 女王の突然のつぶやきに、ヴェルデは即座に応じる。


「ええ。ヴェルデと出会ってそう思えるようになったわ……」


 彼女はじっと意味ありげに彼を見つめた。


「それはよかったです」


 彼がそう応えると、女王は拗ねた顔になる。


「またそんなことを言う」


 不満を漏らしたところでぺスカが咳ばらいをした。


「そういうことは二人きりの時になさってください。であればお止めいたしません」


 ぺスカはにっこりと笑って言う。


「う、うん」


 オーロはひるんでしまった。

 女王はどうやら彼女に対しては弱い部分があるらしい。

 



 ……オーロ女王は王国史上三番めの女性君主だった。

 女性らしいきめ細やかで慈愛に満ちた善政を敷き、「王国中興の祖」だと歴史に名を刻んだ。

 そんな女王が特に信頼した二人の側近がいた。

 一人めはぺスカ。

 女王の幼馴染であり、良き親友であり、最も苦楽を共にしたという。

 女王より後に結婚し、先に亡くなった。

 彼女を看取った女王は「体と心の半分を失ったよう」という言葉を遺している。

 二人めはヴェルデ。

 この男はとにかく謎が多く、後世の歴史家の悩みの種となっている。

 継承戦において女王をその日のうちに勝利に導いた知恵と武力の持ち主だという。

 女王の政策の多くはこの男の提言だったと、ぺスカの文書が発見されている。

 そして武勇も類まれで、一騎打ちは無敗。

 東の軍神、北の覇王、西の剣聖のいずれも打ち破り、大陸にその名を轟かせた。

 「オーロ女王が見出した王国最大のヒーロー」と言えばヴェルデのことだというのは、もはや常識であろう。

 一説によると農民出身だそうだが、証拠になるものは見つかっていない。

 彼の伝説は王国が滅び、新しい国が誕生してもなお、人々に愛されて延々と語り継がれていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一機読みしました。勘違いのオンパレードですが、何より、主人公が強いのが、当たり前でもおもしろい。
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