新王
捕らえた二人の王子をオーロのところへ連れて行く。
道中、侍女と侍従とすれ違ったが、誰も彼らを奪還しようとはしなかった。
王族同士の争いに関わりたくないというような顔でそっと目を逸らす。
「何故誰も助けようとせぬのだ、不忠者どもめが!」
ラストラは悪態をついたが、リーヴォリは何も言わなかった。
弟とは違って兄のほうはそこまで従者たちに期待していないのかもしれない。
オーロの部屋に二人の王子を連れて行くと、王女は笑顔で出迎える。
「貴様の差し金か」
「何の真似だ。あばずれめ!」
王子たちはオーロを口汚く罵る。
「この国はわたくしが頂きます。断るなら……」
彼女が意味ありげに黙ると、王子たちは黙ってしまった。
自分たちが絶対的に不利だと理解できたのだ。
「この後はどうしますか?」
「宰相のところに行くわよ」
オーロはそう言ってぺスカとヴェルデ、縛られた王子たちと一緒に執務室の宰相のところに顔を出す。
王子たちは屈辱的な顔をしたまま従うしかなかった。
執務室に戻っていた宰相は彼らを見て唖然とする。
「これはこれは……継承戦は早くも終わったということですか」
「ええ。そうよ。勝ったのはわたくしです」
「何と……」
宰相は事態を飲み込むのに時間がかかっているようだった。
「まさかオーロ様が、今日のうちに勝者とおなりになるとは」
「問題あるかしら?」
オーロの問いに宰相は首を横に振る。
「いいえ、国法上問題はございません。典礼が終わったその日のうちから継承戦は始まるのですから」
国法を誰よりも知っているとされる宰相は認めた。
「また内戦が始まるのかと覚悟しておりましたが……お見事です。オーロ様。いえ、新王陛下」
「兄と弟は戦いの準備と相談をしているだろうから、そこを突かせてもらったわ」
オーロはにこりと笑う。
「そのような機智をお持ちとは、失礼ながら存じませんでした」
宰相は感嘆する。
オーロは首を横に振り、ヴェルデを見た。
「ここにいるヴェルデの作戦よ。我ながらよくぞこの男を取り立てたものだと、褒めたくなるくらいよ」
「ほう! このヴェルデが!」
宰相はそこで彼に目を向ける。
「ボルド将軍を一蹴した豪傑だとは聞いておりましたが、知恵者でもあったのですな」
「ええ。伝説の【剣帝】と 【賢者】を合わせたような素晴らしい英傑だったわ。正直、わたくしには勿体ないくらいの逸材ね」
オーロはそう言って自嘲気味に笑う。
「逸材を取り立てて、使いこなすの王の務めですぞ」
「覚えておくわ」
宰相の言葉に彼女はうなずいた。




