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襲撃

 ヴェルデはふらりとリーヴォリ王子のところへ向かう。

 場所は知らなかったのだが、通りがかった侍女に聞けば普通に教えてもらえた。

 後継者争いの候補になっているはずのオーロの私兵相手なのだから、どのように思われているのかがよく分かる。

 彼が教えられた通り王子の部屋に行くと、二十代から五十代の男たちが二十名ほどいた。

 中には近衛騎士らしき者の姿もある。


「こんにちは」


 気づかれさえしなかったヴェルデが律儀にあいさつをすると、彼らは議論を止めて怪訝そうな目を向けた。


「オーロのところの犬か。何の用だ?」


 リーヴォリは苦々しい顔で聞く。

 彼を含めて全員に邪魔をされた程度の感情しか見られないあたり、本当に警戒されていなかった。


「ちょっと制圧に」


「は?」


 多くの者は間抜けな声を出したが、さすがに近衛騎士たちは対応が早かった。

 半数がリーヴォリの周囲を固め、残り半数が彼を取り押さえようと襲いかかる。

 ヴェルデは円を描くような足さばきで彼らの攻撃をすり抜け、反撃を繰り出す。

 あごやこめかみを掌底で正確に撃ち抜いて全員を一撃で、確実に気絶させていく。


「な、何の真似だ!?」


 リーヴォリはようやく叫んだ時、彼を守る騎士の数は半減していた。 


「ラストラの手先になったな、貴様!」


 王子がそう叫んだのも無理はない。

 オーロが生き残るためには王子たちのどちらかに取り入るしかないというのが、オーロ自身さえも否定できない共通見解だったからだ。 

 ヴェルデは王子の叫びには取り合わず彼へ目がけて突進する。

 彼らにとって運がないことに、彼らは武器を持っていなかった。

 彼は軽やかなステップで瞬間的に一対一を作り出す。

 そして一瞬でも一対一になりさえすればヴェルデにとっては十分すぎた。

 護衛の騎士たちが全て倒された時、リーヴォリは真っ赤になっていて、他の貴族たちは真っ青になっていた。

 誰も動かないのは事態がまだ飲み込めていないからだろう。


「さて拘束させてもらいましょう」


「おのれ、おのれ!」


 唯一帯剣していたリーヴォリは目を血走らせ、剣を抜き放って切りかかる。


「おっと」


 ヴェルデはそれを何食わぬ顔をして片手で掴む。


「何いっ?」


 あまりにも異常な展開に目を剥いた王子を優しく気絶させて、他の貴族たちに声をかける。


「大人しく降伏してもらおう」


「……こんなことをしてただですむと思っているのか」


 貴族たちはようやくそのように言う。

 それでも抵抗しないのは、ヴェルデの規格外すぎる武力に抵抗する気力を奪われたからだろう。

 衣服を利用して全員を縛り上げておく。


「死ななかっただけ、ありがたいと思われたいな」


 ヴェルデは素っ気なく言い放ち、貴族たちは震え上がる。

 彼がその気になれば皆殺しにされていたことは、嫌でも理解できたのだ。

 彼はそのままラストラ王子のところへ向かう。

 そして同じことをくり返す狙いだった。

 しかし、ラストラ王子のところには武装した兵が何人もいて、彼を見て恫喝してくる。


「オーロが拾ってきた薄汚い野良犬め! 何を血迷ってさまようか!」


「面倒だ。犬ころ一匹、切ってしまいなさい」

 

 と指示を出したのは彼の生母であり、未亡人となった王妃であった。

 王妃の命令に従って兵士たちは一斉に剣を抜き放つ。

 多勢に無勢のうえに木刀しか持たないヴェルデの命運は尽きた。

 ……ラストラ王子たちはそう確信し、ニヤニヤと笑う。 

 

「死ね」

 

 一人が上から切りつけてきたのをひょいと避け、木刀で薙ぎ払う。

 すると兵士が持っていた剣が真っ二つになる。

 あまりの展開にその場にいた全員が絶句し、硬直してしまった。

 その隙をついてヴェルデは敵兵をなぎ倒していく。

 一人また一人と倒していき、王子と王妃に木刀を突きつけ縛り上げる。


「無礼な。こんなことをしてただですむと思うてか」


 王妃はあきらめ悪くヴェルデをそしるが、ラストラは呆然としていた。


「木刀で剣を真っ二つにするとは……貴様妖術使いか?」


「木刀で真剣を切れるわけがないでしょう。剣圧で切るんですよ」


 何を言っているのだとヴェルデは呆れる。


「そんな馬鹿なことがあるか」


 ラストラは信じなかった。


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