相談
「これから何が起こるのですか?」
とヴェルデは率直に尋ねる。
「後継者争いね」
オーロが憂うつそうな顔で答えた。
「陛下は王太子を定めずに崩御なさったからね。リーヴォリ王子とラストラ王子の支持者が争いを始めるでしょう。最悪内乱になるかも」
ぺスカも嫌そうな表情で言う。
「オーロ様は?」
ヴェルデはどうなるのかというつもりで聞いた。
「継承権はたしかにあるけど、支持基盤がないわ。母上の実家は兄上についてるから。今さらわたくしなんて相手にされないわよ」
まずオーロが答える。
「私の実家はおそらくどなたにもつかないわね。私がオーロ様にお仕えしているのも割とうるさく言われているくらいだし」
ぺスカは面白くなさそうに鼻を鳴らす。
(そういうことを聞いたんじゃないんだよなぁ……)
ヴェルデはどうしたものかと思う。
オーロの運命が気になるところだが、答えたくないならばあえて聞かないのも礼儀かもしれない。
と思っていたら王女が言う。
「わたくしは大人しくしていれば、命は狙われないでしょう。わたくしを嫌っていた父上がいなくなったもの。つまりはどうでもいい存在に成り下がったわけ」
彼女は自虐するような表情だった。
「これまでの仕打ちは、陛下の歓心を買うためという理由がありました。それが消えたのは恐れ多いことながら、オーロ様にとっては幸いですね」
ぺスカは複雑そうな表情である。
「むしろ王女ということで、利用価値は残っているわね」
「女というだけで損することは多うございますが、それを利用して生き残る手もございます」
自傷するようなオーロを、ぺスカが慰めるように言う。
ただしその顔はとても悲しそうだった。
ヴェルデはいたたまれない気持ちになるが、どう声をかけていいのか分からない。
「いっそオーロ様が王様になればいいのに」
適当なことを無責任に言ってみた。
そんなことできるわけがないと叱られるのは覚悟のうえだった。
「……わたくしが王に? ちょっと現実的じゃないわね」
「オーロ様が王になれば大概の問題は解決できるけど、それ以前に障害が多すぎるわね」
二人の少女はそう言いいながらも、何やら考え込み始める。
「リーヴォリ王子の味方でもなく、ラストラ王子の味方でもない人っていないんですか」
いないならば仕方ないなとヴェルデは思った。
「……全部合わせれば第三勢力は作れるわね。説得できればだけど」
オーロは真剣な表情で言う。
「しかし、見込みは少ないうえに危険は大きいですよ。何もしなければ、何もないでしょう」
ぺスカは心配そうに忠告する。
彼女は王女が負け戦を始めるのではとハラハラしていた。
「そうだけど、わたくしは女だからね。負けて捕まっても殺されないわ。どこかの男に嫁がされるだけよ」
オーロはにやりと好戦的な笑みを浮かべる。
「ダメでもともと。それにヴェルデが言うくらいだから、意外と勝算はあるんじゃない?」
「なるほど。たしかにヴェルデ殿が勝ち筋のない戦いを勧めるとは思いません」
暗かったぺスカの表情が明るくなった。
(えっ? どういうこと?)
ヴェルデは何が何だか分からず困惑する。
またしても変なことになったことだけは確実だった。
「それではヴェルデのアイデアを聞いてみましょうか?」
「そうですね。楽しみです」
二人が向けてくる目は、気のせいでなければ輝いていた。




