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急転

 ヴェルデがようやく宮殿内での生活を覚え、自分の部屋とオーロの部屋の道を覚えたころ、突然それは起こる。


「国王陛下、崩御!」


 という情報を持った侍女が青い顔をしてオーロの部屋に来たのは、ある日の午後だった。


「父上が?」


 急報を聞いたオーロはわずかに硬直しただけだった。

 特に悲しそうにしていない彼女を見ても、ヴェルデは薄情だとは思わない。

 愛情を注がれたことが一度もないのだから、死を惜しめというほうが変なのだ。

 

「オーロ殿下にお越しいただくよう、典礼大臣がおっしゃっております」


 侍女は早口にまくしたてる。

 彼女に情報を知らせようと人をよこしたのは王妃でも王子たちでもなく、近衛騎士でもなく宰相でもなく侍従長でもない。

 彼女がいないと典礼がおこなえなくて困る典礼大臣だった。

 

「分かったわ」


 オーロはぺスカ、ヴェルデをともなって着の身着のままで部屋を出る。

 彼女たちが向かったのは宮殿一階の北側にある「月の間」だった。

 王族の遺体が一時的に安置される部屋で、彼女たちが入った時には王族、大臣たちが揃っている。

 オーロは王に近づくことさえ許されなかった。

 彼女たちが来たのを見て典礼大臣が厳かに口を開く。


「偉大なる王よ。地上を去り、神々のお膝元に去りぬ。偉大なる王の姿を惜しみ天は泣き、風は歌う」


「ああ。偉大なる王よ。御身の魂が天の栄光とともにあり、安らかな眠りにつかんことを」


 何人もの人が泣いていた。

 それを見てヴェルデは「人望がないわけじゃなかったのだな」と感じる。

 彼は泣く気になれなかったし、ぺスカも平然としていた。

 オーロについては言うまでもないだろう。

 

「参列した方は退出してください」


 典礼大臣はそう言った。

 ずいぶんと簡単なのだなとヴェルデは思う。

 

(村でももうちょっと長くて眠そうな儀式をやるのに……)


 一国の王ともなるとかえって短いのだろうか。

 彼はそんなことを考えながらオーロ、ぺスカとともに部屋を出ていく。

 オーロの部屋に戻ると、部屋の主人が第一声を放つ。


「困ったわね。まさか父上がこんな早く亡くなるなんて」


「国王陛下が健在であればこそ、放置されていたようなものですからね」


 ぺスカがよく分かるという顔で合いの手を入れる。

 二人は今後の相談を始めているようだった。


「……どうなると思う?」


 オーロの問いにぺスカがヴェルデを見る。


「ここはヴェルデ殿の知恵を借りたほうがいいのでは」


 彼女はそう答え、二人の視線が彼に集まった。


「現段階じゃ情報が足りないんですが」


 ヴェルデは苦しまぎれに言い返す。

 情報が集まれば考えが浮かぶとは思えなかったが、二人が勝手にひらめいてくれることは期待できる。

 彼はとっさにそう考えたのだ。

 

 

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