食事
ヴェルデの前に並ぶ食事は白いパン、オニオンスープ、蒸し野菜、魚のムニエル、ローストされた鶏肉、卵焼きである。
(朝から食べる量じゃないぞこれ)
というのが彼の率直な感想だった。
テーブルに着いたのはオーロ、ぺスカ、ヴェルデの三人だけで給仕はいないらしい。
「これって普通なのか?」
ヴェルデは右隣に座ったぺスカに小声で聞いてみる。
「オーロ様だけ特別よ。悪い意味で」
彼女は小声で返してくれた。
彼らの正面に一人で座るオーロは特に気にした様子もなく、銀のスプーンをとってスープを飲んでいる。
「私たちも頂きましょう」
「ああ」
ヴェルデはまずは腹ごしらえと食事を堪能した。
食事は毒が盛られていることもなく、手抜きで味や食材がひどいということもなく、ごく普通に美味しかった。
彼はまずパンをかじり、蒸し野菜をフォークで刺して口に放り込み、ローストされた鶏肉をナイフで不器用に切っていく。
食事をたいらげたところでぺスカが立ってお茶を淹れてくれる。
いい香りが鼻腔をくすぐり、ヴェルデにもいい品物なのだと理解できた。
「昨日はよく眠れた?」
「ええ」
オーロの問いにヴェルデは正直に答える。
「さすがに肝が太いわね」
王女はどうやら感心したらしかった。
どうして褒められたのか、彼にはさっぱり理解できなかったが微笑を浮かべて受け流す。
そして次に今日の予定を尋ねる。
「俺はどう過ごせばいいですか? 護衛ですか?」
「基本はそのつもりだけど……たぶんまだそんな緊急の事態にはならないでしょう。その間にやってもらいたいことがあるの」
オーロはお茶を飲んで言った。
「やってもらいたいこと?」
何だろうと思い彼は聞き返す。
「乗馬の訓練よ。馬に乗ったことある? 乗れる?」
王女の問いに彼は首を横に振った。
「乗ったことがないし、乗れるわけがないですね」
馬自体、村ではまず見ることがない生き物なのだ。
見たことがない生き物に上手に乗れるなど、不可能だろう。
「そうよね。乗れるようになるまで、特訓してもらえる?」
「了解」
ヴェルデは素直にうなずく。
彼が馬に乗ることができれば、公爵邸からここまで楽にたどり着けたかもしれない。
そうでなくても選択肢が一つ増えていたはずだ。
「それまでは私だけがオーロ様の護衛ですね。何もないと思いますが」
ぺスカが確認するように言う。
会話が途切れた頃、外で大きな物音がする。
彼女は立ち上がって二人に声をかけた。
「私が見てきます。ヴェルデ殿はオーロ様をお願い。オーロ様はヴェルデ殿の近くから離れないで下さい」
「ええ。お願いね」
出ていったぺスカはほどなくして戻ってきた。
「廊下に置かれていた甲冑が倒れたようです。幸い誰もケガをしませんでしたが、場合によっては危なかったかもしれません」
彼女は主人にそう報告し、次にヴェルデを見る。
「ヴェルデ殿が外に行きたかった理由が分かったわ。すごいわね」
「いや、そんなことないよ」
ただの偶然だと彼は主張した。
「謙遜しなくてもいいのに」
ぺスカは少しも信じていない様子でほほ笑む。
「まあ謙虚なのがヴェルデの長所だから」
オーロはかばってくれたが、彼は別にうれしくなかった。




