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起床

「いい知恵があれば聞かせてね」


 ぺスカはそう言い残して去っていった。

 人の目を盗むようにコソコソとしていたのは当然だろう。


(さて寝るか)


 彼女はヴェルデがいいアイデアを出してくれることを期待していたのかもしれないが、彼はひとまず寝ることにした。

 窮地を打破できる名案がそんな簡単に浮かぶとは思えなかったからである。

 そのうち何か思いつくだろうと軽く考え、彼は用意しされていた絹の青い寝間着に着替えた。

 ベッドは大きくシーツは清潔だし、布団はふかふかである。


(村での生活からじゃとても考えられないよなぁ)


 布団にくるまりながらヴェルデはそう思う。

 今彼がこういう暮らしをしていると手紙を出しても、きっと父親は信じないに違いない。

 

(見栄を張ってると思われるか、物語書きにでもなるつもりかと笑われるかだな)


 彼だって立場が逆だったら信じないだろうから、仕方ないのだが。

 ひとまず寝て明日になってから考えようと思う。

 

(王女の私兵って何をすればいいのか分からないからな)


 普通の仕事はあるのだろうかと疑問を抱きつつ、ヴェルデは夢の国へ落ちた。

 次の日、ヴェルデはノックの音で起こされる。

 

「はい?」


 彼が返事すると見覚えのない顔の若い侍女たちが三人ほど入って来た。

 彼に一礼すると彼の服を着替えさせる。


(俺ってただの私兵じゃなかったっけ?)


 身分の高い人はこうやって世話をされるらしいと何となく分かってきたものの、自分がその対象に入るというのは不思議だった。

 

「オーロ様の指示です」


 侍女たちはすまし顔で言う。

 オーロはみなから距離を置かれているのではないかと疑問を抱く。

 だが、ここで聞いてもまともな答えは返ってこないだろう……とヴェルデは思ったわけではない。

 寝起きで頭を働かせるのが面倒だっただけだ。

 立派な服に着替えさせられ、顔を洗われたのち侍女が言う。


「オーロ様のところに顔を出すようにとぺスカ様からの言伝をさずかっております」


 どうやらぺスカは侍女たちの中でも上位者のようだ。


「分かった」


 彼が返事をすると侍女たちは去っていく。

 同時に彼の腹の虫が鳴った。

 朝食をどうすればいいのか確かめるためにも、オーロのところに行こうと彼は動く。

 壁に立てかけられている木刀はそのままにしておいた。

 王女の部屋に行くとぺスカが顔を出し、すぐに入れてくれる。 

 オーロはすでに起きていて、さらに朝食の準備が始まっていた。


「おはよう、ヴェルデ殿」


「おはよう。朝食が始まるなら、外で待っていていいか?」


 ヴェルデは小声でぺスカに尋ねる。

 空腹を抱えながらオーロの食事を見ているのは、ひどい拷問だと思ったのだ。

 許されるのであれば同席はしたくない。


「……ヴェルデ殿の分もあるのだけど、何か外に用件でも?」 


 ぺスカは怪訝そうに聞き返してきた。


「俺の分も?」


 そう言われて彼は初めて用意されている食事の量が数人分だと気づく。

 

「ええ。外に何かあるの?」


 ぺスカはくり返し尋ねる。

 「賢者」だと信じて疑わない相手が外で待つと言ったのが、かなり気になっているらしかった。


「いや、何でもない」


 そう答えておく。

 ぺスカは不思議そうだったが、それ以上は尋ねてこなかった。


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