晩餐会
晩餐会は社交ホールで開かれる。
単純な食事があるだけではなく、王国の主だった貴族が王族にあいさつをするという。
ネーロ王女はあいさつされる側なのは言うまでもない。
「ヴェルデはわたくしのそばにいてくれたら、それでいいわ」
とだけ注文がつけられた。
細かい要求など覚えられるはずがないと戦々恐々としてヴェルデはホッとしたが、
「枷をつけないほうがいい結果が出るでしょうから」
なんていう期待のこもった言葉を聞かされて絶句してしまう。
(俺は社交なんて知らないぞ!? どういうことだよ!?)
ヴェルデは抗議したいのをぐっとこらえる。
何もしなくてもいいのであれば別にいいかと考えたのだ。
多少は評価が下がったとしてもこの場合やむを得ないとも。
真っ白で襟がパリッとしたシャツ、赤い威厳のある軍服に黒のズボンという格好になったヴェルデはオーロとぺスカの後をついていく。
オーロはというと桃色のドレスを着ていて、胸には立派なサファイアのブローチをつけている。
美しい少女がきちんと着飾れば、ヴェルデの心を奪うほど美しかった。
ぺスカは目立たないためか、紺色の地味な服である。
二人が歩いていけば多くの人々の視線がオーロに集中していた。
「【忌み姫】か」
「相変わらずお美しいな」
何やら聞き捨てならない名前が出た気がするが、さすがのヴェルデもここで聞かないほうがよいと思える。
社交ホールは彼が今まで見た建物の部屋の中で一番広かった。
(何十人、いや何百人が入っているのだろう?)
彼がそう思わざるを得ない光景が目の前に広がっている。
着飾った男女があちらこちらで談笑していて、侍従や侍女たちが忙しそうに動き回っていた。
白いクロスがかけられたいくつものテーブルの上には銀の食器に、ヴェルデが見たこともない料理が所狭しと並べられている。
オーロは奥へと進んでいく。
そこには王と王子たち、それに王妃がすでに来ていた。
「来たか」
彼女に対して声を発したのはリーヴォリだけである。
他の面子はちらりと見ただけですぐに目をそらしてしまう。
空気扱いされているのだとヴェルデにも分かった。
「あの方がオーロ様の弟君、ラストラ王子ですよ」
ぺスカが小声で彼に耳打ちする。
ラストラ王子は王妃と同じ青い髪を持ち、赤い瞳だった。
オーロとリーヴォリは王妃は全くと言っていいほど似ていない。
(父親似なのかな?)
とヴェルデは推測する。
晩餐会の始まりを王が告げると、人々はそれぞれ動き出す。
オーロはいないものとして扱われると思いきや、ラストラ王子が彼女とすれ違いざまにささやく。
「何だ、死ななかったのか。【母殺し】」
そして悪意があふれる嘲笑を浮かべ、去っていった。
「まさか……」
オーロと王子の声が聞こえていたぺスカが、ある可能性を思いつく。
ラストラ王子こそが彼女を狙った黒幕である可能性だ。
(母殺し……?)
ヴェルデはと言うと、王子が放った意味深な言葉についてとらわれていた。
悪意に関しては殺意がなかったため、反応しなかったのである。
晩餐会はまずは貴族たちが王族に声をかけるが、オーロに話しかけてくる者はいなかった。
彼女が孤立しているらしきことは嫌でも理解する。




