準備
「今日は晩餐会に出ましょうか」
「晩餐会?」
オーロの言葉にヴェルデは聞き返す。
だが、それは彼一人で侍女たちはいっせいに頭を下げる。
ぺスカだけは不安そうだった。
「オーロ様……」
「一度ヴェルデを連れて行ったほうがいいでしょう」
「それはそうですが」
理由を明かした王女に対して、ぺスカはまだ何か言いたそうだった。
彼女はちらりとヴェルデを見る。
「ヴェルデ殿がいれば大丈夫でしょうけど……」
「たぶん何とかなるさ」
彼はそう言った。
彼は晩餐会に出てみたかったのである。
(たしか貴族たちの晩餐会で豪華なメシを食えるって親父は言ってたっけ)
という理由で。
ぺスカの心配事はきっと何とかなるだろうと軽く考えていた。
なぜならば彼女は今まで無事だったからである。
さすがに晩餐会で命を狙われたりはしないだろうとタカをくくっていた。
「ヴェルデもこう言っているんだし。ね?」
「分かりました」
ぺスカはしぶしぶ受け入れる。
「では晩餐会に出るための準備をしなければ」
彼女はキリッとした顔でそう言う。
女性は大変だなとヴェルデが他人事のように思っていると、彼女の視線が彼に向けられる。
「まずはヴェルデ殿です。その恰好では晩餐会に出られません。湯あみをして服を着替えてもらいます」
「わ、分かった」
何だか面倒くさいことになりそうだな、と彼は少しだけ後悔した。
彼が案内されたのは従者用の風呂である。
それでも先日入った公爵家のものには負けない広さがあった。
(どれだけ金を使ってるんだ?)
ヴェルデは生臭いことを考えながら、侍女たちにされるがままになる。
「俺たちが納めた税金を」という怒りは彼にはなかった。
「鍛えられていますね」
と言ったのは彼の体を洗う侍女である。
「ボルド様の一撃をいなしたのは、この鍛えのおかげなのですね」
うっとりとした表情になっている者までいた。
(宮殿の侍女って変な生き物なんだなぁ)
とヴェルデは感じる。
彼からすれば男の裸を見てうっとりするなんて特殊な性癖持ちにしか思えない。
あまり関わりたくないタイプではあるが、王女の私兵として生きていくならばきっと関わらざるを得ないのだろう。
(給金がよければ我慢できるけどな)
彼はもらった大銀貨のことを考える。
あれだけの報酬があれば満足だった。
それに二人の口ぶりによれば、こうして宮殿についた後はさらにもらえるのかもしれない。
(あまり自分から催促しないほうがいいだろうな)
機嫌を損ねてしまうと困るのは自分だとヴェルデは思う。
もう少し立場が固まるまではおとなしくしておくべきだった。
ここでそんな判断をするから、金銭に困っていた発言が信用してもらえないのだと彼は気づいていない。
(晩餐会……どんな食い物が出るのかな)
きっと見たこともない食べ物が出るのだろうと想像し、ワクワクする。
ただ、オーロのそばをあまり離れてはいけないということも彼は忘れていなかった。




