報告
オーロはやがて立ち上がる。
「さてヴェルデ、父上に会いに行くわよ」
「あ、はい」
ヴェルデは流されるままうなずく。
「国王陛下に帰還とヴェルデ殿の雇用を報告すれば、しばらくやることはないでしょう」
ぺスカは彼にではなくオーロに言う。
「そうね。さらわれかけたことなども言ってみるけど、おそらく意味ないわね」
と答える王女の表情は暗い。
父親が自分に関心を持たないという事実は、彼女の心を沈ませるには十分すぎる。
「オーロ様。私がおります。それにヴェルデ殿も」
「そうね」
ぺスカのはげましに彼女は笑顔をとり戻した。
(強いな)
とヴェルデは思い、まぶしく感じる。
彼と王の対面は謁見の間でおこなわれた。
時間帯によっては王の子どもと言えど、謁見の間でしか会えないらしい。
「オーロ様以外は、謁見の間じゃなくても会えるけどね」
ヴェルデの隣に来たぺスカが、小声で耳打ちをする。
どれだけオーロが冷遇されているのか、教えておこうというのだろう。
(もしかして採用される相手、間違えたかな)
とヴェルデは感じる。
他にもいい選択肢はあったのではないかという疑問がわき起こった。
薄情だと言われようとも、彼にはまだ雇い主を選ばないぜいたくをする余裕などない。
(……でもまあ、リーヴォリ王子なんかよりはオーロ王女のほうがずっといいか)
そう考えなおす。
あの高慢でとにかくヴェルデを見下していた王子と上手くつき合える光景など、とうてい想像できない。
少しの間は様子見をしようと思う。
謁見の間は王の威光を示すためなのか、他の部屋より豪華で広かった。
オーロは玉座からかなり離れたところで平伏し、長々と言葉を述べる。
「分かった。下がれ」
王は娘の報告に対して、簡潔すぎる言葉で片づけた。
ヴェルデという私兵を雇ったと聞いても特に感情を見せない。
彼の礼儀のなってない様子に側近たちが呆れても、王自身は無反応だった。
部屋に戻ったオーロに対して、今度はぺスカがお茶を淹れる。
「ハチミツを多めにしましたよ」
「ありがとう」
オーロは笑顔で彼女に礼を言って、美味しそうにお茶を味わった。
「誰も俺のことを聞いて来ませんでしたね」
相伴にあずかったヴェルデがつぶやくと、王女が答える。
「ボルドとの決闘の話が広がったからでしょう。あなたが思っているほど、情報伝達速度は遅くないのよ」
「そうですか」
何のことだろうと思ったが、彼は聞き返さなかった。
きっとよく分からない答えが返ってくると予想したからである。
「引き抜きがなければよいのですが」
ぺスカがちらりと彼を見ながら、心配そうに言う。
(あ、引き抜きもあるのか)
ヴェルデはいいことを聞いたと感じる。
さすがに態度には出さなかったが。
「大丈夫よ」
オーロは自信ありそうな顔で反応する。
「素性が分からない、礼儀もなっていない人なんて欲しがらないわ。だからヴェルデはあんなふるまいをしたのよ」
「なるほど! 全ては計算通りというわけでしたか!」
ぺスカは目を輝かせ、ヴェルデを絶賛した。
(どういうことだよ……)
彼本人は何が何だかさっぱり分からない。




